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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case04「desire(欲望)」

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10、フリクション・キャット

「いやあ、どもどもかわいいオーナーチャン。オレっちはDJ.RUN! またの名を楽山藍、シクヨロ!」

「その喋り、もしかして、藍さんもヤンキー系のヒト!?」

「えぇ? あー、若いコには、そう聞こえちゃう? 聞こえちゃうかぁ……オレっち、かなりショック……」


 しょんぼりした黒ヒョウの手を、笑顔で握る瞳。

 無理をしている、という感じじゃないけど、昨日の今日だからな。


「ところで瞳、ギルドマスターの仕事はどうしたん? 北斗に怒られっぞ?」

「いいのいいの。ちゃんと書置きして来たし、どうせわたしが(・・・・・・・)居なくても(・・・・・)、北斗なら、全部ちゃんとやってくれるから」


 ああ、言葉の端に棘を感じる。 

 事情は知らないものの、きな臭いものを感じたのか、紡も追及を引っ込めた。


「それに、わたしの出番は崩落が起きた後。実際の戦闘だから、今はとくにやることもないしね」

「土地の所有者であるマスギルがいるなら、オレっちたちの仕事も、爆速ビュンビュン系で進んで、あっちゅう間に高速道路の星ってわけだねぇ」


 などと言っている間に、インスピリッツのメンバーが機材を運び上げてくる。

 機材を入れるプレハブが組み上げられ、結晶を使った発電機と、巨大なアンテナ、それからかなり大きなアレが、ラジオの送信機なのだろう。


「わたし、ラジオの放送局、造るのなんて初めて!」

「へへへ、実はオレっちも初めてなんだなー、これが」

「ホント!? 向こうでそういう仕事とかしてたんじゃなくて?」

「へっへ、オレっちってばチキジョージ生まれヒップホップ育ち、近所のろくでなしはだいたい友達な、根っからのDJだかんねー。お皿は回せても、電装はこっち来てからオベンキョしまくりだったのさ」


 そんなことを言っている間に、あっという間に設営が完了し、作業員のヒトたちが挨拶をして帰って行こうとする。


「あ、ちょっと待った! 文城、悪いけど頼む!」

「うんっ。みなさん、好きなお弁当、貰っていってください!」

「サンクスべりベリマッチョ! その能力とホスピタリティ、カインドネスだねぇ」


 俺たちの対応に藍さんは感心しながら頷き、出来上がった放送局に入る。


「んじゃ早速、エクスペリメンッ、と行きますか」


 彼が発電機のレバーを入れると、不思議な振動と音が周囲に漏れ始める。

 直結した送信機が光り輝き、メーターが動き、盛大に何も始まらなかった。


「で?」


 紡のツッコミに、ずいっと差し出されるラジオ。

 そして黒ヒョウさんが、マイクを握る。


『模造の街のみなさま、こんにちは。昼下がりのひと時、いかがお過ごしでしょうか』

「おおおおおおっ!?」


 俺たちは声を上げ、ちょっとハウリングしかけたラジオに群がった。


「すげー、ホントに声が出るんだこれー!」

「ちょっと藍さん! あたしには直接キクんだから、いきなりはやめてってば!」

「すごいすごいすごい! こういうラジオ、生まれて初めて……っていうか、前世含めて初めて見た!」

「なるほど、これが文明というものなんですね!」

「しおりちゃん、その発言、あまりにも……いや、いいや」

「これで、今日からラジオ局ができる、んですか?」


 文城の問いかけに応えるように、人数分のラジオが手渡され、黒ヒョウDJは外を指さした。


「少年少女よ、書を捨てて、じゃなかった、グリグリメガネを掛けつつ、ラジオを持って街に出よう! オレっちがテキトーに喋り散らし歌い散らしてっから、それ聞きながら、どこまでもあるってってちょーだい!」

「なんだ、ラジオの仕事って言うから、街頭インタビューとかすんのかと思ったよ」

「そいつは後のオタノシミってね。じゃ、頼んだぜ子供たち、Let’s RUN&GUN!」


 俺たちがラジオを手に外に出ると、


「それじゃわたし、街の端までぱっと行ってくるね!」

「え……? あっ! ちょっと待てひと――」


 俺が止めようとする暇もなく、赤いネコの姿が消えて、


 ぱんっ!!!


 結構派手な爆発音が、近くの街並みから聞こえた。


「ぎにゃあああっ!?」

「柑奈!」


 俺の意図を汲んで、鋼鉄のメイドがジェットを吹かしながらビルの上から飛び降り、あっという間に、身に着けていた服と毛皮を焦がした瞳を連れ帰ってくる。


「しおりちゃん、頼む!」

「はいっ!」


 緊張の面持ちで医療チェックを見守る俺たち。チョウゲンボウの模造人は顔を上げて、安堵の笑みを浮かべた。


「大丈夫、大きなケガはありません。毛皮が少しと、服が焦げてしまっていますが」

「MyGOSH! そういう労災想定してないマジ勘弁! 安全第一ゆーおーけー?」

「ご、ごめん。そう言えばこれ、結晶使ってるんだよね。投げ捨てたけど、間に合わなかったよ」


 瞳の"シフト"は、運動エネルギーなどを保持したまま、瞬間移動するギフテッド。

 所持している物品にもその負荷はかかり、それを利用したのが、彼女の結晶武器『ブラステッド』だと聞いた。

 つまり、ラジオに使われている結晶にも、シフトによる負荷がかかって、爆発を引き起こしたわけだ。


「瞳、お前はクライアントでギルマスなんだぞ? 軽々しい真似はするなよ」

「うう、ごめんなさい」

「それにしても、折角の服、焦げちゃったね」


 薄いブルーのショートパンツと、裾の長い白黒ボーダーのロングシャツ、そのどちらにも派手な焼け焦げが出来ている。

 物悲しい表情は、それが彼女のお気に入りの一着であることを示していた。


「リーダー、こっちはあたしらがやるから、あんたは瞳と一緒に、服買いに行って」

「え? いや、なんで俺?」

「あたしはここで、藍さんと機材の調整だし、みんなは電波チェックでしょ」

「でも、服を見に行くなら、しおりちゃんの方が」


 そこで彼女は、困ったように首を傾げた。


「わたし、そういうの、苦手なんです。向こうにいた時も、おかあさんやお友達に選んでもらったのを着てただけで」

「あ……ああ、そういうこと」


 彼女はいつも『魔法使い』的な服を着ている。コーディネートがばっちりすぎて気づかなかったけど『それしかできない』のね。


「ギルドに帰って、こげこげのままの姿なんて見せたら、北斗がブチギレでしょ。リーダーにセンスなんて期待してないから、お財布役だけしてればいいの」

「分かりましたよ。確かにセンスはないけど、そんな風に言わなくたっていいじゃん……じゃ、行こうか」

「ごめんね。着替えたらすぐに戻るから!」


 瞳が走り出し、後に続こうとした俺に柑奈がラジオを差し出す。


「服買ってる間でも、仕事はできるでしょ」

「そうだな、行ってくる」

「今日は帰って来なくていいから、瞳とデートでもしてきなさいよ」


 その発言に、俺はあえて反論しなかった。

 昨日の俺の『なにかできないか』発言、その答えか。

 ホントコイツってば、心底有能で優しいメイドさんだ。

 仲間に手を振ると、俺は瞳の後を追った。



『ラジオの前のみなさま、こんにちは。こちらラジオ・ニュータウンのパーソナリティ、DJ.RUNです』


 俺はラジオを小脇に抱えて、瞳と一緒に歩いていく。放送局の藍さんは、普段とも真面目な時とも違う、独特の話し方に変わっていた。


『獄層への対策準備で忙しい昨今、お疲れ様。そんなみなさまに、ひと時の楽しみと安らぎをお届けできれば幸いです。それでは、まずはこの一曲』


「藍さんっていい声だね。聞きやすいし、いつもこうやって喋ればいいのに」

「あっちは営業用なんだってさ。こっちは公共電波用とでも言えばいいのかね」


 ラジオから流れてきたのは、アメリカの古いポップスだった。

 それは、歌う事の純粋な悦びを語っていた。

 力強く、大きな声で歌おう、上手い下手なんて問題ない。

 幸せを歌おう、それが一生続くほどに、と。


「いい曲だね」

「大分古いやつだけどな。俺もうっすら聞いたことがあるくらいだ」


 道行くヒトたちが、珍しそうに俺の方を見る。

 それがラジオだと気付いた連中に呼び止められて、そのたびに放送局が開設されることを話した。


「なるほど、俺の方は宣伝広告係か」

「柑奈って頭いいよね。優しいし」

「だな」


 そのまま、俺たちは『フローレス・ニーナ』に入る。

 さすがに崩落対応に追われているせいか、店に客の姿はない。ニーナさんも店員さんたちも、展示されていた高級服を仕舞っているところだった。


「あらいらっしゃい! 小倉さんに瞳ちゃん! 珍しい組み合わせ……って、どうなさったの、その服のこげこげ!」

「えへへ。ちょっと失敗しちゃって、着替えを探しに来たの」

「そうでしたの……その服、さすがに上は無理ね。でも、下はなんとかなるかも」

「ほんと!?」


 俺にセンスがないなら、外注してしまえばいい。俺は接客用のソファに座り、ラジオを置いて、かしましい二人の様子を眺めた。

 流れてくるのは軽い調子のジャズナンバーで、モダンな店の雰囲気に合っている。

 

「あー、出来そうなら、BGM専用の局作ってもいいよなあ」


 やがて、瞳は薄いピンクのシャツとクリーム色のカーディガン、短めの黒スカートという、ちょっと幼い感じの着こなしになって戻ってきていた。


「うう、ちょっと子供っぽくない? こんなの着たの、いつぶりかなぁ」

「いいのいいの! 似合うタイミングで似合うものを着る! それこそが着道楽! おしゃれはいつも全力で! でしてよ!」


 びしっと決めポーズ付きで力説され、俺たちは勢いに納得させられ、店を出る。

 俺のお財布は、ちょーっと納得いかないと、抗議していた気もするが。


「後でお金はちゃんと返すね」

「いいって。作業前のミーティングが甘かったんだから、うちらの労災案件。服の弁償はこっち持ちってことで」

「ありがと。そういえば、お昼どうしよっか」


 そうだなあ。

 ふかふか屋も連続してるし、とはいえせっかくのデートなんだから、ちょっと気分を変えたいかもだ。

 その時、ラジオから流れてきたのは、一曲のインストルメンタル。

 俺の好きだった時代劇のエンディングに流れた、海外アーティストの曲だ。


「おっ、なるほど。そういう手もあるか」

「どうしたの?」

「歩くのが苦じゃなきゃ、城下町まで行こうぜ。田楽とか食べたことある?」

「ないかも。てか、でんがくってなに!?」


 そんなことを話しつつ、俺たちは城下町に入った。

 今日は串ものということで、田楽や串焼き、団子を中心に、街の様子を眺めつつ食べ歩きしていく。


「城下町って、あんまり来たことないんだよね。こっちはお殿様の縄張りだし、北斗もあんまりいい顔しなかったから」

「ああ。そうか。それじゃ、そろそろ」

「……ありがとね、孝人。わたしのことで気を使わせちゃって」

 

 そうだな。

 この子も状況を分かってるんだ。隠し事をするのはフェアじゃない。


「放送局のことは、北斗とは関係ない。俺があの場所で、久野木さんの引退話を聞きつけちゃって、そのタイミングで君が声を掛けてきた。その後、流れであいつに教えただけ」

「すごいね。なんだかドラマみたい」

「ホントだよ。あんな無駄なドラマティック、胃が痛くなるだけ。二度とごめんだ」


 俺たちは笑い、それから黙って塔の方へと歩いていく。

 すでに避難を始めた連中や、最後の集団らしい原住のヒトたちが入っていくのを眺めつつ、瞳はつぶやいた。


「九蘭がね、買ってくれたやつだったの」

「……下の方は何とかなるんだろ?」

「でも上着はダメだって。あれを着て、一緒に出掛けるの、好きだった」

「だ……」


 大丈夫だよ、って言ってやりかった。

 仕事の関係でなくたって、友達付き合いなら、そう言いたかった。

 それが無理なのを、本人が一番、よく知ってるから、黙るしかなかったけど。


「違いすぎるんだって、わたし」


 瞳は歩いていく。

 道の先へ、あえて南ではなく、北の方へ。

 俺はラジオのスイッチを切って、静かに後をついて行く。


「ついて行くだけで精いっぱい、おかげで、ボロボロになったって」

「久野木さんが?」

「市屋さん。背が高くて、カッコよくて、槍を使うのが上手だった。でも、無理だって」


 瞳は、いつも全力だ。

 思いついたら即行動で、それが戦闘でも現れる。

 勘もいいし、伸びしろもある。だから、合わせられるヒトがいると、任せてタガが外れてしまうんだろう。


「北斗の気持ちも、分かるんだよ。わたしの実力を、全力を、使いこなせる環境を作りたいって、わたしのために」

「そのために、誰かを使い潰しても、って?」

「そういうつもりはないって言ってたよ。納得したヒトだけ、Aチームで戦ってもいいってヒトだけを入れるんだって」


 そうだろうな、と思う。

 でなきゃ、久野木さんはあんなに悩んだりしない。市屋さんというヒトも、最後の最後で、力尽きてしまったんだろう。

 みんな瞳が好きで、その実力に惚れ込んだからこそ、こうなった。


「コウヤは、誘わなかったのか?」

「オレはオレのためにしか刀を振らない、だって。カッコいいよね」

「俺に言わせりゃ、『恵まれてんだからちょっとは分けてやれ、ブラおじが』だけどな」


 瞳は笑い、殺風景な北門までの長い通りを見つめた。

 この辺りは結晶山の影響が強いから、誰も好んで住もうとはしない。

 荒涼とした世界を前に、身じろぎもせずに、ネコの模造人は立ち尽くす。

 そして、背中越しに告げた。


「もう少しだけ、わたしの愚痴、聞いてくれる?」

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― 新着の感想 ―
今回もとても面白かったです。 そして……今回は終始、和やかでしたね……。(真ん中くらいで起きたプチ?労災案件と、もしかして闇深案件?から目を逸らしつつ)
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