表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:03 「Courage(勇気)」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/205

13、ケモノたちの謝肉祭(後編)

 ムーランの店前には、大きな円卓が設置されていて、その周囲にギルドの長、あるいは代理人が座っていた。


(殿様の脇を、二つの戦闘ギルドが固めるのは、いかにもな感じだな。そこから隣り合って、付き合いのあるヒトや、好意を持ってるヒトたちが座る感じか)


 瞳の右隣にはクリスさんや倭子さん、佐川さんの左隣には親方と山本さん、戦闘系ギルドの対面に座るのが、三根先生と元町さんに一宮さん、そして乙女さんか。

 戦闘、製造、情報と生活支援。席順はこちらが指定したわけじゃないけど、綺麗に分かれているのが面白いな。

 

「それでは皆さん、グラスをお取りください」


 ホスト役の乙女さんの合図で、メイドさんたちがそれぞれの客に飲み物を注ぐ。

 これこそ、ムーランが『スーパー銭湯メイドカフェ』なんて、ねじれた業態を運営している理由だ。

 すべては『食事会』の予行演習、必要なスタッフ育成と確保のために。


「皆さん、お忙しい中、お集まりいただき感謝します。『食事会』の開催を宣言と、皆さんの健康を祝して、わたくし尾上が、乾杯の音頭を取らせていただきます」


 グラスを掲げると、乙女さんはみんなを見回し、宣言した。


「今日の息災と、明日のええことが、続くことを祈って、乾杯」

『乾杯』


 なんでちょろっと関西弁? と思いつつ、元々の挨拶をしていたヒトの宣言を、引き継いでいることに気が付く。

 みんなが儀礼的に盃を干し、給仕係が料理の皿を出していく。

 いわゆるコース的な、均一の物じゃなくて、それぞれの好みにあったものが提供される形を取っていた。

 殿様と卯月さんは和食、瞳は山盛りのどんぶり、佐川さんのは厚めのステーキ。

 クリスさんと倭子さんは、酒に合うオードブルや串焼き、親方と山本さんは大ぶりな焼き魚。

 元町さんは徳利の酒と酒盗を幾らか、一宮さんは水とクラッカーに果物、三根先生は果物とクリームが乗ったパンケーキ。

 そして、乙女さんの料理は、それぞれに提出されたものを、少しずつ皿に盛った形だ。

 毒見役というわけでもないんだろうけど、何かの気遣いなのは確かだ。


「孝人君」


 みんなが食事に手を付け始めた頃、彼女は俺を振り返った。


「文城君の見届け役、よろしくね」

「分かりました」


 俺は深呼吸を一つ、打ち合わせは済んでいるけど、やっぱり緊張すんなあ。


「文城君、本当にいいのね?」


 問いかけられた文城は、顔を硬直させながらも頷いた。


「は、はい。大丈夫、です」

「他の人たちの報告もあるから、食事でもして待っていてね」


 乙女さんの指示で椅子がやって来て、俺たちも腰掛ける。目の前に酒とオードブルが出されたが、手を付けていいもんだろうか。

 ここにいるのは全員ギルドのトップで、その側近でさえも、相席することが許されていない。おそらくセキュリティ上の理由なんだろうが、こんな席で飲み食いできるほど、神経太くないぞ。

 

「それでは、大川さん。今回の遠征について、お話をお伺いしてもよろしいですか?」

「よかろう」


 自分の前の膳を下げさせて、クマの模造人はゆっくりと語り出した。


「今回は街の北方、百キロの地点まで進軍した。前回築城させた山城やまじろは跡形もなく、バケモノどもにより壊滅。やはり、この街以外で人為的な構築物を残すには、防人を置くよりほかはないようだ」


 初めての時のツッコミは、的を射ていたわけか。単なる建造物にも、魔界のバケモノは旺盛な攻撃性を示すと。そういや、鈴来の壁画の時も、壁にバケモノがぶち当たることがあるって言われてたっけ。


「半年ばかりは、【驚天】の修繕と改修、新兵器の開発や練兵のため、街に滞在することとなろう。塔の迷宮へも派兵を行うつもりだ」

「やれやれ。俺らの仕事は邪魔せんでくれよ、殿様」


 渋い顔の親方が、ぞんざいに抗議を上げる。

 殿様の軍隊が入っちゃうと、攻略できる人数上限に抵触することになるだろうな。


「協定は守ってくれ。その代わり、月に二度は、あんたらの兵隊の貸し切りってことで」

「よかろう。山本もそれでよいか」

「構いませんよ。むしろ私の方は、上層と獄層の攻略で協力できるかと。外征組の戦闘経験を共有できれば、こちらにも益があります」


 親方とは交渉、山本さんとは協調。こういうところに強権を行使しないのが、街の四分の一を牛耳っているニンゲンを、受け入れさせている秘密か。


「我からは以上だ。壁外にて捕らえた獲物を、市場へかなりの数流したが、何か障りはあったか?」

「むしろ潤って助かったよー。このところ緑獄の崩落も無くて、お肉の備蓄が心もとなかったんだー」

「それでは! 『インスピリッツ』からの報告、よろしいでしょうか!」


 倭子さんが元気よく手を挙げて、用意していた大きな地図のような物を広げる。

 それは、俺がまだ見たことがない、塔の上に広がる、獄層の見取り図だった。


「二十一階、獄層観測班からの報告によると、ここ一月で、肉獄と緑獄、二つの獄層の膨張が確認されました! 予測では、あと三か月程度の後、二重崩落が起きる可能性があるとのことです!」

「そういえば、機獄から帰ってくるとき、ものすごい勢いで二層が食い合いしてたよ。そっかぁ、二重崩落かぁ」

「獄層攻略組に、可能な限りの剪定をさせたほうがよさそうですね」


 しれっと、会談に混ざり込んでいる北斗。ていうか、細かい報告作業は、瞳じゃ無理だろうから、北斗がやってるんだろうな。


「獄層の話題が出たので、『涯を追う者ホライゾン・ブリンガー』から一点、発言の許可をお願いします」

「どうそ、北斗君」


 北斗は倭子さんの略図に、俺製の色鉛筆で、機獄層の所に丸を描いた。こいつ、いつのまに入手してんだか。


「今回の遠征で、機獄層のコアらしきものが納められた、玄室を確認しました。これで、肉獄を除く三層において、コアが確認されたことになります」

「ということで、『ホライゾン』から各ギルドへ、長期クエストの依頼ね。わたしたちと協力して肉獄層のコア探索! 協力できそうな人は、連絡お願いします!」


 クエストには、各ギルドから依頼されることもあるとは聞いたけど、こういう風に提案されるのか。

 そして、肉獄層の深部攻略。今の俺たちじゃまったく関われない案件だけど、長期だっていうならワンチャン、ありそうかもな。


「すまない。獄層に関しては、うちからも一つ、ある」


 おおう、針の筵状態で、それでも頑張って発言か。なるべく顔に苦痛を浮かべないようにして、佐川さんは発言を始めた。


「中央の『蕾』の攻略は、今回で完全に行き詰った。四方向から伸びる階段と、閉ざされた扉から、何らかの鍵が必要らしい。出てくる敵も明らかに、他の四層とは違う。うちも……だいぶ手勢を失った」


 ここまでの発言で、俺は獄層の構造を何となく把握した。

 四つの層はお互いを『食い合い』、栄養を得て増殖、膨張していく。それが限界を超えると落ちてくる。それが『獄層崩落』だ。

 そして、それらを無視するように、中央にそびえた『蕾』が存在していて、内部への侵入を拒んでいると。

 そんな分析をしている俺をよそに、瞳が沈痛な面持ちで問いかけた。


「あの、ごめんなさい。もしかして、上のホームに、木賀田きがたさんや近江おうみさんが居なかったのって……」

「撤退時に、殿に立ってもらった。俺たちが全滅せずに戻ってこれたのも、木賀田のパーティのおかげだ」

「彼女の隊がロストしたのは痛手でしたね。今後はどうされるおつもりですか」


 ここでそういうことを聞くかぁ? まずは弔辞を述べるところだろうがよ!

 俺の無言のツッコミは当然、冷酷シェパードの耳には入らない。代わりに、だいぶ力を落とした佐川さんの、短い答えが返った。


「その話は、後だ。他の人の報告を進めてくれ」

「では、僭越ながら、『グノーシス』から、よろしいでしょうか」


 ここで一宮さんか。グノーシスからの発言って、何があるんだろう?


「現在、北の結晶鉱山が活性化し、影響範囲を拡大しています。当寺院内においても異常存在の発生が頻発しており、可及的速やかな対処が必要かと」

「それは案ずるには及ばぬ。次期遠征の燃料確保に、近々、手勢を送る手はずだ」

「またぞろ妙な幻だの、見えないバケモンだのがうろついても困るからな。うちからも何人か行かせるわ」

「……感謝いたします」


 戦力が出せる殿様と親方が、そろって意見を出す。

 そういや、あの結晶ってそういう影響があるんだっけ。てことは、グノーシスの寺院もまた『別の脅威』に備えている場所ってわけか。


「それじゃあ、うちからも一件、いいかい」

「先生、おねがいします」


 三根先生は冷めた目で周囲を見回し、つまらなそうな顔で告げた。


「全体的に医薬品が不足してる。ある程度在庫ができるまで、冒険者向けの販売は停止させてもらうよ。できれば緑獄あたりで、薬草摘みでもしてきとくれ」

「了解しました。アタックチームを、緑獄層に向かわせます」

「こちらでも消毒用アルコール、増産しておきますね!」


 こっちは公衆衛生と医療関係か。ほんと、それぞれのギルドが、この街の運営に密接にかかわってんだなあ。


「それじゃ、あっしからも一言、よろしいですかい」


 遠慮がちに手を上げたトカゲの模造人モックレイスは、戦闘系ギルドの三人を見回した。


「毎度すみませんが、今回の遠征についての取材を、お願いしたいんでさ。大川さんところは従軍記者が入ってましたんで、原稿が上がり次第、見分をお頼みもうします」

「よかろう」

「コアの写真とかは撮れなかったけど、すごいもの一杯見れたから、期待しててね」

「……その前に、うちの連中の正式な訃報を頼む。取材は、その後でだ」

 

 ああ、そうか。

 てなもんや新聞って、そういう使い方もするんだ。ダンジョンの攻略情報だけじゃなくて、不帰になったヒトの情報も発信すると。

 うちのメンバーの訃報なんて、絶対に載せる気はないけどな。


「それでは、最後にわたしからご報告と議題を」


 それまで司会に徹していた乙女さんが、腰を上げた。それから、俺と文城を立ち上がらせて、軽く前に出す。


「事後承諾となってしまい、申し訳ありません。当ギルドにおいて、専属の冒険者パーティが発足し、そのメンバーとして、福山文城が加入することになりました。パーティリーダーはこちらの小倉孝人になります。以後、よろしくお願いします」


 俺は軽く頭を下げ、文城もそれに倣う。

 それぞれのマスターから拍手が起こり、歓迎する旨を表明してくれた。


「皆様もご存じの通り、福山文城について、当ギルド『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』と『てなもんや』が身元引受人となり、本人の意思を無視した勧誘、隷属の強制を禁じる協定が結ばれていました」


 実際のところ、戦闘系どころか生産系でもない『ムーラン』が、ここまで発言力を持つ理由は、乙女さんの人徳によるものだろう。

 大川の殿様を始めとして、佐川さんや親方、元町さんも彼女に思い入れがあるらしい。

 なにより、今は亡き南条南氏の、『後継者』的な立ち位置にいることは明白だった。


「ある事案により、福山文城の滞留更新に問題が発生、緊急回避的に冒険者パーティを当ギルドにて結成、解決を図りました。協定に従えば、特定のギルドやパーティへの加入は認められていないはずですが、ご理解ください」


 ここまでは、俺たちの立場の背景説明だ。

 問題はこの後。


「……その後、小倉孝人をリーダーとした冒険者パーティ『パッチワーク・シーカーズ』名義で、福山文城は継続的に活動、現在に至っています。これは、言い逃れのできない協定違反です」

「然り。して、なんと申し開きをする?」


 殿様の発言に乙女さんは笑い、元町さんに頷いてみせた。


「福山文城の保護に関する、協定の破棄を、提案します」

「よろしいんですかい? それを破るってことは」

「もう文城君は、私たちが守ってあげなくても、やっていけますから」

「それなら、あっしからは何も言うことはありやせんよ」


 元町さんは、着物の袂から一通の封筒を取り出して、中身を広げて見せる。文城に関する協定を記した書類だ。

 名だたるギルドマスターの署名があり、その一番後ろに、震えたような歪んだ文字で、文城の名前が書き込まれていた。


「いいわね。文城君」

「……はい。乙女さん、元町さん、ギルドのみなさん」


 丸顔のネコは、深々と頭を下げた。


「ありがとうございました」


 乙女さんによって書類が破棄され、居並ぶ人々が、静かに拍手する。

 俺は、自分の勘違いを思い知った。

 このヒトたちは、利得のためだけに文城を取り合ったんじゃない。文城のことを心配したからこそ、それぞれの立場で勧誘していたんだ。

 でなきゃ、あんな協定が成立するはずないもんな。

 顔を上げた文城は、さっきまでと少し違ってみえた。晴れやかさと、誇らしさのような心情が見える気がした。


「そして、申し訳ありません。当ギルドからもう一件、議題があります」

「いや、尾上さん。そこから先は俺に言わせてくれ」


 それまでの和やかな空気が、綺麗に消え去った。

 オーガのギルドマスターは立ち上がり、淡々と事実を告げた。


「うちのギルドメンバー、磨平周まひらまことが、福山君に支払うべき報酬を払わずに強奪した件。正式にこちらでも確認した」


 佐川さんは俺の方に顔を向けて、頭を下げる。


「ムーランの専任パーティ、そのリーダである小倉さんからは『一切の謝罪、補償の必要はない。ローンレンジャー並びに磨平からの接触を禁じて欲しい』との要求があった。ギルドマスター、尾上さんも……その形で対応してほしいとのことだった」


 佐川さんへの印象はだいぶ改善したけど、彼のギルドについては不明な部分も多い。何より、例の俺に対する襲撃が、磨平によるものらしいてんじゃ、なおさらだ。


「そこで……『ローンレンジャー』ギルドマスター、佐川彩羅から、この場を借りて、正式発表を行わせてもらいたい」


 妙な物言いをした彼に、みんなの視線が集まる。

 明らかに、こっちが出した要求を飲む、って感じではない。


「本日付けをもって、ダンジョン攻略ギルド『ローンレンジャー』を、解散する」


 瞠目、驚愕、推察、あるいは諦念。

 それぞれが浮かべた表情を、真正面から見据えて、男はもう一度頭を下げた。

 その姿を、カメラのフラッシュが、さざ波のような音を立てて、洗った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 [一言] 潔いですね。 全く想像もしてなかったですが……確かにこれは……ある意味で一気に問題を解決出来ます。 本人がギルドのリーダーとして成長するよりも早くて確実ではあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ