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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:07「set me free」

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203/204

27、set me free

 俺たち『パッチワーク・シーカーズ』は、無事にニ十階攻略を終えた。

 その情報は、瞬くまに街中に広がって、それなりにあった知名度は、さらに大きく広がることになった。

 それまであまり関わり合いになってこなかったヒトビトが、俺たちの周囲にやってきたけど、それぞれが大人の対応をしたのと、乙女さんをはじめとするギルドマスターの声明で、『バカ騒ぎ』は沈静化している。

 そんな街の反応とは別に、変わったことがもう一つ。


『ニ十階攻略、おめでとうございます。こちらは当館からの報酬です』


 塔攻略成功者として、俺たちはPの館から『表彰』されることになった。

 手に入れたのは、プラチナチケットが各人十枚づつ。

 そして、Pからのお褒めの言葉、だった。


『この表彰に、何の意味が?』

『元ネタへのリスペクト、でしょうか。本来ならクリアアイテムを没収した上で、賞金を渡すはずですが。その『ブルーリボン』は、高難易度ダンジョンへの参加フラグですからね』


 どこまでもヒトを喰った話、だよな。

 Pの方はそれ以上の感慨もなく、俺たちを帰してくれた。ニ十階攻略はあくまでチュートリアルってことだし、こんなもんだろう。

 その後は俺たちと乙女さんで、小さなお祝いをして、日常に戻った。

 正確には、新しい生活への準備を始めることになった。

 そして、花も暖かさもない、三月の終わりが来た。



 朝。

 目が覚めると、俺は自分の使っていた布団をたたみ、部屋の隅に置いた。

 ムーランの下宿所。六畳ほどの小さな部屋は、がらんとしている。

 小さな棚が一つとクローゼット。そのどちらにも、私物は入ってない。何より、ここには文城の姿が、なかった。


『僕、お城に行くことになったから。この部屋、一人で使っていいよ』


 そう言って、あいつが城に詰めるようになってから、もう二週間経つ。

 二人で使っていた時は、あんなに狭かったのに、一人になると途端に広く感じるのは、あいつが太っちょだったから、当然か。

 俺は少し考えて、清掃道具の入ったロッカーから、ほうきやちりとりを取ってきて、中をきれいに掃き清めていく。

 そんな俺の後ろに、柚木が姿を現していた。


「雑巾、かけてけよ」

「……わかった」


 ただ、生真面目なウサギの方も、俺だけに任せる気はなかったのか、一緒に部屋の掃除を手伝い始めた。


「お前も出てくと……寂しくなるな」

「高給取りが、いつまでも安い独身寮を取ってちゃ、悪いだろ」

「元気でやれよ」

「大げさだな。しばらくは佐川さんとこにいるから、嫌でも顔合わせるさ」


 こいつとも色々あったけど、口うるさいところも含めて、仲間意識が強いのかもしれないな。

 掃除が終わり、道具を片付けると、柚木が片手を差し出してくる。

 俺は握り返して、笑った。


「乙女さんのこと、頼むぜ。柚木店長補佐」

「無茶と無理はほどほどにな、孝人」


 俺は私物の入ったザックを背負って、部屋を後にする。

 それから、下の店に降りて、カウンターに目をやった。

 乙女さんは、奥の厨房で仕事しているようだ。その代わり、朝の仕出し弁当を準備しているシャムネコの明菜さんが、挨拶してきた。


「おはようございます、店長、呼びましょうか?」

「いいよ。忙しいところ邪魔しちゃ悪いし」

「……じゃあ、これを」


 彼女は大きな袋をこちらに差し出してきた。

 入っているのは、最近ムーランで出すようになった、弁当のセットが二つ。

 文城が遠征に出るために、新しく考案されたメニューだった。


「一つは紡さんに、もう一つは文城さんに、だそうです」

「……うん。また後で顔を出すって、伝えといて」

「はい。それじゃ、いってらっしゃい」

「行ってきます」


 俺は戸口に立ち、一度だけ振り返る。

 並んだ四人掛けのテーブルの群れ、小さなバーカウンター、銭湯へ降りていく階段。

 ここであった、いろんなことを思い出す。

 転生したその日、この店に入ったこと。泣きながら塔から帰ってきた文城の姿。

 鈴来の絵具と、俺の色鉛筆が散らばった床。

 柚木といがみ合い、乙女さんと慰めあった日。

 磨平に襲われ、みんなで必死に抵抗した恐ろしい時間でさえ、懐かしく感じてしまう。

 ここは俺たち、小さな布切れを、縫い合わせてくれた場所だ。

 

「……行ってきます」


 もう一度、小声で告げると、俺は店を出た。

 我が家にも等しいと感じていた、仮の宿りを。


 

 模造の街の北の大門前は、たくさんのヒトタチで、ごった返していた。

 すでに『驚天』は移動モードに切り替わって、その巨体を誇るようにそびえている。

 やっぱり、あんな馬鹿でかい『城』が動くって、とんでもないよな。

 群衆の大半がやじ馬で、残りは最終整備のために集まった、インスピリッツのギルドメンバーだった。

 そう言えば大川さんや佐川さん、瞳たちと出会ったのも、あの城が帰ってきた時だったっけ。


「あ、リーダー見っけ!」


 群衆の中から、柑奈としおりちゃんがこっちに合流してくる。今日の出発は、みんなで見送るって、決めてたからな。

 柑奈の方は、見た目は平静にしていたけど、少し前にやったお別れ会の時は、とにかく騒がしかったっけ。

 合流するなり、柑奈は渋い顔で後悔を漏らした。


「……やっぱり、一緒に行こうかなぁ」

「またかよ。いい加減、文城離れするって言ってたろ」

「いや、それはそうなんだけど……でも、よく考えたらおかしくない!? 好きなヒトと離れなきゃいけないって、意味わかんなすぎパラダイスなんですけど!?」


 乙女心、複雑怪奇也ふくざつかいきなり

 しおりちゃんは柔らかく笑いつつ、そんな光景を見守る姿勢だ。

 そういや、着ている服がいつもと違うな。


「もしかして、それが学校の制服?」

「こちらは教職員用のですね。それぞれの所属部門によって、色やデザインを変えているんですよ」


 しおりちゃんのは落ち着いた緑の、ゆったりしたローブで、留め具のブローチやベルトでアクセントをつけている。

 ずっとやってた魔法使い姿もいいけど、こっちも彼女にしっくりくる。

 星の学堂(スコラ・ステラリウム)も、四月には本格始動で、今は一部の『特別枠』を指導している最中だそうだ。


「これ造るのに、ニーナさんにがっつりふんだくられたんだって。出来立てのギルドだってのに、よくやるわ」

「そのおかげで私を含め、一部の職員は塔や獄層へ通うことになりそうです。申し訳ありませんが、孝人さんにもお付き合いをお願いするかもです」

「俺はお友達価格で受けつつ、佐川さんところの若い子を使うって感じで、ひとつ」


 俺は抜け目なく、新規ギルドの営業をかましていく。

 佐川さんの新ギルド、その名も『冒険者の宿アドベンチャラーズイン』は、正式稼働の運びとなった。


『名前については、いろいろ考えたんだが、どれもしっくりこなくてね』

『俺もいっぱいアイデア出したんだぜ? でも、氷橋すがはしの奴がさぁ』

『この世界に初めて来た人間が、一目で分かるギルド名にするべきだ、と言われた。その通りだと思ったから、そうしたんだ』


 本当は『冒険者ギルド』にするつもりだったらしいが、そのまんま過ぎだし、他のギルドとの差別化もしたいということで、そうなったらしい。

 宿屋インということで、本部にギルドメンバーが寝泊まりもできるんだけど、氷橋がおかみさん気取りで、なかなかやかましいことになっていたりする。


「あ! リーダー、あそこ!」


 柑奈が声を上げ、かなたを指さす。

 そこには、例の緋縅鎧に身を包んだ大川さんと、侍大将の二人が脇を固めて、城の前に設けられた演壇にやってくる姿があった。

 その後に続くのは、侍たちと各ギルドの面々、そして、俺たちの仲間たち。

 取り囲むヒトビトに向けて、クマの模造人モックレイスは、堂々と語りだした。


「これより我らは、再び街の外へと向かう! これは、造られた箱庭を脱し、自らの未来を、自らの手で選び取るための、大いなる一歩である!」


 おそらく、何度も繰り返しただろう言葉。

 大川さんにとっての悲願でありながら、いつ叶うかもわからない、遠い夢のようなものだったかもしれない。

 でも、


「その道行に、かつてないほどの精鋭、賢者、冒険者がともに進むことを望み、集ってくれたことを、うれしく思う」


 新しい力、新しい情報、この世界を知る手掛かりが手に入ったことで、みんなが外に目を向け始めていた。

 いつもは奈落新皇軍と、少しの傭兵部隊だったのが、今回は各ギルドの代表や、フリーランスの冒険者たちも応募してきたそうだ。

 その中に、文城と紡もいるんだよな。


「さあ、歩み出すものよ、ときを上げよ! 見送るものよ、我らの長征を寿ぐがいい! 我ら一丸となりて、魔界の地平に、新たな国を築かんとするものである!」


 片手を差しあげた大川さんの脇、白い特攻服のオオカミが、叫んだ。


「てめえら、一発ブッこんでけやぁっ! 殿様万歳っ! 遠征隊、万歳!」


 最初に侍たちが、


『大川大瓜、万歳! 遠征隊、万歳!』


 続いて、控えていた冒険者たちが、


『遠征隊、万歳!』


 そして、それを見守る俺たちも、


『万歳! 万歳! 万歳!』


 一緒になって、叫んでいた。

 少し気恥ずかしかったけど、それでも、たまにはこういうのも、悪くはないかもな。

 挨拶を終えると、殿様たちは城に入っていき、


「これより、見送りの者と面談の時間を取る! 出発は三十分後、心残りの無いよう、別れの挨拶を済ませておくように!」


 剣崎さんの宣言で、遠征組の列が崩れ、それぞれが逢いたいヒト達と合流していく。

 贈り物を渡すヒト、どちらともなく泣き出すヒト、熱烈な抱擁を交わすヒト。

 そして俺たちは、


「みんな!」


 笑顔でやってくる文城と紡を――


「ふみっちぃいいいいいっ!」


 ――出迎える前に突進した柑奈が、文城を押し倒す勢いで、抱きついていた。


「旅先で生水飲んだらだめだからね! 特に食べ物には気を付けて! あと、できればでいいけど、いやむしろこれは、ほんっとに重要なんだけど、体型維持だけは、全力で気を付けてねぇええええええ!」


 ホントにこいつはもー。最後の最後までそれか。

 しがみついたまま離れない柑奈の頭を撫でながら、文城は苦笑しつつ、俺を見た。


「見送り、ありがと」

「うん。それと、これ、乙女さんからな。紡と一緒に食べてくれって」

「おおっ。さんきゅーな!」


 俺の手から笑って袋を受け取る紡。

 二人とも、いつもの冒険者装備だけじゃなく、遠征隊のしるしであるマントを身に着けている。

 そのことを意識した瞬間、鼻の奥が、つんと傷んだ。


「文城」

「……うん」

「元気でな」

「うん」

「飯とか、水とかは、柑奈に言われちゃったけど。環境が変わると、睡眠不足になりやすいから、な。枕とか、良いのを貰えるようにしとけ」


 ああ、クソ。なに言ってんだ、俺は。もっとこう、ビシっと決まる一言を。


「えっと……それから、あの」

「孝人」


 泣いていた。

 文城は泣いていたけど、でも、笑っていた。


「僕、冒険に、出られるようになったよ」

「……ああ」

「みんなと、一緒に」

「うん……そうだな」

「ありがとう」


 こらえきれなかった。

 俺は、その場で泣いて、いつの間にか、文城の大きな体に抱きすくめられていた。

 本当に、しまらないリーダーで、ごめんな。

 それから、俺は大きなネコの体から首を出しつつ、紡に挨拶する。


「あー、それと、紡も、元気でな」

「なんだよそれ、オレはついでかよー」

「いやっ、ごめん、そうじゃなくて、お前とだって、離れるのは嫌だけどさ」

「分かってるって」


 からりと笑うと、白いオオカミはいつもの顔で頷いた。


「文城も、冒険者のみんなも、元気で帰ってこれるように、がんばってくるぜ!」

「頼んだぞ、騎士団長殿」

「まかせとけ!」


 それから、集合を知らせる鐘が鳴って、二人は遠征隊の中に戻っていく。

 大きく手を振って見送り、みんなの影が鋼鉄の城の中に収まると、長い長い霧笛のような音が響き渡った。

 北の大門が音を立てて開き、地鳴りのような音と共に、巨大な城が旅立っていく。

 去っていく旅人に、見守る人々が声を上げた。


「ふみきぃいいいいっ! つむぐううううううっ! がんばれよおおおおおっ!」


 俺は、声を張り上げて、二人に声援を送った。

 やがて城は、街の壁の外に出ていく。

 巨大な扉が閉まっていき、あとはもう、いつも通りの光景だけが残された。


「行っちゃったね」

「ああ」

「それじゃ、あたしもこの辺で」


 柑奈は俺たちを振り返りもせず、歩き出す。


「しばらくは、レコーディングやらなにやらで、会うのは難しいと思う。何かあったら、カンタービレにでも連絡残して」

「新曲、楽しみにしてる」

「ありがと、リーダー。そんじゃ」


 一番つらかっただろう柑奈は、振り切るように去っていった。

 涙を流せないままの背中が、少しだけ悲しかった。


「それでは、私も失礼します」

「次は学校でだね。いつ顔を出せばいい?」


 しおりちゃんは笑って、学び舎に顔を向けた。


「四月の一週目はオリエンテーリングが中心です。講師の紹介が中ごろにありますので、その時にご連絡します」

冒険者の宿アドベンチャラーズ・イン付なら、すぐ反応できるよ。そうでなくても、確認入れる」

「ありがとうございます。それでは」


 トリの少女は去っていく。

 俺たちといることを選びながら、それでも自由な彼女は、別れの余韻さえ残していかなかった。

 そして、俺は一人になった。

 この後の予定は、どうしよう。

 まずは、どこかで飯でも、


「おにいいいいいいさあああああああんっ!」

「うわあああああああっ!」


 突撃、そして思いっきりの痛み。

 毛玉の塊みたいなヤギの模造人モックレイスが、俺を地面に倒して、のしかかってきた。

 だから本当に、このバカ娘は。


「いい加減にこれやめろ! てか、今までどこにいた!?」

「絵描いてた! で、みんな行っちゃうって! なんで言わなかった!?」

「言ったよ! 浦部さんも呼んだって言ってたぞ! だから、社交性と社会性を、全部絵の具に溶かすんじゃねえって!」


 さすがに今回は心に響いたのか、鈴来はしょんぼりとして、なぜかにんまりと笑った。


「おにいさん! デート、今から!」

「え、いや、なんでそうなる」

「いいから! 早く!」


 勝手に俺を引っ張る鈴来。されるがままになった俺は、結局観念して、尋ねた。


「で、今度はどこに行くんだ?」

「絵、描きいく! 次の壁画、一緒に考えよ!」

「分かったよ。コンセプトとかはあるのか?」

「ない! でも、なんか描きたい!」


 本当に、衝動だけの言葉。

 でも、それはたぶん、俺にずっと必要な一言だった。


「そうだな」


 俺は色鉛筆を取り出して、掲げた。


「俺も、なんか描くか」


 この魔界にはない、空の青を。

  

REmnant・REvenants・REincarnation

~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~


第一部――了


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