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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:07「set me free」

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202/204

26、頂を踏むものたち

 弓を構えた巨大なエネミーが、別々の方向から襲い掛かる俺たちに、一瞬迷う。

 その顔が、大魔法を用意し始めたしおりちゃんに向き、弓を引き絞って狙撃の構えを取った。


「ごめんあそばせ! 裏方さんとのグリーティングは禁止でーす!」


 ヒトの身には不可能に近い、大口径高威力の狙撃銃を連射する柑奈。轟音が影の腕を引き裂き、体を貫き、後退させる。


「文城、紡、一分稼げ!」

「わかった!」

「任せとけ!」


 白いオオカミが吠えて、両手の剣に炎を宿らせる。

 背後に赤い炎の軌跡を描きながら、防御なんて考えない前のめりの突進。

 反応した異形の四足獣が、右手に大剣を生み出し、


「っせぇえいっ!」


 ごぉんっ!


 ぶつかり合う三つの剣。

 振り下ろされた影の大剣を、獰猛に笑う白いオオカミが、炎の剣で押しとどめる。


「行けっ、文城ぃっ!」


 紡の叫びに反応し、軽やかに空間を蹴って、宙を飛んだ文城が振りかぶる右手。

 輝く肉球型に光が収束して、


「にゃあああああああっ!」


 叫びと共に炸裂する。

 だが、その一撃は左手に握った影の弓で遮られ、


「うおおおおおっ!?」

「うわあああああっ!」


 うねるように体を動かした影の敵に、二人は振り飛ばされた。

 力比べじゃ、どうやっても分が悪い。

 だからこそ、


「孝人さん!」

「応!」


 ちょうど、俺としおりちゃんで敵を挟み込む形になる。

 いや、他の三人がこうなるように追い込んでくれたんだ。


『我ら、三条の否定を以て、未来を拓くもの!』


 互いの霊的知覚を意識し、感覚と知性を同調させて、唱和する。

 同時に、それぞれが操る式による空間把握を実行。否術ディナイアルの聲が敵の周囲に響き渡る。


『仇為す敵に、天翔けるを許さず、地を駆けるを許さず、討滅の刃、避けるを許さず!』


 鉛筆の式が影の巨大獣の八方向に配置され、金色の鳥が頭上を抑えるように羽ばたく。


「天網!」


 命ずる声に従い、鳥が砕け散り、無数の鎖になって影を貫き、縛る。


「八卦!」


 配置したネズミが光の柱に転じて、鎖と補強しあい、巨大な檻を構築する。

 俺たちは聲を合わせ、術を結した。


『封絶陣!』


 誰も逃さない、絶対の束縛。

 からめとられた獲物は、それでも全身の力を振り絞り、背中の翼に青い炎をを宿して、封印を破壊しようともがいた。

 もちろん、そうなる前に、倒す。


「とどめだ!」


 俺は棍を構え、光を思う。

 それはすべてを断つ刃。あらゆる煩悩、悪鬼毒蛇を砕く、金剛不壊の降魔剣。

 生み出された巨大な剣の具象を、背中に引きずるようにして構え、走り出す。

 目指す先、敵の真正面。

 俺の突進を察知した敵が、逃れられないはずの網から、無理やり右手を伸ばし、青い炎を収束させた。


「にゃああっ!」


 それは輝く流星。

 斜め上から襲い掛かった文城の蹴りが、敵の右手ごと炎を削り落とし、


「しつこいお客様に、当店からのスペシャルギフト! 鉛玉のぶぶ漬け、たっぷり味わってってね!」


 敵の左半身へ、空飛ぶメイドの銃撃。

 弾幕の嵐を喰らい、影のケモノの上半身が砕けながら、大きくのけぞる。

 肩に担ぐように、俺は剣を振りかぶり、


「倶梨伽羅剣――降魔の断!」


 飛び上がり、体を回転させながら、袈裟に斬る。

 輝く刃が、影のケモノの腹側を裂き、血のように影が噴き出す。

 痛みに苦しむようにのけぞり、それでも影は、両腕に生み出した剣と弓で、束縛術を引きちぎった。

 敵が、俺を踏みつぶそうと、前足を高々と上げた時。


「燃えろ、双剣!」


 巨大な敵を軽々と飛び越えるように、空に舞い上がったのは、白いオオカミ。


爆熱神狼剣ロードブレイザー双頭狼斬オルトロ・ストラッシュ!」


 二つの剣が、虚空をXの形に焼き切り、犬の顔をした影の上半身を、斬り飛ばす。


「や……」


 紡が、影を突き抜けるようにして石畳に飛び降り、敵が虚空へと消え去っていく。

 荒ぶる戦いの音が、静寂に差し代わった。

 俺たちは互いに顔を見合わせ、


『やったああああああああああっ!』


 歓声を上げて、走り寄っていた。


「みんなっ! 見てたかオレのカッコいいとこっ!」


 思いきりガッツポーズしつつ、はしゃぎまくる紡。


「見てたよ、バカみたいにポンポン武器燃やす姿。その調子じゃ冒険するたびに、赤字まっしぐらパラダイスね」

 

 ようやく擬態を身にまとい、苦笑しつつ健闘を称える柑奈。


「みんな、ケガ無くてよかったよ」


 柔らかに笑い、みんなの無事を祝う文城。本人の毛皮が軽く焦げているのは、見なかったことにしておこう。


「お疲れさまです。塔ダンジョン二十階、完全攻略ですね」


 しおりちゃんの締めくくりを聞き、俺は笑った。


「おっと、まだだよ。ここのトレジャーを、ゲットしてからだ」


 指さした先に現れていた宝箱。みんなで歩み寄り、俺が罠を確かめて、開く。

 中にはいつも通りの、きれいな布地張りの内側に、金属の飾りにリボンのついたものが一つ、置かれていた。


「『青藍褒章』。塔二十階クリアの証であり、これを一階入口で使用することで、二十一階へ直接移動が可能になるアイテムです。獄層攻略を行うパーティなら、必ずこれを所持しています」


 解説を聞きながら、アイテムを取り上げ、みんなに見せる。

 その顔は満足そうで、そういう全部が、いとおしく思えた。


「つけなさいよ、それ」

「お、俺が?」

「代表で誰かがつけて、それで獄層に行くんだってさ。ときどき、瞳もつけてたし」

「パーティリーダーの証、なんだって」

「やはり孝人さんがつけるのが、適任ではと」


 少し気恥ずかしかったけど、上着に付けることにした。ご丁寧にピンで留められるようになってたから、装備するのは問題ない。


「ど、どう、かな」

「馬子にも衣裳、くらいかな」

「後でいいから、オレにもつけさせてくれ! やっぱ勲章とか、カッコいいし!」

「とはいえ、私たちくらいの背丈では、目立たなくなってしまうでしょうね」


 しおりちゃんからの、もっともな総評。

 確かに、背の小さい俺じゃ、これを身に着けたからって、何かが変わるわけでも――


「うわあっ!? ふ、文城!?」

「ご、ごめんね。でも、こうしたら、ちゃんと見えるかなって」


 肩車して、俺を高い位置に座らせる文城。まあ、確かにこうすれば、みんなからもちゃんと見えるだろうけど、ちょっと恥ずかしいな。


「それじゃ、いよいよ二十一階だ」

「うん」


 そのままみんなで、上へと昇っていく。

 残されたニ十階のフロアは、次第に薄暗くなり、暗い影に沈んでいくようだった。

 天井を抜け、みんなが新たなフロアに立つと、階段は消えて、脱出用のゲートも出現する様子がない。

 しかも、たどり着いたのは狭い空間で、窮屈さを感じる。


「ちょっと、まさかこのまま、閉じ込められたりしないでしょうね」


 柑奈の不安げな声に反応したのか、暗い空間の一か所が、開いていく。

 外に出ると、そこはどこかの『公園』のような空間だった。

 石畳の広場と、あちこりに設けられた花壇やベンチ。魔界産の樹木が植えられて、ちょっとした休憩スペースのような感じになっている。

 俺たちがさっきまでいたのは、お椀を半分に切ったような形をしていて『出口』という看板が付いている。

 その向かい側には、しゃれたアーチのかかったゲートがあり、石と木でできた古い西欧建築に似せた家屋が並んでいた。

 そして、その奥の方、建屋の群れの中心にあったのは、


「あれが……例のエレベーター、なのか……?」


 透明な筒状が天へと伸びて、その先に繋がっているのは、とんでもなく巨大な、石材でできた『がく』が存在している。

 そして、地上で見ていたよりもはっきりと、四つの『獄層』が、目に飛びこんできた。



 ――毒々しい色の根や枝、あるいは花を咲かせた蔓が成長し広がっていく、緑の塊。


 ――それ自体が一個の生命のように、まだらに染まった表面が脈打つ、肉の塊


 ――無数に瞬く電気の光と、全体が一瞬ごとに形を変える、機械の塊。


 ――寒気のするような感覚を五感にねじ込んでくる、ゆがんで揺らめいた、結晶の塊。


 

 街から眺めた時以上に、圧倒的な存在感。空全体を覆い尽くす迫力に、俺たちは誰もが息をのんで、見上げるしかなかった。


「ようやく来たな。後輩ども」


 忘我の境地から俺たちを呼び覚ましたのは、着流し姿の竜の男だった。


「約束通り、来てやったぞ」

「そんな約束、したつもりはねえけどな。お前らが勝手に上ってきたんだろ」


 なんて言いながら、コウヤは俺たちを招くように親指を立て、歩き出す。

 その後についていった先にあったのは、柵の設けられた、塔の縁。

 俺たちは横並びになり、そして見た。


「おお……」


 眼下に広がるのは、街並みだった。

 ちょうど南に面したエリアが見える場所だったから、P館の北前通りや東前通り、ぱちもん通りも見える。

 俺がここに初めて来た時、空から落ちながら見た街並み。ムーラン・ド・ラ・ギャレットのビルに掛かれた文字もわかった。

 同時に、空は輝きをゆっくりと失い、夜が近づきつつあった。

 家々に明かりが灯っていき、この街が息づいているんだって、実感できた気がする。


「どうだ、いい眺めだろ」

「ちょっと怖いけどな。それに、ここは風があるし」


 突風ってほどじゃないけど、俺たちの体をゆるい風の流れが毛皮を揺らしていく。

 そういや、まったく無風ってんなら、下の街はあっという間に酸欠か、汚染物質で大気汚染しまくりだろうしな。


「よしお前ら、せっかくニ十階踏破成功したんだ。飯食いに行くぞ、おごりだ」

「マージでぇ!? ろくでなしのおごりとか、もしかして雨でも降るんじゃないの?」

「おごりはいいけど、ここからどうやって降りるんだ?」


 コウヤは笑い、塔の上に広がる街並みに顔を向けた。


「リボン使えば、そこの出口から戻れるっての。だが、わざわざ下に行く必要もねえ。今日はこの『空の街』を、楽しんでけや」

「そっか! ここにも店あるんだっけ! ここの話、ほとんど流れてこないからなー、どんなとこなんだ!?」


 通りを進んでしばらく行くと、ひときわ目立つ大きな建物が現れる。

 門構えや壁の装飾は、赤の柱に緑の金色のアクセント。屋根は瓦で、窓の装飾もゆるいアーチを描いた感じのデザイン。

 看板に書かれた文字は『天空飯店』。


「ち、中華、なのか?」

「よう、連れてきたぜ。ニ十階到達パーティの皆さんをな」


 勝手に入っていってしまうコウヤに、慌てて追いつくと、


『ニ十階攻略、おめでとー!』


 クラッカーの派手な音と紙吹雪が、俺たちを出迎えた。


「みんな、すっごいね! 一年で、自分たちの力だけで、ここまで来たんだもん! ほんとに、カッコいいよ!」


 大喜びで紡に抱き着く瞳と、俺たちを奥のテーブルへといざなう北斗。


「残り二階層、十九階のリセットマラソンをする様子がなかったので、今日中には来ると思っていました。お疲れ様です」


 確かにこの店は中華料理らしく、あちこちに大きな丸テーブルが置かれている。

 それぞれの卓には、グラスやら飲み物やらが準備されていた。


「みんなお疲れ様。本当に、無事でよかった」

「乙女さん!? どうやってここに!?」

「俺がエスコートさせてもらったんだ。よく頑張ったな、みんな」


 佐川さんと乙女さんが、二人並んで俺たちを出迎えてくれる。その隣には甲山の親方に菜摘さん、山本さんに倭子さんの姿もあった。


「も、もしかして、みんな、僕たちのために?」

「仕事が忙しいんで、これねえ奴らもいるけどな。んで、大川の殿様から伝言だ。『あとで褒美を取らすゆえ、きっと我が前に参じよ』だとさ!」


 親方の言葉にみんなが笑い、それぞれが自分の席に着いていく。

 俺は隣に立った赤い竜を、笑いながらにらんだ。


「ってコウヤ、おごりってこういう意味かよ。お前が出すんじゃないんかい」

「あたりめえだろ。誰が身銭なんざ切るか。こういう席に入り込んで、ただ飯食うのが醍醐味ってもんだ」

「ったく、相変わらずのブラオジめ」


 そんな風にじゃれあいつつ、みんなが収まるべきところに収まると、


「よし孝人、お前挨拶やれ!」


 親方の無茶ぶりが飛んでくる。

 まあ、そういう気はしてたし、いつも通りに行きますか。


「じゃ……いい加減、腹も減ってるし、手短に」


 ちょっと行儀悪いけど、俺は席の上に立って、みんなを見回した。


「今日、俺たちが二十階をクリアできたのは、ここに集まってくださった皆さんのおかげです。鍛えてくれたヒト、相談に乗ってくれたヒト、支えてくれたヒト、そういうヒト達がいたから、たどり着けました」


 ああ、本当に。

 俺はここに来て、良かったと思う。


「今日の達成に驕ることなく、明日も笑って、元気に、面白い毎日を続けられるように、前進していきます。これからも俺たちに、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします。ってわけで、皆さん、グラスをお取りください!」


 今度こそ俺は、ここですべてを始められる。

 過去を過去として認め、新しい人生を、続けていける。


「今日の息災と、明日のええことが、続くことを祈って、乾杯!」


 偉大な先達の挨拶をまねて掲げた杯に、みんなが唱和した。


『乾杯!』

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