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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:07「set me free」

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25、ラストアタック(その五)

 階段を下りて、薄暗い廊下を抜けると、日の光に包まれた部屋に出た。

 小さな庭へ下りられる南向きのガラス戸と、西向きの景色が見える窓。部屋の中央には大きなテーブルがあって、背中を向けた状態で座ってる背中があった。


「起きたんか」

「……うん」

「飯、あるぞ」


 親父は、そんなに喋る人じゃなかった。俺が絵を描くことを、良いとも悪いとも言わなかったけど、プロの絵描きになりたいって言った時。


『お前は、人を楽しませるような絵は描けない』


 って言われた。

 それで、大げんかをして、しばらく口もきかなくなっていた。

 充の才能に当てられて、あいつと距離ができたころ。俺は、自分の才能のなさを、母さんに愚痴るようになっていた。

 ある晩飯時に、親父の方から、言ってきた。


『楽しめなくなったら、なんでもうまくいかなくなる。辛ければ、距離をおけ』


 反発は、できなかった。

 考えてみればずっと昔から、親父は俺の性格を見抜いていて、不器用なりに助言してくれたのかもしれない。

 いつのまにか、食卓には俺の朝食が並んでいた。

 目玉焼きに焼いたウィンナー、おしんこ、昨日の晩に作った残り物の味噌汁。

 茶碗と箸は、客用の奴だった。

 もうこの家には、俺の分の茶碗はないから。


「納豆あるけど、食うか? 海苔もあるぞ」

「いや……いいよ」


 食べる。

 いつも家に帰ってきて、そうしていたように。 

 炊き立て、その熱い米を、食べる。

 いつの間にか母さんが来て、空になった茶碗に、お代わりをよそっていた。

 食べて、きれいに俺のおかずがなくなって、茶が出されていた。


「ごちそうさま。うまかったよ」


 二人は短く、うん、と言った。うちは、そこまでしっとりした関係じゃなかったから。

 それでも、俺が帰ってくれば、出迎えて飯を食わせてくれた。

 

「あのさ」


 俺は、なるべく平静に、言葉を続けた。


「俺、仕事辞めようかと思うんだ」


 それは弔辞だった。

 決して帰ってこない過去、死んでしまった、もう一つの人生への。


「知り合いの先輩が、もし辞めるんだったら、別のところを、紹介してくれるって」

「大丈夫なの?」

「ああ……いい先輩なのは、間違いないから」


 俺は席を立ち、食器を台所に返すと、いつものように食洗器に掛けた。

 それから、背中越しに告げる。


「もう行くよ」

「送ってこうか、駅まで」

「いい。歩くから」


 二人は、驚くほど俺の記憶に忠実だった。

 最後まで正しく両親を演じることが、心の鎖になることを、知っているから。

 だから、


「行ってらっしゃい、気を付けてね」

「また来いよ」


 本当に、そっくり同じの、別れの挨拶を告げてきた。


「……うん」


 こらえられない涙声を、振り絞って、俺は返事をした。

 食堂を出る。廊下を進む。

 玄関に向かいながら、聲を上げた。


「我、三条の否定により、思いを、えがく、もの」


 消えていく。簡単に、あっけなく。

 否術ディナイアルは、そういう術だからだ。何かを否定することで、何かを肯定する力だから。


「我が筆は、過去に囚われず、悔悟を選ばず、故郷を求めず、ただ未来を顕す」


 俺を囲んだ懐かしいすべてが消え去り、玄関のドアさえ失われた。

 それでも、残っているものがある。


『孝人』


 切ないほどに胸を締め付ける、後悔リグレット

 両親の呼びかけに振り返らず、鉛筆を取り出して、虚空に描き出す。

 戻るべき世界に繋がる扉を。


「行ってきます」









 目を見開く。

 そして、目の前のそいつ(・・・)めがけて、ありったけの力を込めて、ぶちかました。


螺旋爪牙スパイラルドリルゥッ!」


 漆黒の闇でできたような、黒い柱。びっしりと棘の付いた枝を生やしたそれが、俺の棍の一撃で粉々に砕ける。

 それから、こぼれた涙を拭って叫んだ。


「無事か、みんなぁっ!」


 見渡せば、仲間たちが粉々になった黒の柱を周囲に散らばせ、身構えていた。


「ずいぶん遅いお目覚めですこと。心配してもらったところ悪いけど、リーダーが一番、お寝坊さんだったんだよね」


 えっ、それってどういう。

 うろたえる俺に、柑奈としおりちゃんが解説をつける。


「しおり、あたし、ふみっち、バカ犬の順でね。無理やり起こしても良かったんだけど」

「精神に関わる攻撃は、無理に解くと問題を起こしやすいので。よほどであれば、助けに行くつもりでしたが」


 え、えええええええええええ。

 いや、事前の打ち合わせで、第三形態は精神攻撃だって聞いて、俺はともかく文城あたりは大丈夫かなーって思ってたのに。


「僕は平気だよ。孝人に起こしてもらわなくても、ちゃんと自分で起きられるから」


 俺の視線に、笑って頷くネコ。その目元には隠し切れない涙の筋があったけど、それでも俺より早かった、のかぁ。


「うあああああああああ、リーダーのいげんがぁああああああ!」

「元々、あってないようなもんでしょ。鈴来の時のやらかし、忘れたとは言わせないよ」

「やめてええええええ、これ以上俺のガラスのハートを砕かないでえええ」


 などと言っている間に、俺たちの周囲にあった黒い影の柱がぼろぼろと崩れていく。

 その一番奥には、ひときわ巨大な柱があったが、それも音もなく消え去った。


「次がラスト、最終形態。それさえ倒せば、あたしたちの勝ちだね」


 解説する柑奈の言葉に合わせるように、砕けた影が一つ所に集まる。

 それは次第に巨大な実像となって、目の前に現れた。


「でかいラスボスはお約束だよな! もちろん、ぜってーぶっ倒す!」


 うっきうきの紡は剣を構え、尻尾を大きく振った。

 その視線に存在する、巨大なボス。

 一瞬、ドラゴンかと思ったが、形は微妙に違っていた。


「キメラ、とも少し違いますね。ドラゴン、むしろケンタウロスかも?」

「さっきの小さい影が持ってた弓と、同じのを持ってるね」


 しおりちゃんが表現に困るのも無理はない。

 確かに下半身は、四つ足のケモノの姿だけど、ケンタウロスの蹄ではなく、イヌ科の足先に似ている。

 ヒト型の上半身に、背中には皮膜の付いた大きな翼。そして顔は、犬のそれと酷似していた。

 文城の指摘通り、左手には弓を構え、こちらをじっと睨み据えてくる。

 さっきまでの敵と、ほとんど共通点の見出せない、不明の敵だった。


「ここで、Pのセンスをあげつらってもしょうがないさ。どうせ倒す敵だ」


 精神攻撃による、俺の尊厳破壊についての恨みもある。

 完璧にボコして笑顔でクリアしてやっからな。


「アタッカー三人体制で行く! 柑奈、しおりちゃん、後衛でバックアップ!」


 ここまで戦ってきて、肌で理解する。

 みんなの特性と、敵に応じたフォーメーションの使い分けを。

 走り出す文城と紡を追いかけて、俺も敵に突撃する。


「にゃあっ!」


 飛び上がり、さらに空中を蹴って、真横に回り込む文城。輝く足蹴りが、敵の曲刀に止められ、火花を散らす。

 さっきの弓と同じく、分割して剣にもできるのか。

 ならこっちは、


燕頷投筆スタッガーストライク!」


 鋭く打ち出す鉛筆の連打。前足の部分を執拗に攻め、相手の動きを封じ込めに掛かる。

 面倒くさい攻撃を嫌がって、軽々と背後に飛び退った四つ足の巨体に、


「せぇいっ!」


 炎を宿した紡の一撃が炸裂する。影の肌が激しく燃え、反撃の後ろ脚が、紡めがけて跳ね上がる。

 その追撃を吹き飛ばす、大口径の銃弾。

 中空でジェットをふかし、敵の反撃をつぶす柑奈の存在が、俺たちの攻撃を後押ししてくれた。

 行ける、このままなら。

 そう思う心の慢心を喰らうように、


「下がって!」


 しおりちゃんの警告と、敵の背中に青白い炎が宿るのが同時。

 それはつがえた矢にエンチャントされ、強烈な勢いて燃え上がる。

 背筋に走る、悪寒と恐怖。

 そのすべてを否定して、俺は聲を限りに叫んだ。


「厄を遮れ、塞神さえのかみ!」


 棍で地面を突く。仕掛けておいた鉛筆から障壁が吹き上がり、放たれた炎の矢をすべて受けきる。

 それでも、しびれるような爆発の衝撃は、鼓膜と全身を叩きのめしていた。


「っぐ! やっぱ、守りって難しい、な」


 鉛筆に聲を仕込むのはいいけど、意志の力で威力が変動するから、防御障壁はその都度張った方がいいかもしれない。


「全員無事か!?」

「だいじょぶ!」


 空間を蹴りつつ、大きく退避していた文城。毛皮が少し焦げているけど、問題なし。


「思ってたより範囲が広いね! あたしも遊撃に回るよ!」


 ジェットをふかしつつ、空中で待機する柑奈。


「手加減してたらじり貧だ! 全力出すけど、良いよな!」


 燃え尽きた剣を放り捨て、残っていた二刀を両手に構える紡。


「孝人さん! 私とあなたで拘束を! あとは一気に!」


 銀の翼飾りを振い、金翅鳥を顕わすしおりちゃん。

 俺は両手に鉛筆を生み出し、


「一斉攻撃!」


 勝利に向かって、駆けだした。

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