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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:07「set me free」

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22、ラストアタック(その二)

 塔ダンジョン、十九階。

 そこはある意味、この塔で最も不思議な場所だった。

 まず、入ってすぐにあるのは、巨大な金属の扉と、その前に広がる、廊下のような空間だった。

 ご丁寧に休憩用の長椅子まで用意されていて、実際にここで休憩を取る冒険者も少なくないらしい。


「塔ダンジョン十九階、別名『大図書館』、この扉の向こうには、広い空間が広がっており、近代的な設備が並んでいます」

「……なんとなくは聞いてたけど、なんでそんな構造なんだろうね」

「仮説があります。いえ、私の中ではすでに、確証の域ですが」


 しおりちゃんは扉に向き合い、静かに語りだす。


「塔ダンジョンには、明らかに本来のコンセプトにはない『別テーマ』を模したフロアがありました。十一階と十九階、そして、最終目的地の二十階もその一つです」

「もしかして、例の『魔王』と関係があるってこと?」


 柑奈の指摘に、彼女は静かに頷いた。


「壁の材質や床に敷かれた絨毯、独特の建築様式……今にして思えば、砂漠にあった『遺跡』にも、共通点を見出すことができました」


 それは一つの種明かし。ここに来て、塔の中にあるすべてが、顔も知らない『魔王』の意図が入り込んでいると気が付かされた。


「おそらくPの目的は、『魔王』の存在と密接に関わっているはずです。例の『遺産ヘリテイジ』がカギを握っているかと」

「後を継いで、Pも魔王になるつもりか……いや、違うな」


 あいつ自身が、さんざん言ってきたじゃないか。


「万能無益のジョウ・ジョスは、再演を嫌う。つまり、魔王と同じことをする気なら、あいつはこの街を造れていない」

「そうです。そのたった一言で、彼の願いに関する推察が、中断されてしまう」

「はいそこ。世界の謎を考察するのも結構だけど、今のあたしたちの目的は?」


 夢中になった俺たちを正気に戻すと、柑奈は扉に進み出る。


「で、この扉を開けると、ボス戦が始まるんだっけ」

「正確にはその扉そのものがボスであり、『ビブリオマニア』と呼ばれています」

書物偏愛者ビブリオマニア、俺たち冒険者の物語を読み漁るエネミーか。しゃれてるよな」


 俺たちは武器を構え、扉に近づく。


「それじゃ、開けるよ」


 柑奈の手が、金属の扉を押し開き――


「うおっ!?」


 あたり一面に、石の迷宮が広がる。さっきまでの図書館とは別の空気。

 俺は素早くメンバーを確認、誰もいなくなった奴はいない。


「ちょっとまて、この構造、もしかして九階か!?」


 前後左右に広がる通路、そのあちこちから敵の近づく音がする。

 俺は素早く鉛筆の式を打ち、全員に警告を発する。


「探り終わるまで警戒態勢! しおりちゃんは能力温存してて!」


 俺は腕に着けたオートマッパーを表示し、何も映っていないのを見て愕然とする。


「ダメだ、ここのマップは見れない! って、なんか全部の式が消えた!?」


 ある程度進むと、虚空に姿を消すように式が打ち消される。こんなの、今まで使ってきた中でも初めてだ。

 俺が驚いている間に、金属鎧のエネミーが、武器を振りかざして突き進んでくる。


「このフロアでは、ボスの『ページをめくる』ことが攻略の前提です! 三次元的なマップではなく、フラグで管理されていると考えられています」

「そ、そっか」


 しおりちゃん、それを分かっていながら俺の式打ちを止めなかったのは『実証実験』をするつもりだったな。

 まあ、その辺りのツッコミは野暮だからやめとくとして。


「とりあえずは、いつも通りの対応ってことで!」


 いつも通り鉛筆を取り出し、鎧に投げつける。

 金属音と硬質な手ごたえ、物理攻撃は通るってことは。


「全員で迎撃!」


 あっという間に敵が粉砕され、周囲の光景が変わっていく。


「今は戦闘シーン、ってか。そのページにあったフラグを立てるわけね!」

「はい、そしてボスのシーンがめくれるまで、続けることになります!」


 今度も同じ石畳だけど敵の気配はなく、ちょうどL字型通路の角に立たされていた。

 ダンジョンの構造からして、ここは二階か七階か、あるいは十三階か。


「妙に同じような構成のフロアがあると思ったら、ここのボスで迷わせるためかよ!」

「はい。階数を見誤れば、すべてが即死のトラップに変わります」

「ならここはあたしが先行。即死トラップに引っかかられたら困るからね」


 柑奈が進み出て、その肩にしおりちゃんの小鳥が乗る。俺たちも警戒しつつ、周囲の変化に気を配った。


「危ない!」


 前方から飛来した石弓の矢を、柑奈が右手で弾き、俺たちも軽く後ずさる。

 罠のタイプからここは二階相当、問題はなにが罠を発生させたか。


「おい孝人! ここの足元! なんか光が出てる!」


 それは壁に設けられた小さなスリット。ほんの薄い光の帯が、ちょうど俺の腰ぐらいの高さに存在していた。


「光センサー式のトラップ? こんなの下じゃ見たことないぞ」

「それが、このフロアの恐ろしいところです。同じように見せて、絶妙に変化させ、油断を誘います」

「ほんっと、最後の最後で底意地悪いな! みんな、これをまたいで進め!」


 それから、何ページものダンジョンのかけらを、俺たちは通りぬけた。

 敵こそ塔の常識に従っていたけど、トラップ自体はかなり意地の悪い代物だった。

 

「いったい、いつまでこれ続けるわけ!?」

「トラップからの生還率と、敵撃退に掛かった時間で、優良であるパーティほど、ボスが早めに出るそうですが、体感では三十ページほどが平均かと」

「……って、あれ、ここで終わりなんじゃないか?」


 紡の言葉に、俺たちは目の前に広がった空間に気が付く。

 五階や十階のボス専用エリアと似た殺風景な光景。

 その中央に、模造人モックレイスらしい姿が立っている。


「おいおい……まさか、あれって」


 右手には完全結晶でできた十文字の槍。


「実のところ、この十九階では、あの方々と出会う確率が、比較的多いと聞きます」


 全身を追う深紅の鎧は、大川さんの身に着けたものと細部が異なっている。

 それは大柄なタヌキ。商店街の東に飾られている像と同じ顔だった。


「後ろにいるのって……親方たちじゃね?」


 無骨の鎧とハンマーを身に着け、身構えるイノシシと、その傍らには槍を持つタカの姿がある。

 さらに、長い刀を帯びたヨタカが、静かに構えを取っていた。

 その傍らに見慣れない姿が一人。

 この街ではあまり見かけないトラの模造人が、大きな筒を手にしている。


「ギルド『ぱちもん通り商店街』、そのベストメンバーです」

「なるほど。先輩たちの洗礼、ってわけだ」


 ある意味、前哨戦にふさわしい相手だ。

 無言でこちらに突き進んでくる敵を見据えて、俺は指示を飛ばした。


「紡、十文字槍に!」

「おう!」


 剣を抜き放ち、凄みのある笑顔で進み出る白いオオカミ。


「柑奈、トラの牽制。くぎ付けにしろ!」

「了解。新規のお客様だから、丁重にね」


 両手に銃を構え、擬態を解く柑奈。


「文城――イノシシの方だ。俺はタカを」

「分かった」


 あえて『名前』では呼ばない。あれは敵、自分が倒すべき障害だ。


「しおりちゃんは、残りを頼む」

「お任せを。あの方の動きは、理解しています」


 俺たちの今の力が、どこまで通じるか。

 いや、


「全員気圧されるな! どこまで行っても、相手は過去の記録だ、塗り替えてやれ!」

『了解!』

「全員、戦闘開始!」


 そして、塔の最終攻略、最初の試練が始まった。

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