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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:07「set me free」

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15、トライアル(その五)

 ドラゴンに変化したエネミーは、その周囲に結晶を浮かべ、無数の閃光を解き放った。

 大気が焼け、耳障りな音が空間に響き渡る。


「っぶねえええっ! いきなりビームかよぉっ!」


 放たれた焦熱の帯を、紡が横っ飛びで回避。それは別の結晶に反射して、部屋中を縦横無尽に跳ね回る。

 俺たちを狙うのではなく、逃げ場をふさいで殺すための、光の罠だ。

 ったく、いきなりド派手な攻撃かましやがって!


「柑奈! 結晶破壊頼んだ! しおりちゃん、俺を上へ!」

「まかせて!」

「三分ください、さすがに、即座には……っ」


 しおりちゃんのガードに入りながら、柑奈が結晶を狙撃。

 俺は棍を盾にするように目の前に掲げ、ドラゴンへと突き進む。


「にゃっ、にゃっ、にゃあああああっ!」


 文城が体を丸め、四つ足になって地面を駆ける。素早く背中側に回り込み、振りかぶった拳を結晶に叩きつけた。

 一瞬、必殺の肉球印が炸裂。

 爆発の反動ではじかれた文城が、流れに身を任せて地面をこすりながら着地する。

 

「ウオオオオオオオ!」


 鎌首をもたげ、竜のマズルの奥に光が収束していく。 

 って、あの野郎、着地した文城の硬直を狩るつもりかよっ。

 俺は鉛筆を取り出し――


「ッゴオオオオオオオオッ」


 ――投擲に入る寸前、横殴りの炎がドラゴンの頭を吹き飛ばし、閃熱の吐息(レーザーブレス)が天井の一部を焼き壊す。

 同時に、白いオオカミの体が長く伸びた首に、剣を叩きつけた。

 耳障りな音と共に火花を散らし、文城と同じように、紡も巨大な相手から距離を取る。


「くっそ、かてえっ! 普通の結晶武器じゃ通らないのか!?」

「文城! そっちはどうだ!?」

「ぼ、僕もダメだった! なんか、攻撃はじかれちゃうみたい!」


 一瞬、俺たちは攻めあぐね、次の一手を探すために相手をうかがう。その間にも、柑奈の正確な射撃が結晶を撃ち落としていく。

 その動きを嫌ったのか、今度は柑奈の方へ顔を向ける。


「孝人さん!」


 高く響く鳴き声とともに、しおりちゃんの金翅鳥が滑り込んでくる。飛び乗り、俺は上空に位置取って、ドラゴンを観察した。

 考えてみれば、ここで出くわす結晶系のエネミーは、必ずコアの部分があった。

 そこを貫くことで、こいつも破壊できるはず。


「誰か! こいつのコアらしいもの見たヒトは!?」


 そんなことを叫ぶ間に、ドラゴンは意外に素早い動きで、結晶を撃ち落とそうとする柑奈に突進。

 牽制射撃をばらまき、青いジェットをふかしたメカメイドが、天井近くに退避した。


「こっちのセンサーじゃ解析不能! 熱、音波、重量、全部でチェックしても『均一な物質』以外の結果が出ない!」


 となると、あとはしおりちゃんの目が頼りなんだけど、


「す、すみません。私にも、判別がつきません! それ以前の形態であれば、どこかに霊質の集約点のようなものが視えたのですが、今はまるで、全身がコアそのものです!」


 全身がコアって、マジかよ。

 そのくせ、文城の打撃も紡の剣も、完全に弾ききってるとか。


「孝人! 親方とか山本さんから、なんか聞いてないのか!?」

「そ、それが……」


『この歳でドラゴン退治なんてやるとは思ってもみなかったからなあ。毎度、大仕事だったぜ』

『その時に持てる力、人員、そして闘志のすべてを注ぎ込んだ。いわば総力戦で、ひたすらに殴っていた、という感じでしょうか』


 親方はともかく、あの山本さんでさえ『無心に物理で殴って倒した』とか、言うと思ってなかったよ。

 とはいえ、当時の親方たちは、否術どころか結晶武器だってまともになかった状態で、こいつの討伐をやってのけたんだ。


「こうなりゃ正攻法! 壊れるまでぶちのめすまでだ! みんな、腹ぁくくれ!」


 俺は棍に意識を集中、その先端に光の剣をイメージする。


「しおりちゃん、合体魔法!」

「お任せを!」

「みんなは援護頼む!」


 空を飛ぶ俺と柑奈が、ドラゴンの頭上で右回りの輪を描き、地上では反対方向に走りながら、文城と紡が巨体に肉薄する。

 それぞれが的を絞らせないように動き、それでもドラゴンは、こちらをけん制するように、巨大な翼を羽ばたかせた。


「我、三条の否を連ね、思いを描く者!」


 石喰いと同じ。いや、満身創痍だったあいつに比べて、こっちはほぼ完全な状態だ。

 一発で決めるなんて、甘い夢は見ない。


刮目かつもくせよ! 讃嘆さんたんせよ! 喝采かっさいせよ! 此処ここに示すは天地を別つ、開闢かいびゃくの刃!」


 輝く刃が天井をこするほどに伸び、高く掲げて叫ぶ。


「俺に合わせて全力攻撃だ!」


 俺は具象の鳥の背中を蹴り、虚空へ身を躍らせる。眼下のドラゴンが、輝く鎖と化した金翅鳥に束縛された。


「ぶった斬れ、倶梨伽羅剣くりからのつるぎ!」


 振り下ろす輝きの刃。

 その一撃が、結晶の竜の額にぶち当たり、内側から湧き出る反発力が、俺を打ちのめす衝撃波になって、体を貫いた。


「っぐ! あ、っ!」


 体感して初めて分かった。

 こいつは本当に、結晶そのものに意志が宿った存在だ。

 街の住民が利用している『結晶』を刺激したときに発散される『エネルギー』。それを自分の意志で出すことができるんだ。

 

「ウオオオオオオオオオオオウッ!」


 それは本当に、破壊の波としか言いようのない、強烈な衝撃。

 俺の体は虚空に投げ出され、間一髪で、頑丈な鋼鉄の体に抱き留められた。


「すまん、柑奈」

「リーダー、そろそろ撤退、考えた方がよくない?」


 こっちの返事を待たず、メイドは下り階段そばに着陸する。

 今は擬態を解いているけど、みんなを心配しているのが伝わってきた。


「しおりもさっきから、かなりの無茶してる。心拍も呼吸も、あんまりよくない兆候。文城も紡も、疲労感ぱない感じだし」

「その上、俺の合体魔法も不発、ってか」


 俺は彼女の腕から抜け出し、棍を構える。

 そして、もう一度、親方たちの言葉を思い返してみた。


『あんときは大仕事だった』

『いわば総力戦で、ひたすらに殴っていた』


 親方は大仕事(・・・)だと言った。

 つまりあいつの討伐は、危険な任務ではなく、いつもの出来事(ルーチンワーク)って意味じゃないのか?

 そして、山本さんの言葉も考え合わせれば。


「悪い。もうちょっとだけ付き合ってくれ。それで手ごたえないなら、即時撤退だ」

「……了解。あたしは援護でいいの?」

「結晶撃墜の合間に、適度にノック(・・・)を頼む。あと、しおりちゃんはいったん休憩してもらう。守りを頼めるか?」


 吐息のような音を立てて、鋼鉄のメイドは礼を取った。


「仰せのままに、ご主人様」


 俺は走り出し、全員に指示を飛ばす。


「しおりちゃんはいったん下がって! 体力を回復させつつ待機! 文城、紡、俺に合わせて、ひたすらドラゴンを殴れ!」


 俺は四つ足の姿勢になって、限界まで敵の視界の端をかすめるように接近。

 目の前でどんどん大きくなる、巨大な太ももめがけて、


螺旋爪牙スパイラルドリル!」


 ぶつかり合う、強烈な衝撃。棍を持つ右腕が鈍い痛みに悲鳴を上げるが、それでも。


「もういっぱあつっ!」


 再びの螺旋、そして衝撃。

 伝わる痺れ、痛み、すべてに歯を食いしばる。

 そのはるか上から、感情のないドラゴンの顔が、俺をにらみ下ろしてくる。


「孝人ぉっ!」


 俺の反対側の太ももに、大地を揺るがすような衝撃。

 両手を振り下ろすように叩きつけた文城。その掌から閃光が肉球型にはじけ、さらに深く腰を落として、繰り出す拳。

 その一撃に、結晶の巨体が、わずかに浮いた。


「ま、マジかっ」


 以前、文城の体当たりは軽トラと衝突するぐらいの衝撃って、コウヤが言ってたけど。

 結晶武器があるとはいえ、まさかここまでとは。

 なんて感嘆を反芻はんすうする間もなく、俺は素早く飛びのいて――


「え!?」


 思う以上に素早い、ドラゴンの急旋回。

 動きに従い、長くてしなやかな尻尾が、俺の方へうなりを上げて飛んでくる。

 回避は間に合わない。

 やるなら弾き(パリィ)しかない。


「孝人!」


 叫びと共に、隣に飛び込んできた白いオオカミ。

 視線を交わし、武器を構え、


「「うおおおおおおおおお!」」


 同時に叩きつけた武器と、生じた猛烈な反発。俺たちはあえて吹き飛ばされ、地面に爪を立てながら、なんとか踏ん張る。

 

「孝人。試したいことがある、約束ちょっとだけ、破ってもいいか?」

「わかった。責任は俺が取る、思い切り行け!」

「よっしゃあっ!」


 まるで地面をこすり取るように、姿勢を低くしたオオカミが疾駆する。

 右手に抜き放った剣が、燃え上がった。

 聲の付与(エンチャント)、いや、違う。


「我、三条の意志により、万難に抗う者!」


 詠唱によって聲が収束し、剣が燃え上がる。それは勢いを増し、かがり火の揺らめきから、ジェットのような強烈な噴流に変化する。


「すなわち、不撓ひるまず不屈くっせず不退転しりぞかず!」


 それはコウヤとの戦いで見せた、炎そのものの剣。


「顕れろ、俺の剣! 爆熱神狼剣ロードブレイザーッ!」


 振りかぶる一刀、炎をまき散らしつつ走る斬撃が、迎え撃つドラゴンの前足とぶつかり合う。

 結晶の巨体が波打つように輝き、与えられた衝撃を、紡に反射した。

 それでも、


「いたく、ねえええっ!」


 敵の腕を弾き飛ばし、振り下ろす紡の連撃。はじける衝撃音に、ドラゴンの体が後ずさり、押し返される。

 その変化を、俺は見逃さなかった。

 走り出し、螺旋を棍にまとわせ、目の前の腹めがけて、


「うらああああっ!」


 全力を叩き込む。

 返ってくる衝撃は――軽い!


「総攻撃!」


 俺は叫び、もう一度、巨大な光剣を呼び出す。


「ふき、とべええっ!」


 横薙ぎに叩きつけた剣が、ドラゴンの体を後ずさらせ、


「金翅よ! 縛め、切り裂き、貫け!」


 具象の鳥が、上空からドラゴンの頭を包むように襲い掛かり、


「行きなさい、文城!」


 ほとんど重なって聞こえた重い銃声が、結晶の右腕を砕き散らす。

 そして、


「っにゃあああああああああああ!」


 虚空を泳ぐように、巨大な猫の体が突進し、その拳がドラゴンの右足を砕き散らした。

 そして、


爆熱神狼剣ロードブレイザー――煌刃烈火斬バーニングスラッシュ!」


 高く掲げた白いオオカミの剣。

 炎は鋭く、天へと昇って閃光となり、振り下ろされた。

 力がぶつかり合い、輝きが、はじける。


「――――」


 結晶のドラゴンは、顎を大きく開いた。

 それから揺らぎ、かしいで、フロアの床へと重々しく、倒れ伏す。

 俺たちの見ているうちに、その巨体から四肢や翼、頭が失われ、残されたのは巨大な石英を思わせる、結晶だけだった。


「やっっっっっっっっっったあああああああああ!」


 紡が叫びを上げ、俺たちは地面に座り込みつつ、勝利と疲労に身を浸す。

 十七階、裏トレジャー。および、鶴巻紡の個人クエスト。完遂。

 パーティメンバーへの被害、なし。

 

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