14、トライアル(その四)
完全結晶武器。
それは、この街の黎明期に生み出された、模造人が手にできる、必殺の武装だ。純度の高い結晶は魔界の生物を遠ざけ、傷つけたものを滅ぼす威力を持つ。
ヒトによっては結晶に秘められた属性を引き出すことで、超人的な攻撃能力を発揮することもできる。
だけど、それを生み出すために必要な完全結晶は、晶獄層に入るか、大量のプラチナチケットを使ってP館から購入するしか、入手の方法がなかった。
その上、結晶同士の相性もあって、入手したものがそのまま使えるとも限らない。
『ですが、塔の十七階、その裏トレジャーから、確定で均質な完全結晶を入手できることが分かったんです』
以前、山本さんに聞いた完全結晶の話。
純度の高い、異なる結晶同士を鍛造することで生み出される武器。その『基本材』として重要な素材。
その『裏トレジャー』が、俺たちの目の前に現れていた。
「思ったより、デカくないな」
剣を抜き放ち、構える紡の視線の先、不思議な光沢を持つエネミーが立つ。
それはたてがみをなびかせた、結晶のライオンだった。
その周囲には輝く結晶のかけらが周流していて、絶えず大気をかき乱していく。霊的知覚を走らせると、
「うっぐ……やっぱ、すごく純度が高い。みんな、なるべくあいつは『視る』なよ! 意識を引っ張られる可能性がある!」
思わず腕で目元を隠した俺の隣で、しおりちゃんが翼飾りを揮って、金の小鳥を出現させていた。
「ここも基本は、十五階と同じです。時間をかけ、相手を『成長』させること。その結果あのエネミーが『裏トレジャー』化します」
「削りすぎず、適度にいたぶれってことね。了解!」
すでに柑奈は擬態を解いている。ボスラッシュに入ってから、一切の油断なく、自分の性能を使い切る構えだ。
「考えてみれば、あいつの裏トレジャー手に入れるなら、炎狼竜騎士で消し飛ばすのはダメだよな。ごめんみんな、次からは気を付ける!」
紡の剣は、以前と同じスクリューに戻していた。
完全結晶武器については、自分の能力をコントロールできるまでお預け。ついでに、インスピリッツの開発班に制作をお願いしている。
「来るよ、みんな!」
叫ぶ文城の方へ、結晶の獅子が走り出す。
まずは、俺からだ!
「燕頷投筆!」
とびかかる寸前、敵の足元に威嚇の一撃。固い材質とは思えないしなやかな動きで、投げられた鉛筆を交わしつつ、こっちをにらんでくる。
俺と文城と紡が、ちょうど三角形を描く位置に陣取って、それぞれ構えを取った。
「ここはオレがヘイトを稼ぐ! 二人は援護よろしく!」
剣を抜き、一気に間合いを詰める白いオオカミ。構えは地面を擦るような下段。
ライオンは前足を持ち上げ、後ろ足立ちになって迎撃の姿勢。
「おりゃあっ!」
振り上げた剣が敵の顎下を抜け、カウンターで右足が振り下ろされる。
その一撃を、数センチに満たない距離を開けてよけ捌く。
ライオンとオオカミ、互いのマズルが触れ合いそうな距離で。
「せぇいっ!」
ごぎんっ。
紡の左フックが、エネミーの横っ面を張り飛ばす。細かく結晶が砕け、
「下がれ紡!」
ライオンの周囲で渦巻いていた結晶が、細かい刃になって襲い掛かる。
「ってええええっ!」
「紡君!」
ステップインした文城が、右の打ち下ろし、左のカチ上げ、さらに、握った右拳を振り落として、敵の顔面を地面に叩きつける。
悲鳴のような音を発し、結晶の獅子が自分の周囲に、輝く刃の竜巻を発生させた。
「くっそがあっ!」
「あううっ!」
素早く身を起こした敵に、銃弾の火線が突き刺さり、大きくバックステップを取って、間合いが開いた。
肉薄した文城と紡の防具と体は、小さくない傷や裂け目を作っている。
「クッソあいつ! あの反撃がいてえんだけど!?」
「殴っても止められない! このままだと、みんなケガするだけだよ!」
「お待たせして申し訳ありません。こちらを!」
それはしおりちゃんの手で生み出された、二羽の小鳥。
紡と文城の肩にそれぞれ止まり、薄い光の幕を展開して包み込む。多分、あれが否術を使った防御魔法なんだろう。
『否術はその性質上、『否定』という形で効果を生み出す必要があります。そのため、攻撃や破壊には向きますが、防御や治療に利用しにくいのが現状です』
開発の手伝いもしたけど、実用レベルに持っていくために苦労してたからな。
なんてことを考えている間に、二人の傷がいつの間にか消えている。
「その式が存在している間、お二方のダメージは『なかったこと』になります。ただ、否定しきれないレベルのダメージには、効果を発揮しないのでご注意を!」
「わかった! 文城、お前は踏み込みすぎんなよ!」
「うん!」
二人が両脇を固め、同時に攻撃を開始する。俺は乱戦エリアを回り込み、後方から鉛筆の投擲で援護に徹する。
殴られ、斬りつけられ、後ろ足を削られながら、ライオンがもどかし気に身震いする。
「形態が変化します! 下がって!」
しおりちゃんの警告と同時に、ライオンの背中に翼が生え、首の付け根からヤギの形をした長い首がせり上がる。
そして、尻尾には鎌首をもたげた蛇が生まれていた。
ファンタジーRPGによく登場する、キメラの姿だ。
「変形したっ! 第二形態だよな、これ!」
「ここから攻撃が変わります! 文城さんと紡さんは威嚇にとどめてください! 柑奈さん!」
「がってん! リーダーも頼むよ!」
「任せろ!」
しおりちゃんの指摘通り、キメラの姿になった敵は、ヤギの頭から火炎を吐き、尻尾の部分から異様な色彩の液体を吐くようになった。
しかも、さっきまで反撃にしか使ってこなかった結晶を、矢のように飛ばしてくる。
「燕頷投筆!」
今度は一切手加減せず、ほぼ足を止めて飛び道具を投げつける。俺の方に敵の顔が向いた瞬間、
「にゃあああああっ!」
空中をすべるように、丸い文城の体が旋風脚で、ライオン顔を張り飛ばし、
「みんなに手は、出させねえよっ!」
紡の剣がすり抜けつつ、蛇の細い頭を断ち落とす。
しおりちゃんの方は魔法にかかりきりで、前衛二人の防御魔法を構築しては、鳥の形にして送り出していく。
状況を判断したキメラが、結晶の矢じりをしおりちゃんめがけて投げつけ、
「はいダメー! あたしの目の青いうちは、全部防がせてもらうからね!」
完璧な迎撃で攻撃を撃ち落とし、カウンターの狙撃を打ち込む柑奈。
敵の先手を取り、押し込める布陣。
このままいけば、普通に倒せる場面だ。
「全員退避を! 敵が最終形態に入ります!」
しおりちゃんの声に、みんなが敵から距離を取る。
キメラの体が、びくりと大きく跳ね、その場に四肢を踏ん張って、背中を丸めた。
見ている間に敵のシルエットが、膨れ上がる。
同時に、それまで獣の姿をしていた敵が、根本的に形を変えていく。
「……そうだよな! 最終形態っていうなら、それでなきゃな!」
テンション上げまくって、剣を構える紡。
「この形態になれば、あとは撃破するのみです! 最後まで気を抜かずに!」
気力を振り絞り、新たな鳥の式を生み出すしおりちゃん。
「…………っ」
無言のまま、深呼吸をして精神を整える文城。
「ニ十階前に裏ボス退治とか、あたしらも成長したもんよね」
感慨深げに語り、長大な狙撃銃を向ける柑奈。
そして、俺たちの目の前に、結晶でできた巨大なドラゴンが、姿を現した。
「クエスト目標のエネミー出現、確認」
俺は棍を構え、そこに螺旋をまとわせる。ここからは出し惜しみなし、全力を叩き込んで撃破するだけだ。
俺は敵を睨み据えて、指示を飛ばした。
「パッチワーク・シーカーズ――攻撃開始!」




