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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:07「set me free」

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13、トライアル(その三)

 塔ダンジョン十六階。

 ここに入った時に感じるのは、強烈な湿り気とカビ臭さと、泥沼特有の悪臭だ。

 降り階段の周囲には乾いた場所があるが、フロア全体は見渡す限りの泥土と、背の低い茂みが点在して、移動先を選ぶのも難しい。


「しおりちゃん、上からは頼んだよ」

「わかりました。では早速」


 俺たちは同時に詠唱を開始、彼女の周囲に金色の小鳥が舞い、俺の手にあふれた鉛筆が無数のネズミに変わる。

 そして、


『行け!』


 俺の式は水面を蹴立て、しおりちゃんの鳥たちは、薄暗い空間を切り裂くように、広いダンジョンを確認していく。

 あっという間に『オートマッパー』に、フロアの正確な形状が記録されていく。


「これもう、チートって言っていいレベルじゃない? 本人にダメージなしで、どんどんマップが埋まってくんだもん」

「っても、これだって結構、精神力使うんだぞ。俺たちの脳は、こういうマルチタスクするようにはできてないんだから」

「孝人さん! 二時方向に――」


 しおりちゃんの示す方向に放っていたネズミたちが、一斉に『消滅』していく。

 同時に、その原因となった何かが、泥沼から大きく伸びあがって上空の鳥たちも一緒に飲み込んでいった。


「おおおっ! でやがったなここのボス! てか、でけえぇっ!」

「わかってはいたけど、やっぱグロ生物ぅっ!」


 歓声と悲鳴をまき散らす約二名。

 それは、石喰いと似た巨大な『ワーム』だ。ただし、口の形は円筒形というより、魚に似た顎の形状をしている。

 全身には皮膚ではなく、うろこ状に形成された装甲があるが、大きさもばらばらで、いびつなシルエットを描いている。

 巨体に似合わない速度で、沼地の中に姿を消した。


「どうするの、孝人」

「十七階の予定が変わったから、ここでチームワークの予行演習だ! しおりちゃん、足場のガイドよろしく!」

「お任せください!」


 上空に散っていた鳥たちが、いくつかの陸地に降りたち、金色のラインで『利用可能』な足場を示してくれる。

 

「要するに『モグラたたき』だ! 一定ダメージ与えたら撤退するから、足場の大きさを考えつつ攻撃! 仲間の動きに気を付けて、可能な限りフォローしあえ!」


 叫びつつ、俺は飛び石のようになった陸地を、飛び跳ねながら進む。

 三つ目の陸地に飛び移ろうとした、瞬間。

 右の水面が、ごぼりと泡立つ。


「うおおっ!?」


 大口開けて、ワームが食らいついてくる。

 さすがにこれは、間に合わな――


「ギュウウウッ!」


 きな臭い硝煙の火花にワームの顔がはじけ、俺は身をひるがえして、エネミーと距離を取る。


「援護って、こんな感じよろしいですか、ご主人様?」

「あ、ああ! 助かった! その調子で頼む!」


 すでに柑奈は狙撃姿勢に入っていて、長大な対物狙撃銃アンチマテリアルライフルを構えて援護に入っている。

 その隣で、しおりちゃんが銀の翼飾りを揮い、


「おとりを増やします! 皆さんは攻撃に専念を!」


 金色の鳳を飛翔させる。地面のマーカーと式の遠距離操作、同時にやるとかどういう術式を組んでるんだか。

 文城と紡も浮島に飛び乗り、攻撃に入る。


「くそっ! ちょこまかしやがって! 誘導しても当たらねえっ!」


 火力を制御できるようになった分、一撃の力は弱まった紡の炎。無数の火炎弾が伸びあがったワームを追いかけるが、水の中に入られると、威力はないも同然だ。

 

「せやあっ!」


 文城の攻撃がワームの体に叩きつけられ、敵は苦悶で体をくねらせて水中に避難する。

 そういえば、あいつは最初の浮島に立ったまま、ほとんど動いていない。

 視界を広くとり、どっしりと構えたまま。


「文城! なにか分かったのか!?」

「……多分、だけど。この敵、僕たちのいるとこか、近くに通りがかった時、出てくるみたい!」


 ネコの狩猟本能か、それとも目の付け所がいいのか。攻略法が分かったなら、あとは実行あるのみだ。


「しおりちゃん! 鳥の飛行範囲を俺たち三人の近くを巡回する感じで! 柑奈は俺たちの背後を重点に援護!」

「わかりました!」

「OK――って、バカ犬!」


 重く鋭い射撃音が、紡の後ろから伸びあがった体を貫く。それとほぼ同時に、紡の剣が敵の体を切り裂いた。

 そのまま水中にもぐり、


「ああ――そういうことか!」


 俺は『それ』を感じ、振り返って鉛筆を叩きつける。

 表面のうろこがはげた体に一撃が突き刺さり、素早く構えた棍に聲をまとわせる。


螺旋爪牙(スパイラルドリル)!」


 ねじりこまれた一撃に、肉が引き裂けてつぶれ、体液がまき散らす。

 ワームは悲鳴を上げながら沼に逃げ込み、静寂が訪れた。


「紡! 足の裏だ! 地面の振動、あいつの動きをそこから感じ取れ!」

「お、おう!」


 聴勁と呼ばれる技法は、肌感覚を利用して周囲を把握する。どっしり構えているように見えたのも、下半身の振動を感じやすくするため。

 文城の敵感知が速かったのは、そういうことだろう。

 だが、俺の一撃を喰らったあと、ワームはまったく動きを見せなかった。


「もしかして、終わったのか?」

「いいえ! 上への階段が出現していません! 油断は――」


 その瞬間、フロア全体の水面が、細かく振動した。

 身構える俺たちの前、フロアの奥の方から身を起こしたワームが、鎌首をもたげる。


「全力回避!」


 それぞれが、自分のいた浮島を捨てて、飛ぶ。

 その背後を凶悪な水流が、正確に射抜いて土地ごと吹き飛ばした。

 しかも、


「うわああっ!?」

「文城!」


 わずかに逃げ遅れた文城が、水流の連続攻撃を喰らって壁際に追い詰められる。

 俺たちと文城の間に、渡れるような島はない。

 柑奈の銃弾が浴びせられるが、それを交わして、水蛇のように水面すれすれを、身をくねらせて泳いでいく。


「しおりちゃん!」

「はい!」


 俺は鳥に飛び乗り、棍を構えて聲を編む。


「我、三条の否を連ね、思いを描く者――」


 視線の先には、逃げ場のない島の上に取り残された文城。

 その顔に浮かべる表情は――決意。

 

「――にゃああああああああっ!」


 ぐっと腰をかがめたネコが、身をひるがえしながら、背後へと飛ぶ。

 そして、壁を、強く蹴った。


 ずんっ!


 文城の足に着けられていた『蹴り』に対応した結晶武器が閃光を放って破裂し、伸びあがってきたワームの顔の位置まで、体を押し上げた。

 しかも、


「とべええええええっ!」


 ネコが叫び、奇跡が起きる。

 まるで、そこに足場があるみたいに、文城が光を踏みしめ、全身を回転させつつワームの大あごを蹴り飛ばした。


「断て、倶梨伽羅っ!」


 振り下ろした仮構の刃がワームを斜めに切り裂き、俺は残っていた浮島に飛び降りる。

 その背後で、


「うわあああああっ!?」


 派手な水音を立てて、文城の体が沼に水没していた。



「……へぁ……へくちっ!」

「おおお、ふみっちってば、くしゃみまでもかわいいー、でも濡れてかわいそうー。ほらバカ犬、さっさと乾かす!」

「お前……その感情の振れ幅、めちゃくちゃすぎねえ?」


 ワームを倒したことでクリアフラグが立ち、俺たちはともかく、一段落するためにキャンプをすることにした。

 早速、『セーフハウス』を利用し、その使い心地を試す。

 内装はログハウス風の壁面に木の床で、家財道具の類はない。ただ、壁面には暖炉と煙突があって、煮炊きの類はできるようになっている。


「これ、中に持ち込んだものは、どうなるんだろ?」

「保存されるそうです。ただ、入り口を壊されたりすると、中の物は……その」

「交代で外に見張りをつけるか、何らかの防御手段を取っとくべきかな」


 紡は器用に炎を操って、濡れた文城を乾かしている。

 てか、あの光景を見てると、乾燥というよりはいい感じにあぶり焼き、してるみたいに見えるなあ。


「そういや文城」

「なあに?」

「さっきのアレ、いつからできるようになったんだ?」


 俺たちの視線が集まると、文城は何やら恥ずかしそうに、ごにょごにょと呟いた。


「……二段ジャンプ」

「へ?」

「ゲームで、ときどきあるやつ、できたらいいなって。山本さんのところで、時々練習してた」

「って、別にそれは、すごいことだし、恥ずかしがることないんじゃ?」

「……着地、失敗しちゃったから」


 どうやら本人は、飛ぶことまではイメージできたけど、降りる時のことは考えてなかったらしい。

 俺たちは笑ったが、しおりちゃんは難しい顔をして、文城の足装備を改めて確認する。


「今回は下が水でよかったです。もし固い地面だったら……わかりますね?」

「え、あ、は、はい。ごめんなさい」

「まったく……紡さんといい文城さんといい、無茶のし過ぎです。ですが」


 そして彼女は、苦く笑った。


「飛躍による発展というものは、こういうものなんですよね。計算された予測より先に、直感が先導することもある。今後の課題として、熟慮します」

「あたし的には超心配なんだけどねー。ふみっち、明らかにリーダーとかバカ犬の影響、受けすぎじゃない?」

「そ……そう、かな」


 文城は笑って、まんざらでもない、という表情だった。むしろ、そういわれることが、うれしいというように。


「俺の影響はともかく、さっきの索敵もよかったし、その調子で頼むぜ」

「う……うん!」


 正直、街の外に出ると言われたときは、複雑な気持ちがあった。

 なにより、文城の性格で大川さんのところの荒くれ者、陣内じんのうちさんみたいなタイプとやってけるか怪しかったし。

 でも、さっきの動きや、自分の発言を物おじせずに言えるようになってきたなら、外での経験はあいつのためになるだろう。


「孝人さん。裏トレジャーの方、発見しました」

「え、いつにまに?」

「哨戒のために式を放っておいたので、そのついでです。文城さんの乾燥が終わったら、回収に出ましょう」


 しおりちゃんにいざなわれ、俺たちは『セーフハウス』を出る。

 十六階のトレジャーは、存在しない。

 正確には、宝箱の中に入った状態で存在するのが、裏トレジャーしかないということ。

 表のトレジャーは、というと。


「このグロ生物がフロアのトレジャーって、最悪すぎパラダイスなんですけどぉ」


 打ち上げられて、内臓やらをはみ出させた状態のワームを、柑奈が嫌そうに評する。

 その体からうろこを一枚はぎ取り、しおりちゃんは自分のザックにしまった。


「表皮のうろこは、ワームが体内に蓄積した重金属類でできているんです。融解することで、貴重な資源の入手先となります。今回は、このままにしておきますが」

「で、ここの裏トレジャーが、これか」


 しおりちゃんの式のおかげで、沼の底に沈んでいた箱が引き上げられる。

 というか、いつの間にか沼は透明な水になり、ところどころに魚影がちらつく湖沼に変わっていた。


「大しけやさんのおさかなって、ここからとるんだよね」

「討伐したら水質も改善されたし、味が泥臭くないのも納得だ。この水も、もしかして」

「はい。ある程度の除染は必要ですが、飲料や生活用水として利用されています。大しけやさんの活動の一つですね」


 箱を開けると、中からは一リットルぐらいの水が入った瓶が出てくる。

 裏トレジャー『乾かずの水瓶』、中身を使い切っても自動的に再チャージされる、この街において最高ランクと言ってもいいアイテムだ。


「これ、『セーフハウス』に入れとこう。いざって時のために」


 みんなに了解を得て、水瓶をしまうと、俺たちは上へ向かう階段へと進んだ。

 次の攻略はタフなものになる。気持ちを切らさないで行かないと。


「十七階は紡の単独、だったけど、予定変更だ。しおりちゃん?」

「はい。私は完全にサポートに周り、皆さんの防御や治療を行います。あとは」

「オレと文城がメインアタッカー、柑奈と孝人はフォロー頼むな!」


 最終確認を終えると、俺たちは十七階へと足を踏み入れた。


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