12、トライアル(その二)
悲惨な十四階をなんとかパスして、俺たちは上への階段にたどり着いた。
もしかすると、このダンジョンに立ち向かってから初めて、『冒険者辞めたい』と思ったかもしれない。
「あ、あー、そんじゃ、あたしがパパっとやってくるから、みんなは休憩ね」
「すまん。何かあったらすぐに呼べよ」
柑奈は自分の武装を確かめ、十五階へ一人で登っていく。
その姿を見送りながら、文城は俺たちに振りかえった。
「十五階から、直接入るのはダメなのかな?」
「今後はよっぽどのことがない限り、そうするよ。実際、今回は裏トレジャーを取るためにはいったわけだし」
「おい、始まるぞ!」
柑奈の様子を見ていた紡の声に、みんなが集まってくる。
十五階。
ここが『連続ボスフロア』の始まりであり、その難しさを実感できる、最初の関門でもあった。
「それじゃ、神崎柑奈、オンステージ!」
叫ぶと同時に擬態が解かれ、両手に久しぶりの二丁拳銃を構える。
十五階はこれまでの石造りではなく、床も壁も天井も、異様な光沢の金属で出来上がっている。
そして、床の一部に穴が開き、何かがせり上がってくる。
「カンナちゃん、がんばって!」
床下から現れたのは、クロスボウを乗せた三機の『タレット』だ。
一斉に発射されたそれを、鋼鉄のメイドは難なく交わす。もちろん一発で終わるわけはなく、自動装填されて柑奈を狙撃する。
「へいへい、どしたどした! こんなんじゃあたしの玉のお肌を傷つけられないよ!」
そんな挑発に反応したのか、今度は別の床が開いて、円筒形の砲身を乗せた新たなタレットが現れる。
その筒からは炎が吐き出されて、逃げ道をふさいでいく。
そのすべてをきっちり避けて、ひたすら交わすことに徹していく。
「しっかし、ここだけ妙にメカっぽいよな。どういうコンセプトなんだろ?」
「こうした塔のフロアは、肉獄を除いた各獄層の特徴を模した『練習ステージ』として設定されている、という考察があります」
しおりちゃんが解説する間にも、床から現れる『タレット』の数は増えていく。
当たると爆発する榴弾を出すタイプ、魔法の光弾を発生させる結晶を備えたタイプ、それぞれの攻撃速度も範囲も様々で、すべてを見切るのは不可能だろう。
通常攻略の場合『攻撃される前に破壊』が鉄則だ。
そして、裏トレジャーを獲得する場合、このフロアは地獄の難易度を誇るようになる。
「おっ、そろそろお出ましかな!」
飛び交う攻撃を避けながら、楽しげな声を上げる柑奈の目の前。フロアの中央に巨大な構造物がせり上がってくる。
巨大な筒形の構造物。その中央には切れ込みがあり、透明なカバーの下に、無数のレンズがはまっているのが見える。
このフロアのボス『制御コア』、アレを破壊するのがこのフロアのクリア条件だ。
でも、
「リーダー、念のためカウント、そっちでもよろしく!」
「わかった! 三分だな!」
裏トレジャーを獲得するための条件は『ボスであるコアを破壊せず、すべての攻撃を三分間耐える』だ。
実際これ見つけたの、南条さんたちらしいんだけど、いったい何をどうやったらこんなの見つけられたんだよ!?
俺は手元の時計に目を落とし、秒針の位置を見て、
「それじゃ、スタート!」
柑奈の宣言に合わせるように、コアの部分から光がほとばしって地面を焼く。ボスの攻撃が、耐久開始の合図。
その途端、すべてのタレットの攻撃が、一瞬だけ止んだ。
もちろんそれで、終わるわけはない。
クロスボウが断続的に、敵を狙って射撃を開始。榴弾砲が攻撃をばらまき、逃げ道をふさいでいく。
そのすべてを、柑奈がきれいなステップで交わし、
「おっと!」
避けきったところに、ボスのレーザーが叩きつけられる。もちろんそれも、柑奈はぎりぎりでさばいた。
この段階で、時間はまだ三十秒。
それまで主役を張っていたタレットが一斉に引っ込み、入れ違いに現れるのは、結晶を乗せた塔のような形。
そのすべてが、色とりどりの光弾をばらまいた。
「で、これは迎撃してもOkっと!」
魔機人由来の正確な射撃で、敵の攻撃だけを討ち落としていく。
親方が言うには、一連の攻撃を耐えてもいいらしいんだけど、防御用の素材を持ち込んでやっとだったらしい。
光弾ばらまきでようやく一分。
そういえばこれって、
「弾幕シューティング、って感じだな」
魔法弾のタレットが引っ込み、次に現れたのは巨大な丸ノコギリを乗せた、かなり嫌な感じの代物。
当然、そのすべてが、柑奈めがけて解き放たれる。
「うわったっ! これ追尾してくるじゃない!」
火花を散らして、柑奈をかすめて飛ぶ丸ノコ。生身で喰らったらすごいダメージだぞ。 しかも、今度は床じゃなく天井が開いて、そこから高圧水流が降り注いでくる。
その間にも、中央のコアがレーザーを差し込んでくるから、一瞬も気を抜けない。
「オレだったら、どこまで耐えられっかな……」
ぼそりとつぶやく紡と、微妙な顔を向けるしおりちゃん。
一応、この敵の攻撃は、一定のパターンが存在するってことで、完全な対策は組めることにはなってる。
とはいえ、柑奈みたいなある程度の攻撃を無効にする手段がないと、チャレンジすることさえ、やめておいた方がいいだろう。
「柑奈! 残り一分!」
展開していたタレットが一斉に収納され、目の前のコアが、変形を開始する。
円柱型の床面部分が割れて八本の足になり、上の部分の柱が、四方向に割れて方針を形成する。
このフロアボスの裏攻略、最後のボスがこいつだ。
それぞれの砲身には、さっきまでタレットが使ってきた榴弾、魔法弾、火炎弾、そしてレーザーを撃ってくるようになる。
『そんなもん、どうやってさばいたんですか!?』
『そりゃおめえ、ケガを承知でそれぞれの弾を、受けたりよけたりしたんだよ』
親方の話を聞いたとき、正直、俺は言葉が出なかった。
現実問題として、その困難さを目の当たりにして、顔をしかめるしかない。
それでも、柑奈の方は極めて冷静だった。
「ここまで来たら、あとはサビまで歌いきるだけってね!」
榴弾の範囲を見切って大きくよけながら、魔法弾を迎撃し、火炎弾をあえて食らいながら、レーザーの照準を絞らせない。
火花を散らし、炎をドレスのようにまといながら、鋼の肌をきらめかせて、柑奈が舞い踊る。
そして、そのすべてが唐突に、動きを止めた。
「……イエス」
あれほど荒れ狂っていた弾幕は収まり、巨大なボスは床に収納されていく。
その代わりにせり上がってきたのは、金色に輝くトレジャーボックスだった。
「終わったよ、みんな」
俺たちは静寂の支配するフロアに上がり、柑奈が開いた箱の中を覗き込む。
中身はぐるぐる巻きになった、布のようなものが置かれていた。
取り出して広げてみると、縦二メートル、幅一メートルぐらいの、家の扉のようなものが描かれた『タペストリー』だった。
「『セーフハウス』。これを壁や床に置いて、そのドアを開けると、その向こう側に異次元の部屋を確保できるアイテム。獄層の攻略には、一つ以上持ち込むことが、推奨されています」
「うん」
俺はそれを文城に渡し、ザックに収納してもらう。
そして、柑奈に頷いて見せた。
「無茶させちゃったな、ありがとう」
「みんなも自分のクエスト設定してたし、あたしも何かやろうと思ってたから。それに」
柑奈は擬態を取り、いつものメイド服姿に戻ると、笑った。
「塔をクリアしたら、次は獄層攻略でしょ。事前準備は、やれるときにしておかないと」
それは、彼女らしい気遣いと、ちょっとの切なさを含んだ言葉だった。
確かにこれは、獄層攻略には必須の装備かもしれない。でも、塔が終われば俺たちは、いったん解散することになる。
このアイテムをいつ使えるか、あるいは使う機会が来るのかさえ、わからない。
「さって、あたしは予定通りに攻略終えたよ。十六階はさっさとクリアして、あんたの裏トレジャー、取りにいかないと」
「おう!」
柑奈の上げた拳に、紡が自分の拳を合わせに行く。
俺たちは身支度を整え、上のフロアに向かった。




