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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:07「set me free」

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0、オーバーチュア

 夜。

『パッチワークシーカーズ』の事務所。

 俺は、窓際に置かれた書き物机に向かうと、結晶ランプを灯し、日誌を開く。パーティを結成してから約一年。その活動が記された大切な記録だ。

 実際には、親方のところへ弟子入りしてから日誌のことを知って、慌ててつけるようにした、という経緯は脇に置くとして。


「さて、と」


 俺は鉛筆を手に、一番新しいページを開き、日付を入れる。

 二月二十二日。

 模造の街のカレンダーが、地球準拠で制作されているのはわかってるけど、いまだにちょっとした違和感はあるな。

 これを決めたのがPの館じゃなく、南条さんたち『ぱちもん通り商店街』だってことも驚いたことの一つだ。 

 時刻はP館の時計を準拠にしているけど、日付の決定は住民の意思に任せる。連中の支配の、奇妙ないびつさを感じる部分でもある。


「本日のメンバー、小倉孝人、福山文城、神崎柑奈、鶴巻紡、美幸栞。行動目的、二十階踏破目的のトライアル……」


 それから、メンバーの健康状態と、本人たちに関する俺の所感を書き入れ、その日の行動やトラブルに関する内容を書き記す。

 こういう情報の積み重ねが、安全の確保と実力の底上げにつながる。

 行動記録の方法は『ぱちもん通り商店街』の初期メンバー、甲山の親方と山本さんが中心になって、地球での現場仕事を参考に作り上げたんだそうだ。

 だが、ある程度、今日の行程を書いたところで、筆が止まってしまった。


「……むう」


 首から下げていた時計を取りだして、目の前に掲げる。

 一見すると普通の、どこにでもありそうな懐中時計。ただし、その竜頭の部分は、奇妙にゆがんだパーツがついていた。

 十三階の裏トレジャー『歪曲の竜頭』。俺がこの街に来て、最初期から狙おうと思っていた強力なアイテムだ。


「孝人、おつかれさま。日誌、終わった?」


 顔を上げると、お茶とおにぎりをお盆に乗せて、文城が事務所に入ってきていた。


「十階までのはな。今回は俺の個人クエストの締めがあったし、どう書こうかと思って」

「そっか。ラジオとかつけないの?」

「無音の方が集中できる……と思ってたんだけど。なんか、うまくまとまらない」

「大変そうだったもんね。今回は、一人攻略だったし」


 そうだ。

 今日の塔攻略は、かなり変則的だったんだよな。俺は別のメモ用紙に、思い浮かんだ要素を箇条書きにしつつ、相棒であるネコの模造人モックレイスへ、お願いした。


「思いつく限りでいいから、俺のクエストで、気になったことを質問してくれないか? それに答えてけば、日誌の内容も、何とかまとまりそうだ」

「……それじゃ、うーん」


 文城は俺に湯飲みを手渡しながら、尋ねてきた。


「どうして、そのアイテムが欲しかったの?」


 そういえば、具体的な話はしてなかったっけ。俺がこれを欲しがった理由。


否術ディナイアルを覚える前は、俺の能力って、みんなよりも弱かったろ?」

「……あんまり、そうとは思わないけど、孝人はそう思ったんだね?」

「直接攻撃の手段も、結晶武器頼りの不安定さだったからな。みんなみたいな隠し玉が、一つは欲しかったんだ」


 時間停止の強力さは、最初の冒険で実感済みだ。上位ランクの実力者にも、時計の所持者は結構いるらしい。


「それに、できれば乙女さんに、ちゃんとした形で返却したいと思ってさ」

「……そっか」

「とはいえ、それも二十階攻略が終わってから。ってことになるだろうな」


 否術の教育に特化した魔法学校のギルド『星の学堂(スコラ・ステラリウム)』も、一月後には開校する。

 そうなれば、しおりちゃんは学生の指導にかかりきりで、半年は戻らない。

 今のメンバーで活動できるのも、あと少しの時間だ。


「……よし。あとは十三階での立ち回りを要約すれば、大丈夫かな」

「終わるまで、いてもいい?」

「結構、時間かかるぞ」

「うん」


 ランプの光を反射した、ネコの丸い瞳がこっちを見つめてくる。俺は笑い、そのままノートに向き合った。


「じゃあ、話しながら書くから。眠くなったら寝に戻れよ」

「わかった」


 そして俺は、書き記していく。

 ニ十階踏破までの、忙しくて騒がしい、日常を。


れ・れ・れ第一部、最終章です。成長した冒険者たちがどう戦い、どう生きるのか。その姿をご覧ください。

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