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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:06「Innocence(純真)」

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31、星になるために

 早朝、入塔受付所の前にて。


「はい、上げるよー」

「すまん、頼むわ」


 俺は必要事項を記入した紙を提出し、受付のゴブリンが内容を確認する。


「攻略パーティ名、パッチ―ワークシーカーズ。代表は小倉孝人こくらこうと。パーティメンバー、福山文城ふくやまふみき美幸栞みゆきしおり鶴巻紡つるまきつむぐ神崎柑奈かんざきかんな、以上五名。目的、ニ十階踏破計画のための予備調査。はい、問題ありません」


 そのまま塔近くの芝生に整列すると、俺たちは装備を確認していく。


「文城、新しい手甲の調子はどうだ?」


 留め具を確認していた文城は、新調した武器をこっちに見せる。掌の部分には完全結晶のパーツがついて、動作機構もトリガーからスクリューに変更されている。

 体内の聲の運用に合わせて、武装を改良した結果だ。


「うん。全然問題なし。森にお手伝いに行ったとき、ちょっと試してみたけど、威力も上がってる気がしたよ」


 防具も布より皮のパーツが増えて、防御力を底上げしてある。そのゴワゴワ感に、若干名抗議する奴がいるが、取り合うつもりはない。

 文城の安全が第一だからな。


「柑奈は今後、索敵メインで頼む。ヤバそうなところに狙撃でアシストな」


 最初期と違い、柑奈は狙撃中心の武装だ。乱戦内に援護攻撃を入れたり、離脱したいときに血路を開いてもらったりする予定。余剰戦力がパーティの中にいるのは、ありがたいからね。


「それと、ふみっちもバカ犬も、どんどんレベルアップしてるし、あたしもなにか考えないとなあ」

「無理のない範囲でよろしく。それと紡」


 紡は念願の、完全結晶武器フローレスウェポンを導入することになった。

 ただ、それにはいくつかの問題があった。


「また全力出して、剣を吹き飛ばすなよ」

「わ、わかってるよぉ。俺だってせっかくの愛剣、何度も壊したくないってば」


 コウヤとの決闘以後、紡の力はどんどん強くなった。自在に火を操り、例の『変身』も自分の意志で発動可能になった。

 それでも、性格自体が急に変わるわけもなく、テンション爆上げの結果、武器に乗せた火で刀身を消し飛ばしたりする。 

 当然、普通の結晶武器では通常使用にも耐えきれず、最初に手に入れた完全結晶フローレスの剣も、紡の聲に同調して溶けてなくなる始末。


「まぁ、いざってときは炎狼竜騎士ドラゴニックモードで、爆熱神狼剣ロードブレイザーを」

「ダメです」


 怒りつつ笑顔を浮かべるしおりちゃん。いつも通りの魔法使いセットで、この子の見た目だけは変わらない。

 もちろん中身は以前と別物で、否術ディナイアルの理解度やできる能力も、飛躍的に増えている。


「なぜ紡さんが、火の体と生身を自在に使い分けられるのか、まだ解明されていないんですよ? そんな状態で、気軽に竜の聲(ドラゴンブレス)級の魔法なんて」

「……いいよなぁ、自分の存在と引き換えの、ドラゴン変身とか。まさかオレが、そんなかっこいい力に目覚めちゃうなんてなぁ!」

「その気持ちは、痛いほどわかりますが。絶対に、気軽に、使わないでください。例えば道端で、ヒトにお願いされたとか、ですよ」


 しおりちゃんのお説教に、笑いながら頭をかく紡。

 なんかこいつ、より一層バカに磨きがかかってないか。てか、あの決闘以降、こいつの回りに変なファンクラブみたいなのができてて、真剣に対応を検討中だ。


「あ……あの、すみません。美雪先生」


 そんな俺たちのところに、遠慮がちに歩み寄る姿があった。

 つば広三角帽子にローブと杖。そんないでたちの、ネコの模造人モックレイス


「私、今からパーティの人たちと、ダンジョンに入るんですけど。その、ちょっとだけ、見てもらっていいでしょうか」

「すみません、孝人さん。五分だけお時間をいただけますか?」

「OK。でも、そのヒトだけだよ」


 実のところ、否術ディナイアルという技術の開放は、学校設立を前倒しにするように始まっていた。

 紡の見せた力、Pの館と結ばれた条約の発表、そして、グノーシスの皆さんの忍耐の限界。

 その結果、新ギルド『星の学堂(スコラ・ステラリウム)』は活動を開始。何人かの生徒が魔法使いとして、実地研修に出るまでになっていた。

 ちなみに本格始動は、大聖堂改修が終了する一月後だ。


「おっす孝人! あと紡と文城と柑奈と……って舞衣まい! もう来てたんだ!」


 やってきたセンザンコウの模造人モックレイス、小弥太がネコの子に走り寄る。

 それから少し遅れて、小柄な背丈のメンツが集まってきた。


「そっか。お前らもパーティ結成できたんだな」

「うん。佐川さんとこのギルド、最初のパーティだぜ!」


 まだ正式じゃないけど、佐川さんも例の『初心者向け冒険者ギルド』の結成を発表していた。今のところは、佐川さん指導の下、屋内での戦闘訓練や、引率付きでの森探索程度と聞いてたけどな。


「あとで佐川さんが、孝人に話聞きたいって。解除技術の指導とかって」

「親方のところは、大きいヒト向けだからな。わかった、気を付けて行って来いよ」

「そっちもな! んじゃ、"タイニーナイツ"、出発!」


 リーダーらしく号令をかけると、小さな冒険者たちを引き連れて、小弥太が塔に入っていく。ちっちゃいって言っても、俺やしおりちゃんと変わらないけど。

 ともあれ、今まで体格を気にして冒険家業を敬遠してた連中も、少しずつ変わり始めている。その良し悪しはともあれ、選択肢は多い方がいいだろう。


「さてと、いろいろあったけど、いよいよ十五階。連続ボスラッシュって呼ばれる、最後の五階層のへのチャレンジ開始だ」


 ここまで、いろんなことがあった。

 みんな能力も未熟で、足手まといだったことも、死にかけたこともあった。

 塔以外の冒険も、たくさんの回り道も、個人的な悩みや苦しみも、意外なトラブルもあった。


「まずは全員で、一階から十四階まで登頂。ビバークした後、そこから十五階の攻略だ」


 今度こそ、俺たちは先へ行く。


「十五階制覇後は、アンカーを使いながら順に制覇を行う。十九階を終えたら――」

「――二十階のボス、どんなのかな! 誰に聞いても教えてくれないんだよな!」

「そこだけは、慣例として教えないのだそうです。攻略者本人への試練として」

「口が軽いのは、結構ばらしてるみたいだけどね。でも、これはゲームじゃないから」

「そのパーティにあった攻略方法を、探す方がいいんだって」


 大丈夫。俺たちならきっとやれる。


「よし、それじゃ、パッチワーク・シーカーズ、出発!」


 俺の号令に、それぞれがうなづき、


『了解!』


 ラストアタックへの、最初の一歩を踏み出した。

ということで、鶴巻紡の話、終了です。半分ぐらいがそのほかの話だった気もしますが。

さて、この物語も残すところあと一章。予定では今年中に完了させるつもりなんですが、どうなりますか。


それではまた。

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