31、星になるために
早朝、入塔受付所の前にて。
「はい、上げるよー」
「すまん、頼むわ」
俺は必要事項を記入した紙を提出し、受付のゴブリンが内容を確認する。
「攻略パーティ名、パッチ―ワークシーカーズ。代表は小倉孝人。パーティメンバー、福山文城、美幸栞、鶴巻紡、神崎柑奈、以上五名。目的、ニ十階踏破計画のための予備調査。はい、問題ありません」
そのまま塔近くの芝生に整列すると、俺たちは装備を確認していく。
「文城、新しい手甲の調子はどうだ?」
留め具を確認していた文城は、新調した武器をこっちに見せる。掌の部分には完全結晶のパーツがついて、動作機構もトリガーからスクリューに変更されている。
体内の聲の運用に合わせて、武装を改良した結果だ。
「うん。全然問題なし。森にお手伝いに行ったとき、ちょっと試してみたけど、威力も上がってる気がしたよ」
防具も布より皮のパーツが増えて、防御力を底上げしてある。そのゴワゴワ感に、若干名抗議する奴がいるが、取り合うつもりはない。
文城の安全が第一だからな。
「柑奈は今後、索敵メインで頼む。ヤバそうなところに狙撃でアシストな」
最初期と違い、柑奈は狙撃中心の武装だ。乱戦内に援護攻撃を入れたり、離脱したいときに血路を開いてもらったりする予定。余剰戦力がパーティの中にいるのは、ありがたいからね。
「それと、ふみっちもバカ犬も、どんどんレベルアップしてるし、あたしもなにか考えないとなあ」
「無理のない範囲でよろしく。それと紡」
紡は念願の、完全結晶武器を導入することになった。
ただ、それにはいくつかの問題があった。
「また全力出して、剣を吹き飛ばすなよ」
「わ、わかってるよぉ。俺だってせっかくの愛剣、何度も壊したくないってば」
コウヤとの決闘以後、紡の力はどんどん強くなった。自在に火を操り、例の『変身』も自分の意志で発動可能になった。
それでも、性格自体が急に変わるわけもなく、テンション爆上げの結果、武器に乗せた火で刀身を消し飛ばしたりする。
当然、普通の結晶武器では通常使用にも耐えきれず、最初に手に入れた完全結晶の剣も、紡の聲に同調して溶けてなくなる始末。
「まぁ、いざってときは炎狼竜騎士モードで、爆熱神狼剣を」
「ダメです」
怒りつつ笑顔を浮かべるしおりちゃん。いつも通りの魔法使いセットで、この子の見た目だけは変わらない。
もちろん中身は以前と別物で、否術の理解度やできる能力も、飛躍的に増えている。
「なぜ紡さんが、火の体と生身を自在に使い分けられるのか、まだ解明されていないんですよ? そんな状態で、気軽に竜の聲級の魔法なんて」
「……いいよなぁ、自分の存在と引き換えの、ドラゴン変身とか。まさかオレが、そんなかっこいい力に目覚めちゃうなんてなぁ!」
「その気持ちは、痛いほどわかりますが。絶対に、気軽に、使わないでください。例えば道端で、ヒトにお願いされたとか、ですよ」
しおりちゃんのお説教に、笑いながら頭をかく紡。
なんかこいつ、より一層バカに磨きがかかってないか。てか、あの決闘以降、こいつの回りに変なファンクラブみたいなのができてて、真剣に対応を検討中だ。
「あ……あの、すみません。美雪先生」
そんな俺たちのところに、遠慮がちに歩み寄る姿があった。
つば広三角帽子にローブと杖。そんないでたちの、ネコの模造人。
「私、今からパーティの人たちと、ダンジョンに入るんですけど。その、ちょっとだけ、見てもらっていいでしょうか」
「すみません、孝人さん。五分だけお時間をいただけますか?」
「OK。でも、そのヒトだけだよ」
実のところ、否術という技術の開放は、学校設立を前倒しにするように始まっていた。
紡の見せた力、Pの館と結ばれた条約の発表、そして、グノーシスの皆さんの忍耐の限界。
その結果、新ギルド『星の学堂』は活動を開始。何人かの生徒が魔法使いとして、実地研修に出るまでになっていた。
ちなみに本格始動は、大聖堂改修が終了する一月後だ。
「おっす孝人! あと紡と文城と柑奈と……って舞衣! もう来てたんだ!」
やってきたセンザンコウの模造人、小弥太がネコの子に走り寄る。
それから少し遅れて、小柄な背丈のメンツが集まってきた。
「そっか。お前らもパーティ結成できたんだな」
「うん。佐川さんとこのギルド、最初のパーティだぜ!」
まだ正式じゃないけど、佐川さんも例の『初心者向け冒険者ギルド』の結成を発表していた。今のところは、佐川さん指導の下、屋内での戦闘訓練や、引率付きでの森探索程度と聞いてたけどな。
「あとで佐川さんが、孝人に話聞きたいって。解除技術の指導とかって」
「親方のところは、大きいヒト向けだからな。わかった、気を付けて行って来いよ」
「そっちもな! んじゃ、"タイニーナイツ"、出発!」
リーダーらしく号令をかけると、小さな冒険者たちを引き連れて、小弥太が塔に入っていく。ちっちゃいって言っても、俺やしおりちゃんと変わらないけど。
ともあれ、今まで体格を気にして冒険家業を敬遠してた連中も、少しずつ変わり始めている。その良し悪しはともあれ、選択肢は多い方がいいだろう。
「さてと、いろいろあったけど、いよいよ十五階。連続ボスラッシュって呼ばれる、最後の五階層のへのチャレンジ開始だ」
ここまで、いろんなことがあった。
みんな能力も未熟で、足手まといだったことも、死にかけたこともあった。
塔以外の冒険も、たくさんの回り道も、個人的な悩みや苦しみも、意外なトラブルもあった。
「まずは全員で、一階から十四階まで登頂。ビバークした後、そこから十五階の攻略だ」
今度こそ、俺たちは先へ行く。
「十五階制覇後は、アンカーを使いながら順に制覇を行う。十九階を終えたら――」
「――二十階のボス、どんなのかな! 誰に聞いても教えてくれないんだよな!」
「そこだけは、慣例として教えないのだそうです。攻略者本人への試練として」
「口が軽いのは、結構ばらしてるみたいだけどね。でも、これはゲームじゃないから」
「そのパーティにあった攻略方法を、探す方がいいんだって」
大丈夫。俺たちならきっとやれる。
「よし、それじゃ、パッチワーク・シーカーズ、出発!」
俺の号令に、それぞれがうなづき、
『了解!』
ラストアタックへの、最初の一歩を踏み出した。
ということで、鶴巻紡の話、終了です。半分ぐらいがそのほかの話だった気もしますが。
さて、この物語も残すところあと一章。予定では今年中に完了させるつもりなんですが、どうなりますか。
それではまた。




