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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case:06「Innocence(純真)」

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1、小さくて大きな転換点

 塔ダンジョンにある受付は、小さな箱型に窓が付いた代物だ。

 詰めているゴブリンの休憩スペースと合わせても、地球にあった駐車場の管理小屋より少し大きい程度。

 その窓口は、ネズミの模造人モックレイスである俺にとっては、ちょっと使いにくい代物だった。


「はい、上げるよー」

「すまん、頼むわ」


 文城のモフモフな手に持ち上げられ、俺は手にした申請書類を窓の向こうへ送り出す。

 他の上背があるメンツに、代わりに提出してもらうのもアリなんだけど、一応パーティリーダーだからな。


「攻略パーティ名、パッチ―ワークシーカーズ。代表は小倉孝人こくらこうと。パーティメンバー、福山文城ふくやまふみき美幸栞みゆきしおり鶴巻紡つるまきつむぐ神崎柑奈かんざきかんな、以上五名。目的、ニ十階踏破計画のための予備調査。はい、問題ありません」


 お役所仕事らしい丁寧さ。ゴブリンは合格スタンプを押して書類を収め、同時に、こっちへ侵入許可書を渡してきた。

 それから、備考欄に目を留めて、少し表情を変える。


「ビバークの予定ありとのことですが、他のパーティとの合流は?」

「特にありません。日付変更後、ダンジョンの入り口開放と共に離脱予定です」

「分かりました。わかっていると思いますが、生理現象の処理は『ダンジョンの更新前』にお願いします」


 ゴブリンの注意に、俺達は思わず失笑する。

 ダンジョンハック中、パーティが直面するいくつかの問題。その中で、かなり切実なのが『トイレ』に関してだ。

 三階や八階のような、自然を模したエリアなら『用を足す』こともできるけど、それ以外は石畳のモダンなダンジョン。当然ながら『痕跡』が残る。

 ただ、塔ダンジョンは、毎朝七時の開門と共にリセットが掛かり、フロア自体が別物に変わるから、そのタイミングに合わせるなら、いろいろできるわけ。


「リーダー、早めに十四階のトレジャー、手に入れといたほうがいいよ?」

「Pの館でプラチケ交換枠にも入ってっから、そっち頼みにした方がいいかもなー」


 ダンジョンに移動しながら、紡と柑奈がそんなことを言ってくる。

 話題に上がったのはいわゆる『ポータブルトイレ』のようなアイテムだ。十四階のトレジャーであり、Pの館でも入手できるので、高階層へ行くパーティの必需品とも言われている。

 塔近くに設置された『公衆トイレ』を横目にしながら、俺は背負い袋を軽くたたいた。


「ちょっと前に購入済みだよ。御不浄の際は、遠慮なくお申し付けください」

「た、試しに使ってみたけど……かなり恥ずかしいから、気を付けてね」


 実験台になってくれた文城が、猫顔をしおしおにしつつ苦笑いする。変に色めき立つ柑奈を小突きつつ、そのままダンジョンの入り口に立った。


「まあ、可能なら必要人数分だな。使いまわすのも精神衛生に来るだろうし」

「孝人さん。他のパーティは、みなさん塔内に入ったようです」

「ありがとう。それじゃ、行こうか」


 塔ダンジョンは、その時間帯によって入るメンツが変わる。

 七時の始発が最も多く、次いで九時までが採取組でにぎわう時間帯。十時以降に入るタイプは、たいていがビバーク前提の高階層攻略組だ。

 先行したパーティによって露払いされた九階までを踏破し、十階の戦闘で肩慣らししたあとで、十一階以降を攻略する感じ。

 だから、二十階を目指す俺たちが、こういう動きをすることも、特に問題ないわけだ(・・・・・・・・・)


「五階のゴーレムだけど、あそこで一つ、やりたいことがある」


 すでに荒らし尽くされた一階には、何もない。取りこぼされた結晶のかけらが、散らばってる程度だ。

 ちょっと気の抜けそうな雰囲気を、俺達は歩いていく。 


「もしかして、裏アイテム取りか? オレも一回やりたいんだよな」

「一騎打ちでゴーレム倒すんでしょ。アンカーってアイテムが手に入るんだよね」

「アンカー稼ぎは中級以上の冒険者がチャレンジされるようですね。それなりに危険なので、大抵はホライゾンや奈落新皇軍の方がされているようですが」


 受付で申請すると、ダンジョンの指定階層から『再開』できるというアイテム。

 攻略のためというより、『EAT UP』や『大しけや』のような食料素材回収のギルドが欲しがっているって聞いている。


「どっちかって言うと、お披露目だな。しおりちゃんと俺が身につけた、新しい力の」


 二階に上がり、トラップを抜け、三階に入る。

 その時に告げた言葉に、文城たち『行かなかった組』は、思い思いの気持ちを発した。


「やっぱり、なにかあったんだね。とんでもないことが」

「どこに行ってたのかも、ちゃんと話してくれるんだよね?」

「新しい力……すっげー気になる響きだ」


 今日の三階は比較的静かで、難なく通り抜けができた。

 次いで四階も、灯輪葛の光でつつがなく、静かに進行する。

 そして、五階へ上がる階段前。


「で、どう動けばいい?」


 柑奈の問いかけに、俺としおりちゃんは目くばせした。

 すでに事前の打ち合わせは終えている。


「壁際で待機してくれ。しおりちゃんの準備が終わったら、二人でゴーレムを倒す」

「ホントに、二人だけでやんのか? 援護は?」

「トラブルがあったら頼む。でも、基本は見ててくれ」


 向こうから帰って来て、約十日。体調も問題ないし、鍛錬も欠かさなかった。

 あとは、やるだけだ。


「行こうか、しおりちゃん」

「了解です」


 全員がフロアに上がり、三人が壁際に下がる。


「硬装竹!」


 叫びが魔界の植物を生やし、下からの階段を完全に囲ってしまう。万が一、誰かが上がって来ても視線が通らないようにするために。

 その行動に驚く文城たちの前で、ゴーレムが敵を求めて動き出す。


「さーて、毎度おなじみチュートリアルボス戦、よろしく頼むぜ」


 新調した棍を一振りし、進み出る。

 こうしてみると確かにデカい。でも、石喰いのデカさと威圧とは、比べ物にならないほど、小さかった。


「行くぞ!」


 挑むように叫びをあげると、俺はゴーレムめがけて吶喊とっかんした。

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