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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case05「curiosity(好奇心)」

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31、ヨルを駆ける

 夜の闇を裂いて、真紅の矢が疾走する。

 はっきり言って道交法違反。

 俺たちを乗せたバイクはフルスロットルのまま、甲高い金属音を後に残して、あっという間に街並みを、車を、追い越していく。


「…………!!」


 ソールと俺の間に挟まれたしおりちゃんは、ずっと絶句したまま。

 無理もないよ。出発してから一度もブレーキかけてないんだもん!

 って、目の前にトラックがぁ!


『心配するな。炎を掴みとれる人間など、いるはずもなし』


 俺たちの全身が一瞬熱を持ち、揺らめき、いつの間にかトラックを追い越していた。

 そうだ、このバイクは走ってるんじゃない。

 明滅しながら、瞬間移動・・・・している!?


『うちの秘蔵っ子の聲です。雷ほどではないですが、炎もこういう芸当は得意なので』


 よくわかんないけど、交通規制している警官たちや、巡回しているパトカーが、まともに反応できてない。

 ただ、問題が一つだけ。


「うっ、後ろにっ! 火の跡がっ! 残って!」


 加速、回避、大きくカーブ。

 そのたびに車道に炎が、鮮やかな深紅の帯が一瞬刻まれ、散華していく。

 ある意味きれいだけど、思いっきり人に見られちゃってるよ!


『些末事です。流しなさい』

「ぜったい、さまつごとじゃ、なあああい!」 


 こいつらほんとに毒なんて効いてるのか!? ここまで能力全開やっといて!


『『アプシントス』が強く働くのは、衆人環視の環境下です。つまり『認識阻害』をすれば、ある程度低減が可能』


 そういえば、そうだ。

 俺の下宿近くでやった銃撃戦は、昼で住民の姿が少なかった時。

 高速道路は、早朝の時間帯と人払いの結界。

 温泉街と廃旅館は言わずもがな。

 今は、夜を明滅する光と化して、地上を疾駆する。


『移動中の"トライスター"に告ぐ。こちら"アルファ"』


 それは、現場を望遠で確認している観測班の連絡。

 

『待機中の戦車、全車両が暖気運転を開始。随行している隊員にも発砲許可が下りた』

「石喰いは」

『さっきから鎌首、もたげっぱなしだ。おまけに翼の具合を確かめてる』


 一触即発。

 俺たちがこれから飛び込むのは火薬庫じゃない。

 噴火寸前の火口、煮えたぎった溶岩の真っただ中だ。


『"アルファ"、卵の駆除状況は?』

『少し待て――あと二か所。だが"ノヅチ"がへたばったらしい。どうする』


 突き進む先の景色が変わっていく。

 住宅街交じりの市街地から、高層ビルが威容を誇る摩天楼に。

 本来ならあるはずの交通さえ全く存在せず、住民がいなくなった、街並みがあった。

 それは壊れていく世界、舵取りも水夫もいない、沈みゆく船のようで。

 仲間のネズミ(・・・・・・)さえ逃げ出した場所へ、俺たちは突進する。


『いざとなれば"バックアップ"を要請します。その前に、何としても一か所、確実に潰させなさい』

『了解。"ノヅチ"の癇癪で、喰い殺されないよう祈ってくれ』


 ビルの林を抜け、巨大な陸橋を駆け上る。

 はるか遠望が開け、俺たちの視線の先、夜の闇を煌々と照らす光の束が、揺らめく場所がみえてきた。


「あそこか!」

ショートカット(・・・・・・・)します。命がけで体を保持しなさい』


 冗談みたいに、車体が道路わきの落下防止柵に体を寄せていく。

 ちょっと、マジで、待って待って待って!


「ああああああああああああああ!」


 突き抜けた。

 慣性に従って、空間を横滑りしていくバイク。その先にはビルの屋上。

 もちろんそこには、固くて頑丈な高い柵が。


「うひゃああああっ!?」


 すり抜ける、陽炎のように。

 タイヤはグリップさえせずに炎の痕跡を残し、そのまま車体は反対の柵をすり抜ける。

 そこまではいい、そこまではいいけど。


「ダメだって! ぶつかるって! どうすんのこれえええ!?」


 目の前に迫ってくる真向いのビルの壁。

 確かに炎は人間の手じゃ掴めない、網だってすり抜ける。

 でも、明らかな石壁は絶対ダメでは!?


『何度も言わせるな』


 ドン、という衝撃。

 優秀なサスペンションが悲鳴を上げつつ、俺たちの重量も、慣性さえも受け止めきり、


『炎を止められるものなど、ありはしないと!』


 ロケットのような加速で、壁を斜めに突き走った。


「ショートカットって、こういうもんじゃないでしょおおおおおお!」


 まるでパチンコ玉、あるいはフリッパーゲームみたいに。

 はねて、はじけて、ぶっ飛んで。

 しまいには、前転しながら、大空を舞い上がる。


「あ……」


 頭上/足下を、暗い街並みが通り過ぎていく。

 本来なら、この時間でも明かりがともって、日々の苦労と、ささやかな喜びのが交わされるはずの場所。

 その谷間に、壁を『蹴りながら』降りると、車道を走りだす。

 そのまま、過去と再開発のはざまにたゆたう雑多な街並みを抜け、バブルの余勢を駆って生み出された、海岸沿いのビル街を通り過ぎる。


『"トライスター"! 戦車隊が移動を始めた! 展開されたらどうしようもないぞ!』

『決然たる突撃と、焦眉の暴走は別物だというのに! 仕方ない!』


 バイクの動きが、明らかな無茶へと向かっていく。

 するすると近づいていくのは、海と陸を隔てている防波堤。


「ソールさんっ! ソール様っ! 火と水って、めっちゃ相性が悪いのではぁっ!?」

『なら、試してみるか!?』


 やけくそ気味の叫びと一緒に、俺たちの体が、海へと飛び込んでいく。

 もしかして、川とかでやる石切みたいに、水の上を跳ねていこうとしてる!?

 そんなの、無理に決まってる。

 あっという間に、暗い夜の黒々とした海へと落ちていき、


『目標地点、『道』、生成。無茶振り、一つ貸し』


 聞いたことのない声と一緒に、海の上に白い道ができていた。

 堅牢な氷の舗装道路。

 それは自衛隊の完全封鎖が、唯一及ばない、ありえざるルート。

 灼熱の炎で氷の道を焼き落としつつ進む。その先には、視界一杯に広がっていく巨大な石喰いの体。

 そして、


「現着した! 結界を展開!」


 掃海中の小型船舶の間を抜け、ジャンプ台のようになった氷の道を、バイクが飛ぶ。

 いきなり立ち込めた濃い霧の壁を突き抜け、ブレーキを掛けつつ降り立つ。


「二人とも、準備を」


 ようやく動きを止めた荒馬。

 それでも心臓エンジンの鼓動はそのまま。その異音にのろのろと首を向けた、盲目で巨大なエネミー。

 しおりちゃんが地面に飛び降り、俺は搭乗したまま、棍を片手に身構えた。


「結界が維持できるのは約十分。それまでに決着を付けなさい」

「上等! 頼んだよ、しおりちゃん!」

「お任せください! そちらも援護よろしく!」


 棍のトリガーを起動、内部機構が結晶を装填し、勢いよく地面に先端を叩きつける。

 魔法のない神去の地で、魔界の底から掘り出された『聲の結晶』が弾けた。

 途端に、巨体が大きく体をくねらせ、こっちに顔を向ける。

 石喰いが、長々と吠えた。


「行くぜ、デカブツ」


 走り出したバイクの慣性にしがみつき、俺は挑むように声を上げた。


「パッチワーク・シーカーズ、石喰い討伐クエスト、開始する!」


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― 新着の感想 ―
今回も面白かったです。 道中が……なんというか……。 レースゲームかアクションゲームみたいで映像化されたら凄く映えそうだと思いました……。 きっと2人は怖かったでしょうね……。(遠い目) そして最…
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