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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case05「curiosity(好奇心)」

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17、めくられたヴェール

 俺達を乗せた車は、まず東京都内に入った。

 それから一つの立体駐車場へ向かい、そこで車を変えた。車種も色も、形状も違う。

 今度は広々としたワンボックスで、ドリンクと軽食が用意されていた。

 念のためと、俺たちは目隠しをされて、そこからもう一度、別の場所で車を変えて、気が付けば東京湾の見える、おそらくお台場のあたりで、ようやく移動を止めた。


「スパイ大作戦か、お前らは」

「せめてミッション・インポッシブルだろう、そこは。それでも十分古いが」


 助手席の男は口元を緩め、同時にため息をついた。


「なんてことだ、まったく」


 まあ、気持ちはわかる。

 移動中の車内で、こいつらの質問攻めにあいながら、俺は世界に隠された、恐ろしい秘密を知る羽目になったわけだが。

 俺の感想も『なんてことだ、まったく』だった。



『ま、魔王って、あの世界征服とかをする、ファンタジーRPGの?』

『……すまんがお前、『魔王』様のことさえ聞かされていないのか? どこの工場製だ? ヴァルトホーグか? フォールナンか?』

『そ、その、わたしたちは、ただのはぐれでして。魔界の工場も、すべて廃棄されたらしいんです』


 めまい、ぜっく、ひたん、ぜつぼう。

 そして宇宙猫の顔になって、グラサンの男はふかぁく、ため息をついた。


『なんてこった』


 苦虫を百匹ぐらいかみつぶした顔で、男は詳しい事情を 語ってくれた。

 それは、景品となった星をめぐる、神と魔の壮大な遊戯ゲーム

 神の側は勇者と呼ばれる存在を使い、星を征服した魔王と呼ばれる魔界の代表と、命がけの陣取り合戦を行うという。

 勇者が勝てば星は神のものとなり、魔王が勝てば魔のものとなる。

 その名も『神々の遊戯』。


『だが、遊戯はただの出来レースでな。最初から、魔王側に勝ち目はなかった』


 魔王は十年の征服期間と、あらん限りの資材を持ち込み、万全の状態で陣地を造ることを許されていた。

 問題は、神の側の勇者が、そんなものを物ともしない『チート能力』持ちばかりということだった。


神去かみさり、つまり地球出身の若造を勇者に任じ、そいつらの発想を神の力によって再現して与え、異世界に送り出した』

『つ、つまり、いわゆる『なろう系チート勇者』みたいなやつ?』

『それを、百人を超える単位で、一度にな』

『な……なんてインチキ!』


 魔界の代表者である、代々の魔王は、当然のように負け続けた。

 上位の吸血種族、魔神、悪魔、そういう実力者が立て続けに滅ぼされ、魔界の側は遊戯での勝利をあきらめた。


『神々の遊戯は、大規模な戦争行為の禁止を意図し、制定されたものだ。領土とするべき星を、互いの過剰暴力で滅ぼさぬようにとな』

『一種の戦時協定か。それが蓋を開けてみれば、不平等条約だったと』

『誰もがまっとうな勝ちをあきらめ、偶然に手に入る勝利を待つだけだった。だが、あの方はそれを良しとしなかった!』


 どこからともなく現れ、必ず魔の側に勝利をもたらすと宣言し、世界に躍り出た者。

 それが、こいつらの言う『魔王』だった。



 そんなことを聞いている間に、数台の車が集まってきていた。

 車種も性別も、格好も違う連中。

 共通するのは、みんな中身が『魔物』なことだった。


「ああ……久しぶりのまともな飯だぁ」


 俺は、買ってきてもらったハンバーガーを、ぐっとかみしめた。

 涙が出るほどうまい。残飯や盗品は、どうやっても満足とは程遠かったからな。

 しけって少ししなびたポテトも、ベタ甘の炭酸飲料も、はらわたに染みるぅ。


「本当に、魔王城は滅んでいたんだな?」


 何度もしつこいなと思いつつ、俺は尋ねられるたび、決められたことを口にした。


「『俺たちは廃棄された模造人モックレイスでね。魂抜かれた上に肉屋に並ぶなんてごめんだから、逃げたんだよ。あの妙な遺跡は、何か売れるものがないかって、あさってるときに出くわしたんだ』」

「仕方なかろう。『魔王』様は貴様らを売ることで、魔界での発言権を稼いだんだ。とはいえ……それは間違いなく、魔王城の『異世界転移装置』だな」


 なるほどなるほど。

 ジョウ・ジョスのガラクタ置き場に、世界征服を失敗した魔王の城か。 

 いかにも、あのクソ超越者好みのオブジェってわけだ。

 だが、その答えに納得しない連中もいた。


「そもそも貴様ら、どこで地球の文化を、日本の情報を得た?」

「得たのではないんです。わたしたちはもともと、地球生まれの日本育ちですよ」

「どういうことだ?」

「『ジョウ・ジョスの戯れ、といえば、お分かりになりますか?』」


 たった一言で、連中は押し黙った。

 嘘は言っていない。ただ、あの街を造り、転生者を集めようとしたのは、別の奴である可能性を伏せただけで。


「その名を、平然と口にするな。全く、これだから『神去』の連中は」

「いくら何でもビビりすぎだろ。名前を呼んではいけないあのヒトってか?」

「孝人さん、日本でも海外でも、厄介な忌者いみものを恐れかしこむ文化はありますから」

「そこのトリも丁寧に見せて、かなりの慇懃かつ無礼な奴だな」


 それから俺たちは、遺跡についての詳細な話を聞きだされ、俺たちとしても内情を知れるということで、かなり正確な状況を伝えた。


「魔王城中枢部であり、城の動力となっていた場所だ。超圧縮された澱聲結晶でんせいけっしょうからエネルギーを抽出する仕組みだよ」

「その直下に、魔王城と魔界各所、主戦場となった星の前線などを結ぶ、ゲートネットワークが設置されていた」

「その部分が残されているということは、澱聲結晶のオーバーロードではなく、自壊機構が発動した結果、城は落ちたということか」


 俺が、現場調査をした時のメモを提出すると、連中は頭を突き合せて、ああでもないこうでもないと分析を始めた。

 インスピリッツでも見たことのある光景。こいつら、かなりの研究者気質とみた。


「さて、これからどうしましょう」


 質問攻めをいったん押しとどめ、俺たちは休憩所としてあてがわれた、ワンボックスに落ち着いていた。

 隣には、情報過多で情緒が壊れて、虚無顔をしている充。

 無理もないけど、今はかまってやる時間もない。


「こっちとしては、かなりの収穫だったね」

「はい。魔王城、ゲートネットワーク、彼らが所持している『双方向の門』。わたしたちが帰還するためには、彼らの力が必要です」

「かえ……る?」


 い、今はそこに反応しないでほしいんだけどな。

 俺は大慌てで、隣の爆弾を処理することにした。


「少なくともしおりちゃん、彼女はこっちにいても生きる場所がないんだ。良くて実験動物、悪けりゃ即、殺処分だろうからな」

「すみません、孝人さん。ご意見には賛同しますが、もう少し手心をお願いします」

「ご……ごめんね。ともかく、そういうわけだから。まずは彼女の安否が最優先」

「またそれか」


 さっきよりはいくらか冷静に、それでも怒りを隠しもしないで、充は呻いた。


「そうやって、お前は。人の面倒を見るふりして、自分をないがしろにするのか」

「今は、そんなこと言ってる場合じゃ」

「今だから、言ってるんだろ!」


 煮詰まってしまった会話。

 こいつと知り合って以来、何度もこんなやり取りをしていた気がする。


「えっと、孝人さんと……充、さんでよろしかったですか?」

「……何?」


 不機嫌そうに、にらみつける顔。

 小学生のころから、俺以外の奴には、こんな顔で塩対応しまくってたっけ。


「おまえ、初対面の人間に、それ(・・)は止めろって言っただろ。年下だぞ、この子」

「今からわたし、外の皆さんと情報交換をしてきます」


 気を悪くした様子もなく、彼女は車を出ていく。


「協力関係締結のため、ある程度、情報開示してしまいますが、構いませんか? 問題があればすぐにお呼びします」

「……任せるよ。ごめんね」

「お気遣いなく。それでは」


 ったく、なんてざまだ。

 自分たちより年下の子に、めちゃくちゃ大人の対応されるおっさん二人とか。

 恥ずかしくて、今すぐ東京湾に飛び込みたいわ。

 俺は頭を掻いて、隣の友人に尋ねた。


「言ってくれ。全部聞くから」


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― 新着の感想 ―
いよいよ本格的にクロス展開に入ってきたというか、かみがみの続編っぽくなってきましたねえ! ここから神と魔界の抗争に孝人たちも巻き込まれていくんですかね。なんか不可抗力的に深入りする羽目になりそうな気配…
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