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REmnant・REvenants・REincarnation ~異世界転生日本人、魔界の最下層で生きていく~  作者: 真上犬太
Remnant case05「curiosity(好奇心)」

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13、ストレンジ・ジャーニー

 日本に帰って来て、何度目かの深夜。

 大きな川を見下ろす土手に、俺たちはやって来ていた。 


「んじゃ、ハンドルはお願いね!」

「はい!」


 新たな移動手段に乗り込み、移動を開始する。

 それは街中で乗り捨てられていた、一台の自転車。

 そいつを体の小さな模造人モックレイスで二人乗りするという、いろんな意味において危ない方法で動かすのが、俺の提案した移動方法だった。


「ああっ、あっ!? ちょ、ちょっと、あんまり揺らさないでください!」

「ごめん! ス、スピード乗るまでちょっと耐えてっ!」


 こっから先、目立つ異形の俺たちが徒歩で移動できる場所はない。

 であれば、当然移動手段が要るわけで。

 俺たちは苦労しながら、なんとか巡航速度にこぎつけた。


「それで! あの橋に向かえばいいんですね!?」

「ああ! 渡り切ったら休憩できる場所を探そう!」

 

 偽装のため、サドルに座ているしおりちゃんは、上からポンチョをかぶっている。シルエット的には一人で、自転車に乗っているように見えるはずだ。


「これなら、だいぶ速度と移動距離が、稼げるね!」

「は、はい! 孝人さん、辛そうですので、漕ぐのに集中してください!」

「むしろ、黙って漕ぐ方が、キツイかも!」


 時刻は午前の三時。

 幸いなことに、歩道側には対向車も追い抜く影もなく、車から奇異な目を向けられはしたものの、問題なく渡河を達成した。


「よっしゃ! クロス・ザ・ルビコン!」

「それ、後戻りできない、という意味でしたよね?」


 うーん、冷静なツッコミ。

 俺はそのままあえて街中には入らず、対岸に当たる土手を流して、隠れ家になりそうな場所を物色した。


「支流の出水口とか、住処にワンチャン、ないかなあ」

「なにかありましたね、そういうアニメ」


 結局、俺たちは身軽さを利用して、河川の管理を行うらしい施設の、屋上を間借りすることにした。

 自転車の方は、一応土手に隠すように置いたけど、なくなってたら仕方ない。

 そして、その日の昼間。


「あー、川風気持ちいいなー」


 見られないように気を付けながら、俺たちは日差しに毛皮を干しつつ、軽食をつまんでいた。

 今まで、ずっと暗い場所でこそこそと過ごしていたから、この解放感は格別だった。


「そういや……トリガー用の結晶、縮んでる気がするんだよね」

「はい。コンロに入れていた結晶も、残りわずかだったものが、なくなってました」


 向こうにいた時はこんなことはなかった。試しに『視て』みると。


「溶けてる、というか、消滅しているのか?」

「魔界と地球で、環境が違いすぎるせいかもですね」


 まいったな。

 今の俺たちで唯一、打撃力になりそうな結晶も、どんどん使えなくなっていく。


「孝人さん」

「なんだい?」

「例の彼らとの交渉について、話し合えそうですか?」


 すぐさま、頷くことはできなかった。

 とはいえ、考えるべきことでもある。


「そうだね。状況も動いたし、ちょうどいいか」

「では、思いつく限り、彼らを分析してみましょうか」


 こういうとき、俺のギフテッドは役に立つ。メモ用紙に関しては、街中の『紙』を、頂戴することで事足りた。

 最初に議題にしたのは、あのデブだ。


「あれはヤバイ。その点で俺たちの認識は一致してるよね」

「規格外、です。なぜあんな存在が、ヒトの形を取っているのか、意味不明です」


 そこまでの評価か。

 魔法のためなら全身全霊、前のめりの彼女に腰を引けさせるとか。

 やるな、あのデブ。


「反面、ゴブリンどもは『胡散臭い』な」

「ヒトの似姿をした怪物が、社会へひそかに浸透する。あれがトカゲ人間(レプティリアン)だったら、陰謀論妄想の具現ですね」

「政府機関の秘密組織とか、期待したんだけどね」


 正直、銃を手にデブをけん制した姿を見て、ひそかにテンション上がったんだよな。

 しおりちゃんの指摘が無かったら、うまうまと身をゆだねていたかもしれない。


「とはいえ、異常性に対応する超法規的な機関に関わるのも、考えものですよ?」

「人類発展のため、全世界の共有財産化とか?」

「現代社会の健全と正常性を守るため、確保セキュア収容コンティン保護プロテクトの理念に基づき、存在を隔離隠蔽されて生涯を終える、とか」

「なるほど。最近のオカルトは、随分みみっちくなったもんだ」


 ともかく、連中の第一印象は整理できた。

 それに付随して、ごみ箱から拾い上げた新聞各紙を並べる。


「『都内で謎の怪物出現、河川に逃亡し、行方をくらます』。情報規制も隠蔽もなし、ってことは」

「非常に残念ながら、日本には怪物や超常の存在を扱う政府機関など存在せず、今後の対応も後手に回る、という目測が立ちます」

「万が一、警察に駆け込んでも、黒服やデブから保護してもらえる可能性はゼロか」

「むしろ警察官や自衛官に、ゴブリンたちが入り込んでいるかもですね」


 となれば、だ。


「しおりちゃんが、助けを求めるとしたら、どっち?」

「孝人さんは、どちらにつきますか?」


 俺たちは顔を見合わせて、結論を出した。


「「ゴブリンの方」」


 ですよねー。


「まあ、あのデブはないよね。クソでかバイクで追っかけてくんだもん。あれでショットガンでも担いでたら、未来からやってきた抹殺アンドロイド(ターミネーター)だ」

「とはいえ、二つの勢力が最初からグルで、彼らになびかせるための芝居、ということも考えられますが」

「俺たちに、そこまでの価値があるかな?」


 しおりちゃんは首を振り、二つの勢力図の間に、俺たちの顔を書き入れた。


「互いが組んでいるにせよ、対立しているにせよ、武力による争奪戦が発生した。現行、法治が行き届き、銃による武装が認められていない日本国内で、です」

「俺たちには、あずかり知らない価値があるか、連中がそう思い込んでいるか」

「わたしたちはゲートによる転移で、ここに来たんです。それだけでも、彼らにとっては注目に値するかと」


 俺は自分たちの勢力に『魔界からの転移者:価値は未知数』と書き込む。

 こうやって俯瞰してみると、俺たちがなぜ追いかけられているか、という理由もぼんやり見えてきた。


「多分、あのゲートは誤作動したんだ。遺跡が壊れてたこと、連中が出口の雑居ビルにいなかったことからも、実情に即していると思う」

「管理者がゴブリンたちか、巨漢の方かは置くとして、その誤作動を察知し、ビル周辺を捜索し『転移して来たもの』を調べていた」

「デブは模造人モックレイスを知っていた。当然ゴブリンたちもだろう。つまり、どちらも魔界関係者で、日本に滞在中か、状況を確認するために派遣されたと」


 ようやく、連中と駆け引きする材料が見えてきたな。

 俺たちの転移理由や目的を伏せて会話することで、こっちの欲しがってる情報を、勝手に吐き出させることが可能かもだ。


「モック・ニュータウンやPについては?」

「伏せておきましょう、可能な限り」

「その心は?」

「Pの計画や行動が、彼らにとって障害になるかもしれない、からです」


 ありえるな。

 魔界の底の底で、他の住民からも嫌われぬいた、超越者の庭で遊んでる奴だ。他の勢力にとって、厄介な相手と思われてるかもしれない。 


「わたしたちは魔界の流民、価値のありそうな遺跡にもぐりこんで、偶然に転移装置を動かしてしまった、という設定で行きましょう」

「日本語や日本知識については? 転生者と見破られたら?」

「そこは、真実を話せばいいだけだと思いますよ」


 しおりちゃんは、笑っていた。

 ちょっと、思い返すのが怖くなりそうな顔で。


「ジョウ・ジョスの『お手付き』であると知って、どういう反応を示すのか、興味ありますので」


 と、ともあれ、目的地が決まり、方針も決まった。

 あとはなるべく騒ぎを起こさず、目的地までたどり着くようにすれば。


「ふぁあ……はぁ……ぅ」

「まずは、一度ゆっくり寝ておきませんか?」

「そう、だね」


 今のところ、ここを確かめようと近づいてくる人間はいないし、ある程度の安全は確保できている。

 俺たちはいつでも荷物を持ち出せるようにして、小さく丸まった姿で目を閉じる。

 いつ寝たのか、そう思うほどの速度で、意識が遠のいていった。


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― 新着の感想 ―
今回も面白かったです。 ふむふむ……気が滅入っていた状況から少しでも持ち直したのか……交渉についても考えられるようになったようですね。 それにしても……片方がゴブリンとすると……。 やっぱり……大…
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