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魔人の正体

 ウィンドルームはウチから見れば聖教国再東端。

 ウチに最も近い領だ。

 彼等の心象が良ければ争いも回避しやすい。


 ただ民衆、しかも他国の民というのは中々に薄情なもので。

 ウチのおかげで飢えを凌いでいる今は感謝を示しこそすれ、ちょっと状況が変われば簡単に感情を変えてしまう。

 例えば魔人が再度襲い、更なる食糧危機にでもなれば、もっと寄こせと喚き始める。

 国家のお上が敵国認定している相手ならばストレスの捌け口には丁度良い。


 というわけで、さっさと魔人討伐にカタをつけて欲しいところだが、困ったモノで……どうやら魔人さんは隠れるのが上手いらしく、まだ見つかっていないらしい。

 というよりサイズタイドやウチのメンバーが勝手に聖教国漁るわけにも行かないので、食道楽からの報告待ちだ。


 そんな中、2号の訪問だ。

 わざわざこのタイミングで来たのだ。

 煽るついでに、会話の論点を「そもそも魔人を倒せないこっちが悪いのだから、聖教国がウチに敵意を持つのは仕方ない」、みたいな方向に持っていくつもりじゃなかろうか、と予想はしていた。


 予想は裏切られたのだが。


「そうか……まあ、そうだろうな」

「ええ。これ以上の支援は。

 討伐は請け負いましたが、街の防衛はあくまで街と国の責任であってウチの問題じゃない。

 ウチの余裕の範囲で支援はしますが、それ以上は譲歩できませんね」


 2号の要求は更なる支援の拡充。

 だが、仕事やる気あんの? って位引くのが早い。

 営業職だったら上司から怒られる勤務態度だ。


「ところで随分と人数が少ないようだが?」

「ん? ああ、居候達ですか?

 そらまあ、サイズタイドに出張に行っていますから……ご存じでは?」

「まあな。

 あの白い猫に一度会っておきたかったのでな」


 白い猫?

 ……タイガか?


「それは……なぜ?」


 中の人を知ってるというのもあるが、あれを「可愛いー」とか言い出したら引く。


「彼奴こそがきっかけだったからだよ。

 俺がこうなった……な」


 そう言いながら目を合わせた2号には、隠す気もない敵意があった。


「他生物との細胞融合……ヤツの存在が我々の計画のトリガーだ。

 貴様にとってはただのガラクタでもな」


 2号さんは自己陶酔がお好きなタイプらしい。

 目を瞑ってニヒルに笑ってらっしゃる。


「なあ、魔王よ。

 なぜ聖教国がこんな答えの解りきった要求を出すと思う?」

「情報ですか?

 ただで教えて貰えるのなら聞きましょう」

「ウィンドルームの飢饉が聖教国の意思だとしたら?」


 ……この一言でピンと来た。

 逆になんで気がつかなかったのか?


 魔獣はメイドイン聖教国だ。

 対抗する手段など持ち合わせていない方がおかしい。


「そして貴様がこの事実に気がつかないのは当然だとしたら?」


 気がつかなかった理由は簡単だ。

 俺の中のアンドロイドがこの理由を導き出すことを拒否したから……

 だが何故?


「グッ」


 頭が……痛え……


 山田2号の身体が変色する。


 違和感はあった。

 ウチに借りを返させることと、街を守ること。

 どちらを優先する? 普通は後者だ。


 だが聖教国は魔人を取り逃がした。

 ウィンドルームを荒らし、食糧危機を、いやウチの支援を得るために。

 魔人を狩るために居候達が出張し、ここの防備を薄くなる。この時をつくる為に。


「知って……いたのか?

 ウチの……」

「東北に金を集めたかったのだろう?

 知っていたさ。

 だから加速させたのだ」


 黒く変色する2号の肉体は金属のような光沢すら帯び、爪は剣のように伸びて……


「お前が……魔人かよ」

「見ての通りだ」


 姿を消したわけではなく、街の人々に紛れ込んだわけだ。


「不覚だ……ヒーローものの怪人みたいに、変身シーンを指くわえて見てるとは」

「魔王には相応しい役割だな……そのまま役割を全うするが良い。

 死ね」


 変異する前に椅子に立てかけた熱線銃で頭撃ち抜けばよかったんだが……頭痛でそれどころじゃなかった。


 頭痛に苦しむ俺の意思とは関係なく、俺の身体が動き出す。

 俺の保護の為、俺の中のアンドロイドが身体の操作を乗っ取ったらしい。


 掌から高速で打ち出される鉄の杭。

 前情報があって良かった。

 一瞬だけ限界突破を発動し、2号の射線から身体をずらして、熱線銃を抜く。


 あとは撃てば終わり。

 射線の先に2号の額があるのを捕え、引き金を……


「ヌウッ」

「なっ!?」


 引けなかった。

 長い爪が俺の銃を横から熱線銃を弾く。


「テメ……限界突破を」

「俺の原則は俺の為にあるわけではない。

 当然組み込んださ。自身を傷つけるプログラムもな」


 今ので解った。

 スピードは互角。

 アンドロイドの丈夫な骨格に魔獣の発達した筋繊維で覆い、無理矢理上乗せしたコイツの身体能力は、俺同等にまで上昇したらしい。


 装甲は向こうが上。

 間合いは銃と杭では流石に銃が上だろうが、場所が温泉宿。

 間合いをとれる場所じゃない。


 銃を弾いた右手をそのままに、左手で撃ち放たれた杭。

 その動きを見逃さず、再度発動した一瞬の限界突破で躱し、テーブルを蹴り上げる。


「グッ!?」


 テーブルという面のデカい飛来物は、流石に躱せる許容量を超えたらしい。

 とっさの機転はCPUの処理速度。

 つまり俺のアンドロイドの性能が上。

 そして感情なきアンドロイドは動揺も罪悪感も感じることなく、冷徹に成すべき事を成す。

 蹴り上げたテーブルが、2号が防御の為に固めた腕に当たり、まだ空中にある内に限界突破を再度発動。

 テーブルの上から熱線銃を叩き込む。


「グアァアアアッ!?」


 テーブルが落ちる。

 俺の熱線銃は2号の右肩、心臓、右太ももを撃ち抜いた。

 エネルギーポンプ(心臓)を撃ち抜いたのだからいずれ動きを止めるが、すぐにとはいかない。


「ゲブッ!!」


 身体のダメージに警告音が頭の中でがなり立てているのだろう。

 呻き、顔を歪めながら再度杭を打つべく向けられた2号の左手。


 杭の射出線上に熱線銃を構えて盾にする。

 衝撃を殺しきれず熱線銃は弾き飛ばされてしまった。


 銃を拾いに背中向けられる状況じゃない。

 仕方なしに2号が次弾装填を終える前に、撃ち抜いて動きの弱くなった2号右側の懐に飛び込む。


 迎撃せんと突き降ろされる左腕は読み通り。

 飛び込みざま2号の左側に跳びながら繰り出した拳は、カウンター気味に2号の鳩尾を捉え、宙に浮かせる。

 カラダかってえなコイツ。解ってたけど。


 嫌な音をさせた俺の左手を無視して、2号を床に叩き付けつつ左手を極める。


「グゥッ!」


 山田が当然脱出を試みるがもう遅い。


「バウッ!!」


 そこにスィンに異常を伝えられたマガミ隊が乗り込んできた。

 温泉施設のドアもガラスをぶち割って、入り込んだマガミ隊は2号を中心に円弧を描いて陣形を組む。

 温泉宿はリフォームが必要だ。マサル、ゴメン。

 

 2号から身を離すべく跳び去るついでに、極めていた左の肘を砕く。


 自分がどうなるか悟ったのだろう。

 ふらふらと立ち上がる2号。


「約束通り見定めさせて貰ったぞ……結局、貴様も人形にすぎん」

「遺言はそれでいいな?」


 限界突破も避ける先がなければ意味がない。

 Wシリーズの計二十丁による大口径熱線銃の飽和攻撃は、容赦なく2号の身体を撃ち抜いた。

 

「ふう。

 ナイスヘルプだマガミ」

「わふぅ」


 マガミ隊を一通り褒め、2号を見る。


「さて、っちまったもんは仕方ない」


 戦闘が終わってアンドロイドが身体を返してくれたらしい。

 まだ残る頭痛に、足下が定まらないのを自覚しつつ、ひとまずやるべき事を考える。


「コイツのバイオメモリを調べてみるか……アグッ!?」


 脳を圧迫するような頭痛が襲う。

 そして目の前が真っ白になって……。




◇◆◇◆◇


「クゥ~ン」


 顔を舐められた感触で目を覚ました。


 なんだっけ?

 そうだ、魔人化した2号に襲われ、危機一髪の所をマガミに助けられて……


 ……そうだ。

 マガミ達の攻撃で動きの止まった相手を俺が撃ったんだった。

 確実に仕留めるべく、脳天を熱線銃で撃ち抜いた。


 俺の撃った場所は熱線の跡で解る。

 俺の熱線銃とマガミの熱線銃は口径が違うから。

 

 2号の額には《《俺の記憶通り、俺の銃で撃ち抜かれた》》穴があった。

 バイオメモリは残念ながら破壊されているだろう。


「《《暴走して魔人化する》》とはね……」


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど……スィンさんも1号と同じ「仕えるべき者」が居なくなるのが困るんですね
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