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3.この作品は道路交通法を遵守しています

 金髪の女はブレヴィフォリアと名乗った。気軽にブレちゃんと呼んでくれ、とのことらしい。

 ブレヴィフォリア曰く箒鷲宮魔法学園は車で1時間以上かかるようだ。

 そんなわけで俺たちはブレヴィフォリアが運転する黒塗りの高級セダンに乗って、箒鷲宮魔法学園へと移動している。

 

「ブレちゃんって箒鷲宮の教師なの?」


「教師ィ? まーそうだなあ。教師っちゃ教師だ」


「何を教えてるの?」


「それは入学してからのお楽しみってヤツだ」


 暇里は助手席で楽しそうにしている。あいつは誰とでも友達になれるタイプだな。

 対して俺はというとガールズトーク(と言っていいのか?)に混ざるタイミングを見失い、ぼーっと窓の外を眺めていた。

 等間隔で並んだ道路照明が物凄い勢いで後ろに流れていく。恐らくブレヴィフォリアはここをドイツか何かと勘違いしているんだろう。速度メーターを見なくても分かる。明らかに速度オーバーだ。


「東鷲宮ってどんなところなの?」


「ん~~、一言で言うなら、学生には過ぎた所かなあ」


「そんないい所なんだ。楽しみだなあ~」


「めちゃくちゃいい所だぞ。私も入学したいくらいだ」


「それは無理だろ。年齢的に」


 しまった。口を挟むつもりはなかったのについツッコんでしまった。


「あアん!? なんだ明テメー喧嘩売ってんのか!?」


 ぐるっと体を反転させブレヴィフォリアが睨んでくる。サングラスで瞳の奥は伺い知れないが苛烈な顔をしていることは声色から察せられた。


 そんなことより。


「前見ろ前!! 何キロ出してると思ってんだ!」


「たった150キロだろ。よゆーだよよゆー。高速なんて後ろ見てても運転出来ら」


「いいから前見ろ! 俺が悪かったから!」


「それでいいんだよそれで。学生は可愛くな」


 のっそのっそと前を向くブレヴィフォリア。

 誰だこいつに普通自動車免許を交付した奴は。

 俺はブレヴィフォリアが公道を運転していることに司法の限界を感じた。もしかしたらこの世は間違いだらけなのかもしれない。


「そういえば私の荷物はもう運ばれてるのかな?」


「荷物? 手ぶらじゃなかったか?」


「私物は事前に送ってねって入学案内に書いてあったでしょ?」


 入学案内?

 そんなものはなかったと思うが。


「見た記憶はないな」


「え……明、何も送ってないの!?」


「そうだな。持ってるのはスマホと、財布だけだ」


 暇里はええーー!と驚愕の声をあげた。

 よくよく考えてみれば、着替えなどをどうするか全く考えていなかった。


「新生活だよ新生活!? ブレちゃん、何とかしてあげられない?」


 自分のことのように親身になって心配してくれる暇里を見て、もし母親がいたらこんな感じなのかなと少し思った。本人には絶対言えないが。


「あーー、……安心しろ、一応向こうでも揃えられるぞ」


「家具とかも?」


「ああ。一通りなんでも揃うようになってる」


「なんだか興奮してくるわねえ。ねえ明、着いたら生活必需品揃えに行きましょうよ」


 暇里は新しい生活が待ちきれない、といった様子だ。そのけして小さくない胸には希望とか新生活へのワクワクとか、そういったものが詰まっているんだろう。


「自分の荷ほどきはいいのか?」


「構わないわよそんなの。せっかくこうして知り合ったんだから遠慮はナシよ」


「じゃあ……行くか」


 これは噂に聞くデートというやつではないのか?

 最近の女子高生はこんなに積極的なのか?

 もし色恋沙汰に興味があったら、俺はもう暇里のことが好きになっていただろう。

 ちょろいとか、思うなよ。





 高速道路を降りて少しすると、山の中としか形容出来ない景色が広がってきた。


「お前らー、そろそろ着くぞー」


「やたっ、楽しみー!」


 暇里が助手席で軽く飛び跳ねる。

 

「そろそろ着くったって……山だぞここ」


 どう考えても広い敷地を必要とする学園がありそうには見えない。ライフラインも通っていないだろう。コンビニすら1軒も見ていないはずだ。


「バレないように結界が張ってあるからな。一般人にはヒミツってわけよ」


「結界?」


「この辺の山は全部学園の持ち物でね。結界張って外からは分からない様にしてるのさ。偶然にも入ってこれない様に魔法もかけてな。お前のその疑問が学園の対策が機能してる何よりの証拠だ」


 外界からは分からない様に細工が施されてたってわけか。


「どうりで調べても何も出てこないわけだ」


「うちのこと調べたのか。なんか出てきたか?」


「なにも。コネ入学しかないってことくらいかな」


「あっ、それは私も知ってる! だから明が一般人って聞いてびっくりしちゃった」


「ん? お前一般人なのか」


 驚いた様子のブレヴィフォリア。


「知らなかったのか? 学園は勿論把握しているものだと思っていたが」


「あ〜……資料まだ見てないのよねえ……面倒くさくて……」


 大丈夫なのかこの学園は。教師の採用基準に瑕疵があるようだが。


「よし、ここからは徒歩で行くぞ」


 危なっかしいブレーキ操作で停車するブレヴィフォリア。どうやら着いたらしい。


「ここは……山道?」


 少しひらけた砂利道に山道入口と書かれた古びた看板がぽつんと立っている。その少し奥には背の高い柵が見え、その柵には「私有地につき立ち入り禁止」と大きく書かれたプレートが張り付けられている。

これがフィクションなら俺たちはこれから猟奇殺人事件の被害者になってもおかしくない、そんな雰囲気だ。


 ブレヴィフォリアは柵のたもとで何やらがちゃがちゃやっている。どうやら鍵を外しているようだ。


「行くぞーお前ら、離れると認識できなくなるからちゃんと着いてこいよー」


 認識できなくなる…?


「どういうこと?」


 ブレヴィフォリアに駆け寄りながら暇里が質問する。


「この先は認識阻害の魔法が掛けてあんのよ。うっかりはぐれたら一生この山を彷徨うことになるかもなあ?」


 シニカルな笑顔を浮かべるブレヴィフォリア。

 笑顔の使い方がおかしいだろう。教師には生徒を守る役目があるはずじゃないのか?

 俺は急いで二人のそばに走った。


「魔法って色々あるのねえ」


 暇里は間の抜けた返答をする。細かいことが気にならない性格なんだろう。この短時間一緒にいただけで暇里の性格は大分掴めてきたと思う。


「この辺でいいか。二人とも目ぇ閉じろ」


 柵を越えて少し歩くとブレヴィフォリアは足を止めて言った。


「目を開けてるとちょっと頭がおかしくなるかもな」


 どんな脅し文句だ。訳も分からず俺は目を閉じた。


「今からお前らにかかってる認識阻害の魔法を解除する。暇里、薄目開けんな。脳が焼き切れても知らねえぞ」


「はぁ~い」


「ま、魔法を解くったって特別な何かをするわけじゃない。ガキに注射する時と同じだ。話してる間に実はもう終わってる」


 もう終わったのか? 何かをされた感覚はないが……。


「目ぇ開けていいぞ。……ビビんなよ?」


 俺はゆっくりと目を開けた。


 そこにはさっきまでの山道とは全く違う光景が広がっていた。


 街だ。


 町ではなく街と表現した方がしっくりくるような建物群。オフィスのようなものもあれば、ブティックのような店構え、飲食店のようなものもある。

 いきなりどこかの中核都市の駅前にワープさせられたような、そんな感覚だった。

 さっきブレヴィフォリアが一通りなんでも揃うと言っていたのは、こういうことだったのか。


「…………」


 暇里は大口を開けて絶句している。


 ブレヴィフォリアは俺たちの様子をゆっくり観察すると、満足そうに口の端を吊り上げた。


「ようこそ、箒鷲宮魔法学園へ」

読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら評価とブックマークをぜひお願いします。


見てくれてるんだ…というのが感じられてとても嬉しくなります。

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