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31.VS秋組② 〜雷帝の槍〜

 我が冬組、副将のミミ・ララ。

 その能力は『金属を操ること』だ。

 非常に汎用性の高いその能力はあらゆる状況に対応が可能で、それを自在に使いこなすミラちゃんは副将を任せるに足る戦士といっていい。


 だが、俺はその能力の凶悪さをまだ認識しきれていなかった。


「ヒィぃぃぃぃ! 降ろして! 降ろしてくれえ!!」


 秋組副将の男が泣いて懇願している。副将を任せられるくらいだ、彼奴もさぞかし名のある武将だろうに今はその面影もなかった。


 ベルトの金属部分。

 ミラちゃんはそれを思い切り上空に持ち上げていた。お腹を支点にして仰向けの状態で男が吊り上がっている。目算10メートルほどか。


「降参! して下さい! 私も怪我をさせたくはないのです!」


 ミラちゃんは上空に向かって叫んでいる。さながらメガホン片手に立て篭り犯に投降を訴える刑事のようだ。立場は真逆だが。


「降参! 降参するから! 早く降ろしてくれ!」


 男は泣き叫んだ。もしかしたら高所恐怖症なのかもしれない。異様な怖がり方だった。

 まあ高所というのは死に直結する人間の根源的な恐怖だからな。命綱もないあの状態では並の人間は精神を保っていられないかもしれない。


『勝者……冬組・ミミ・ララ!』


 男の投降が認められ冬組勝利のアナウンスが響き渡る。


 ミラちゃんはそれを確認するとゆっくりと男を地上に降ろした。


「怖い思いをさせてごめんなさいです」


 ミラちゃんは腰を抜かしている男の元に駆け寄るとペコリと頭を下げた。


「あ、ああ……」


 男は大観衆の前で痴態を晒したことを恥じ入っているのかそそくさとチームメイトの元に戻っていく。彼の学校生活に以前と変わらぬ繁栄があることを俺は祈った。


 男が無事チームメイトの元に帰ったのを確認すると、ミラちゃんはとてとてと俺達の所に戻ってきた。


「ふぃ〜……無事勝てて良かったです」


 ミラちゃんはホッとした様子で胸を撫で下ろした。無事というか何と言うか、恐らく今回の期末テストで一番のスピード決着であり圧勝だった気もするが。


 ミラちゃんには逆らわないでおこう。

 俺は密かにそう誓った。


 それにしてもまさかの4連勝だ。当初は組として勝てるのかと不安に思っていたが、蓋を開けてみればなんて事はなかった。もしかして俺達は強いのかもしれない。


 こうなると5連勝したくなるのが欲深き人間の性というやつだが、我が冬組は大将に爆弾を抱えていた。


 冬組のドラゴン殺し。

 歩く大艦巨砲主義。

 怒れるツインテール。


 その他多数の異名を恣にしている(当社調べ)ラヴィニア・ファンレイン・メルティレージュ・ドラクロワだ。


 動くものに魔法が当てられないという魔法遣いとしては致命的すぎる欠点を抱えた彼女だが、何故だか期末テストに参加するに当たってその表情には自信が漲っていた。


 そう簡単に欠点を克服出来るとも思えないが、ラヴィニアの自信の根拠がもうすぐ明かされようとしている。俺は期待半分不安半分でその時を待っていた。


『それでは只今より大将戦を開始します』


 ラヴィニアがフィールドに歩き出す。その横顔はやはり自信に満ちていた。何なんだ一体。


「ラヴィ」


「ん?」


 俺の呼び掛けにラヴィニアが振り返る。リラックスした表情。妙な気負いは無さそうだった。


「……頑張れよ」


 何か声をかけようと思い呼び止めたが、その顔を見たら特にかける言葉も見当たらず俺はありきたりな言葉を口にした。


「ありがと。行ってくるわね」


 踊るようなステップでラヴィニアがフィールドに上がった。観客席から歓声があがる。

 ドラゴンを討伐したラヴィニアは今や学年でも有名人になっていた。闘技場は今日一番の盛り上がりを見せている。


 ラヴィニアは大歓声を受けてなお超然とした様子で対戦相手に視線をやる。


 対面から上がってきたのは落ち着いた雰囲気の女子生徒だった。腰のあたりまで伸ばした黒髪がサラサラと小風に揺れる。編み込んだサイドの髪を赤いリボンで留めている。和風な美少女といった風情だ。


「初めまして。秋組大将の阿僧祇紫苑(あそうぎしおん)と申します」


 阿僧祇は自己紹介を済ませると深々と一礼した。風格が高校1年生のそれではない。どこぞのお嬢様かもしれないな。


「冬組大将のラヴィニア・ファンレイン・メルティレージュ・ドラクロワよ」


 阿僧祇に合わせたのかラヴィニアはスカートの端を僅かに摘みお辞儀をした。優雅に膝を折り畳んだ綺麗なカーテシーだ。

 そういえばあいつも名家のお嬢様だったな。普段の態度からは想像もつかないが。


 阿僧祇は落ち着いた眼差しでラヴィニアを見定めている。何を考えているのか、その表情から窺い知ることは出来ない。


「残念ながら秋組は敗北してしまいましたが、応援して下さっている方の為にも全力で挑ませて頂きます」


 阿僧祇は反転し、秋組サイドに歩いていく。その背中にラヴィニアは声を掛けた。


「こっちこそ手を抜く気はさらさらないわ。全力で貴方を打倒する。負けられない理由が、私にはあるの」


 ラヴィニアがこちらに歩いてくる。その顔は闘志に満ちていて、それでいてどこか冷静だった。大歓声のなかであいつは何を思っているのだろうか。


 両者定位置についた。会場が静まり返る。観衆は今か今かとその時を待っている。


 やがて、教師により戦いの火蓋が切って落とされた。


『大将戦……開始!』





 明の言う通り、私に対人戦は向いていないのだろう。


 溜めの長い私の魔法を動く人間に当てることは、向こうがワザと当たりに来てくれでもしない限り不可能だ。


 魔法が使えない。

 つまり今の私は一般人。

 ――ふふ。アンタと一緒なら、それもいいかもね。


 そんな諧謔が胸に飛来する。でもそれは私の本心じゃない。


 負けたくない。


 それが私の存在証明。

 私が私でいる為に、全身全霊で阿僧祇紫苑を打倒する。


 向いていないで諦めたんじゃ、面白くないでしょう?

 

 だから私は、ここに立っている。


『大将戦……開始!』


 合図と同時に私はとある魔法を発動する。


 軽い感覚の後、私の手には槍が握られていた。ブレヴィフォリアさんに用意して貰った魔法の槍だ。


 これが私の秘策。


 魔法がダメなら、残された手はこれしかなかった。


 私はありったけの魔力を槍に込める。槍はその身体から電撃を放出し始めた。


「<< 雷帝(ランチャ・)(デル・)(フォルミーネ)>> ……物理バージョン!!」


 冗談でも何でもない。


 この槍で、私は勝つんだ。

読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら是非是非【評価】と【ブックマーク】のご協力をお願いします。


また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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