29.期末テスト開幕
1年で一番の荒くれ者を決める一学期期末テスト、開幕!
「ヒャッハー! 戦争だァーーーー!!!」
俺はとりあえずテンションを上げてみた。無性に叫びたくなる年頃。俺の熱いパトスは誰にも止められない。
「どうしたの?」
ラヴィニアが怪訝な目を向けてくる。何か変なものでも食べたのかとでも言いたげな目だ。
「いや、試しに叫んでみたが虚しいだけだった」
「慣れないことするの辞めなさいよ。そういうのはああいうのに任せとけばいいのよ」
ラヴィニアが示す先には夏組代表の姿があった。唯一の男子生徒が拳を突き上げ何やら叫んでいるが、他のチームメイトの反応は冷ややかだ。夏組は女所帯なのかもしれない。
俺たちは期末テストの会場である並行世界に移動していた。今までの並行世界とは違い闘技場のようなものがある。
クラスの連中も一緒だ。代表でない生徒も観戦と応援が出来るようで、一部ではトトカルチョも行われているようだ。
「現在オッズは人気順に夏組、秋組、冬組、春組〜一口1000円からだよ〜」
どうやら冬組はあまり期待されていないらしい。中間テスト1位の2人が出場していないのが大きいのかもな。
「おい」
俺は賭けを仕切っている男子生徒に声をかけた。
「どうした? 張るかい?」
「冬組に10000円だ」
俺は男が抱えている箱に雑に札を突っ込んだ。この世界では賭博が合法のため安心して賭けることが出来るのだ。
「毎度あり! あんちゃんは選手かい?」
あんちゃんて。男はすっかり役になりきっているようだ。仕方ない、合わせてやるか。
「ああ、冬組の先鋒だ」
「冬組かい。どうでえ調子は?」
「万全だ。おっちゃんも全財産冬組に賭けとくんだな」
「へっ、威勢がいいねえ! ようし乗った! おっちゃんも冬組に10000円だ!」
俺とおっちゃんは固い握手を交わした。
「任せとけ、おっちゃんを億万長者にしてやる」
冬組が優勝した時のオッズは7倍らしい。こりゃ相当ナメられてるな。
俺は冬組の集まっている場所に戻ると、代表を集めた。
「聞け。俺が調べたところによると、冬組は全く優勝すると思われてないらしい」
「はぁ!? どういうことよ!」
瞬間湯沸かし器のラヴィニアが声を荒らげる。最近分かってきたが、こいつはナメられるのを何よりも嫌う。この前佐城野美冬が教室に入ってきた時も、その態度に般若の形相をしていた。
「期末テストの結果で賭けが行われてるんだが、何と俺たち冬組は3位だった」
「へえ……見る目のない方が多い学園ですのね」
スイートが暗黒微笑としか表現しようのない表情を浮かべる。こいつはこいつで底が知れないんだよな。ラヴィニアとスイートが冬組の魔法遣い特攻部隊だ。
「皆殺しだ」
鏡花は拳をパキパキと鳴らしながら、他の組の代表をまるで獲物を見定める猛獣のような目で見ている。殺すな。
「ええと……精一杯頑張ります! です!」
ミラちゃんは両手でグーを作っている。相変わらず一生懸命で可愛い。俺は思わず父親のような気持ちになってしまった。
それにしてもいつの間に冬組はこんな荒くれ集団になってしまったんだろうか。代表がこんなだと知れたら、周りのクラスから『冬組は蛮族集団だ』というレッテルを貼られないだろか。俺はそれが何よりも心配だった。
冬組には暇里や鈴々、総司のような普通の生徒も沢山いる。と言いたいが暇里も鈴々も割と蛮族寄りか。やっぱりこのクラスはダメかもしれない。となればあとはもう、暴れるだけだ。
◆
俺たち冬組は闘技場の観客席の一角を陣取り春組と夏組の試合を観戦していた。フィールドは1つしかないため、他の組が試合をしている時は観戦くらいしかすることがないのだ。
試合は2対2で大将戦にもつれ込んでいた。
冬組大将は佐城野美冬。冬組の面子はまるで不安のない顔つきだ。全幅の信頼を寄せているんだろう。
春組の大将は優男だ。チームの女子たちと手を振りあったりなどしている。なんだあの和気藹々とした雰囲気は。うちのチームとはえらい差があるな。当の本人はいかにもリアル充実してますといった雰囲気。イケメンというところで俺とキャラも被っている。俺は春組の敗北を天に願った。
2人がフィールドに立ち、試合開始の合図が鳴った。
優男は素早く美冬に駆ける。近接型の異能力者だろうか。
しかしその歩みは数歩で終わってしまった。みれば足が凍りついている。優男は驚いた様子で足元に目をやる。足を地面に張り付けている氷はそのまま優男の身体を這い上がっていき、やがて一体の氷像が完成した。
佐城野美冬は身動きひとつしていない。動かしたのは目線だけだ。
こうして大将戦は一瞬で決した。
……ところであれは大丈夫なのか。人は氷漬けになったら死ぬと思うんだが。俺は物言わぬ彫刻となった名も知らぬ彼の無事を祈った。
夏組の勝利が宣言され、佐城野美冬がフィールドから降りると、優男を包んでいた氷が消失した。優男は何が起きたか分からないようで周りをきょろきょろと見回しているが、どうやら無事らしい。よかったよかった。
それにしても佐城野美冬、予想以上の強さだ。正直ルールありのこのバトルでは勝てるビジョンが見えてこない。あの速さで凍らされてはいかなる攻撃も間に合わないだろう。
「……ラヴィ、頼みがあるんだが」
俺は名案を思いついた。それにはラヴィニアの協力が必要不可欠だった。
「嫌よ、替われって言うんでしょ。ご指名なんだからアンタ何とかしなさいよ」
「…………」
俺の秘策は見抜かれていたらしい。どうやら俺が相手するしかないようだ。
何とかしなさいっていわれても、なあ?
◆
次は秋組と我らが冬組の試合だった。アナウンスがあり俺たちはフィールドに移動する。
俺たち冬組に頭脳担当はいないため秋組の情報は一切なかった。出たとこ勝負のぶっつけ本番。なのに誰も負けるとは思っていない。それが冬組というチームだ。フィクションなら間違いなくかませである。
フィールドに移動すると対面には既に秋組が到着していた。男3人に女2人。男の比率が多くて俺は胸を撫でおろした。俺の攻撃方法は殴る蹴るなどの暴行。魔獣の雌ならまだしも人間の女を殴るのはいささか絵面がよろしくない。
『これより秋組と冬組の試合を始めます! 各チーム先鋒、前へ!』
俺のささやかな祈りも空しくフィールドに上がったのは女だった。髪型は茶色のポニーテール。いかにも陸上部です、と言わんばかりの元気そうな子だがこの学園に陸上部はないのであくまでイメージだ。とてつもなく殴りづらい。どうしよう。俺は背後を振り返りチームメイトたちに目線で助けを求めた。
ラヴィニアは俺の視線を受けると首の前で手を横に移動させた。そのまま親指を下に向ける。『やれ』。そんな幻聴が聞こえた。マジか。
スイートはネイルをいじるのに夢中でフィールドを見ていない。一応チームメイトの試合が今から始まるんだが。これだから現代っ子は。
鏡花は『ぶっ潰せー!!!』と心強いエールを送ってくれている。シンプルにガラが悪い。
ミラちゃんは俺の視線に気付くと笑顔で手を振ってくれる。君だけが俺の癒しだ。
やるしかないか。
俺は相手に向きなおった。どうせここまで来たら勝つしかないんだ。おっちゃんを億万長者にするという夢が俺にはある。
「冬組・様宵明だ。よろしく」
あの自己紹介をやろうと思ったが辞めた。深刻な宵のレパートリー不足に陥っているからな。今度また国語辞書を引かねばならない。
「私は葵美岬。いい勝負にしようね」
そう言って握手を求めてくる。暇里に1万円握らせたな……と昔を思い出しながら俺はその手を握り返した。
『それでは只今より先鋒戦を開始します』
お互いにフィールドの端まで移動する。すぐ後ろからは頼もしすぎるエールが聞こえてきている。詳細は省かせて貰うが、お前ら本当に女子か?
『先鋒戦……開始!』
美岬は早速赤い魔法陣を展開すると人間大の火球を放ってくる。スピードはそこそこ。避けるのには苦労はないだろう。
俺はステップ1つで火球の射線から外れながら、どう極力相手を傷付けずに倒すか頭をフル回転させていた。男相手ならぶん殴ってリングアウトさせてやるんだがな。因みに佐城野美冬は個人的理由で男枠だ。遠慮なくいかせてもらう。
「ん?」
何かがおかしい。その違和感の正体はすぐに判明した。
火球が俺を追尾している。外したはずの射線がいつの間にかしっかりと俺を捉えていた。
「これは厄介だな……」
つまり当たるまで一生追ってくるんだろう。スピード自体は大したことないが、これで足を止めることは許されなくなった。
そうこうしているうちにも美岬はシューティングゲームの敵キャラよろしく火球量産体制に入っていた。瞬く間に画面、いや視界が火球で埋め尽くされる。その数は既に2桁に届いていた。
観客席では歓声と悲鳴が響き渡っている。賭けの影響もあり観戦者にも熱が入っていた。
俺は火球を一掃すべく必殺技ゲージを探したが、残念ながら見当たらなかった。どうやら必殺技はないらしい。このゲームはバランスが崩壊している。
冗談はさておき、このままではフィールドが火球で埋め尽くされるのは時間の問題だった。そうなれば俺といえども勝ち目はない。瞬間的解決が求められている。
「ちょっと明! アンタ大丈夫なんでしょうね!?」
今この瞬間にも増え続けている火球にビビったのかラヴィニアが発破をかけてくる。安心しろ、俺はこんなチャチな攻撃で音を上げるようには出来てない。
「んじゃ、一丁冬組らしいとこ見せとくか」
俺は手でラヴィニアに答えると、美岬に向かって走った。俺と美岬の間を阻むように火球が押し寄せてくる。
俺はそれを――避けない。全速力で突っ切った。
衝撃と共に火球が爆ぜる。それは俺の身体を律義に焼くが、大したダメージではない。
俺はそのままいくつも火球を体当たりで破壊し、気付けば美岬の眼前に立っていた。
「よう」
「……え……?」
美岬は目の前で起こっていることが信じられないのか、驚きと恐怖がないまぜになった瞳で俺を睨んでいる。無理もない。食らった感想だが、俺でなければ間違いなくダウンしているだろうからな。
破壊していない火球が今も俺に襲い掛かってきている。時間は残されてなかった。
「時間がない。悪いが婉曲な表現でいかせて貰うぞ」
俺はいい感じに痛くない方法で美岬を気絶させた。消滅する火球。
相手を気絶させれば戦闘不能扱いというのが期末テストのルールだ。
『勝者……冬組・様宵明!』
大音量の歓声が俺を包んだ。悪い気分ではない。
俺は制服が焦げていないか確認しながらチームメイトの元へ歩いた。
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また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。




