28.1年夏組狂騒曲
それは期末テストを直前に控えたある夏の日。
佐城野美冬率いる1年夏組は狂乱に包まれていた。
「絶対俺が大将! これは譲れねえ!」
「アンタ美冬より強いと思ってるの!?」
「強いとか弱いとかじゃねえ! 大将ったら俺だろうが!」
「全然意味分かんないわよ! 私だって美冬だから仕方なく譲ってるだけで本当は大将がいいんだから!」
「……私は別にどちらでもいいんですけれど……」
放課後の夏組では1組の男女が言い争っていた。内容は期末テストのオーダーについてだ。
期末テストは5人1チームだが勝ち抜き戦ではなく星取り戦形式で行われる。
誰をどこに配置するか、その順番で勝敗が分かれると言っても過言ではない。
「いいんじゃないですか? 一般論で言えばどの組も大将に一番強い人を配置するでしょうから。わざわざ佐城野さんを大将にしなくても朝霞さんか夕雲くんにやって貰ってこちらは佐城野さんに確実に1勝をもぎ取って貰いましょう」
「んだルル子! 俺は捨て駒ってことか!?」
「いえいえ、夕雲くんが勝つ未来も極わずかに存在するとは思っていますよ」
そう言ってルル子と呼ばれた少女は性格の悪そうな笑みを浮かべる。ボサボサの黒い髪が顔の輪郭を隠し、暗い印象を与える。
拝島ルル子。1年夏組の頭脳担当であり美冬とペアを組んで中間テスト1位。夏組の期末テスト代表でもある。
「配置が重要な星取り戦形式では、相手の思考を読み柔軟にオーダーを変えていくことが勝利への近道です。残念ながらうちの組は勝ちを計算出来るプレイヤーが美冬さんとファウストさんしかいませんから、私たちで1勝出来るオーダーを考えなければなりません」
「俺が計算出来ないってーのか!?」
「ええ。はっきり言って夕雲くんはこのチームで一番弱いですからね。出来れば相手の最強格に合わせたいんですよ。これは数字遊びの範疇ですが、相手の1位をこちらの5位で処理して、残りの2、3、4、5位にこちらの1、2、3、4位をうまくぶつけられれば4勝1敗で勝てる計算になりますからね」
涼しい顔で言うルル子に夕雲の顔は真っ赤に染まる。
「もう我慢ならねえ! オモテ出ろルル子!」
「いいですけど、この前手も足も出なかったですよね?」
「ぐっ………!」
夕雲大河の地位は低かった。あくまで夏組トップ層の中で、という注釈付きではあるが。
佐城野美冬、魔法遣い。中間テスト1位。
シャントルト・ファウスト、魔法遣い。中間テスト2位。
拝島ルル子、異能力者。中間テスト1位。
朝霞萌、異能力者。中間テスト4位。
夕雲大河、魔法遣い。中間テスト5位。
以上5人が夏組の代表である。
「オーダーを練りたいんですが、困ったことに情報が足りません。とりあえず冬組だけは集まったのでそこから考えましょうか」
ルル子は黒縁の眼鏡に触れる。頭を切り替える時についやってしまう癖だった。
「まずはメンバーです。冬組は中間テスト1位の組は出ないみたいですね。順位が一番高いのは2位のラヴィニア・ファンレイン・メルティレージュ・ドラクロワさんと様宵明さんです。大将はこのラヴィニアさんでしょうか。ヨーロッパの名家の出身らしいですが、ファウストさん何か知っていますか?」
ルル子の問いかけに、ファウストと呼ばれた少女は首を横に振る。ボリュームのある紫色の髪が風に煽られた樹木のようにさわさわと揺れる。
「そうですか……。とりあえず冬組で一番強いのは彼女だと思います。もう1人の様宵明さんですが――」
「それは私がやるわ」
「……え?」
黙ってルル子の話を聞いていた美冬が初めて口を挟んだ。静かながら意志の籠った声だった。
「様宵明は私がやる」
「知り合い……なんですか?」
ルル子は不思議そうに美冬に問いかける。ルル子の得ている情報によると様宵明は一般人。何か裏があるんだろうが、所謂エリート層の美冬と関係があるようには思えなかったからだ。
「そうね。私、彼にいじめられているのよ」
ふふふ、と含みのある笑みを浮かべる美冬に、ルル子は美冬と様宵明の関係が余計意味が分からなくなった。美冬の話は例え話だろうが、何か複雑な関係だろうということだけは分かった。
「……でも、様宵明は一般人らしいですよ。わざわざ佐城野さんが戦わなくても、それこそ夕雲くんでも勝てそうだと思うんですが」
「それは間違いよルル子さん。冬組で一番強いのは恐らく彼だわ」
戦っている姿を見たわけではないが美冬には確信があった。あの時一瞬見せた殺気。あれは常人に出せるものではない。
「一般人の彼が……ですか……?」
美冬の発言にルル子は驚きを隠せない。他クラスのことは詳しくは知らないが、美冬は恐らく学年トップの実力者だという確信がある。その美冬に認められるほどの一般人が果たしているのだろうか。
「ええ。だから私がやるわ。安心しなさい――ちゃんと凍らせてみせるから」
美冬は来るべき未来を想像し、誰にも気付かれれないくらい小さく、けれど確かに嗤った。
◆
期末テストを直前に控えたある夏の日。俺たち冬組代表は放課後の教室に集まっていた。
「順番、どうする?」
そろそろ期末テストで戦う順番を決めなければならない。星取り戦形式で行われる期末テストは順番の読み合いが醍醐味の頭脳戦と言ってもいい。
「適当でいいんじゃない?」
「そうね。深く考える意味は感じられないわ」
ラヴィニアとスイートは特にこだわりはないようだ。星取り戦は順番の読み合いが醍醐味の頭脳戦なんだが。
「私は戦えれば何でもいいぞ」
「私は余ったところで大丈夫! です!」
鏡花とミラちゃんも順番はどうでもいいらしい。星取り戦は順番の読み合いが醍醐味の頭脳戦なんだが。
「じゃあもう五十音順でいいか」
実は俺も順番はどうでもよかった。
俺の提案に全員が頷き、こうして冬組のオーダーは1分足らずで決定した。
先鋒・様宵明。一般人。
次鋒・スイート・マジョラム。魔法遣い。
中堅・鳳堂鏡花。異能力者。
副将・ミミ・ララ。異能力者。
大将・ラヴィニア・ファンレイン・メルティレージュ・ドラクロワ。魔法遣い。
結果的にだがいい感じのオーダーが出来上がってしまったな。強いて言えば大将に一抹の不安があるくらいか。この前話したら自信満々な様子だったが人間相手に魔法が当てられるようになったんだろうか。
目的も達成したし解散するか――そう思った次の瞬間、教室のドアが音を立てて開いた。入ってきたのは思いもよらぬ人物。
「佐城野……美冬……」
「お久しぶり、様宵明。元気かしら?」
佐城野美冬は長い黒髪を靡かせて、他の連中の視線なんて気にもかけず俺の前まで歩いてくる。
「たった今元気じゃなくなった。何の用だ」
「期末テストの順番を聞いておきたくて。あなた、私と戦いたいんでしょう?」
その件については俺も丁度話したいと思っていたところだった。
「それともまだ決まっていないのかしら?」
「いや、丁度さっき決まった。俺は先鋒だ」
「先鋒。理由を聞いても?」
佐城野美冬は不思議そうにしている。俺が大将だとでも思っていたのだろうか。
「特に理由はない。うちの組は五十音順だ」
「五十音順……なんだかルル子が可哀想になってきたわね……」
佐城野美冬は呆れた様子だ。まあ言いたいことは分かる。うちの組は蛮族集団なんだ。
「何か言ったか?」
「いや、こっちの話よ。それじゃ当日を楽しみにしてるわ」
そういうと佐城野美冬はさっさと教室を出て行ってしまった。あとに残ったのは気まずい沈黙。
「……明」
ラヴィニアの冷えた声が教室に響く。
「……なんだ」
ラヴィニアは俺と目を合わせようとしない。佐城野美冬が出て行ったドアをじっと睨んでいる。
「今の女、誰よ。どういう関係?」
「……名前は佐城野美冬。1年夏組。どういう関係かと聞かれると正直困るが決して仲良くはない」
「ふうん……アンタ、あの女と何か因縁があるのね?」
「……まあ、そうだ。あいつは俺が倒す」
「なるほどね……詳しい事情はまた今度聞くとして、とりあえず一つ決まったことがあるわ」
「決まったこと?」
「夏組は――絶対潰す」
ラヴィニアの顔が今まで見たことがないような憤怒の形相になっていることから、俺は必死に意識を逸らし続けた。
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また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。




