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25.筋肉王国

 俺たちは並行世界に移動していた。無論戦うためだ。


「覚悟はいいか、ラッキーボーイ」


 ヴァングはにやっと口の端を釣り上げてファイティングポーズをとる。自分が負けるとは少しも思ってない自信に満ちた目。顔の横で構えられた双腕はその自信を支えて余りあるほどに鍛えられていた。


「ああ。お手柔らかに頼む」


 俺は特に構えを取らない。俺の戦闘スタイルに構えというものは存在しないからだ。自分の型に嵌めるのではなく相手に合わせて自らを変化させる。そうでなければ数多の魔獣や危険指定の魔法使い、異能力者を相手取ることは出来ない。


「お手柔らかに? ……無理だな。生憎だが俺の拳は手加減というものを知らない」


 手加減以外にも色んなものを知らなそうだが、とにかく手心を加えてくれる気はないらしい。こっちはラッキーボーイだぞ。弱い者いじめはダメだと小学校で習わなかったのか。


「あらあら……可哀想ですわねラッキーボーイさん。よりにもよってヴァングさんとだなんて。魔法も使えない落ちこぼれさんにとって一番勝ち目のない相手ではなくて?」


 スイートは口元に手を当ててにやにやとこちらを眺めている。あいつ結構いい性格してるな。あんな濃い性格のやつがこのクラスにいたとは。


 他の立候補者は少し離れて俺たちの戦いを観戦している。魔法遣いと落ちこぼれの戦いだなんて見ても面白くないと思うがな。


「2人とも、頑張れー! です!」


 ミラちゃんは両手を振り上げて俺を応援してくれている。ありがとう、君のために俺は勝つよ。


「明ーやりすぎちゃダメよー」


 暇里は訳の分からないことを言っている。俺は胸を借りる側だぜ。


「おっしゃー! 殺せー!」


 鏡花はクラス内対人戦の趣旨をはき違えていた。あいつに出させなくてよかったな。


「…………」


 ラヴィニアは無言でじっとこちらを見ている。あいつさっきから妙に大人しいな。昼飯を食べすぎたんだろうか。


「はっ! 女が見てる前で無様に負けるのは恥ずかしいか?」


 ギャラリーに目を向けていた俺を見てヴァングが煽る。そんなこと言って大丈夫なのか。俺は知らないぞ。


「別に。その時は無様の様で様宵明になるだけだ。そろそろ始めようぜ」


「威勢だけはいい奴だ。そんじゃ――行くぞ!!!!」


 マッスルミュージアム、開演。





「おおおおおおおおお!!!!!!!」


 ヴァングは雄たけびを上げながら一直線に走りこんでくる。

 これに似た光景を俺は見たことがある。オーガ属だ。


「ふっ」


 脳内に浮かんだヴァング=オーガ属という図式に思わず腹筋に力が入る。このタイミングで笑わせないでくれ。


「おらぁ!!!」


 右頬を狙ってきたパンチを半歩下がって躱し、そのまま相手に合わせ2歩3歩と後ろにステップする。ヴァングの連撃は鋭いが狙いが単調だ。執拗に顔だけ狙っているのでは知能がオーガ属以下だぞ。


「ちょこまかとぉ!!!」


 ヴァングがスピードを上げる。中々の速さだ。常人ならこれでも十分倒せるんだろうが、生憎と俺は落ちこぼれだからな。避けさせてもらおう。

 しかし魔法学園なのにやってることはただの殴り合いとはな。やっぱり冬組は蛮族集団なんじゃないか?


 避け続ける俺にヴァングが痺れを切らしていく。そして余計攻撃が単調になっていく。やっぱりオーガ属以下の知能かもしれない。


「どうしたラッキーボーイ! 避けてばっかじゃ勝てねーぞ!」


「いいのか? 反撃して」


 俺はヴァングのワンツー、その2撃目をギリギリで躱すとそのまま左にステップインした。右手が丁度相手の腹の前。撃ちごろだ。


「シッ!」


 俺のボディブローがヴァングの腹筋に突き刺さる。デカい態度だけあって鋼のように鍛えられた腹筋だが、俺の拳は鋼程度では止まらない。


「ぐあっ!?」


 ヴァングが片膝をつく。まさか反撃されるとは思っていなかったんだろう、混乱した様子で俺を見上げていた。


「悪い、まぐれが入っちまった」


「てめえ……」


 ヴァングは何とか立ち上がると、初めて俺の事をしっかりと睨んだ。どうやら敵として認識されたらしい。


「さては格闘技か何かやってやがったな」


「まあそんなとこだ。あんまりにも隙だらけだったもんでつい撃っちまった」


「ふっ……そうかよ。――なら遠慮はいらねえなあ!!!」


 雄たけびをあげ、ヴァングは魔法陣を展開した。そういえばこいつ魔法遣いだったな。


「うおおおおおお! <<筋肉(レーニョ・ディ)王国(・ムスコーリ)>>!」


 魔法陣が光りだす。光はやがてヴァングの両腕に吸い込まれていき、ヴァングの手首に小さな魔法陣が浮かび上がった。女子高生がよくつけているシュシュの筋肉版のような感じだ。

 ……それにしても今物凄い漢字にルビが振られてなかったか?

 勘違いならいいんだが。


「行くぜえええええええ!!!」


 ヴァングはオーガ属も顔負けの直情さで突っ込んでくる。速さに変化はないようだ。足に魔法陣はついてないもんな。

 相も変わらず顔面に向かって繰り出されたパンチを、俺はあえて手で受け止めた。筋肉王国の国力がどうしても気になったのだ。


「うおお!?」


 ヴァングのパンチは俺の手を押し切ると、そのまま顔面に重い一撃を浴びせた。口の中に血の味が広がる。


「いってえ……なかなかやるな筋肉王国……」


 筋肉系魔法遣いの異名は伊達じゃないようだ。この学園に来て初めて血を流したかもしれない。


 痛がる俺の様子を見てヴァングが目を見開く。


「痛え……だと……? 俺の一撃を食らってそんなもんで済むわけがねえ! どうなってやがる!?」


 ヴァングにとってはどうやら必殺の一撃だったらしい。まあこの威力ならそう言いたくなる気持ちも分かるが、相手が悪かったな。


「いや、誇っていいぞ。オニですら俺に痛いとは言わせなかった」


「オニ……? 訳の分からねえこと言ってんじゃねえ!」


 どうして俺が立っているのか。困惑したヴァングが突っ込んでくる。

 正体の分からない相手に突っ込むのは悪手だろ。実力はあるんだが頭の方をもう少し何とかするべきだなこいつは。


 俺はヴァングのパンチを今度こそ完璧に受け止めた。さっきはモロに食らってしまったが分かっていれば受け止められない強さじゃない。


「なっ!?」


「じゃあな」


 俺はヴァングの顔面に右ストレートを放った。手加減はするが、受けた一発分はきっちりと返させてもらう。

 ヴァングは1メートルほど吹っ飛ぶと、意識を失い天を仰いだ。

 こうして筋肉王国は崩壊した。





「つーわけで男子代表は俺だ。あとは女子で決めてくれ」


 俺はギャラリーの所へ歩いていく。スイートが信じられないといった様子で俺に視線を向けてきた。


「あなた……何者なの?」


「俺はただの落ちこぼれだ。まあ喧嘩は少し強いかもしれんが」


「喧嘩が強いって……ヴァングはそんなんで勝てる相手じゃ――」


「いいじゃない明が何者でも。大事なのは明が勝ってヴァングが負けたってことよ」


 スイートの追及にラヴィニアが割り込んでくる。助けてくれているんだろうか。


「アンタ、殺してないでしょうね」


 ラヴィニアは地面に転がっているヴァングを見ながら言う。


「当然だ。クラスメイトを傷つけたくはない。ちょっと意識を失っているだけだ」


 ヴァングとはこれからも仲良くやっていきたいからな。あいつは悪い奴ではないんだ。


「ところでもう1人はどうするんだ。俺は流石にやらんぞ」


 女性陣の間に微妙な空気が流れる。そりゃ誰もやりたくはないだろうな。


 重苦しい空気が場を支配し始めたその時、停滞した空気を払拭するように声が上がった。


「うう~~~! さっきの見てたら我慢できなくなってきた! 誰か私とやろうぜ!」


 鏡花がぴょんっとジャンプして前に躍り出た。うずうずして仕方ないらしい。


 それを見て暇里が手を上げる。やるのか暇里。


「私――辞めとくわ。棄権する。あなたたちに任せるわ」


 そう言うと暇里は並行世界を出て行ってしまった。


 どうしたんだ、あいつ。

読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら是非是非【評価】と【ブックマーク】のご協力をお願いします。


また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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