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23.プロローグ ~氷の魔女~

 こんにちは。初めましての皆さんは初めまして。

 1年夏組中間テスト第1位の佐城野美冬(さしろのみふゆ)です。


 突然ですが私、冬組が大嫌いです。

 冬組の人たちが憎くて憎くて仕方ないです。

 ラーメンの具にして食べてやりたいくらいです。


 一体どうして?

 冬組となにかあったの?


 そんな疑問が聞こえてきます。


 勘違いしないでください。冬組の人たちとは何もありません。それどころか顔も名前も知りません。

 今までクラス間行事はありませんでしたからね。


 意味が分からないよ。

 何が気に食わないんだ。


 分かります。

 あなた方の疑問はもっともです。

 何の関わりもない人をどうしてそんなに恨んでいるんだとね。


 これは完全な逆恨みなのは分かっています。冬組の人たちに何の罪もないことも。


 しかし私は引くわけにはいかないのです。


 何故なら私は当代最強と謳われる佐城野の氷の魔女。


 私が夏組だなんて許せない。


 ――私は夏が、大っ嫌いなんです。





 梅雨です。

 私はこの季節が嫌いです。じめじめするし髪はごわごわするし、洗濯物は乾かないし。

 そして何より、ああもうすぐ夏なんだなという気持ちにさせるからです。

 この季節が好きな人なんていないんじゃないでしょうか。


 私は街を歩いていました。その日はこの時期には珍しくカラッと晴れた雲一つない空でした。

 とはいえ嬉しいわけではありません。私は暑い日も嫌いです。


 コンクリート舗装の道にヒールの音を響かせながら、私はいつも利用しているスーパーマーケットに向かっていました。私の好きな高級アイスクリームはどうやら学園ではそこにしか売っていないのです。

 入学してすぐの頃はお金にそこまで余裕が無かったので1個100円のカップアイスで我慢していましたが、今の私には臨時収入があります。なんとハントで50万円を入手したのです。まとめて凍らせるだけの簡単な相手でした。こんなに簡単に大金が手に入るなんてハントはいいシステムですね。私は好きです。


 頬を伝う汗に不快感を覚えながら大通りを歩いていると、声を掛けられました。何でしょうか。私は振り向きます。

 その瞬間、私は氷漬けになったような錯覚に陥りました。


 声を掛けてきたのは女性でした。年齢は分かりません。20代のようにも、40代のようにも思えました。

 その女性はとても言い表せないほど禍々しい魔力を纏っていました。凝縮された魔力がドス黒いオーラのように幻視してしまうほどで、私はこんな魔力の持ち主を見たことがありません。


 私は現代日本で最強と言われている佐城野家の生まれです。その中でも私はとびきり優秀だと言われ育ってきました。

 私は15歳にして佐城野の大魔法を継承していますし、既に佐城野家の誰より強い自信がありました。そして、少なくとも日本ではトップクラスに強いはずです。現に私は日本から出たことはありませんが、人生で私より強い魔法遣いに会ったことはありません。

 でも、それも今日まででした。


「君は佐城野美冬であってるかい?」


 女性は気安い笑顔を顔に張り付けて、まるでピクニックにでも誘うような気軽さで私に尋ねました。


「え、ええ」


 私は辛うじてそんな声を出すことが出来ました。あんなに不快だった汗はとっくに引いています。


「ああ――すまない、私は学園に通うある生徒の保護者なんだがね、とはいえ向こうはそんな風には思っていないかもしれないが、それはともかくとしてだ。君に伝言を頼みたいんだが、頼まれてくれるかね」


 保護者?

 伝言?

 極度の緊張に脳が言葉の理解を拒否しています。

 私に伝言を頼みたいと、彼女はそう言っているので合っていますか?


「それくらいなら、まあ」


 とりあえず身の危険がなさそうだということが分かり、私はほんの少しだけ身体から力が抜けました。ほんの少しだけです。敵意が無いと分かっていても蛙は蛇が怖いものです。私は彼女の前では自らを蛙と評することに何の抵抗も持ちようがありませんでした。


「ありがとう、恩に着るよ。では『私は待っている』と――そう伝えてくれるかな」


 そう言うと女性は手を上げて歩いて行ってしまいました。

 待って下さい、私はまだ肝心なことを聞いていません。


「あの、誰に伝えれば」


 私の言葉に女性は、ああ忘れていたと顔を綻ばせました。


「――様宵明という生徒に、頼むよ」


 様宵明。

 私をこんな怖い目に合わせて。

 誰だか知りませんが、私はあなたが嫌いです。





 残念ながら様宵明という生徒は夏組には存在しませんでしたので、私は他のクラスを探す羽目になりました。


「様宵明という生徒はいる?」


 春組ではありませんでした。秋組に行きましょう。


「このクラスにはいないよ」


 秋組でもありませんでした。つまり。


 私は眉間にしわが寄っているのを自分でも感じました。どうしても冬組のことになると冷静ではいられません。

 どうして氷の魔女とまで言われている私が冬組ではないんですか?

 よりにもよって大嫌いな夏なんですか?

 そもそも名前からしても私は冬組でしょうが。この学園の教師は何を考えているんですか。


 私は寄ったしわを直そうともせずに冬組のドアを開きました。


「様宵明という生徒はいる?」


 ドアのそばの席の生徒に私は尋ねました。どうやらこのクラスにいるみたいです。私は教えて貰った席まで歩いていきました。

 そこにいたのは1人の男子生徒。気だるそうに机に突っ伏しています。私は声を掛けました。


「ねえ、あなた」


 男子生徒はのそっと顔を上げると半開きの目で私をぼーっと見つめてきました。全く覇気がありません。それにいかにも女たらしのような顔をしています。私はこういうタイプは好きではありません。


「俺に何か用か?」


 不思議そうに私に尋ねます。さっさと用事を済ませてしまいましょう。


「あなたが様宵明で合っているわよね?」


「いかにも俺がトノサマガエルの様に宵の明星の宵、有明海の明で様宵明だ。お前は?」


 なんですか、その意味の分からない自己紹介は。


「私は夏組の佐城野美冬」


「夏組。道理で見たことないと思った。まだクラスメイトの顔と名前も一致してないのかと焦ったぜ」


「はあ……」


 様宵明は訳の分からないことを捲し立てました。どうも軽佻浮薄な男のようです。これが本当にあの恐ろしい女性の子供なんでしょうか。


「それで、その夏組の人が何の用だ?」


 そうでした。私は世間話をしに来たのではありません。一刻も早く冬組なんぞからは出ていきましょう。


「あなたの母親から伝言があるわ」


「!?」


 様宵明はとても驚いた様子で思いきり体をビクつかせました。半開きだった目が思いきり見開かれています。


「今母親と言ったのか……?」


「ええ。あなたに伝言を頼まれたの」


「伝言?」


「ええ。『私は待っている』と――そう言っていたわ」


 様宵明はその言葉を聞くと深く考え込むような態度を取りました。

 しばらくして、口を開きます。


「俺の母親とどういう関係なんだ」


「答える義理は無いわ」


 道端で声を掛けられただけですが、私は意地悪したい気分でした。あんなに怖い思いをしたのですからこれくらいは許されるはずです。


「母親はどこにいる」


「それも答える義理は無いわね」


 様宵明は確かにあの女性の子供のようでした。恐るるには足りませんが、確かに歳に不相応な殺気を放っています。少しはやるのかもしれません。


 そこで私は1つの面白い考えが浮かびました。そもそも冬組は憎かったので一石二鳥とも言えます。


「そうね……期末テストで私に勝てたら教えてあげてもいいわ」


 期末テストはクラス対抗の対人戦と聞いています。


 私の逆恨み、たっぷりと味わうがいいですよ。

読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら是非是非【評価】と【ブックマーク】のご協力をお願いします。


また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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