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22.エピローグ ~ラヴィニア・ドラクロワは誘われない~

 翌日、俺たち並行世界B-2攻略班は市街地にある家具屋を訪れていた。どうやら鈴々が欲しいものというのは家具の類らしい。

 鈴々は家具屋に入るや否や早足で歩きだす。着物であんなに早く歩いてこけないんだろうか。黒い着物の上では金魚の刺繍が気持ちよさそうに泳いでいた。


「全く鈴々さんったら」


 口ではそう言いつつも暇里は嬉しそうに鈴々を見守っている。クラゲみたいな半透明のブラウスに細めのデニムパンツを合わせたそのコーデは、よく分からんがきっとオシャレなんだろう。


 俺とルナは特にすることもなく先導する2人の後をついて歩いている。白いワンピースを纏ったルナはどこぞのお嬢様と言われても信じてしまいそうな雰囲気に満ち溢れていた。実際はただの無口なクラスメイトだが。


「ルナよ」


「……なに」


「昨日は助かった。ありがとな」


 後から聞いた話によるとルナの魔法によって青鬼は1撃で戦闘不能になったらしい。自分たちでは勝てなかっただろうと暇里と鈴々は言っていた。

 オニはいくら魔法耐性が低いとはいえ生半可な魔法でやられるような種ではないはずだ。危険度Aはそう簡単に倒せる指標ではない。ルナはやはりただの学生ではないんだろう。


「……お礼を言われるようなことは何もしていないわ」


「そうかもしれないが。暇里と鈴々が無事なのはお前のおかげだろ」


「……友達は助けるものだから」


 ルナの口から友達という言葉が出たことが俺はなんだか意外で、そして嬉しかった。

 極端に感情を露わにしないタイプで自分から声を掛けることも皆無なルナは、俺が勝手に友達だと言っているだけで当人は何とも思っていないのではないかという思いが僅かに捨てきれなかったからだ。


「……そうだな」


 何はともあれ、無事にB-2を攻略できたことは僥倖だった。全員が怪我もなく戻ってこられて本当に良かった。

 学園に入学する前は他人に対してそんなことを思ったことは無かった。大切なのは常に自分ひとりだった。それが入学してたかが2週間ほどでこうも変わるとは。

 友達という存在はいつの間にか俺の中で無視出来ないほど大きくなっているようだった。

 悪い変化ではない。俺はそう感じていた。

 普通の高校生というのは、きっとそういうものだろうから。


「明ー、ルナちゃーん、早く来なさいよー!」


 遠く、ベッドコーナー辺りで暇里が手を振っている。隣には何やら興奮した雰囲気の鈴々。


「ったく、店内で大きな声出すなっつーの」


 俺はあいつにデリカシーを指摘されたのか。この件は一生言っていくつもりだ。


「よし、行こうぜ」


 俺は隣を歩くルナに声を掛けた。


「……ええ」


 ルナはそう頷くと、俺の隣をゆっくりと歩き始めた。





「……私、呼ばれてないんだけど」


 怒り心頭の様子で椅子からこちら側に身を乗り出しているのは1年冬組中間テスト第2位、ドラゴン殺しの異名を持つラヴィニア・ファンレイン・メルティレージュ・ドラクロワ。名前が長いこととツンデレな性格が特徴だ。


「それはお前が睡魔に負けてすいませんしたからだ」


「下らないこと言ってんじゃないわよ!」


 ラヴィニアが何に怒っているのかというと、それは昨日に遡る。

 鈴々が何だかとんでもないベッドを買った後、暇里の部屋で祝勝会という名のプチパーティが開催されたのだ。お菓子とジュースを持ち寄るだけの簡単なものだったが。

 それについて翌日、つまり今日教室で話していたところラヴィニアはおいおいちょっと待て、と俺に絡んできたという訳だ。


「いいじゃない、その会だけ呼べば!」


 ラヴィニアは除け者にされたような気持ちになっているんだろうか。結構意味不明なことを言っている。


「それは意味が分からないだろ。そもそもお前鈴々と面識あるのか?」


「……毎日教室で顔合わせてるわよ」


「それは面識とは言わん。多分向こうお前の名前知らないぞ」


「そんなまさか。確かに話したことはないけど、流石にクラスメイトの名前くらい覚えてるでしょ」


 そのまさかがあるのが友達少ない勢なんだよ。


「じゃあ確かめてやる――おい鈴々、ちょっと来てくれ」


 鈴々は俺の呼びかけに気が付くと音もなく歩いてくる。


「明様、私に何か用でしょうか?」


「明様……?」


 ラヴィニアは不審げな顔で俺の顔を凝視してくる。暇里といいどうしてすぐそういう所を突っ込むんだ。俺はラヴィニアの視線を拾うわけにもいかず鈴々に質問してみた。


「鈴々、こいつのこと誰か分かるか?」


 俺はあまり人には見せられない顔でこちらを睨んでいるラヴィニアを指差した。

 鈴々はラヴィニアの顔をしばし観察すると、困った様子で眉をゆがめた。


「えーっと……ちょっと待って下さいね。ここまでは出てるんです」


 そう言って喉の辺りを示す鈴々。十中八九嘘だろう。話すようになって分かったことだが、鈴々は結構ユーモアのある奴だった。


「こいつはガブリエルだ」


 俺は鈴々に答えを教えてやった。鈴々はそれを聞くと得心言った様子で手を叩いた。


「そうですそうです、ガブリエルさんです。今思い出しました――」


「違うわよ!」


「ひぃっ!」


 ラヴィニアは八重歯を剥き出しにして鈴々にキレた。親しくない間柄でも遠慮なくキレられるのがラヴィニアの一番の長所だ。


「アタシの名前はラヴィニア・ファンレイン・メルティレージュ・ドラクロワよ! 一応中間テスト2位だったんだけど本当に分からないわけ……?」


 ラヴィニアは気持ちが昂ると一人称がアタシになる。これはテストによく出るぞ。


「ごめんなさい……人の名前を覚えるのが苦手で……。あら、2位ということは明様のペアだった方ですか?」


「そうだ。因みにラヴィニアは1位を阻んだ鈴々を恨んでる」


「ええっ!?」


「恨んでないわよ! ちょっと本当っぽいこと言って騙すのやめなさい」


 ラヴィニアはきしゃー!と俺を威嚇する。猫みたいなやつだ。


「ところでさっきから明様って何? 私の事もラヴィニア様って呼んでくれるのかしら?」


「いえ……明様は特別なので……」


 そう言って鈴々はうつむき頬を真っ赤に染める。もうその反応は言ってるのと変わらないと思うぞ。


「はあん……ほお……?」


 ラヴィニアは人生で一度も味わったことのない味の食べ物を口に入れられた時のような奇妙な顔で俺を鈴々の上で視線を彷徨わせる。


 やがて自分の中で結論が出たのか、刑事ドラマで犯人を諭す刑事のような目で俺を見た。


「明……アンタ……」


「なんだよ」


「こんな若い子騙してどうするつもりなのよ……」


「何も騙してねえ!」


 ラヴィニアは俺の叫びを無視すると鈴々に話しかけた。


「鈴々さん」


「はい……?」


 鈴々はまだ顔を赤らめている。

 ラヴィニアは鈴々の両肩を掴むと、娘に道を説く母親のような優しい口調で語りかける。


「人生は長いの。こんな所で道を踏み外すことはないわ。さあ、陽の当たる道へおかえり」


「俺はヒモか何かかよ」


 俺のツッコミにラヴィニアが笑う。

 こんな日常が俺は気に入っていた。

 こんな毎日が、ずっと続けばいい。





 ある日の放課後。

 俺はブレヴィフォリアを捕まえると誰もいない教室に連れ込んだ。


 夕日が差す無人の教室。

 若い男と謎の美人教師。

 となればやることは一つだった。


「別の並行世界を解放してくれ」


 俺は軍隊もかくやという完璧なお辞儀を披露する。新しい戦場を俺は求めていた。


「ダメだ」


「何故。安全面は問題ないことはお前も分かっているはずだ」


 お辞儀に効果がないと悟ると俺は顔を上げた。意味もないのに下げるほど俺の頭は安くないからだ。


「私は良くても学園の規定がある。次の並行世界は1学期期末テストで良い成績を修めなければ解放できない」


「期末テスト? またハントでもさせるのか」


「いや、期末テストはクラス対抗戦と決まっている」


「クラス対抗戦?」


「ああ。詳細はこれから教師たちで話し合うが、対人戦になるのは間違いない」


「対人戦ねえ……」


 対人戦であれば意思の疎通が図れない魔獣と違って殺す殺されるという話にはならないだろうことは安心できる要素だ。

 だが。


「さして興味は湧かないな」


 客観的に見て楽しめそうな相手が同学年にいるとは思えない。というか、こと人間に限ればこの学園に一人もいないと思っている。そう言えるだけの経験を俺は積んでいる。


「余裕って顔してるな。足元掬われなきゃいいが」


「何だと?」


 ずいぶんと含みのある言い方をする。俺を脅かす誰かが同学年にいるということなんだろうか。


 ブレヴィフォリアは話は終わりだと言わんばかりに出口に歩いていく。


「今のところお前にやってほしい仕事は無い。ま、普通に学生生活を謳歌してくれ」


 ラフに手を上げるとそのまま教室を出ていってしまった。


「期末テスト……か」


 この前中間テストをやったばかりだというのに、もう期末テストのことを考えなければならないのか?

 学生っていうのは俺が思っているよりずっとハードなのかもしれないな。

読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら是非是非【評価】と【ブックマーク】のご協力をお願いします。


また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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