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20.月夜の行軍

 俺たちは鈴々を先頭に並行世界B-2を進んでいた。


 鈴々の能力の1つに探知能力があるらしく、俺たちは今のところほとんど魔獣に出くわすことなく探索することに成功している。


「討伐目標を確認しておく。対象はオーガ属オニ種。日本にしか生息していない種で危険度はA、希少度はB。単純な力も強いが何やら奇妙な妖術も扱うらしい」


 俺は知っていることを班員に展開した。大した情報はないが周知しておくに越したことはない。


「奇妙な妖術ってなにかしら」


「それについては分からない。そもそも日本の魔獣は数が少なくて情報も多くないからな」


「ふぅん。まず確認なんだけど私達で倒せるものなの? 明に聞いても仕方ないかもしれないけど」


 鈴々もルナも話す方ではないので、自然と俺と暇里が会話する形になっている。

 俺に聞いても仕方ないというのは、暇里は俺の事をただの一般人だと思っているので当たり前の感情だ。


「そうだな……」


 俺は顎に手を当て思案する。考えるのはオニを倒せるかどうかではない。この場で俺の事を打ち明けるかどうか。

 中間テストでラヴィニアを危険に晒してしまったことを忘れてはいない。あの時『絶命』が通らなければラヴィニアは死んでいたんだ。


「まあ普通に考えれば無理だ。戦闘の初心者が4人集まった所で箸にも棒にもかかるわけはない。危険度Aというのはそういうものだ」


「はぁ? それ先に言いなさいよ!」


 俺の言葉を聞いた暇里が怒り半分呆れ半分の声色で俺を責める。まあそうなるよな。


「結論を急ぐな。普通に考えればと言っただろ。今回に限ってはほぼ確実に勝てるさ」


「どうしてそんな事が言えるのよ。ブレちゃんに何か弱点でも聞いてきたわけ?」


「いや弱点は分からん。オーガ属はもともと魔法耐性が低い代わりに身体的な弱点が少ないのが特徴だからな」


「じゃあどうして――というかなんであんたそんな詳しいのよ」


 俺を見る暇里の目がどんどん疑念の色に染まっていく。癖になってくるぜ。


「俺はオーガ属最強と言われるタイタンを倒したことがある。はっきり言ってオニを倒すくらい訳無い」


 あれは俺が13歳の頃だった。あの頃の俺は傭兵稼業のようなものをやっていて、その時に色々な魔獣を倒した。グレートウォール・アンドロギュノスを倒したのもその時期だ。


「……は? あんた何言ってるの。変なモノでも食べた?」


 暇里の瞳はついに疑念を突破して哀れみに進化した。気持ちは分かるがそんな目で俺を見るな。


「本当の事だ。まあ信じて貰わなくても構わないが」


 暇里は俺の態度にうううううんと工事現場のブルドーザーのような声をあげた。口からいろんな音の出る奴だ。


「いや信じるったって……そんな突拍子もない話をどう信じればいいのか私は分からないわよ。そもそも明って一般人なんでしょ」


「そうだな。ただ喧嘩は強いぞ」


「喧嘩」


 暇里はついにオウムになった。


「ああ。多分俺は世界で1番喧嘩が強い。だからオニも倒せる」


「…………」


 俺の赤裸々な告白に暇里は眉間にしわを寄せた。俺の言葉をどう理解するべきか分からず困っているようだ。


「いや……でも……う-ん……」


「信じられないか」


「うん」


「即答だな」


「そんなものすぐ信じられる方がどうかしてるわよ」


「私は信じます」


 その時、鈴の音のような声が割り込んできた。鈴々だ。


「私は明様に助けて頂いた時に、その強さを見せて頂きましたから」


 ブラックショルダーを倒したことか。あの時は余裕が無かったから割と本気でやってしまったんだよな。


「そっか、鈴々さんは見てるのよね…………わかった! じゃあ私にも見せて頂戴よ」


「見せるって何か適当に倒せばいいのか?」


「ええ、鈴々さんの時と同じ奴を倒してみなさい。そうしたら信じてあげるわ」


 別に俺は信じて貰わなくてもいいんだが……まあいいか。


「いいだろう。それくらいならお安い御用だ」





 俺は適当にブラックショルダーを見つけると正面に回り込んだ。オーガ種は目に付く敵全てに攻撃を仕掛けてくるため、この前のドラゴンのようにこちらから挑発する必要はない。


「グオオオオオ!!!」


 俺の姿を発見したブラックショルダーは一直線に走ってくる。


「相手の力量が分からないというのは生物としてどうなんだ」


 俺はマヌケ面で向かってくるブラックショルダーを見てそんなことを思った。動物には危機を察知する本能があるはずだが魔獣にはないんだろうか。それともオーガ属が馬鹿なだけか。恐らく後者だ。賢い魔獣は本当に賢い。人語を理解して話す奴もいる。


 ブラックショルダーは俺に十分近づくと右腕を振りかぶった。これも同じ。ゲームのキャラのように同じ行動しかしない。オーガ属とはそういうものだ。


「避ける気にもならねえな……」


 俺はブラックショルダーのパンチを左手で受け止めた。特別力む必要すらない。人を容易く殺しうるオーガ属の拳も俺にとっては赤ん坊みたいなものだ。

 この前はこのまま拳を握りつぶしてやったが、あれは相当ショッキングな映像だからな。極力見せたくはない。


 俺は掴んだ手を外側に放った。よろけて身体を開いたブラックショルダーの懐に入り込むと、ガラ空きの腹部にボディブローを撃ち込む。


「シッ!!」


 しっかりと腹筋を貫通した感触が拳に跳ね返ってくる。内臓に相当なダメージを与えたはずだ。しかし生命力の高いブラックショルダーはこれだけでは倒れない。

 ボディブローを食らってブラックショルダーの頭ががくっと下がる。俺はそれを見逃さない。パンチの反動を利用して身体を捻ると、落ちてきた首に渾身のアッパーカットを合わせた。到底耐えられる一撃ではない。ブラックショルダーはあっけなく意識を放棄した。


「ま、こんなもんか」


 手をはらいながら振り返る。身体のキレは悪くない。これで信じてくれればいいが。


「…………」


 振り返った先にはドン引きしている暇里がいた。目を見開き口をへの字に曲げている。

 その隣にはとろけたプリンみたいな顔で俺を見つめる鈴々。そして無表情のルナ。


「どうした? ご所望のものを見せられたはずだが」


 俺はわざとらしく手を広げた。そうしたらちょっとかっこいいかなと思ったのだ。


「……いやいや」


「ん?」


「…………ちょっとどうなってるのそれ!? あんた強すぎじゃない!? というかあんた誰よ!」


 堰を切ったように暇里が騒ぎ出した。自分の見た光景に脳の処理が追いついてないみたいだ。


「俺か? 俺は様々の様に待宵草の宵、松明の――」


「いやそういうのはいいから」


 そういうのはいいらしい。お前が真似したせいで自己紹介の時使えなかったんだからこれくらい聞いてくれよ。


「なんでそんな強いわけ?」


「それを説明するには俺の過去編に入る必要がある。だが今はそんな時間はない」


 過去を話すつもりはない。そんな大層な話でもないしな。


「何言ってるのよ」


「人には探られたくない過去があるということだ。暇里にも隠しておきたい過去の1つや2つあるだろう?」


「私はないけど。生まれた時から今この瞬間まで、全てを詳らかにする用意があるわ」


「……そうか。でも俺にはあるんだ」


 俺よりそっちの方がよほど凄い。そして不思議と、暇里ならそうかもなと納得してしまう自分がいたのだった。





「…………オニはどこにいるのよぉーーーーー!!!」


 暇里の叫びが乾いた夜空に木霊していく。

 まあ叫びたくなる気持ちは分かる。かれこれ2時間は当ても無く歩いているからな。


「鈴々、特殊な気配は今まで無かったか?」


「いえ……この世界に来てからずっと注意してはいるのですが」


 鈴々はかぶりを振る。


「そうか……」


 鈴々の探査にも引っかからないとするとニアミスしている可能性は低いか。もっと奥まで歩かないといけないのかもしれない。


「うーーん……」


 何かいい方法は無いものか。このままだといつまで歩かされるか分かったもんじゃない。

 誰かオニの居場所を知ってる人がいればいいんだが……。


「あ」


 俺は1つの可能性を思いついた。

 いるかもしれない。オニの居場所を知ってる奴が。


「どうかした?」


 暇里が疲れた声で聞いてくる。


「喜べ暇里。もしかしたらオニの場所まで案内してくれるかもしれんぞ」


「ん? 何か心当たりがあるわけ?」


「ああ。知ってるかちょっと聞いてくる」


「聞くって誰によ」


「そこにいるだろ。オーガさ」


 俺の言葉に暇里は呆れた様子だ。


「オーガぁ? そりゃ同じ種族だし知ってるかもしれないけど、どうやって聞くのよ」


「実は俺は魔獣と話せるんだ」


「……はぁ?」


「まあ見てろ」


 呆けている暇里をよそに俺はブラックショルダーに近づいた。俺を見つけて突進してくるブラックショルダー。ここまでくると安心感さえある。


 俺はブラックショルダーに向かって『隷属』を使用した。オーガは魔力量が低いため魔眼の使用で持っていかれる魔力を多くは無い。うってつけの相手と言える。


 『隷属』が通りブラックショルダーが足を止めた。背後から暇里が驚く声が聞こえる。


『オニの所へ案内しろ』


 ブラックショルダーは振り向くと森の方へ歩いていく。ビンゴだ。


「あとは彼が案内してくれるぞ。着いていこう」


 俺はブラックショルダーの後ろを着いていく。鈴々は俺の隣に追いつくと何事かと尋ねてきた。


「今、何をされたんですか?」


「ちょっとお願いをしたんだ。オニの所に連れて行ってくれってさ」


「でも……話したりはしていませんでした」


「魔獣に人の言葉は通じないからな。脳に直接訴えかけるんだ」


「脳に……ですか」


「ああ。鈴々も今度やってみるといい。とびきり弱い魔獣にな」


 効かなくても危険がないようなやつにな。





「……いた」


 ブラックショルダーに着いていくこと1時間。俺たちは森を抜け、月がよく見える草原へ出ていた。

 『隷属』をかけていたブラックショルダーを幾ばくかのお金に換え、影からオニを観察する。


 大きさはブラックショルダーとさほど変わらない。2メートルちょいといったところ。大きく違うのはまず手に持っている棍棒だ。棘のついた1メートルほどの棍棒を肩に担いでいる。

 そしてなにより。


「2体いる……?」


 俺たちが見つけたオニは1体が赤色。もう1体が青色をしていた。赤鬼青鬼ということだろうか。


「まずいな……」


 2体いるのは完全に予想外だった。敵が1体であれば俺は3人を守りながらでも戦う自信があった。しかし2体となると訳が違う。どうしても守りが手薄になってしまう。暇里たちに危険が及ぶ可能性を排除しきれない。

 魔眼を使うにしてもリスクは無視できない。いくらオーガ属とはいえオニに対してどこまで通るのか、そしてどれだけ魔力を持っていかれるのか分からない以上安易に使用して気絶するようなことになればそれこそ一貫の終わり。


 しかし、ハントの制約上俺が2体とも相手することは出来ない。当たり前と言えば当たり前だが自分で戦わないと報酬は受け取れないようになっている。どうやって監視しているのかは知らないが。

 さらに言えばハントで得た報酬を何らかの形で譲渡することも禁止されている。

 つまり学園はハントを純粋な実力試しの場所として機能させたいのだ。下手に金稼ぎの道具として悪用されるのを防ぐために厳しい制約がたくさん設けられている。


「どうする……」


 浮かんだ中で一番いい考えはまず俺が1体を倒し、残りを全員で倒すという方法だ。これなら全員が報酬を受け取れるし危険も最小限で済む。

 他にいい考えも浮かばないしこれでいいだろう。とにかく3人に危険が及ばなければそれでいい。


「皆耳を貸してくれ。今から作戦を伝える」


 言いながら思った。果たして作戦と言えるのか、これは。





 俺の作戦に異を唱える者は誰もいなかった。

 2体同時に相手にすることになるが大丈夫なのかと暇里と鈴々に心配されたが、大丈夫だと言い切るとそれ以上何も言えないようだった。オニを倒すには俺がある程度相手をしなければならないということは、2人とも理解しているのだ。ルナはずっと無表情で口を閉じていた。


「よし、じゃあ行くか」


 俺は気合を入れるとオニが歩いている草原に飛び出した。そのまま全速力でオニの眼前まで駆ける。


 有無は言わせない。悪いが全力で行かせてもらう。

 俺は1歩で赤鬼の懐まで入り込む。突然の出来事に鬼達は全く反応出来ていなかった。


 俺は思いきり拳を握りこむと、全力の右ストレートを腹部に叩きこんだ。


 鈍い破裂音がし、赤鬼がその場に倒れこむ。間違いなく内蔵までぐちゃぐちゃだろう。いくらオーガ属と言えど生きていられる怪我ではない。


 青鬼がそこでようやく俺に視線を向ける。相方がやられるまでわずか1秒程度の出来事だ。反応出来ないのも無理はないが、青鬼にとって状況は絶望的に変貌してしまった。こうなればもう怖いものはない。


 青鬼が振り下ろす棍棒を片手で受け止める。もう眼前の鬼は恐るるに足らない。俺は3人に声をかけるため振り向いた。


「もう大丈夫――」


 暇里が何かを叫んでいる。

 遠くてよくは聞こえないが、僅かに耳に届いた。


 あきら、うしろ……?


 その瞬間。

 俺の後頭部に鈍い衝撃が走った。



読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら是非是非【評価】と【ブックマーク】のご協力をお願いします。


また、同時連載中の作品もありますので、よければそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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