19.並行世界B-2攻略班結成
「……なるほど。つまり魔獣に襲われてピンチの所を助けられて、ぽっくり惚れちゃったと」
暇里は鈴々のたどたどしい説明を聞くと、そう結論付けた。
「はい……」
鈴々は未だにベッドの中に隠れたままだ。
「でも明、断ったのよね?」
相変わらずデリケートな部分を臆面もなく明らかにしてくる奴だ。俺はこいつにデリカシーについて指導されたのか。
「そうだ。受ける理由が無かったからな」
「うう……」
俺の言葉に鈴々が呻き声をあげる。
「ああすまん、別に鈴々のことが嫌いというわけじゃない。そもそも俺たちはお互いの名前すら知らなかった状態だろ。いきなり好きですと言われても困惑してしまうのが正直なところだ」
「それよ。そもそも何でクラスメイトなのに顔に覚えがないわけ? もう1週間も同じ教室で生活してるし、ハントの説明の時2人とも近くにいたわよね?」
そういうのを覚えていないからこそ友達が少ないんだろうが。それくらい察してくれ。
「俺は若年性認知症を患っていてな。どうも人の顔を覚えられないんだ」
「はいはい覚える気が無かったってことね。鈴々さんは明のこと知らなかったの? 確かに明は影も薄いし記憶になくても仕方ないけど」
息をするように俺をディスるな。薄いのは友好関係だけだ。
言わせんな。
「そうですね……私もあまり人の顔を覚えるのは得意な方では……それとハントの説明を受けている時は、少し考え事をしていたものですから」
「なるほどねえ……確かに2人とも友達が多いタイプではないものね……」
暇里はうーーんと呻きながら何事かに頭を悩ませている。
「俺は友達は少ないが、伸び率には目を見張るものがあるぞ。何せ1週間で4人だ」
暇里ラヴィニアルナ総司。ところで総司の苗字って何だっけ?
「そんな所で張り合ってどうするのよ。それに4人って別に多くないわよ? 私クラスの半分以上の人と連絡先交換したし」
「そりゃお前が異常なだけだ」
間違いなく今の冬組は暇里がクラスの中心と言っていい。使い古された言い方をするならばカースト最上位というやつか。中間テストで1位を取ったことでより一層その地位は強固なものになったはずだ。
「私は……」
「うん?」
ベッドの中からくぐもった声がする。心なしか震えている気がしなくもない。
「私は……暇里さんだけです……友達と呼べるのは……」
「…………」
暇里は困ったような視線を俺に向けてくる。あんた何とかしなさいよ、と顔に書いてあった。
どうして俺がフォローする側に回らなければならない。俺は友達4人の男だぞ。
「まあ……なんだ。友達はこれから作ればいいさ。学園生活は始まったばかりだ」
「そうそう……そうだ、これも何かの縁だし明と鈴々さん友達になればいいじゃない。明が告白を断ったのってよく知らないからが理由なんでしょ?」
「私は別に……片想いのままでも……」
「そう言わないの。恋は押さないと始まらないわよ? 明に限ってそんなこと無いでしょうけど、じーっと見てたらいつの間にか取られちゃうのが恋愛なんだから」
「待て、俺が取られちゃわないとは限らないだろ。」
スルー出来ず思わず口をはさんだ。俺に取られちゃう予定がないとどうして断言出来る。
「じゃあ取られちゃうわけ?」
「……まあ今のところその予定はないな」
「ほら見なさいよ」
予定はないがそうと決めつけられるのは嫌だ。この気持ちは分かるだろうか。例えるなら週末の用事断るけど一応誘ってはほしい、みたいな感じだ。
「それはさておき、友達ということなら大歓迎だ。俺は24時間365日友達募集中の男だからな」
「友達……」
鈴々は小動物のようにひょこっとベッドから顔を出すと、俺の顔をじっと見つめてくる。
「それでは……不束者ですが、どうぞ……よろしくお願い致します」
こうして俺と鈴々は友達になった。俺は友達5人の男。
「ところで話は変わるんだが、どうして鈴々は1人で並行世界にいたんだ? 単独でのハントは禁止されているはずだが」
俺はブーメランになっていることに気付かれないように祈りながら本題に入った。
鈴々は理由もなく規則を破るような人間には見えなかった。何か事情があるんだとは思うが。
「そうよ! どうして私に声をかけてくれなかったの?」
暇里も一番はそこが気になっていたんだろう。責めるまではいかないが、強い口調で鈴々に問いかける。
鈴々は申し訳なさそうに口を開いた。
「私は夜しか戦えませんから……暇里さんの生活を脅かすわけには……」
「はぁぁぁぁ…………」
暇里は信じられない、というように頭を抱えた。
「友達っていうのはね、迷惑をかけあうものなの。楽しいばかりが友達じゃないの。困っている時助けられないで何が友達なものですか」
「はい……」
鈴々は目を伏せている。自分の行動がいかに愚かだったか身に染みているんだろう。
「次は私も行くからね。何時間だって付き合ってあげる……全くもう、そんな顔しないの」
暇里は鈴々に優しく微笑みかける。見事な飴と鞭だ。これがコミュ強のテクニック。
「そもそも鈴々はどうしてハントに? 金に困っているのか?」
規則を破ってまでハントに行くということは相応の理由があるはずだ。その理由がまだ明らかになっていない。
「お金に困っているわけではないのですが……」
鈴々は語った。
欲しいものがあること。
それは50万円すること。
それを手に入れるために、これからもハントに行くつもりだということ。
「50万円って……もしかして、あれ?」
どうやら暇里は鈴々の欲しいものに心当たりがあるようだった。
「そうです……どうしても諦められなくて……」
「女の子だものねえ、気持ちは分かるわ。……それにしても50万円か。結構気が遠くなるわね」
ハントには色々規則があって、例えば同一種を倒して得られる金額や月に稼げる金額に制限がある。雑魚魔獣を乱獲して大金を稼がれるのは学園が想定しているハントの在り方ではないんだろう。
今の実力で現実的に稼げる金額は大体月に10万円ほどだろうか。
ところで。
「50万円……どこかで聞いた覚えが」
つい最近その数字を聞いた気がする。確かブレヴィフォリアだったか……?
「あ」
思い出した。確かB-2の主を倒して得られる金額が50万円だったはずだ。
俺は2人に声をかける。
「2人とも聞け。耳寄りな情報がある」
俺1人で楽しむつもりだったが予定変更だ。困っている友達を見過ごすわけにはいかないからな。
◆
B-2攻略は週末の夜に予定された。
暇里は鈴々と。俺はまだ声をかけていないがラヴィニアと行くつもりだ。
中間テスト1位と2位の揃い踏み。こりゃ楽しくなりそうだ。
そして今がその週末の夜。
ラヴィニアに連絡するのを忘れていた俺は、慌ててメッセージを送った。
『今晩暇だよな?』
すぐに返信が返ってくる。
『なんで?』
暇かと聞いているのに理由を問うてくる。この時のラヴィニアの気持ちを30文字以内で答えよ。配点10点。
正解は面倒くさがっている、だ。
『ハントにいかないか?』
『いつまで?』
『多分朝まで?』
『却下』
『何故』
『私夜はちゃんと寝たい人だから』
『おやすみ』
まずい。
まずいまずいまずい。
まさか断られるとは思っていなかった。
思えば確かにラヴィニアは睡眠を邪魔されると異様に怒るイメージがある。こうなることは予想しておくべきだった。
……1人でいくか?
いやだめだ。流石に暇里と鈴々の前でルール違反をするわけにはいかない。
鈴々を助けた時俺も1人だったことは上手いこと追及を逃れられているのだ。今日1人で行って過去のことをほじくり返されたら堪らなかった。
俺は頭を抱えた。
「どうすりゃいいんだ……他に誘える奴なんて――」
いや待て。
1人いたはずだ。ハントの説明を受けたあの場に俺の友達がもう1人。
俺は神に祈る思いでそいつにチャットを送った。
……因みに神なんて信じていない。
◆
俺は無事ペアを見つけB-2に降り立った。
暇里と鈴々は先に来ていたようで、俺の姿を認めると手をあげながら近づいてくる。
「あれ? ルナちゃん?」
暇里は俺のペアに気付くと素っ頓狂な声をあげた。
そう、俺が声をかけたのはルナだった。
中間テスト5位のルナもハントの権利を持っているのだ。
「ラヴィニアさんと来るって言ってなかった?」
「それが伝え損ねていてな。さっき誘ったら断られた」
「そりゃそうよ……ごめんねルナちゃん、いきなりのことで」
「……構わない。予定は無かったから」
ルナは相変わらずの感情のこもってない声でそう答える。
「ああ鈴々さん、この子は私と明の友達のルナちゃん。ルナちゃん、この子は私の友達の鈴々さん」
暇里が2人を引き合わせる。暇里に合コンの幹事をやらせたらとんでもない手腕を発揮しそうだ。
「影御名方鈴々と申します。ルナさん、よろしくお願い致します」
「……ルナ。よろしく」
「顔合わせも済んだところで……早速行くか」
影御名方鈴々。
老樹谷暇里。
ルナ。
そして俺。
並行世界B-2攻略班結成だ。
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