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18.はじめてのおみまい

「俺か? 俺は王様ペンギンの様に宵い口の宵、単純明快の明で様宵明(さまよいあきら)だ」


「様宵明、様…」


 俺の口上を聞いた少女は確かめるように俺の名前を反芻した。

 何故か様付けだったが、この俺に対し尊敬の念を隠そうとしないとはなかなか鋭い目を持っているらしい。


 まだ息があったオーガを適当に蹴り飛ばし、俺は少女に向きなおった。魔獣に愛護団体はいないため今の行為は問題にならないのだ。


「お前は誰だ?」


 絶対に見たことがある気はするんだが思い出せない。歯の奥に物が詰まったような気色悪さを払拭したくて俺は少女に尋ねた。


「私は影御名方鈴々(かげみなかたりり)と申します。……あの、助けて頂いてありがとう御座いました」


「影御名方鈴々……?」


 点と点が線で繋がった。俺はクラスメイトの顔も覚えていなかったらしい。

 しかも全然モブじゃない。なんなら一緒にハントの説明を受けていた。


「ん……?」


 そこで思い至る。どうやら向こうも俺の事を認知していないようだ。

 まあ俺は落ちこぼれの一般人だからな。鈴々のような優秀な人物の記憶に残らなくても不思議はないか。


「鈴々よ。もしかしたら俺たちは同じクラスかもしれない」


「え……?」


 鈴々は何故だかさっきからぼーっと惚けた顔で俺を見つめている。

 魔獣に不意を突かれて放心し気味なのかもしれない。


「改めて、1年冬組の様宵明だ。立てるか?」


 俺は鈴々に手を差し伸べた。鈴々は何度か手を中空で彷徨わせたが、意を決したように俺の手を掴んだ。


「っ……!」


 俺の手を支えに立ち上がろうとした鈴々は、痛みに顔を歪め地面に腰を落とした。


「おい、大丈夫か」


 オーガの攻撃は単純な分強力だ。骨の1本や2本平気で持っていく。


「ええ……問題ありません」


 口ではそう言うが額には玉のような脂汗が滲んでいた。


「無理に立とうとするな。悪化するかもしれん」


「きゃっ!」


 俺はそう言うと鈴々を抱き抱えた。年頃の女を抱っこした経験は今まで無かったが、予想以上の軽さに驚きを隠せない。


「軽いな。ちゃんとメシ食ってるのか?」


「……はい……それなりには……」


 鈴々は顔を真っ赤にして俺の胸の中で小さくなっていた。

 俺は鈍感系主人公じゃないから分かる。こいつは俺に惚れてる。なんてな。


「どうした? 俺に惚れでもしたか?」


 俺は鈴々を緊張させないように努めて軽薄に振舞った。深夜によく知らない異性に抱き抱えられているこの状況はあまり気持ちのいいものではないだろうからな。俺は気遣いの鬼。


 しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。


「……はい……」


「うぇっ!?」


 思わず鈴々を落っことしそうになる。

 今なんて?


「お慕い……申し上げております……」


 鈴々は震える声でそう呟いた。


「……そうか」


 嘘や冗談を言うような状況でもないだろう。にわかに信じがたいがどうやら鈴々は俺に惚れてしまったらしい。


 俺は色恋沙汰には興味がないが、もしあったら今すぐこの告白を受けていただろう。

 不安そうな眼差しで俺を見つめる鈴々はそれくらい魅力的だった。

 しかし俺の答えは決まっている。


「悪いがその気持ちには応えられない。とりあえず医務室に急ぐぞ。しっかり捕まっていろ」


 誰かに告白されたのは初めての事だったが、返事を先延ばしにするのは良くないと思っている。漫画などでヒロインの気持ちを知りつつも気が付いていない振りをする主人公を見るとイライラしてしまうのが俺だ。





 俺は事情を説明し、寮のフロントにいたガルニグラに鈴々を引き渡した。

 ガルニグラはどこかに連絡すると鈴々を抱えて医務室に歩いて行った。見かけによらず結構力持ちだ。

 俺が運んでもよかったが寮の中だと誰かに見られるかもしれないからな。それは鈴々の本意ではないだろう。


 俺は部屋に戻ると軽くシャワーを浴びベッドに潜り込んだ。心地いい眠気が到来している。

 眠気に身を任せ俺は目を閉じた。瞼の裏に映るのは胸の中で小さくなっている鈴々の姿。


 色々なことがあったが、とりあえず鈴々を助けられて良かった。

 おやすみなさい。





「えー、影御名方鈴々は怪我をして今日は休みだ」


 ブレヴィフォリアは朝のホームルームで淡々と言った。

 他の生徒も特に気にしていない。深刻な病気ならいざ知らず、怪我で休んだ程度ではそんなものだろう。

 そんな中、声を上げる生徒が1人。


「怪我ぁ!? ブレちゃん鈴々さんは大丈夫なの!?」


 暇里は鈴々が心配なのか大きな声で騒ぐ。


「ああ、心配ない。多分明日には復帰できるはずだ」


 その言葉に俺は胸を撫でおろす。なかなか重そうな怪我だったが学園が治癒魔法か何かで治療してくれたってとこか。


「そうなの……良かった……でも怪我って何があったんだろ」


「心配なら放課後見舞いに行ってやったらどうだ? 寮の部屋で休んでるはずだぜ」


「そうね。そうしてみるわ」


「よし、じゃあ授業始めるぞー」


 今日も当たり前の日常が始まる。

 暇里はどこか上の空で授業を聞いていた。コミュ力の鬼のアイツのことだ、中間テストを経て鈴々と友達になったのかもしれない。友達が怪我をしたとなれば心配にもなるだろう。


 ……それにしても、お見舞いか。脳裏に医務室に運ばれる時の鈴々の寂しげな顔が蘇る。あの顔は俺に一緒にいて欲しかったのではないだろうか。

 色恋沙汰に詳しくはないが、俺が行ったら喜んだりするんだろうか。それとも告白を断った奴のことなど見たくもないだろうか。

 まあそういう事情は置いておいて鈴々には聞きたいこともある。どうしてあんな時間に1人で並行世界にいたのかとかな。


「……よし」


 俺は授業が終わると、暇里の席に歩いて行った。


「暇里、ちょっといいか」


「ん?」


 次の授業の準備をしていた暇里が顔を上げる。俺が暇里の席に来ることはほとんどないから少し驚いた顔をしていた。


「放課後、鈴々のお見舞いに行くのか?」


「そのつもりよ。それがどうかした?」


「それ、俺も行ってもいいか」


 暇里は俺の言葉にぽかんとする。


「……え?」


「俺もお見舞いに行きたいんだが」


 暇里は何とも言い難い微妙な顔で俺の顔をしばし眺めると、呆れた様子で口を開いた。


「明ねえ……いくら女の子の部屋が気になるからってそれはどうかと思うわよ」


「ざけんな。そんな意図はない」


 なんて失礼な奴なんだ。俺がそんなに異性に飢えているように見えるのか。

 俺はただ友達がいないだけだ。


「じゃあ何なのよ。あんた鈴々さんと仲良かったっけ? 話してるの見たことないわよ」


 暇里は疑うような視線を隠そうともしない。

 俺は観念して事情を説明した。


「鈴々が怪我した時俺も現場にいたんだよ」


 暇里は驚いた様子で声をあげる。


「あんたそれどういうことよ。説明しなさい」





 放課後になり、俺と暇里は鈴々の部屋に向かっていた。

 因みに部屋は暇里が知っていた。何度か行ったことがあるらしい。やはり友達なのだろう。


 暇里は403号室の前で足を止めた。ここが鈴々の部屋だろうか。


「いい明、あんまり女子の部屋をじろじろ見るんじゃないわよ?」


 暇里がぴっと指を立てて忠告してくる。


「任せておけ。俺はデリカシーの鬼と呼ばれている男だ」


「それは絶対嘘ね。この前ラヴィニアさんがあんたの愚痴1時間くらい言ってたわよ」


 なんだそれは。あいつそんなことしてるのか。

 これは今晩クレームのメッセージを入れなければなるまい。


「あいつは難しい性格をしてるからな。人の悪いところばかり目についてしまうんだろう」


「そんなことないと思うけど……じゃあ、行くわよ」


 暇里は切り替えるようにドアを向くと、ゆっくりとノックした。


「鈴々さん起きてるー? お見舞いに来たわよ」


 暇里がドア越しに声をかけると中から開いています、と鈴々の声が聞こえてきた。


「じゃあ入るわねー」


 暇里はドアを開け中に入っていく。俺はその後ろをついていった。


 横になっていたのだろう、鈴々はちょうどベッドから身を起こしたところだった。起こした上半身を包む黒い浴衣が目に飛び込んでくる。赤い花が描かれているが、花には詳しくないため何の花かは分からない。ただ、つい見つめてしまうほど似合っていた。


「暇里さん、来ていただいてありがとう御座います」


 そこまで言うと鈴々は後ろに隠れていた俺に視線を動かした。目が合う。


「……っ!?」


 鈴々は俺がいることに気付くとバッと布団を被りベッドに隠れてしまった。

 下着姿は見るべきでないのは分かるが、もしかして女にとって浴衣姿も同様なんだろうか。


「どうして……明様が……?」


 籠った声がベッドの中から聞こえてくる。

 まあ俺がいるとは思わないよな。俺も何でいるのかいまいちわかってない。


「明様……?」


 暇里が不思議がっている。疑問をすぐ口にする奴だ。俺としてはスルーしてほしかった所だが。


「あだ名だ。様宵明だからひっくり返して明様ってところだ」


 俺はよく分からないことを口走っていた。何故だか、誤魔化しておいた方がいい気がしたのだ。


「アンタ鈴々さんになんて呼び方させてるのよ」


 暇里が軽蔑した様子で俺を睨んでくる。こいつ俺へのコミュニケーションの基本ベースが呆れか軽蔑じゃないか?

 ラヴィニアといい暇里といい、俺の周りの女はどうも俺を下等な存在として認識している節があるな。一度話し合う必要があるだろう。


 俺が何かいい言い訳はないかと頭を悩ませていると、ベッドの中から声が発せられる。


「いえ……私は明様を……お慕い、申し上げておりますので……」


「…………」


 ベッドの中から照れたような声が聞こえてくる。

 暇里がこの世のものではないものを見たような顔で、鈴々が隠れている膨らんだベッドと俺の顔を繰り返し見た。

 何度か視線を行き来させると、我に返ったのかええええええとカエルのような声を出した。


「明のことが好きィ!? 何でこんな奴を!?」


 暇里が俺を指差しながらベッドの膨らみに向かって叫ぶ。

 今世紀最後のナイスガイである俺を捕まえてこんな奴とはなんだ、こんな奴とは。


「怪我人の部屋で大声を出すな。デリカシーがないぞ」


 少しはこのデリカシーの鬼を見習え。

読んで頂きありがとうございます。


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見てくれてるんだ…というのが感じられてとても嬉しくなります。

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