16.ブレヴィフォリア・ネイタルの野望
中間テストが終わり俺たちは現実世界に戻ってきていた。
並行世界A―3は時差が9時間あった為、今は朝の10時前だ。
「うーし、皆疲れてると思うがあと少しだけ頑張ってくれなー」
言いながらブレヴィフォリアが黒板に何かを書いていく。
それは中間テストの結果だった。
1位: 影御名方鈴々&老樹谷暇里 6799ポイント
2位: 様宵晶&ラヴィニア・ドラクロワ 6650ポイント
3位: スイート・マジョラム&鳳堂鏡花 4523ポイント
4位: ヴァング・フライハート&ミミ・ララ 4072ポイント
5位: 神代亜也親&ルナ 3501ポイント
俺たちは結果こそ2位だったが一番注目されていた。
特級のドラゴンを討伐したからだ。そこかしこで噂になっている。
「ふふふ……ま、私にかかれば当然よね」
語尾に音符マークでもついていそうな上機嫌でラヴィニアは耳をそばだてている。
噂の主役はこのラヴィニア・ファンレイン・メルティレージュ・ドラクロワだ。
ラヴィニアはテストが終わった後、ドラゴンを倒したのは私だと公言した。
俺は周りから落ちこぼれの一般人だと思われているから、そんなことをしなくても周囲の人間は勝手にラヴィニアが倒したのだと思うはずだが、それでもラヴィニアの気遣いは嬉しかった。
ラヴィニアは俺が目立たないように、あえて皆の前で公言してくれたのだ。
おかげで俺は話題にすらなっていない。おおかた運だけで2位になったラッキーボーイだとでも思われているんだろう。
「突然だが、今回の中間テストの趣旨について説明させてもらう」
書き終えたブレヴィフォリアが話し出す。相変わらずよく通る声だ。一瞬で教室が静かになる。
「今回のテストは今現在のお前らの戦闘力を測るのが目的だった。これは昨日説明したな。実はその他にも一つ大きな理由があった。テストの目的というか、この方式を採用した理由だな」
この方式というのは並行世界で魔獣を討伐する形式のことだろうか。
確か『ハント』と言っていた気がするが。
実力を測るだけなら他にもっと手間のかからない方法はいくらでもあるはずで、わざわざ並行世界で1日かけてテストを行ったのは何か他に狙いがあったということか。
「今回のテストの形式――通称『ハント』だが、これは単なるテストの方法じゃない。これは……言うなればそう、アルバイトだ」
「アルバイト……?」
予想だにしなかった言葉に俺は耳を疑った。他の生徒も同じようで、教室がにわかにざわつき始める。
「もう市街地に行った生徒も多いと思うが、この学園は都市部と隣接している。街に出ればお金を使うだろう。市街地の店は基本的に学生のアルバイトを許可しているから、もしお金が必要な生徒がいれば自由にアルバイトして貰って構わない」
勿論一定の成績を残すことが出来なければその限りではないが、とブレヴィフォリアは付け加える。
「だが、折角この学園に来ているんだ。アルバイトに時間を費やしたくない、もっと強くなりたい、と考える生徒も多数いるだろう。その為の仕組みがこの『ハント』だ」
ブレヴィフォリアは黒板に『ハント』と書き殴った。
「簡単に言えば今回の中間テスト、そのポイントがお金に置き換わったようなものだと思ってくれ。勿論色々制約はあるが、基本的に強くなれば強くなるほどお金が稼げる。どうだ、やる気になってこないか?」
ブレヴィフォリアはシニカルな笑みを浮かべた。
教室のあちこちでおお……とざわめきが漏れる。
「だがこの『ハント』、残念ながら全員が許可されるわけじゃない。学園が認めた生徒のみに許可される特別な制度だ。理由は色々あるが、一番の理由は安全面だ。この仕事は言うまでもなく危険だからな。己の力量を見誤れば命を落とすことだってあり得る。それは今回の中間テストで戦闘に触れて、なんとなく実感したんじゃないか?」
ブレヴィフォリアの言葉に、俺はついラヴィニアの方を見てしまう。
ラヴィニアは興味がないのか、それとも単純に眠いのか、欠伸を噛み殺していた。
まあこいつ金持ちのお嬢様っぽいしな。きっとお金には困ってないんだろう。
「今回は黒板に記載した上位5チームまで『ハント』を許可する。今回漏れた奴らも次のテストでいい成績を納めたり、普段の授業をみた結果で随時許可する予定だから、結果に腐らず己を高めていくように」
なるほど、つまりこの中間テストは生徒の実力を測ると同時に、『ハント』の適性を見る役割もあったということか。
確かに理に適っている。
「中間テストはこれで終了だ。変則的な授業になってしまったが、明日までに生活リズムを整えておくように。『ハント』を許可された奴らはこのあと少し説明があるから残ってくれ。じゃあ解散!」
◆
「明、ちょっといいか」
ハントの説明を受けたあと、俺はブレヴィフォリアに呼び止められていた。
誰もいない教室に1人残されている。何の用だろうか。
「単刀直入に聞く――お前、何者だ?」
殺し屋のような鈍い声色。
ブレヴィフォリアの鋭い視線がサングラス越しに突き刺さってくる。
「……どういう意味だ?」
俺はしらを切った。切らざるを得ない。
ここに残された時点で嫌な予感はしているが、相手が何を掴んでいるかも分からない今、自分から何かを明かす必要はない。
「ドラゴンを倒したのはお前だな」
抑揚のない声でブレヴィフォリアは続ける。いつもは明るく振舞っているが、本性はこっちか。
「どうしてそう思う。俺が魔法遣いでも異能力者でもないことは学園が一番よく知っているはずだ」
俺が初めて寮に来た時、寮母のガルニグラが見ていた資料に俺は一般人と記載されていた。つまり学園内部では俺は一般人ということになっている。
入学案内が届いた時点で学園には俺の素性を知っている人間、つまりほぼイコールで母親が関わっていることは想像に容易いが、その情報は少なくとも一般の学園関係者には広まっていないと見ていいだろう。こうしてブレヴィフォリアが探りを入れてきていることからもそれは明らかだ。
だが、ブレヴィフォリアはある種の核心を持っているんだろう。俺の態度にも動じる様子はなかった。
「数十年ぶりの特級討伐だからな、ドラゴンの死体を調べさせてもらった。最初は喉の傷が死因かと思ったが、よく見れば急所を外していることが分かった。あの傷ではあの種のドラゴンは死には至らない」
死体を調べられたか。確かにあの程度のダメージではドラゴンが死ぬことはない。見る奴が見ればすぐに分かってしまうことだ。
「その他に外傷は見当たらなかった。つまりあの死体には死因が存在しないということになる」
俺は黙って聞いている。語るべき言葉を持たなかった。
「ラヴィニアは優秀な魔法遣いだが、外傷無しにドラゴンを殺す術は持たない。言ったところでただの魔法遣いだからだ。つまり明、お前しかいない。お前がドラゴンを殺したんだな?」
「ただの消去法だな。根拠はどこにもない。ドラゴンがたまたま弱っていただけかもしれないだろ」
「根拠なんかいらないさ。私には確信がある。お前が答えないなら、ラヴィニアに聞くだけだ。お前と違って素直そうだからな」
こいつ、ラヴィニアを人質に取るつもりか。答えないならラヴィニアから多少手荒な方法で聞き出すとそう言っているのか。
「…………」
俺は分からないことが1つあった。
何故一介の教師が1人の生徒の素性をそこまで気にする?
確かに素性が分からない生徒は不思議だが生徒を脅してまで、傷つけてまで知りたいと思うのは正常な思考ではない。間違いなく何か裏があるはずだ。そうでなければこのブレヴィフォリアの人殺しのような雰囲気の説明がつかない。
「もう一度聞く。明、お前がドラゴンを殺したな?」
「…………そうだ。俺が殺した。ラヴィニアには危害を加えるな」
俺の言葉にブレヴィフォリアの雰囲気が少し緩んだ。
「やはりな。最初から認めればいいものを」
「こっちにも事情がある。簡単に認めるわけにはいかない」
「どうやって殺した?」
「それは言えない。言うつもりもない。ラヴィニアを人質に取られたとしても」
「……まあいい。私が知りたいのは1つだけだ」
「知りたいこと?」
「明、お前……どこまで使える?」
「それはどれくらい強いのかってことか?」
「ああ」
「そうだな……お前を今すぐ殺せるくらいには強いんじゃないか?」
ブレヴィフォリアがただ者ではないのは初めて会った時から見抜いていた。歩く姿に全く隙が無かったからだ。
だが、それでもブレヴィフォリアに負ける気は一切しない。3秒もあれば殺せる自信があった。
魔法遣いだろうと異能力者だろうと、俺は誰かにタイマンで負けると思ったことは一度もない。
――あの島を出てからは一度も。
ブレヴィフォリアは俺の言葉を聞くと、抑えきれないというふうに笑い出した。
「ククッ……そりゃあいい。最高だ。……明、私はお前が入学してくるのをずっと待っていた。この時を、待っていた」
「待っていた? 何のことだ」
「明、お前には私の駒になってもらうぜ。学園をぶっ壊す……私の野望のな」
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