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13.決戦

ドラゴン属というのは世界に何十種といて、様々な見地から分類が可能だが、今この瞬間最も重要なテーマとして『ドラゴンは走れるのか』というものがある。


 結論から言うと、走れる種と走れない種がいる。生息地や生態などから走る必要が無くなった種と逆に走る機能が不可欠な種がいて、進化の過程で脚が太く逞しくなったり、逆に翼が大きくなったりする。これはドラゴンに限らない話だ。


 そして今、俺の背後にいるグレートウォール・アンドロギュノス種がどうなのかというと。


「お、お、お、おぉおおおおおおおおおお!!!」


 全速力で駆ける。

 背後を振り返る必要は無い。


 地面の揺れが。


 音が。


 殺気が。


 五感全てが背後の殺戮者の存在を伝えてくる。


「ギュオオオオオオオアアア!!!!」


 グレートウォール・アンドロギュノス種の走力は最大時速60キロメートルにまで到達する。

 これはドラゴン属の中でも最速の部類だ。

 地上に天敵のいない彼らは、進化の過程で強靭な脚部を獲得したのだ。


 異能を考えなかった場合、人類の身体の構造上自力走行の限界は時速50キロメートルだと言われている。

 そして今実際に記録されている最高速度は約45キロメートルだ。


 つまりグレートウォール・アンドロギュノス種に追いかけられて逃げ切れる人類は存在しない。





 ──追いつかれないが、離せもしない。


 殺気はずっと背中に張り付いている。


「はぁ、はぁ……はぁっ、はぁっ!!」


 人類の限界を軽々と超越して、俺はひたすら駆ける。


 肺が今にも爆発せんと悲鳴をあげる。全身が痛みという形で反旗を翻す。

 今すぐ身を翻してその喉元に拳を撃ち込んでしまいたい──甘い誘惑がニューロンを駆け巡る。


 それらを全て無視し、脳はひたすら電気信号を送り続ける。


 走れ。


 走れ。


 走れ。


 走れ!!!


 最早等身大の重りと化した身体に鞭を打ち、枯れた荒野を無心で走る。


 ラヴィニアの待つ草原まであと少し。視界には緑が広がってきつつある。

 酸素を身体から分捕りぼやけた頭に喝を入れる。

 ここから最後の大仕事だ。


 然るべきタイミングでドラゴンにブレスを吐かせなければならない。

 この種は一定以上の距離を離さないとブレスを吐いてこない習性がある。群れで行動することが多いからだろう。仲間を巻き込む行動はしない。

 俺がブレスの餌食にならずにここまで走ってこれたのは、ブレスを吐かれない位置をキープし続けてきたからだ。


 つまるところ、ぶっちぎらなきゃならない。

 この背後の化け物を。


「ギャオオオオオオオアアア!!!!」


 空間が震える。こっちは限界ギリギリだっていうのに、あちらさんはまだまだ元気そうだ。

 一瞬でも足を止めたら喰らいつかれるその刹那の間を、決して追いつかれない様に意識して。


 ついには辿り着く。


 遠方にラヴィニアの姿を捉える。

 何を気持ちよさそうに寝転がってる。ひっぱたくぞ。


「ラヴィィィィィィィィィ!!!!」


 俺の叫び声を聞いたラヴィニアはビクッと体を起こすと、俺とその背後のドラゴンを認めてあたふたと立ち上がる。


「何!? どういう状況よそれ!?」


 1人と1匹が乗用車もかくやという猛スピードで突っ込んでくるんだ。ジュラシックなパニック映画も顔負けのド迫力だろう。


「今すぐ準備しろ!! このままやるぞ!!!」


 俺はそう言うと限界ギリギリで堪えてくれていた足のリミッターを解除する。

 気分はサラブレッド。第4コーナー回って最後の直線。伸びろ伸びろ伸びろ!


「おおおおおおおおおおお!!!!!!」


 ラヴィニア目掛けて全速力。

 背後に張り付いた殺気がほんの少しずつ薄れていく。

 振動を、音を、感覚を置き去りにしてただひたすら足を前に出すモンスターと化す。


 遠くでラヴィニアが魔法陣を展開する。

 大小織り成す薄水色の3枚重ね。

 ドラクロワ家相伝のその特異な魔法陣は、今日何度も空に飛行機雲を描いてきた雷撃の槍。

 今度は当ててくれよ、頼むから。


「――――!! ――、――――!!!」


 ラヴィニアが何か叫んでいるが聞き取れない。耳も脳も機能を停止している。


 ブレスを吐く気配はまだない。

 距離が足りないのか!?

 今更考えても意味がない。

 ラヴィニアの顔を見やる。いつの間にか表情を認識でいる距離まで接近していた。

 焦りと不安に押しつぶされたような表情。大きな赤い瞳が恐怖を滲ませている。

 

 なんて顔をしてるんだ。

 安心しろ。俺は女を悲しませるようには出来てない。


 ラヴィニアに並び、追い越す。

 その瞬間。背後で魔力が集中する感覚を捉えた。


「――――――――!」


 俺は片足を軸に反転すると、勢いそのままに後ろに飛ぶ。

 ドラゴンは最大の攻撃でもって敵を殲滅せんと足を止めている。彼我の距離は10メートルほど。いつもは偉そうに張っているラヴィニアの背中が妙に小さく見えた。


 伸ばした右手の先にドラゴンを捉えると、俺は僅かに残った生命力を注ぎ込んで『静止』を発動させた。保って3秒。感覚で分かった。


「いまっ!!」


「わかってる!!」


 ドラゴンはブレスを吐く寸前で静止している。蛇のように上半身ごと鎌首をもたげて、弱点である喉元の袋状の器官はパンパンに膨張していた。


 ドラクロワ家の専売特許である魔力増幅式が刻まれた魔法陣が、一際強く光を放つ。3段式の射出機構を駆け巡る魔力はやがて一筋の稲妻となりドラゴンに襲い掛かった。


「<< 雷帝(ランチャ・)(デル・)(フォルミーネ)>>!!」


 瞬きさえ許さぬ神速の槍がドラゴンに着弾する。

 ドラゴンは煙を上げながらゆっくりと地面に崩れ落ちていく。


 限界だ。俺は『静止』を半ば強制的に解除されると、飛んだ勢いのまま地面に叩きつけられる。


「やった! 当たったわ!」


 ラヴィニアが歓喜の声をあげる。

 これで5000ポイント。俺たちの1位だ。


 そのはずだった。


「ラヴィ!!!!」


 俺は咄嗟に叫ぶ。

 ドラゴンの魔力が消えていない。見ると僅かに弱点を外していた。

 ドラゴンは崩れ落ちながら口元に魔力を集中させていく。


「――――え」


 ラヴィニアの顔が蒼白に染め上げられていく。


「逃げろ!!」


 ダメだ。完全に体が竦んでいる。急激に晒された死の恐怖にラヴィニアは凍り付いてしまっていた。

 もう間に合わない。

 ラヴィニアはブレスをその身に受け、その生涯に幕を閉じるだろう。


「くそっ!!!!」


 俺は地面に這いつくばりながら必死に手を伸ばした。


「────『  』、」


 俺の意識はあっけなく断絶した。


読んで頂きありがとうございます。


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見てくれてるんだ…というのが感じられてとても嬉しくなります。

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