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11.捕らぬ魔獣の皮算用

 以上のような長い回想を終え、俺は現状を整理することに成功していた。

 ドラゴンを倒すと決意したのが遠い昔のように感じる。

 あの描写に1つだけ嘘があるとするならば、俺は別に澄み切った青空のように清涼な気持ちでこの学園に来たわけではないということだ。

 それはさておき。


 時刻は12時ちょうど。ポイントは以下のような状況だ。


1位: 影御名方鈴々&老樹谷暇里 3079ポイント

2位: ヴァング・フライハート&ミミ・ララ 2401ポイント

3位: 様宵晶&ラヴィニア・ドラクロワ 1650ポイント


 俺たちは6時間で1650ポイントを獲得しているわけで、残り時間は12時間。仮にこのままのペースを維持したとして最終的なポイントは5000ポイントくらいということになる。


 2位のチームは6時の時点で稼いだポイントが1200ポイントほどだったはずだ。12時の時点でその倍程度稼いでいることから、ペースが落ちていない、つまり本格的な休息をとっていないという推測が出来る。どこかで休憩を挟むか、そうでなければペースが落ちることが予想されるため、最終的なポイントは今の2倍の4800ポイントは下回ってくると考えられる。2位は射程圏内と言っていい。


 次に1位のチームだが、ここは6時の時点で2400ポイント稼いでいた。そして今は3100ポイントほど。大幅に減速している。俺の考えに基づけば、このチームは6時から12時の間に休憩をしたと言えるが、俺の考えは違っていた。

 思い出すのは授業初日の自己紹介。別にそう指示があったわけではないが、異能力者は自らの能力を簡単に説明していた。

 1位のチームは両方とも異能力者だが、2人は自分の能力をなんと説明していたか。


『えーっと、海老の老に樹木の樹、山あり谷ありの谷に休暇の暇、故郷の里で老樹谷暇里だよ。異能力者で、能力は……えーっと、身体能力の強化。みんなよろしくね!』


 俺の自己紹介をパクったことはまた別の機会に俎上に載せるとして、暇里は自分の能力を身体能力の強化と言っていた。その異能自体は割とポピュラーなものだ。その中でも個人個人によって特徴がありはするが、大きな括りとしては最多数派といってもいいだろう。


 ではもう1人。影御名方鈴々は何と言っていた。


『影御名方鈴々と申します。異能力者ですわ。能力は闇を支配すること。皆様、よろしくお願い致します』


 闇を支配すること。

 それだけ聞いてもいまいちピンとこないし、なんだか悪の親玉みたいだなというのが率直な感想だ。

 こんな異能は聞いたことがないため具体的にこういう能力かなという予想は出来ないが、要は闇を利用して色々出来るということだろう。

 闇というのが物理的な闇、つまりは暗闇のことなのか、それとも心の闇や社会の闇などといった形而上のものなのかによっても能力の分類は変わってくるが、仮に前者だとするなら夜というのはその能力を発揮するのに最も適した空間だと言えるだろう。

 朝になっての大幅なブレーキは鈴々の異能が十全に発揮出来なくなったことによるもの、と考える方が自然ではないか。


 俺はそう判断する。

 だが、それだと少々マズい計算になる。

 暗闇に包まれた状況下であれば6時間で2400ポイント稼げるとするなら、仮に今から日が暮れるまで休息に充てたとしても18時から24時までの間にまた2400ポイント積まれてしまう。今が3000ポイントだから合計5400ポイント。我がチームの着地予想ポイントを大幅に超えてくる。

 しかもこれは明るい時間を全て休息に充てた場合の計算で実際はもう少し活動すると思うし、さらに言えば洞窟のような昼でも暗い地形があることも考えられる。

 あらゆる状況を考えると、6000ポイントくらいまでは積まれる可能性があるだろう。


 やはりドラゴンを倒すしかないか。

 そもそも俺たちが今稼いだ1650ポイントを3倍して5000ポイントほどと言ったが、このペースで魔眼を使わされては間違いなく俺のほうが先にバテる。恐らく夜が更ける前に限界が来るだろう。

 そうすると俺の体力が尽きる前にドカンとデカく稼いでおくしかない。

 ドラゴンを倒し5000ポイントが入れば、合計6650ポイント。


 これはもう間違いなく俺たちの1位だろう。





「第276回ドラゴン討伐作戦会議、始めるぞ」


 いえーいどんどんぱふぱふー。


「……確かにやるとは言ったけど、本当に倒せるわけ? あと276回って何よ」


「特に意味はない。いきなり弱気だな」


「そりゃそうよ。アンタに隠された異能か何かがあるとして、それを信じてドラゴンに挑むまでは私も納得したけどね、流石に命の危険があるとなれば弱気にもなるわよ」


 今気付いたが、こいつ頭に血が上ると一人称がアタシになるな。素はそっちなのかもしれない。


「俺が護ると言ったはずだ」


「そんなものどうやって信用しろっていうのよ」


 俺は学園に来る前、駅前で絡まれていた女子高生を助けた時のことを思い出していた。あの時も疑われた。最近の女子高生は用心深い。


「友達の言うことが信じられないのか?」


「私、まだアンタのこと友達だと思ってないわよ」


「え……!?」


 今、なんと言った……?


「友達じゃ……ない……?」


「ええ」


「……俺とお前が?」


「アンタと私が」


「…………」


「…………」


 ハンマーで殴られたような衝撃が頭部を襲う。

 頭がクラクラして何も考えられない。

 そして胸がキュッとする。何だこの気持ちは。


「……すまない、状況が理解出来ない。それは俺だけじゃなく暇里達もそうなのか?」


「暇里は友達よ。話も合うしね」


「ルナは」


「ルナも友達。あの子チャットだと結構話してくれるのよね」


「俺は」


「友達じゃない」


「ぐっ……!」


 胸が張り裂けそうだ。まさか友達だと思っていたのは俺だけだったなんて。


「じゃあチャットがよく既読スルーされるのも」


「それはアンタが毎回夜中に送ってくるからでしょうが! 毎日起こされる私の身になってみなさいよ!」


「す、すまん……」


 あまりの気迫に思わず謝罪の言葉を口にしてしまう。


「…………」


 今まで友達だと思っていただけに、何を話せばいいか分からなくなってしまった。

 ドラゴンなんかどうでもいい。

 ラヴィニアと友達になりたい。

 頭の中がそれでいっぱいになってしまう。こんなに弱い人間だったか俺は。

 友達を作るというのは弱くなるということなのかもしれない。





 しかしながら、俺に対して命までは預けられないというラヴィニアの言葉は至極当たり前の感情である。

 ラヴィニアからすれば俺は異能もなければ魔法も使えない落ちこぼれでしかない。いくら本人が信じろと言ったところでそう簡単に信じられるわけがないだろう。

 気は進まないが多少能力のことを打ち明けて信用してもらうほかないか。


「ラヴィ、俺のことを信用出来ないというお前の気持ちは理解できる。だが、信頼無くしてドラゴンを討伐することは不可能だ」


「……ええ。それは分かってるけど――」


「ついてこい。俺の能力を見せてやる」


「能力? やっぱり異能力者なわけ?」


「まあ……そうだ。今はそれでいい」


 俺は手頃な下級魔獣を見つけると付近まで歩いていく。ラヴィニアは訝しげな眼差しを俺に向けながら後ろをついてきていた。


「あそこにゴブリンがいるな」


「いるわね。……倒すの?」


「そう焦るな。動きに注目しろ」


 ゴブリンは俊敏な生き物だ。さらに頭が良くないため、あてもなくうろうろと走り回っていることが多い。

 今はおもちゃみたいなナイフを持って大きな樹の周りをぐるぐると回っている。ラヴィニアが一生かかっても倒せない系の相手だ。


「うろちょろしてるわね」


「ああ。――いくぞ」


 俺は右手をゴブリンに向ける。必須ではないがこの方が相手に集中しやすい。

 

 魔眼に意思を通していく。選ぶのは『静止』。対象の動きを止める。


 既に何度も使用しているため魔眼が俺の体から生命力を吸っていく。ゴブリン程度なら僅かな量で済むが、気怠い疲労感が一瞬のしかかってくる。


 光ったり音が出たりするわけでもなければ、魔法陣が現れることもない。

 静かに魔眼が発動し、ゴブリンがピタっと動きを止める。


「……え? ……動きが止まった……?」


 少し遅れてラヴィニアが異変に気付く。

 こうしている間にも魔眼は俺の命を吸っていく。もういいだろう。

 俺は『静止』を解除した。


 ゴブリンは何もなかったかのようにぐるぐると樹の周りを回り始める。


「わかったか。これが俺の能力だ」


「動きを止める異能ってこと?」


「そうだ。これでドラゴンの動きを止める。止まっている間にお前がドラゴンを倒す。危険がないことは分かってくれたか?」


「まあ……そうね。それなら大丈夫そうだわ」


「よし、じゃあ第277回ドラゴン討伐作戦会議を始めるぞ」


読んで頂きありがとうございます。


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見てくれてるんだ…というのが感じられてとても嬉しくなります。

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