9.まずは、寝る。
あれから1週間が過ぎた。
学園の授業にはハッキリ言って全くついていけていない。
『様宵明は一般人の上に魔法の素質もない落ちこぼれだ』という雰囲気が、なんとなくクラスに浸透していくのを肌で感じていた。
俺の魔力は右目にかけられた呪いによって全て吸い取られている。自分の意思で使える魔力は毛ほどもない。
理論はともかく実践になると、どうしてもそれが強烈に足を引っ張ってしまう。これは昔も試したことだ。
……仮に、これをブレヴィフォリアに打ち明けてしまうのはアリだろうか。
俺が魔法を使えないのは右目の魔眼のせいなんだ!助けてくれ!
……ここは魔法に関しては名実共にトップクラスの機関なんだ。寧ろ相談するのにこれ以上適した所も無いだろう。もしかしたら本当に何とかなるかも知れない。
「……最終手段だな」
もし母親がこの学園に関わっていたとして、ブレヴィフォリアに相談したことが回り回って母親の耳に入る可能性はゼロじゃない。
今は何かアクションを起こすには圧倒的に情報が足りていないと感じている。適切に状況を判断出来なければ必ずどこかで仕損じるだろう。まずは学園について知ることが先決だ。
それに、別のアプローチがないわけでもないしな。魔眼に魔力が吸われているのなら、自身の魔力量を増やしたり、魔眼の制御を練習するなどで魔法が使えるようになる可能性は十分ある。
何かをするにしても、まずはその方向だろう。
何がなんでも魔法が使えるようになった方がいいとは思っていないが、使えるに越したことはない。
落ちこぼれと友達になりたい、という物好きも少ないだろうからな。
あれから総司しか連絡先が増えていないことからもそれは明らかだ。
「テストの説明をするぞ~」
朝のホームルーム開始のチャイムと共に教室に入ってきたブレヴィフォリアが開口一番そう宣言する。
今日は中間テスト当日だ。
「テストは2人1組のチームで行う。40人20チームでの対抗戦だ。組み合わせはこっちで適当に決めさせてもらった」
そういうとブレヴィフォリアはプリントを配り始めた。前から回ってきたプリントを受け取り内容を確認する。どうやら組み合わせ表のようだ。俺は誰とだ……?
「げ」
右隣から嫌そうな声がする。それと同時に自分の名前を見つけた。
『様宵明&ラヴィニア・ドラクロワ』
ラヴィニアに視線を送ると、世界の終わりのような顔をしていた。
俺は声をかける。
「よろしくな」
「……足だけは引っ張らないでよ」
「……善処する」
落ちこぼれと組まされたらそんな反応にもなるか。
ブレヴィフォリアが説明を続ける。
「テストの形式だが、今回は『ハント』で行うことにした。チーム同士で直接戦闘をするのではなく、魔獣を倒して得られるポイントで競ってもらう形式だ」
「魔獣? 学園に魔獣がいるんですか?」
クラスのどこかから疑問が投げかけられる。
魔獣というのは、魔力を持った動物みたいなものだ。スライムとかドラゴンとか。日本の魔獣は隠匿性の高い種が多いから生活していてお目にかかることはほとんどない。妖狐とか河童が有名だ。
「まあ落ち着いて最後まで聞け。テストは並行世界A-3で行う。学園が運営している並行世界の中でも極端に危険が少ないフィールドだ。生息している魔獣は低級のものや温厚な種が主だから安心していいぞ」
「並行世界?」
「並行世界ってのは……えーっと……魔力を吸収する高純度エーテル体に大量の魔力を貯蔵してだな……あーダメだめんどくせえ。ごちゃごちゃ説明するの向いてないんだよな。誰だ私に教師させたの」
ブレヴィフォリアは頭を掻きながら吐き捨てた。
「行くか。行ったほうが早いだろ」
◆
俺たちはブレヴィフォリアに連れられ研究棟に来ていた。
普段授業を受けている校舎の隣にある建物で、見た目は特に違いはない。
中に入るとこれまた同じような見た目をしていた。
ブレヴィフォリアは勝手知ったる様子でずんずんと進んでいき、俺たちは『第3再生室』という部屋にたどり着いた。
中は教室ほどの大きさだった。前方に教卓があり、そこに台座に乗った水晶が置かれている。占い師が使うようなあれだ。
「今からこの中にいくぞ」
水晶を指差してブレヴィフォリアは言う。
「別に入ってるときに水晶が割れたりしても中に取り残されたりはしないから安心しろ。説明は中でするから。じゃ、お先」
そう言うとブレヴィフォリアは水晶に触れた。
その瞬間ブレヴィフォリアの体は音もなく水晶に吸い込まれていった。
触れば入れるってことか。
周りに目をやるが、皆呆気に取られているのか誰も動こうとしない。
俺は水晶に近づくと恐る恐る手を触れた。
襲ってきたのは視界が閃光に包まれたような感覚。スタングレネードを浴びたように一瞬自分が無になる。やがて地面を踏みしめているのに気が付き、俺は夜の草原に立っていることを知覚した。
「よっ」
ブレヴィフォリアが手を挙げる。いたのか。
「教師が一番先に行くなよ。皆戸惑ってた」
「悪い悪い、説明するのが面倒になっちまった」
誰だこいつに教員免許を交付したやつは。どうみても教採を通りそうには見えないが。
話しているうちに続々と他の生徒が現れる。見たままを伝えると、着地した瞬間に色彩を取り戻すかのように、気が付けばそこにいるという感じだ。
「すごーい! どうなってるのこれ!?」
周りをきょろきょろしながら暇里が騒ぎ出す。ほかの生徒もざわざわしていた。
ブレヴィフォリアは全員いることを確認すると仰々しく手を広げた。
「ようこそ並行世界A-3へ。歓迎するぜ、お前たち」
俺たちを学園に連れてきた時も似たようなこと言ってたな。芝居ががった演出が好きなのかもしれない。
「テストはここでやる。制限時間は24時間。この世界は時差10時間だからキリよく午前0時スタートでいいだろ」
ブレヴィフォリアは持っていたタブレットを弄ると、上空で何かが光りだした。
それは巨大なモニターだった。そこにはこう書かれている。
『冬組中間テスト 24:25:37』
恐らくタイマーだろう。時計のような数字の減り方をしている。あれがゼロになったらテスト終了ということか。
「ルールは簡単だ。ひとつ、制限時間内にこの世界にいる魔獣を倒してもらう。方法は不問。ふたつ、行動は2人1組で行うこと。単独行動して死なれても困るからな。それから――」
◆
ブレヴィフォリアの説明を聞き終え、俺は頭の中でルールの整理をすることにした。
大きなルールは2つだけだ。要約すると2人で行動しつつ魔獣を倒すだけのシンプルなもの。
その他魔獣ごとのポイントなどは数が多く覚えられる気がしなかったから聞き流していたが、まあ大丈夫だろう。初級中級上級特級に分かれていて大体10ポイント、100ポイント、500ポイント、5000ポイントくらいの配分だったはずだ。
それにしても24時間ぶっ続けか。高校生には結構ハードなテストだな。
「あ、そうだ。武器が必要なやつは私が魔法で作ってやるから言ってくれ。特に異能力者は素手で魔獣と戦うわけにもいかないだろ」
ブレヴィフォリアはそう言うと何もない空間に手をかざした。
瞬きの間にその手には剣が握られている。
にやっと笑うとぶんぶんと剣を振り回した。
「魔法の武器は自由自在でいいぞ~。軽いのに強度抜群。よくアニメでほっそいヒロインがでかい武器振り回すシーンあるだろ? 私はあれを見るたび『いやいや筋力どうなってんだ』と思ってしまうんだが、魔法の武器ならそれが可能だ」
あの見た目でアニメみるんだな。しかも粗探しするタイプの視聴者かよ。そういうのは考えないのがお約束なんだ。
いつか自分の首を絞めるかもしれないぞ。
「それって見た目とかもリクエスト出来るの?」
暇里が訳の分からないことを気にしている。見た目重要か?
「ある程度なら聞いてやるぞ」
「じゃあ私は天使の羽がついたレイピアがいいな」
「あいよ」
言うや否やブレヴィフォリアはレイピアを手にしていた。柄の部分に天使の羽がくっついている。
「ほれ」
「わ~かわいい! ありがとー!」
暇里はうきうきしながらレイピアを受け取る。これから戦闘するというのにいまいち緊張感に欠けるな。
怖くないのだろうか。
半分くらいの生徒はブレヴィフォリアが作った剣を見て顔を強張らせているんだがな。やっと戦闘ってことを自覚したんだろう。
気の抜けた暇里の態度をみて多少緊張が和らいだのか、ぽつぽつと武器のリクエストの声があがる。中には鉄扇を所望している生徒もいた。鉄扇ってどう戦うんだ?
「明。お前はどうするんだ?」
ブレヴィフォリアが声をかけてくる。
この中で最も武器を持つべき俺が何も言わなかったらそりゃ気になるか。
「俺はいい。武器の扱いに慣れてないからな」
「そうは言っても、素手で勝てる魔獣は一握りだぞ?」
「何とかなるさ。とにかく武器はいらない」
「ちょっとアンタ大丈夫なんでしょうね!?」
ラヴィニアが割り込んでくる。
「俺の身を案じてくれるのは嬉しいが、本当に大丈夫だ」
「誰もアンタの心配なんかしてないわよ! ちゃんと役に立つんでしょうねって言ってるの」
「そこは任せておけ」
「なんで自信満々なのよ……はっきり言ってクラスで一番不安だわ」
「始まる前から弱気になっても仕方ないだろ」
「……ダメそうだったら後からでも武器作ってもらいなさいよ」
「検討しよう」
タイマーを見ると丁度テスト開始の時間だった。周りの連中もそわそわしだす。
「よーし、お前ら準備出来たな? テスト開始! ほら散った散った 」
ブレヴィフォリアの号令と共にクラスの連中が一斉に走り出す。
俺は立ち止まってそれを眺めていた。
「ちょっとボサッとしてないでよ! いくわよほら!」
動かない俺を見てラヴィニアが怒り出す。
制服を引っ張るな。伸びるだろ。
わずかな時間の間に、この場にいるのはブレヴィフォリアと俺たちだけになった。
ラヴィニアの顔がとても描写をしたくないような形を形成している。噴火寸前だ。
「アンタいい加減に――」
「どこにもいかない」
「……え?」
「寝る。朝になったら起こしてくれ」
俺は草原に寝転がった。
大きな満月と星が視界を彩る。あれが本物の天体なのか分からないが、その美しさに違いはない。たまにはこうやって星を見る機会を作るのもいいかもな。
「アンタ馬鹿なの!? この世界のどこに開始早々寝る奴がいるのよ!」
「ここにいるだろうが。俺は動く気はないし、俺が動かなければお前も動けないんだ。観念して寝たほうがいいぞ」
俺はもう話すつもりはないという意思表示を込めて横向きになった。
因みに右を向いて寝る派だ。
「なんなのよーーーーーーー!!!!」
ラヴィニアの絶叫がこだまする。
寝ている人の近くでは騒ぐなと教えられなかったのか、こいつは。
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