0.プロローグ
初投稿です。
現代社会に似た世界で魔法遣いと異能力者が戦ったり協力したりするはずです。
ストーリーの進行はゆっくりだと思いますが、よければお付き合いください。
中間テストあたりからファンタジーっぽくなりますので、出来れば中間テストまで読んで頂けると嬉しいです。
ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!
という幻聴が聴こえた気がした。もしかしたらそれは願望だったかもしれない。
ラヴィニアがワイバーンに向かって放った攻撃魔法が、対象を見失い悲しく虚空へ消えていく。
「──なあラヴィ」
俺は空高く逃げていくワイバーンを────正確にはワイバーンの『すぐ横』に伸びている魔力の残滓を眺めながら呼びかける。
「うるさいうるさいッ! なによアンタ文句あるわけ!? アタシはね! ああいう細かい魔法は得意じゃないの! あとラヴィって言うな!」
きゃんきゃんとけたましいラヴィニアの声が、清々しいまでの青空に溶けていく。
見渡す限りの原野と森林。天を仰げば一点の陰りもない水色が視界を塗りつぶす。
いくら現実世界で実施できないとはいえ、中間テストに並行世界を使うとはつくづく規格外の学園だ。
「いや、文句はないが……だがあれを見てみろ」
俺は上空に浮いている巨大モニターを指差す。あれがどんな魔法で浮いているのかは検討もつかないが、今重要なのはそこではない。
表示されているのは絶望的なスコア差。
1位: 影御名方鈴々&老樹谷暇里 3079ポイント
2位: ヴァング・フライハート&ミミ・ララ 2401ポイント
3位: 様宵晶&ラヴィニア・ドラクロワ 1650ポイント
中間テストが始まって半日が経過しようとしている今は、丁度折り返し地点といっていい。
3位につけているのは幸運だが、1位とはほぼダブルスコアがついてしまっていた。
無論3位でも誇らしい結果なのは間違いないが、ラヴィニアはそれでは満足しないだろうということはこれまでの態度から明らかだった。
「今のワイバーンを倒せていればまだ勝機はあったが、このままだと差は開いていく一方だぞ」
「アタシのせいだって言いたいわけ!?」
ラヴィニアは頭の横にぶら下げている無駄に大きなツインテールを振り乱し喚く。
ぶらんぶらん、と不規則に動くそれはまるで生き物みたいで、少し笑ってしまいそうになる。
「鈴々のとこはねぇ! パートナーも優秀なの! どこかのチームと違ってね!」
中間テストのペア決めは完全ランダム。正直な所ここで勝負の7割は決すると言っていい。言い方は悪いが、役立たずと組まされたらそれだけで優秀な成績を残すのは困難になるだろう。逆に鈴々のチームのように有望な者同士が組めばそれだけで強力なライバルとなる。
ラヴィニアがどのチームを指して言っているのかは分からないが、どこかで頑張っているんだろう不幸なチームに、俺は心からの同情を捧げた。
「組み合わせは運だからな……役立たずと組まされた奴は、確かに不幸だ」
「〜〜〜〜ッ! う、ち、の、ことよーーーーーーッッ!!」
「………………うち?」
今世紀最大の青天の霹靂、思いもよらぬ意見に俺は唖然とした。
こいつ、もしかして俺の事を役立たずだと思っていたのか?
「アンタほとんどポイント稼いでないじゃない!」
痛い所を突いてくるな。せめてもの抵抗に俺はわざとらしく手を広げてみせる。
「それはそうだ。俺に戦闘能力はほぼないからな」
呆気に取られたのかラヴィニアは口をパクパクしている。人がここまで見事に『絶句』しているさまを見たのは初めてかもしれない。このまま国語辞典のイラストに採用出来るレベルのそれはもう見事な絶句に、俺は感謝の念さえ覚えた。
「はぁ……これじゃ1位なんて……」
やはり1位に懸ける想いは相当なものらしく意気消沈するラヴィニア。先程まで元気に暴れていた大きなツインテールは……かなしいかな、どうやらおやすみの時間のようだ。
「……………………」
中間テストはまだ半ば。寝るにはまだ早いんじゃないか。
それに、俺と組んだから負けたというのではラヴィニアが少し可哀そうかもしれない。
「いや、1位は頂く」
頭にハテナを浮かべたラヴィが顔を上げる。
「なによ、何か考えがあるっていうの?」
マッチングは運。そして俺は『幸運』だった。
「ラヴィ、お前はさっき『パートナーが役立たずだから鈴々には敵わない』と、そう言ったな」
「そ、そうよ……ホントの事じゃない」
少しバツの悪そうにするラヴィニアをあえて無視し、続ける。
「その通りだ。俺達のチームが負けているのは、俺が役立たずだからだ」
続ける。ここが士気の上げ所だ。
「確かに俺は役立たずだ。だがお前は違う。影御名方鈴々にも劣らない、お前のその才能を信じる」
覚悟を決め、腹から息を吐き出す。
「──特級狩りだ。俺達が勝つには、それしかない」
◆
ラヴィニア・ファンレイン・メルティレージュ・ドラクロワは典型的な固定砲台型魔法遣いだ。破壊力は高いが、細かな制御が出来ない。悪く言えばただ魔力を垂れ流すことに特化している。
一般的には今回のような遊撃戦には全く向かないタイプと言っていい。
遊撃戦は小回りが命で、それに燃費の良さが続く。
魔法使いに必要な『正確性』『持続性』を測るのに適しているから、こうして試験にも採用されている。
そしてそのどちらもラヴィニアは備えていない。これは大きなハンデだ。
だが、それを帳消しにするほどラヴィニアの突貫力は常軌を逸している。
出力の高さだけを見れば十年に一人の逸材と言っていいだろう。
ただ絶望的にこのフィールドがあっていないだけで。
動く敵に攻撃を当てられないだけで。
俺がひそかに補助してやらなければ、小型モンスター1匹満足に倒せないだけで。
素質自体はトップクラスなのだ。
ならば、それが活かせる状況を作り出してやればいい。
動かない敵相手ならば、今この瞬間この場で最も有力なプレイヤーなのは紛れもない事実。
中途半端に優秀な奴と組むより余程いい。少なくとも俺にとっては。
「無理無理無理絶対ムリよ! ドラゴンなんて倒せるわけないじゃない!」
「だが倒せば5000ptだぞ。これしかないと思うが」
「あんなのはお飾りで設定されてるだけで実際倒すようなものじゃないでしょうが!」
まあそれはそうだ。中間テストが今の形になってから50年、特級が討伐された記録は2件しかないと教師も言っていた。ラヴィニアの反応が一般的だろう。
「お前の言うことはもっともだが、やるしかない。鈴々のチームは日が暮れてから加速する。ちまちま小型中型モンスターを倒していても絶対に追いつけないぞ」
「はぁ……ちまちまも倒してないやつが偉そうに……」
どうやら怒る気力も失せてしまったようだ。
同年代の女子に失望されるのは避けたいが、ここでヒートアップして体力を消耗されては倒せるものも倒せなくなる。まだ呆れられるほうがマシというものだ。
最悪俺が倒すという選択肢もないではないが、極力目立つのは避けたい。バレないようにラヴィニアのアシストをするのが理想だからな。
「……念のため聞くが、ドラゴンと戦った経験は?」
「無いに決まってるでしょそんなもの。見たのも今日が初めてよ」
そう言うと山岳地帯の方角に顔を向ける。釣られてそちらに目をやると白銀のドラゴンが数匹飛んでいるのが遠くに確認できた。
「いくらアタシでも、ドラゴンの鱗を貫通出来るかは分からないわよ。試したことないもの。というかそもそも当てられないんじゃないかしら。空飛んでるし」
上を指さすジェスチャーをして、涼しい顔で言うラヴィニア。
なんだこいつ、もしかして開き直ってるのか?
それにしてもドラゴンの鱗を魔法で貫通しようとするとは、今日初めて見たというのはどうやら本当らしい。
「いやまあ、念のため聞いただけだ。そもそもドラゴンの鱗は高い魔法耐性を持っている。熟練の魔法遣いでも素直に正面から立ち向かえば鎧袖一触されるのがオチだ」
「じゃあもうどうしようもないじゃない。馬鹿なこと言ってないでモンスター探しに行くわよ」
「待て」
歩き出すラヴィニアのツインテールをとっさに掴む。引っ張られたラヴィニアの首が少し嫌な方向に曲がった気がしたが、きっと気のせいだろう。
「アンタなにすんのよ!! 喧嘩売ってんの!!?」
「すまない。とっさに掴めるところがそこしかなかったんだ」
「掴まんでいいでしょうが掴まんで……で、何よ」
何とかこちらの話を聞く態勢になってくれたようだ。
「聞け。鱗は狙わない。グレートウォール・アンドロギュノス種には弱点がある」
「弱点? ぐれーと……何?」
「グレートウォール・アンドロギュノス種。あそこに飛んでるドラゴンの種族だ。本来はイギリスのグレートウォールに生息している中型のドラゴンで、性格は温厚。自分から人間を襲うことないが、攻撃を仕掛けられた時は一転激しい攻撃性を見せる。弱点は顎の下にある袋状の器官で、ブレスを吐く瞬間を狙うのが定石だ。危険度、希少度は共にCランク」
「あんた、なんでそんなこと知って──」
「本で読んだ。昔な」
実際は何度か倒したことがある。その経験から言えば、うまく弱点を突ければラヴィニアの魔力でも倒せる可能性はあるだろう。
「お前のノーコンさは頭に入ってる。その点も心配はいらない。俺が必ず奴らの弱点をお前の眼前に晒してやる」
「心配いらないって……何するつもりなのよ。アンタ戦えないんでしょ」
ノーコン呼ばわりは怒らないのな。もしかしたら結構気にしてるのか?
「詳しくは言えない。信じてくれとしか言えないが……本当に何もない奴がこの学園に入れると思うか? そういうことで納得してほしい」
実際には入れたからここにいるわけだが。あの入学案内についてもそのうち調査しないとな……。
「まぁ……そうね、どうせこのままじゃ勝てないんだわ。泥船に乗った気持ちで付き合ったげるわよ」
「それでいいさ。あんまり期待されてもダメだった時心苦しいからな」
「ただ1つだけ確認したいんだけど……」
「なんだ?」
「弱点って……ブレスを吐く瞬間なのよね? それを眼前って……もし失敗したら、アタシ……ヤバい? ドラゴンのブレスって、どうなのかしら?」
その時は俺が代わりに攻撃するしかないな。弱点を突けば拳でも殺れることは以前確認済だ。
「安心しろ、その時は俺が何とかしてやる。お前には傷1つ負わせない」
まさかこんなセリフを口にする時が来るとは。この1週間で俺もすっかりこの学園の空気に染まってしまったのかもしれない。どこかワクワクしてる自分がいた。
「俺がお前を護る。お前がドラゴンを倒す。完璧な作戦だろ?」
まさか入学早々ドラゴンを倒す羽目になるなんて思いもしなかった。
1週間前の俺は──そう。
丁度この澄み切った青空のように清涼な気持ちで、箒鷲宮魔法学園の門をくぐったはずだった────。
読んで頂きありがとうございます。
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