とある異世界の魔法ってこんな感じ、ってぇ話。
(ツイッターで1RT10文字でっていったら短編くらいの量になったので、短編にしました)
異世界に、魔王を倒すために召喚された勇者。
その勇者のお供として付き従う人間の戦士と、エルフの魔法士。
勇者が魔法を使って戦っているのを見て羨ましいと思った戦士は、魔法士に魔法を教わってみようと考えた。
「おーいエルフの」
「ん? どうした戦士よ」
「俺に魔法を教えてくれ! 俺も勇者みたく魔法を使ってみたい!」
「……別にいいけど、幻滅するんじゃないぞ?」
「やったぜ!……って、幻滅? なんで?」
「そりゃぁ……いやまぁ、説明を聞けばわかるよ。まず魔法には詠唱があるよな」
「ああ、でも勇者は使ってないよな? 無詠唱。俺もあんな感じに魔法を使ってみたいもんだ」
「勇者は例外。まぁ、焦らず初級からやる事だな。理由は説明を聞いてくれれば分かるよ」
「おう、じゃあ説明してくれ、エルフ!」
~ ~ ~
●詠唱
それは一般的な魔法使いが魔法を使用するのに必要とされる。
初級詠唱では、以下のような詠唱が用いられる。
「炎の精霊よ……我が祈りに答えたまえ、我が魔力を用いて奇跡を顕現させよ! 願うは火の弾、叶うならば相応しき火により敵を打ち滅ぼさん――ファイアボール!!」
これを精霊語に翻訳すると、こうなる。
「すいませーん、炎の精霊さんですか?」
『はーい、なんですか?』
「魔法を使いたいんですが」
『はいはい、どんな魔法ですか?』
「えっと、ファイアボーク?っての、ありますか?」
『うーん、ファイアボールならありますけど?』
「あ、じゃあそれで……」
『魔力50になりまーす』
「これでいいですか?」
『えーっと、……あ、3多いですね。どうします?』
「あ、じゃあちょっと気持ち大きめに? いい感じで」
『かしこまりましたー、オマケしときますね。領収書はどうします?』
「いいです。あ、あっちの方に撃ってもらっていいですか?」
『はーい、店長ー! ファイアボールはいりまーす!』
かくしてファイアボールが発動する。
●詠唱省略。
上級者は上記の詠唱を省略できるようになる。
「炎の精霊よ……我が魔力を用いて奇跡を顕現させよ、相応しき火により敵を打ち滅ぼさん――ファイアボール!!」
これを精霊語に翻訳すると、こうなる。
「やってるー?」
『ん? おー。アンタかい。どしたの?』
「ちょーっと火のアレ欲しいんだけど」
『ああうん、いいよ。魔力頂戴』
「はいよ、こんなもんで」
『うん、ちょっと少なくない?』
「あー、じゃあ少し小さくしといて」
『はいよー』
かくしてファイアボールが発動する。
●上級詠唱省略
さらに詠唱を省略したものはこうなる。
「炎の精霊よ……我が魔力を用いて奇跡を顕現させよ――ファイアボール!!」
これを精霊語に翻訳すると、こうなる。
「おーっす、ファイアボールおくれ!」
『あいよー。魔力よこせ』
「どぞ」
『ん。ま、こんなもんか、じゃあこんな感じで』
「あざーっす」
かくしてファイアボールが発動する。
●詠唱破棄
熟達した術士にもはや詠唱は必要ない。
「ファイアボール!」
これを精霊語に翻訳すると、こうなる。
「ファイアボールで」
『はいよ、いつものね』
かくしてファイアボールが発動する。
●無詠唱
それは魔法を極めねば使う事の出来ない領域。
精霊との契約を行い、共に生きることを誓ってようやく叶う。
何も言葉を発することなく、指を動かしたりするだけで火を操る事すらできるのだ。
これを精霊語で直すとこうなる。
「(チラッ、くいっ)」
『分かってるって、ア・ナ・タ♪ ファイアボールでしょ?』
かくしてファイアボールが発動する。
~ ~ ~
「まじかよエルフ。魔法ってそういう感じなのか」
「そうだぞ。人間は精霊語が良く分からないだろうけど、店で買い物をするようなもんなんだ。無詠唱だけはこう、結婚した夫婦がツーカーで反応できるようなアレだけど」
「なるほどなぁ……」
と、ここで戦士はふと気が付いた。
「……ん? 勇者って無詠唱でいろんな魔法バンバン使ってるよな。あれって」
「ああ、大量の精霊を侍らせてる精霊ハーレムだな。普通の人間が真似したら修羅場……んん、精霊が暴走して大変な事になるだろう。真似するなよ」
「……じゃあ相反する属性を使えるやつが滅多にいないっていうのはまさか」
「まぁソリが合わない精霊同士で喧嘩するからな。逆に言えば、大金持ち――魔力の量でゴリ押しして納得させるか、イケメン――余程精霊に好かれるタイプじゃないとダメって事だ。勇者ってのは大体後者。むしろ金も持ってるのが召喚された勇者だ」
「なんてこった、勇者は精霊対象のNo.1ホストみたいなやつって事だったのか……」
「大体合ってる」
「じゃああの、特別な? 儀式魔法とかってのはどうなるんだ?」
「大きく分けて2つだ。一つは、単純に精霊に対して相応の対価で力を貸してもらう、いわば『そういう契約』って感じのもの。やることがカッチリ決まってるタイプの儀式魔法はこっちだな。で、もう一つは……お祭りだな。たくさん精霊を集めて気分を良くして、せーのの掛け声で手伝ってもらう感じ」
「……そっかー、お祭りかぁ」
「儀式ってそういうもんだろ? 誕生日を祝う儀式とか、雨乞いの儀式とか。まぁ、精霊たちにとっちゃ地引網漁みたいなもんだよ」
「あー、あんな感じかぁ」
人間の戦士は故郷の砂浜で、村人達が協力して綱引きして網を引き揚げる光景を思い浮かべた。皆で一つの事を成し遂げていた。
「ていうか精霊もなぁー……人間はいいよな、光る球くらいにしか見えないんだろ?」
「ああ、エルフには上級精霊なら人のように見えたりするんだろ? そっちの方が羨ましいぜ」
「馬鹿言え、振り向いたらしらないおっさんが立ってたりするんだぞ? あっ精霊か、ビックリしたー。って。家の中でもそうなるんだ。エルフの里での不審者目撃はだいたい精霊だったりする」
「……マジ?」
「小さなおっさんがちょろちょろ足元をうろついてるからな。ちなみに――勇者の周囲を侍っている『力のある精霊達』。俺にはマッチョのオネエ集団に見える。勇者には言ってないけどな……」
「……マジかよ。せめて美女であってほしかった……」
「精霊は性別の概念無いから」
「え、オネエってそういう事?」
「精霊力は人間で言うところの筋力だからな?」
「マッチョってそういう……」
結局、人間の戦士は魔法を覚えるのをあきらめた。