幸せはサラリーマンの足元から
今日も今日とて良いことがない。
些細なミスで上司に怒られるし、女子社員は僕の陰口で盛り上がっているし、贔屓の野球チームは今日も負けてるし。
不幸なのは家庭でもだ。
ここ2ヶ月ぐらい、妻の手料理を食べていない。
スーツにアイロンもかけてくれなくなった。おかげで、全身しわくちゃだ。
最後に口を利いたのはいつだろうか?
家に帰るのも会社に居るのも憂鬱だ。
モヤモヤとした気持ちを引きずり、あてもなく歩いていると、足元に違和感を感じた。
そういえば、さっきから靴の中に小石がある気がする。
靴を脱いで小石を取り出した私は、驚愕した。
「え?これ純金?」
思わず声が漏れてしまった。
これを宝石屋で換金すれば、一攫千金。
あわよくば会社を辞められるかもしれない。
純金をポケットに入れてすぐ、高価買取!という看板の主張が激しい宝石屋が目に入った。
珍しく良いことが重なっている。
宝石屋の扉を開くと、白髪のお婆さんが椅子に腰掛けていた。
「いらっしゃい。なんか換金しにきたんか?」
「そうです。こちらなんですけど」
金を取り出し、お婆さんに手渡した。
すると、お婆さんは目を光らせた。
「こりゃあ、大物やでアンタ。相当な額いくで」
「本当ですか!何円ぐらい?」
「あー、うちはちょっと特殊でな。現金は扱ってへんねん」
「え?どういうことですか?」
「うちはお客様の悩みを解決するてやり方でな。当然、宝石の価値に見合うだけのもてなしはさせてもろてます。どうや?あんた、えらい不景気なツラしとるけど。悩みあるんとちゃうんか?」
胡散臭い商売だ。信用できない。
言葉に詰まっていると、お婆さんた二ヤりと笑った。
「どうせ、嫁とうまくいかんとかやろ?」
「え?」
「服がヨレヨレで、顔色が悪い中年。これだけでわたしにゃわかる。あんたの倍は生きとるからなぁ」
「は、はぁ」
「胡散臭いでも思とるんやろけど、インチキやない。あんたの悩み、解決したるから目閉じぃ」
言われるままに目を閉じ、3、2、1。お婆さんのカウントで目を開けた。
すると、見違えるようにピカピカなスーツを着こなす私が、鏡に映っていた。
「格好ええやろ?人に愛されるためには身なりから。嫁さんのこと、惚れ直させたり」
高揚した気持ちで家に帰ったが、妻からの反応はなかった。
期待して損をした。
また憂鬱な朝を迎えると、リビングから懐かしい匂いがした。
匂いの正体は、手作りの朝食だった。
久々に飲む妻の味噌汁は、少し辛かった。