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妖精と狼と家来と

彼女は今、サラサラしていて温かく、なにかやさしい匂いに包まれ、ぼさぼさの髪によだれをたらしながらも、幸せそうな顔をしていた。




今までに味わったことのないそれは、永遠に続くかと思われたが、そんな時間は唐突に終わりを迎えるのであった。




彼女もそれを感じとったのだろう。




幸福そうなその表情も、見る見るうちに名残惜しくて、どこか残念そうな顔へと変わっていった。




そして今まで幸せのなかにいたはずの彼女も、少しずつ違和感を感じ始めるのだった。




ここで少し遡って彼女の夢を覗いてみよう。




彼女は今、モフモフの塊のあるどこかの部屋の中にいるようで、その中で飛んだり潜ったり、泳いだりと幸せの絶頂を満喫していた。




「ちょっとなんなのよこの形容しがたいなにかは。」




「もう決めた。私ここで暮らす。旅なんてもう知らない。もうなかったことにするわ。」




どうやら彼女の旅はここで終わりを迎えるらしい。




「もうここから一歩たりとも外にでるもんですか。」




そんなことを固く決意しながら彼女は幸せな気分に浸っている。しかしそんな時間は長く続かなかったようだ。




ずっと一緒にいるときめたそのモフモフ。




 しかし唐突にふすまが開くと、彼女を置いてすごい速さで逃げていくのだった。




「えっ?。」




一瞬あぜんとしてしまいなにがおきたか分からなかった彼女だが、我に返って悟ったらしい。




「にがすか~。」




私から逃げようとするなんて甘いわね。これでも鬼ごっことかには自信があるのよ。




今までの幸せな時間を諦められないらしく、追いかけ始はじめるのだった。




てゆーかなんで逃げるのよ。私なにも悪いことしてないじゃない。絶対捕まえてやる。




それにしてもなんて逃げ足の速さなの。




走れども走れども一向に追いつく気配はなく、むしろどんどん距離は開いていき、ついには視界にすら入らなくなってしまったようだ。




これには彼女も落胆したようで、地面に膝をつき、ただただ放心するのだった。。




「わ~た~し~の~モ~フ~モ~フ~。」




暫くたっただろうか。気持ちもだいぶ落ちついたのか落胆した様子をみせつつも、元来た道を引き返し、先程までいた部屋へ帰っていくのだった。




「あれっ。部屋の中になにかがいる気配がする。」




彼女はビクつきながらもふすまをほんの少し開け、顔だけ出して中を覗き込んでみた。




そこには先程まで狂おしいほど恋焦がれていたそれが、何事もなかったかのように佇んでいたのだった。




「ん~。えいっ。」




「バシッ。」


 


「モフモフ~。」




彼女は少し開いたふすまに手を掛けると力任せに押しのけたのだった。




中に飛び込み喜んで抱き着こうとしたのだが、さきほどとは違う違和感を感じて彼女は立ち止まる。




「なんか違う。さっきのと違う。」




「・・・」




「スンスン。」




「くさっ。なにこの匂い。」




そこに広がっていた匂いは先程のやさしいものではなく、まるで忘れさられた生もののような、そんな匂いへと変わっていた。




なんかいやな予感がする。どう考えてもさっきのあれじゃない。これはなにか別の物だ。




「・・・」




危険を感じたのか、額に汗を流しながら彼女は正面を向いたまま少しずつ後ずさりする。




だが得体の知れないそれは逃げることを許してくれなかったようで、一気に襲いかかってきた。




まずは顔、サラサラしていたそれはドロドロしたものへ変わり、顔を覆い尽くした。




次に体、温かく包みこんでいたそれは、冷たくベタベタと体にまとわりついてくる。




しかもそれは耐えられない悪臭、今まで天国にいた彼女を地獄へ叩き落とすには十分なもであった。




「くっ。くるし~。」




「たすけて~。しぬ~。」


 


「ぐっ。ぐぅえ~」




次第に覚醒する意識。それは彼女に現実を教えているようだった。




「はっ。」




彼女が最初に感じたのは、温かくざらざらした肌触りをしたなにか。それが寝ている彼女の全身をくまなく舐めまわしていた。




「やべっ。やべどっ。」




手足をばたつかせほんの小さな抵当をするのだが、そんなことはお構いなしにそれは舐め続けるのだった。




「モヴ、ズギニジテ・・・。」




抵抗していた彼女も諦めたのか。




手足を伸ばして降参するのだった。




狼も満足したのであろう。暫くすると顔を離していき、ぐったりして動かないそれを鼻でつつき、顔を離すと目を見つめてくるのだった。




見つめる視線に気が付いた彼女は立ち上がると。




「ちょっと。なんのつもり。」




「いくら私が可憐でいいにおいがするからって.......。」




などなど文句を言っているようだが、全身よだれまみれで、変なにおいのする彼女が言ってもなんの凄みも感じない。




言いたいことを言いきったた彼女は。




「もう無理。」




そう言い残すと近くの草むらに駆け込み、匂いと体のベトベトに嫌気がさしていたのであろう、目に映った水たまりの中へなんの迷いもなく飛び込むのだった。




すると狼が追ってきた。彼女は自分の手のひらを狼へ向けると。




「待て。」




「これからレディが水浴びするのよ。どっかに行きなさい。」




「しっしっ。」




そういって身振り手振りで狼を追いやれないか試すのだった。 




狼はそれに首をかしげながらも、なにかを察したようでこの場から離れていくのだった。




リフレッシュタイムも終わり、のんびりとした様子で大きな草の上で寝っころがっていると、さきほどの狼が戻ってきたようだ。




彼女は草の上で体を起こし。




「でっ。あんたなんのつもり。」




すると狼は言葉が分かるのか、ケガをしている部分を舐め始め、こちらを見返すのだった。




「あ~。そういうことね。」




「いいわよ。別に。こっちも十分堪能させてもらったから。」




どうやら手当してあった場所の薬の匂いを嗅ぎわけ、同じ匂いのあった彼女へお礼をしていたつもりらしい。




しかし起きたら尻尾に抱き着いている彼女をみてさぞ驚いたことだろう。よく襲われなかったものだ。




「じゃあ。これでいいわね。」




「あんたも何処かにいったいった。」




「しっしっ。」




と手を振るものの一向にその場から動く気配はないようで、しかたなく彼女が移動し始めるが、後ろから着いてくるのだった。




彼女が距離をとろうと飛ぶと走って追いかけ、彼女が止まると狼も止まる。




しかたなく地上の狼のもとに近づき、着いてこないように叱りつけるのだが、狼はどこか悲しそうな鳴き声を。上げるのだった。




「クゥ~ン。」




「ちょっと。あんたいい加減にしなさ・・・。」




ちょっと待った私。ちょっと待つのよ私。これは絶好の機会じゃない。




そもそも一人でこの草原を抜けることに無理があったのよ。疲れるし。でもこの目の前の生き物を使えば・・・ふっふっふ。




「分かった。あんたボッチでしょ。」




「しょうがないわね。ボッチじゃかわいそうだからこの私の家来にしてやるわよ。」




「一人じゃちょっと寂しかったしね。」




狼に聞こえないほどの小声でそうつぶやいた。




すると狼も理解したのか。




「ワゥオーーン。」




喜びの声を上げるのだった。。




「私の名前はミーナよ。」




「ところであんた名前は。」




「バウ。」




「いやそれじゃわかんないって。」




しばらくだまって考え。




「太郎やポチだと安直すぎるわよね。」




「あんたのいいところはなにか・・・。」




「そうだ。あんたのあのモフさ加減については私も認めてるから。」




「よしっ。あんたの名はモフ太郎よ。」




「喜びなさいあなたにぴったりじゃないっ。」




しかし狼もそんな名前をつけられるのが嫌なのだろう、ひっしに首を横に振るのだが。




「なに。そんなに気に入ったの。」




今まで自分のネーミングセンスに一切の疑いを感じたことのない彼女。




「我ながらいい名前ね。」




「長所がいいかんじに組み合わさっているわ。」




と自画自賛しているようで、首を振っていた狼もどうやら抵抗を諦めたようだった。




「行くわよモフ太郎。」




そう言って彼女は歩き出すのだった。




モフ太郎もうれしいのだろう。尻尾を大きく左右に振りながら走りだし。




「ワゥオーーン。」




するとモフ太郎は興奮しているのだろう。




 尻尾を振りながら彼女に近づいて体当たりし彼女を押し倒すとまた全身を舐め始めるのだった。





それはもうじっくりと。はもうじっくりと。

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