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聖人

御目に止めて頂き、大変ありがとう御座います

「ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字666である。」    ヨハンネ黙示録




月光蒼く闇に降り灌ぐ夜、奴等は動き出す。



「!お願いです!これは何かの間違いです!どうか…どうか!この縄を解いて下さい!お願いです!どうか――――――!」


処女の聖母マリサが馬小屋で、子を産み落とす際、口に咥え噛み締めた馬の手綱。それを編み直して造った、聖連縄(せめなわ)を使って、手首を縛り木に吊るされ、必死の形相で誤解を訴える女。


腰にぶら下げた、1本の鞭を手にした。


マリサの子、イエス・キリトが覚えの無い罪を被り、己を張り付ける十字架を背負い歩いた時に使われた、世呼破魔鞭(よこはまべん)のジャンを握り構えた。


それを見た女は、体を揺すり涙を浮かべ懇願する。

「止めて下さい!どうか!どうか!お願いです!それを!しないでえ下さい―――――!!!」


こんなやり取りを私は今まで、何度繰り返しただろうか…100は違いない…。



日の光を好まぬ俺。

ぶっちゃけ余り人と関わりたくないのが本音だ。

従って、人が寄り付かない深い森の奥に家を構え、まあ空き屋が有ったから勝手に住んでいるんだが。


ん?何でそこにいるか?って…何から話せば良いのやら…。


ああ、そっか、そうだな自己紹介がまだだったな。

俺は、烏間(からすま) 霧斗(きりと) 、友達からは烏で、クロウって呼ばれていた。


正確な歳は、向こうの死ぬ前は54才で、こっちに来てから、2年だから…56才だ。


まあ良くある話しかも知れんがな、三流大学出で万年係長止まりの(わたし)が、リストラで会社を首になり、嫁と子供に愛想を尽かされ離婚した事を切っ掛けに、周りの物を綺麗に処分して、若い頃からの夢だった旅に出たんだ。


着の身着のままの、バックパッカー気取りで日本国内を旅していた時に、喰うかい?…空海上人が拓いたとされる、高野山の修験道をヘコヘコ歩いていた時さ、私の目の前に猿が飛び出してきてね、


「おっ!猿?」


それと目が合った時に、山崩れが発生してね、

「危ない!」

と叫び咄嗟に猿の上に覆い被さって…。

背中のリュクが気休めのクッションになったけど、数十㌧て岩がね…まあ時間の問題だったんだが、抱え込んだ猿が猿じゃなかったんだよ。


体がトラの縞模様で、ライオンの様な風貌のヒヒのような奴だった。

そいつが、悲しい目をしながら私の方を見ているものだから…ついね、

「…ぁぁ…無事だったか…そんな目で見るのはよしなさい…私が好きに動いた…結果だ…。」

と、負け惜しみな格好良いセリフを吐いてね、

僅かに動く右手で、猿の頭を撫でた途端、猿が半透明になって消えながら、

『…悪い事をした…許せ…。』

そんな言葉が頭に届いて、絶命したんだよ。


…嫌…したはず…だったんだが…ね…。


次に気が付いた時は、もうコッチ側っ~うか、この世界の森の中に居たんだよ。


最初は訳も分からず、生き延びた事と背負ったリュクが無事だった事を喜んで、何とか森を抜けて近くの村に辿り着いたんだ。


けど、妙だったんだ。

村の入り口に表札があって、見た事も無い字が書かれてて、薪を背負った老人が居たから話し掛けたんだ。


「御老人!ここは何処ですか?」 

そしたら、怪しんだ顔をして聴いた事の無い言葉で、

「◎#◇%?…×@●□★○~!」

もうね…はあ?てな感じでさ、ジェスチャー交えの英単語を繰り出しても、意思の疎通が出来なくて、老人もいそいそと去って行って…。

他の数人にも、話し掛けたけど無駄に終った。


で、ある事に気が付いた。


車が走って無い。電線も電信柱も…無いて事を。


それから段々と、分かって来た。

大昔のヨーロッパ辺りの田舎に似ていて、人の服もそれに近く、人と馬、牛と羊が見えるだけ…ああ…ここは…地球じゃ無いって事を理解した。


何時も見ている太陽。


何時もの半分の太陽が…2こ…並んでた。


(わたし)は、息子が中学生だった時に良く読んでいた物語の数々を思い出していた。


死んで生き返ったら水飴モンスターだった件や、ドクロのアバーターのまま別世界へ行った、オーバードーロなど…カテゴリーは…、

[異世界]ワードは[転移]…。


途方にくれ、項垂れて村の入り口にしゃがみこんでいた時、少女が近付いて来た。


興味津々で、少し前から私の行動を影から観ていた少女だ。


下から私の顔を覗き込みニカッと笑うと、木製のお椀を差し出した。


私はハッとして、お椀と私を指で交互指し示し、

「 こ れ を わ た し に ?」

少女は首を縦に降り、

「うん!」

と頷きニカッとした。


40を過ぎたあたりから、胃がもたれ内臓がゴロゴロ言う様になってから、余り好きでは無かったが、お椀の中に波打つミルクを有り難く頂いた。

「…ゴクッゴクゴク…ゴクゴクッ…!」

旨い!旨くて有り難くて、情けなくて…涙が浮かび流れ落ちた。


少女は私の涙を見て、少しオタオタしている。

「変な物を飲ませたてしまった!」

と思っているのだろう。

私は微笑みながら、お椀を返すし少女の頭を撫でた後、つい何時もの癖で手と手を合わせ、

「御馳走様でした。」

と言った瞬間、合わせた手の中から光が漏れだし、眩いばかりに光輝き出したのだ。


それを見た少女は、驚きの余り尻餅を付き、私の光る手を見ている。


私は合わせた手を離し、両手の平を上にすると光の中に、何やら文字が浮かんでいた。


見た事も無い文字だが…、何と書いてあるのか不思議に分かったのだ。

只、【聖人】とだけ書き示されていた。

















生暖かい目で、宜しくお願い致します。

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