放課後
今週はテスト期間だ。多くの生徒が学校に残って勉強をする。私もその中の一人で今から図書室で結衣と勉強をするところだ。
「…だよね〜。」
ふと一組の教室から赤華の声が聞こえてくる。思わず耳を傾けてしまう。
「そう言えば赤華ちゃんバンドやってるんでしょ?」
「うん。今テスト期間だから練習してないけど…」
「フェスとか出ないの?」
赤華の友達は、高い声を上げて話す。そうとう興味津々なのだろう。
「うーん。そうゆうのはまだかなぁ…」
私達はまだ人前で演奏した事がない。もしかしたら、私が下手だからみんな人前で演奏したくないだけかもしれない。
「そういえば一人だけ下手くそな人いるんでしょ?みんなそこらのバンドより上手いのに。」
声のトーンを落としながら言う。…私だ。確かにみんな素人とは思えないほどの腕を持っている。
「うん。一人だけね…」
遠慮がちに答える語尾はほとんど消えていた。
「何の人?何の楽器の人!?」
さっきよりも興味津々に聞く。おそらく身を乗り出しているだろう。まったく、なぜこうにも人の悪口というのは盛り上がるのだろうか。
「ベースの人…」
だろうな。わかっていた。自覚してた。自分が下手くそなことぐらい知ってる。
なのになぜ何も見えないのだろう。歩こうとしても視界がぼやけてヨロヨロと前に進めない。
ドサッ、思わずその場に崩れ落ちてしまう。一瞬で教室の中の空気が変わる。
すりガラスの向こうの目線がこちらを向くのがわかる。急に身体が動き出す。私は走っていた。
角を曲がった瞬間「誰もいないよぉ〜」という声が聞こえる。それを機に何も感じなくなる。
ただ、何かがプツンと切れる音ははっきりと聞こえた。




