異世界不転生
言いたいことをしっかりと言えたかはわかりませんけど、ま、僕のラノベアンチの一つとして捉えてください。
特に、人を励ますとか、そういうつもりで書いた訳ではありません。
これは困った。
流石に赤信号で横断歩道を突っ切るのはダメだった。
ともかく、僕は死んだ。かなり後悔している。彼女はできたことはない。テストで100点を取ったためしはない。海外に行ったこともない。
「済まぬな。若造。」
僕は今、一人のじいさんと対面している。誰かは知らない。
「なにが、ですか?というか、誰ですか?」
「フォフォ、ワシは神じゃ。」
神?うーん?そう言われればまあ、確かに神に見えなくは無い。そしてここが天界だの世界の狭間だの言われても疑うことも無いだろう。なにせ、青空と白い床しかないからな。
「えっと、神様が僕なんかにどんな用ですか?」
「おぬし、まだ死にきれぬのじゃろう?」
「え、あ、まあ。はい。というか本当に僕、死んでしまったんですね。」
「そうじゃ。2トントラックに轢かれてな。」
2トントラックか。それは恐らく即死だろう。
「そこでじゃ、おぬしに一つ謝らねばならぬことがある。」
「え?」
神様に何を謝られるのだろうか。心なしかとても不安である。
「おぬしの寿命は残り70年あるのじゃ。」
え。
「おぬし、覚えておるか?一緒に道路に飛び出した中年の男を。」
あ、そういえばいたような気がする。酒のニオイがとんでもなくキツかった記憶がある。
「もともとはその中年の男を事故死させて、閻魔大王のとこに向かわす予定じゃったが、ほんの手違いでおぬしを殺めてしまったんじゃ。すまぬ。」
は?
「え、ちょっと待ってくださいよ。僕、これから70年生きるはずだったのに、まだ17ですよ?それを『すまぬ』の一言で許せと?僕、そんなこと言われたらトラックの運転手よりアンタを恨みますよ?」
「すまぬ。本当にすまぬ。その代わりというのも変じゃが、おぬしに二度目のチャンスをやろうと思う。」
二度目?
「おぬし、パラレルワールドというものを信じるか?」
パラレルワールド?あの、別の世界線とか、平行世界とか言うやつか?
「まあ、はい。知ってはいます。」
そんなことよりもっと誠意を持って謝ってほしい。コイツの『すまぬ』にはどこか偉そうな雰囲気がある。
「そこでじゃ、おぬしにはそのパラレルワールドで第二の人生を暮らしていって貰いたいのじゃ。」
暮らしていって貰いたい?オイオイ、コイツは人を殺しておいて何が『貰いたい』だ。
「あの、まさか、それで許せ、と言うんですか?」
「そうじゃ。これがワシのできる最高の謝罪じゃ。」
「いやいや、馬鹿か、お前は。なあ、そのパラレルワールドは俺の元居た世界とは違うんだよな?」
「そうじゃ。じゃが、不自由の無いようにおぬしに最高のステータスをやろうと思うのじゃ。」
「ふざけんな!」
神は驚いたような顔でこちらを見る。
「なあ、俺のことはそれでいいかもしれないけどさ、俺の家族はどうなる?てめえの手違いで殺人犯扱いされるトラックの運転手はどうなる?」
「いや、それは、あの、じゃから、その。」
「はあ、呆れた。因みに、その最高のステータスってのは何?どんなのなの?」
神は空間に文字を出現させた。そこには攻撃力9999だのLv125だの色々と書かれていた。
「え、何これ。凄さがわからないんだけど。」
「おぬしが転生する予定の世界では最強になれる強さじゃ。」
ますます呆れた。
「お前さ、人間というものを知らなさ過ぎるだろ?」
「な、なんじゃと?」
「その、最強になれるステータスってのは人間が誰しもが憧れて誰もが欲しがるだろうけど、でもそれをあっさりと手渡されてもね、つまらないんだよ。とあるスポーツ選手は今、海外で活躍している。そして最高の選手と呼ばれている。だけどそれはセンスとか、そういうのが全てじゃない。その選手が大切にしている言葉は『努力』なんだ。だからこそそこに惹かれる。お前はその人間の『努力』に価値を見出す精神をわかっていない。」
「ふん、下らぬ。何が努力じゃ。ありきたりなのじゃよ。」
は?
「努力なんて言えばいいのじゃよ。おぬしがこのステータスを持って転生し、強さの秘訣は?と訊かれたらその『努力』とやらを理由にすれば良い。それでおぬしは名声を手に入れられる。」
···。
「はあ、なるほどね。じゃあ、そのステータスをくれよ。でもまだ転生はするなよ。」
「フォフォ。安い御用じゃ。」
神は驚きつつも、心の中ではやはり綺麗事か、と安堵していた。
自分の体が光に包まれる。そして、その光が止んだとき、ステータスを手に入れたらしい。
「なあ、神よ。この力を努力と言え、と言ったな。」
神は頷く。
「それはな、本当に努力した人間への冒涜なんだよ。」
「は?」
神は目を丸くした。僕はその首元に手を伸ばす。そして胸倉を掴み叫ぶ。
「これは努力への冒涜なんだ!ありきたりだと?笑わせるな。努力があるからこそ人間は強くなれるんだ!偽りの努力など無価値なんだよ!」
まだ続ける。神の目は正に「意味がわからない」と、訴えるようだった。
「どれほど傲慢で、この力を手にして平然と努力だと言えるような奴でも罪悪感を感じるんだよ。何故か?それは自分は努力をしていないからだ。嘘をつき、名声を手に入れてもその罪悪感は増幅する。たとえ、努力だと言わなくても、世界全ての人間は自分より弱い。それは揺るがない。不変であって、新鮮味が無い。」
「それの、何が悪い?その嘘を見破れる人間もまた世界にはいないのだよ?」
僕は神の顔面を殴った。流石、最強。それを実感できるほどの手応えだった。
「なあ、そんなことして、自分以外の誰かから得た力で名声を得たところで僕はきっと満たされない。そんなのは最強とか以前に人として廃れているんだよ。」
「ならば何を望む?最強を手放すというのか?」
「そうだ。望むなら俺はあのトラックの運転手が殺人犯と思われないこと。家族の怒りを晴らすこと。それが望みだ。実際、俺は自分のミスで死んだんだ。お前の手違いとか以前にな。」
「まさか、そんな下らぬことを望むというのか?」
「下らない、ね。神ってのは案外馬鹿なんだな。」
神の顔が紅潮する。
「人を上から見るだけで、終わり。その本質を見ようとしない。ただ、上いることに優越感を感じ、そしてそれだけで満足する。」
「何?おぬし、ワシを馬鹿と言ったな。ワシは神だぞ?逆らったら···。」
「おっと、何をするつもりかは知らないが、僕は今、最強だからな。」
僕は神を笑った。
「滑稽ってのはこういうことを言うんだな。いいか、神、人間が物を望むのは間違いではないが、ただ単にそれを得れればいいわけではない。その過程こそが大切なんだよ。俺はもう、死んだんだ。本当に俺の望みを叶えるかはどうかとして、俺は逝くべきところに逝くだけだ。」
神は打ちひしがれたまま。動かなかった。
如何でしたでしょうか。
ご都合主義のラノベに一石を投じれればいいなと思いますを