第3章 神姫雪ファン感謝デー♡
どこからおかしくなったのだろうか。
「ピーマン…」
「…修二さん。全然違いますよ」
「 www www」
いや、答えは解っている。
「むふふん。むふふん」
(……イラッ)
電車男からというより、初めからである。
神姫雪に聞きたい事というテーマで始まったハズのイベントは、いつのまにか霧島修二に聞きたい事というテーマに変わっていた。
雪が一番嫌いな食べ物は何ですか?という質問。
良くある質問である。
グルメ番組やグルメロケに呼ばれた時の為にと、マネージャーである修二は当然知ってはいるものの、一番ともなると、話しは別であった。
(ピーマンが嫌いって言ってたじゃねぇか!)
イライラしながら客席を見ると、神姫雪のファンなら知ってて当然だろ?はん?みたいな表情を浮かべるファン達の姿が見える。
つまり、アレだ。
ファンとマネージャーでは、どちらが神姫雪について詳しいでしょうか?みたいな、ファン対マネージャーの構図が出来上がってしまっていたのであった。
いかん。いかん。
司会進行であり、マネージャーでもあるのだから、今日この日の為にと集まって下さったファンに対し、イライラするなどあってはならない事である。
「修二さん。私、悲しいです。せめて一問ぐらい正解して欲しいですよ…(>人<;)」
「…あ、ああ」
泣き真似をする雪を見ながら、修二は恐怖した。
せめて一問ぐらい。
つまり、一問正解するまで帰れま10 だということなのだろう。
すでに10問以上、答えてるけどな!というツッコミは胸にしまっておこうか。
そもそもだ。
雪が一番好きな映画とか、一番好きな芸能人とか、一番好きなラーメン屋とか、一番をつけるのだけは、勘弁してほしいものである。
あと、空気をきちんとよむのもな!
電車男に続くように、一番好きな〇〇は?と、質問ばかりしてくるファン達。
タチが悪りぃぜ。
今ならKY(空気をよまないヤツ)サイコーと、心の中から叫べるからな!
「…じゃ、じゃあ、次の質問にいきましょうか」
「私に、質問ある人ーー!!」
と、元気良く質問する雪。
それに対し、俺に質問ある人だろ?と、心の中でツッコむ修二。
もしも指名する権利を雪が握っていたとしたら、修二は永遠に帰れま10だっただろう。
「えぇと…それでは…」
いや、雪が権利を握っていたとしても、結果は変わらなかったかもしれない。
何故なら、スッと手を挙げ、次に質問をしてきたファンはめぐみだったからである。
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何で参加してんだよ!と、修二と結衣は思った。
無論、そんな事は口が裂けても言えない。
男性が多い中、若くて可愛い女性が手を挙げると、それに気付いたファン達は"ささささささ"っと、次々に手を降ろす。
めぐみしか手を挙げていないのだから、当然、指名せざるを得ない雪。
いや、めぐみ以外のファンが手を挙げていたとしても、雪ならめぐみを指名したかもしれない。
ともあれ指名されためぐみに、マイクが手渡された。
「雪さんは今、幸せですか?」
「…………」
それだけを告げ、めぐみはマイクを下ろした。
しかし、椅子に座る素ぶりを見せないところから、どうやら雪と会話をする気らしいと、雪と修二、結衣は思った。
「幸せだよ♡今日もたくさんの方々が私の為にと、わざわざ足を運んでくれたんだもん」
これは、雪の本心である。
人の一生というものは、長いようで長くはない。
○月○日という日は年に一回しかなく、一生に換算すれば、何十回、何百回と過ごす事になる。
しかし、○月○日を18歳で過ごすのは何回過ごすのかと聞かれれば、それは一回しかないのだ。
今日という日を迎えられ、たくさんのファンに囲まれている雪。
幸せじゃないハズがないではないか。
「雪。それは、貴女の本心?」
この質問に対し、会場内がざわつく。
まるで、昔馴染みのような問いかけ。
まるで、雪がタレントとしての、神姫雪としての返しであって、水嶋雪としての返しではないと、そう告げているような問いかけ。
また、この女は何を言っている?という疑問。
三つの意味でのざわつき。
「本心だよ。だって、嘘をつく理由がないでしょ?」
めぐみの質問に対し、雪は考える素ぶりすら見せず、即答した。
それを聞きながら、結衣や修二、質問をしためぐみは思う。
嘘をつく理由はあるハズだ。と。
ファンを傷つけない為の嘘。
修二や結衣、千尋を傷つけない為の嘘。
自分自身が、芸能界に居続ける為の嘘。
しかし、今となれば、コレが雪の本心だったんだと、この会場に居た全員が納得する言葉である。
何故なら彼女は病気と戦いながら、今日という日を生きていたのだから…。
静まり返る会場内。
何とかしなくてはと、修二と結衣は思うも、修二では役不足であり、結衣に至っては裏方である。
沈黙を打破したのはやはり、雪であった。
「・・っと。どうやら時間がおしちゃってるみたいだから、次のコーナーにいこうかな」
チラチラと舞台袖に目を向けながら、雪はそんな事を言い出した。
まるで、舞台袖から"次のコーナーへ!!"とか、"まいて、まいて"とか、"時間がおしてます"などなど、指示が出されたかのような態度である。
勿論、舞台袖にいるのは結衣だけであり、結衣はそんな指示を出していない。
「えーー!?」
「えーって、仕方ない、の!質問コーナーだけで終わってほしくないでしょ?それじゃあ、修二さん」
「……⁉︎あ、あぁ。次のコーナーは」
会場の空気というか、雰囲気を察した雪の判断であった。本来であれば、和やかな雰囲気になったところで、次のコーナーにいくハズであったのだが、このままではマズイと、雪は思ったのだろう。
修二が次のコーナーを紹介する前に、神姫雪のファンなら誰もが知る、イントロが会場内に流れ始めた。
それにより、修二のコーナー紹介は不要なものとなり、会場内の空気が一変する。
「う、うぉぉおお」
高まるボルテージ。
響き渡るは熱狂。
オイ!オイ!オイ!オイ!と、イントロ部分の合間、合間に、会場内にいるファンが一致団結して声をあげる。
「盛り上がって、いくよーー!!」
Aメロに入る直前で、雪は客席を煽る。
「聞いて下さい。雪の時間」
「ウォーーー!!!」
雪のデビューシングルを歌い出すと、会場内のボルテージは最高潮に達した。
それを背中で感じながら、修二は舞台袖へと消えていくのであった。




