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アイドルとマネージャー  作者: 伊達 虎浩
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第3章 雪物語 その壱…⑩

 

 雪の楽屋。


「ほら!台本を読みなさい」


「へいへい」


 最終チェックの為、台本を開く三人。


 いや、台本というより、しおりといった方がいいかもしれないな。と、修二は思った。


 というのも、わずか3ページしかないからである。


 神姫雪 ファン感謝デー♡と、書かれた表紙。


 その表紙には、子供の絵のような落書きが書いており、その下には、出演、企画、神姫雪。と、書かれている。


「なるほどな」


「どうしたんですか?」


「いや、この絵はアレだろ?E.Tをモチーフにしたんだろうなって思ってさ」


「E.Tって、映画のですか?」


「そうだ。要は、皆んな友達っていう意味なんだろうな」


 二人の人間らしき人物が表紙には描かれており、指と指がくっつけられているかのような、そんな絵であった。


 ファンと神姫雪は友達。


 そういった思いが、この絵には込められているのだろうか?


「………」


「しっかし、アレだな。宇宙人を描くなら目は大きく、アゴはシュッと細くが基本だよな?ははは。千尋のヤツ。()()()()()()だったとはな」


 上半身のバランスは非常に悪く、下半身にいたっては何故か三角形と、はっきり言ってこの絵は、幼稚園児レベルであった。


  千尋は、我が芸能プロダクションの社長であり、修二や結衣の幼馴染だ。


 雪の初イベントに、自分も何か手伝いたいと申し出たのはいいが、この絵は流石に笑えるレベルだぞ。


「しゅ、修二さん!!」


「ん?いや、悪口とかじゃないからな」


 雪に呼ばれ、そう返しながら雪を見ると、チラチラと別の方へと目を向ける雪の姿があった。


 まるで、見て、見て、と言っている雪の視線を辿ると、無言でうつむく結衣の姿が見える。


 げ!?しまった…と、修二は思った。


 というのも、結衣は千尋を敬愛しているからだ。


 敬愛する先輩(ちひろ)を侮辱されたとなれば、結衣が怒る事になるのは目に見えている。


 誤魔化さないとこれはマズイ…。


「あ、いや、コレは違いますよ?ほら?今流行りの、バラエティーのアレですよアレ」


 絵が下手なお笑い芸人さん達がスタジオに集まり、面白おかしくトークを繰り広げる人気番組のようだね。と、例える修二。


 絵が下手なのは自分だけではない。


 むしろ、絵が下手なのは個性であり、恥ずべき事ではないのだから、くよくよしたりするなよな!


 運動神経が悪くたっていいじゃないか。


 中学の時にイケてなくったっていいじゃないか。


 な?そう思うだろ?


 そんな事を自問自答した修二は、結衣が怒る前に動く。


「あ、姐さん?」


 が、動くのは不発に終わる。


 いや、正確には、違う動きに変更になったが正しいだろう。


 プルプル震え出す結衣を見て、誤魔化す事をやめた修二は、心配の声をかけたのである。


「…下手くそで悪かったわね」


「え?」


「下手くそで悪かったわねって言ってんの!!ほら?笑いなさいよ?おかしいんでしょう?どうしたのよ?ほら、ほら?」


 ぐい、ぐいっと、距離を縮める結衣。


 口元は緩んでいるものの、決して目だけは笑っていないその表情を、修二は直視する事が出来なかった。


「あ、いや…な、何か、すいません…」


 右足の親指をグリグリしてくる結衣を見ないようにしながら、謝罪する羽目になる修二。


(絵心ないのは、お前だったのかよ)


 まさか結衣が描いていたとは、夢にも思わなかった修二であった。


 ーーーーーーーーーーーー


 数分後。


「と、とにかく…な?時間も時間だから」


「ふん。分かってるわよ」


「じゃ、じゃあ…ページをめくるね」


 そんな会話をしながら、しおりをめくる三人。


 しおりをパラっとめくると、雪の挨拶が書かれていた。


「へぇ〜。冒頭にもってきたか」


 と、感心する修二。


 この雪の挨拶は、イベントが始まるまでの前菜的な意味を持つ。


 例えば、イベントまで残り20分だったとしよう。


 友人と来ていれば別だが、一人で来ているファンにとってこの20分の間は、地獄のようだと言っても過言ではない。


 基本的にこういったイベントでは、録音や録画を防ぐ目的がある為、携帯の電源を切る事がマナーである。


 つまり、携帯無しの状態で、20分もの間を過ごさなくてはならないというわけだ。


 そうならないようにする為に、このしおりが役にたつのである。


 前菜として、雪の挨拶や経歴を載せ、ファンが読み終わる頃に、メインディッシュである雪の登場。最後にデザートとして、雪の感謝の気持ちをこのしおりの最後に載せれば、完璧ではないだろうか?


 修二が感心したのは、ここであった。


「結衣ちゃんがアドバイスをくれたんですよ」


「流石、姐さん」


「ふん」


「は、はは…。いい加減、機嫌直して下さいよ」


「誰の所為だと思ってんのよ!?」


「すいませんです。はい」


 怖い、怖い。


 修二は逃げるように、雪の挨拶を読み始めた。


「おかしな点があったら、言って下さいね」


「いや、今気づいたところでもう手遅れだろ」


 漢字の変換ミスとかに、今さら気づいた所でだ。


 すでにファンの手元には、パンフ(パンフレット)として配られてしまっている為、修二の意見は正しかった。


「馬鹿ね。誰が最終チェックをしたと思っているのよ」


 最終チェック担当は、我等が結衣様である。


 ま、問題ないですよね…絵、以外は(笑)


 雪の挨拶は、それなりのものであった。


『本日は忙しい中、わざわざ足を運んで頂き、本当にありがとうございます』


(…少し堅苦しい気もするがな)


 そんな冒頭の挨拶があり、読み終わった次の行から、雪の経歴が載っている。


 念のため言っておくが、経歴といっても、何年にデビューした!とか、初めてドラマのデビューは何年でした!とか、そういったものであり、〇〇中学卒業とか、そういったものは載っていない。


「なぁ、おい?細かすぎるんじゃないか?」


 初めて〇〇というドラマで、ドラマ出演した。と、書かれている経歴を見て、修二は疑問の声をあげてしまった。


 そのドラマは確かに、神姫雪の初ドラマ出演ではあるのだが、役は役名も何もない、チョイ役である。


「馬鹿ね。ファンに嘘はつけないでしょ?」


「いや、そうだがな…」


「ふふふ。修二さんの初ドラマ出演でもあるんですよね」


「ば、馬鹿!思い出させるな」


 雪はくすくすと笑う。


 雪の初めてのドラマの役は、喫茶店で話し込んでいる女子大生の役であった。


 主役やヒロインの方が喋っている背景で、別れ話しをしているカップル大学生。そんな設定。


 いや、どんなドラマだよwwwと、言いたい気持ちも分かるが、良くある話しではないだろうか?


 要はアレだ。


 主役の方々が別れ話しをしている背景で、別れ話しをしているカップルの喧嘩が始まり、その喧嘩の仲裁に入った主役の方々がそれをきっかけに、別れるのをやめた。みたいな設定だ。


 な?良くある話しだろ?


 その時の雪の相手役が急遽お休みになり、ピンチヒッターとして、修二が選ばれてしまったという経緯があり、雪と修二の初ドラマ出演だったのである。


 ※この話しは、後々書きます。是非、楽しみにしていて下さい。


「神姫雪のファンなら誰もが知っているわけでもないのよ?こういった細かい事を載せる事に、意味があるの」


 イベントに来てくれるファン全員が、雪について詳しいというわけではない。


 最近、ファンになった人だっているだろう。


 つまり、結衣が言っている理由は、ここにある。


 来て良かったと、そう思えるイベントにしたい。


 では、そう思ってもらえるにはどうすればいいか?


 このパンフは、一つの答えである。


「確かにそうだろがな…大丈夫か?」


「大丈夫ですよ!皆んな…私のファンなんですから」


 何の根拠もない雪のこの発言を、修二と結衣は否定する事が出来なかった。


 否定するということは、今日来てくれた人、来れなかったが、雪を応援してくれている人を否定するということになるからである。


「それもそうね」


「だな」


 雪を応援してくれる人がいるから、自分達は生きていけているのだ。と、その事を三人は良く理解していた。


『皆さん。そろそろ…』


 楽屋の外からそう呼ばれ、はーい!と、返事を返す雪。


「はぁ…結局、こうなるのね」


「いや…そんな睨まれても」


「ふふふ。いつもバタバタですね」


 最終チェックが終わる事もなく、本番を向かえる羽目になってしまった。


 ふー。と、小さく息を吐くと、結衣の表情が変わる。


「雪!修二!」


 そう呼びながら、結衣は楽屋出口のドアまで歩き始めた。名前を呼ぶ声も、先ほどまでとは違っている。


「はい!」「へい」


 まるで、玄関の前から見送るかのように、結衣がドアの前に立つ。


「いってらっしゃい」


 左手は腰にあて、右手を斜め上にあげながら、我がサクラプロダクションの決まりであるかけ声をかけてくる結衣。


 そのかけ声を聞き、雪は満面の笑みを浮かべ、修二はやれやれといった感じで、楽屋出口へと歩き始めた。


「いってきまーす♡」


「いってくる」


 パン。パン。と、結衣とハイタッチをかわしながら、雪と修二は楽屋を後にする。


 それはまるで、学校や会社に向かう家族を自宅から見送る、家族のようであった。

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