第3章 雪物語 その壱…③
雪が気合いを入れているころ修二はというと、事務所で支度をしている最中であった。
支度といっても、車の鍵やバッグなどを準備するだけである。
「修二」
と、結衣に呼ばれた修二は、何のようだ?とは言わなかった。
テクテクと自分の前までやって来る結衣。
両手を軽くあげているその姿から、ああ。なるほどと、修二は納得したのであった。
「ネクタイ、曲がってるわよ」
「ありがとうございます」
いつものヤツである。
最初の頃は、え?え?と、戸惑ったり、まるで新婚みたいだな 笑。などと茶化したりしたものだが(その後、めちゃくちゃ殴られた)今ではすっかり同じみとなっていた。
キュッキュッと、ネクタイを締め直される事により、結衣の身体の一部が少しだけ密着してしまう。
といっても、胸元とかではなく、腕や足などである。
しかし、彼もまだ18歳と若い身であり、同じみとなっても慣れないものであった。
その証拠に、ほんのり顔を赤くしてしまう。
「ねぇ、修二?」
甘い香りを漂わせながら、結衣が問いかける。
「…何ですか?」
問いかけられた修二だったが、顔を下げる事が出来なかった。
下を見ると結衣が居て、服の隙間から胸元が見えてしまうからとかそういった理由ではなく(結衣はビジネススーツを着ているので、初めから見えない)ドキッとしてしまった事により、顔が少しだけ赤くなっており、バレないようにしなくては…という理由からである。
「マネージャーの仕事…辛くない?」
辛くないか?か…。
さて、聞いていいものなのだろうか。
閑話休題。
現在、高校に通う彼女だが、単位は取れており、後は卒業式を待つだけである。
卒業式を待つ生徒は、残りの学園生活(青春)を満喫するも良し、進学をするのであれば勉学に励むのも良し、結衣のように働いても良しと、割りかし自由になるのだ。
ちなみに友人である天使ゆずもまた、仕事で学校には来ていない。
最も、彼女は元々あまり学校には来れない生徒ではあったのだが、夏休みの補習で何とか単位を取っていた。
閑話休題終わり。
結衣は元々マネージャーの仕事をしていて、修二に跡を引き継いだ後、社長である千尋の秘書をしている。
何故、結衣がマネージャーを辞めて秘書になったのか、修二には分からない。
辛くないか?と聞かれたら、辛くて辞めたのか?と、聞き返したくなるものである。
「…辛くないですよ」
いや、聞くのはやめよう。と、修二は自重した。
人には触れて欲しくない話題があるはず。と、考えたからである。
「そっか…はい。終わり」
パンっと、軽く胸を叩かれる修二。
胸元を叩いたら、ネクタイが曲がりますよね?と、修二は思ったが、決して口にはしなかった。
喋りかけないで。
結衣から、そういった空気を感じたからである。
「姐さん」
「………何よ?」
うん。やはりご機嫌斜めだわ。
分かっている事なので、特には気にしないが、伝えなくてはと、口を開く。
「雪の初イベント」
「えぇ。もちろん行くわ。携帯を取りに行ってから向かうから…向こうで会いましょ」
「了解!じゃあ、行ってくるわ」
「ええ。いってらっしゃい」と言う結衣に、「あいよ」と伝えながら、修二は事務所を後にする。
雪が居た頃、修二がマネージャーになりたての頃の話しであった。
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事務所を後にした修二は、車を停めている駐車場まで歩いていた。
時計の針に目を向け、まだまだ余裕である事を確認した修二は、朝ごはんやらを買いにコンビニへと入って行く。
パンやエメマン(缶コーヒー)を購入し、コンビニを後にする。
流石に食べながら歩いたりする事はない。
さて、と。
雪を待つ間に食べるか、食べてから迎えに行くかで悩む修二。
「…ん?」
そんな事を悩みながら歩いていると、とある店の前で、人がたくさん並んでいるのを目にする。
珍しい事に、男性しか並んでいない。
何かのイベントか?
と、野次馬みたく、ワザとその後ろへと歩いて行く。
並ぶのではなく、並んでいる人の近くをワザと通る事により、何の集まりかが分かるかもしれない。そう考えての行動であった。
『ウォーー!!!』
と、盛り上がりをみせる男達。
まるで、会いに行けるアイドルの喫茶店の前のようであった。
(アイドルか何かのイベントか?)
しかし、女性が0というところからして、違う気もする。
(…く、くそ!?)
一度気にしてしまえば最後。
答えが分からないと、気持ちが悪い。
時間もある事だしと、修二はピタリと足を止め、並んでいる男達の後ろから、ひょこっと顔出す。
耳を澄ませ、鍛えあげた視力を屈指する。
(……なっ!?)
『お兄ちゃん。だぁ〜い好き♡』
『ウォーーーー!!!』
そんな声と歓声が、修二の耳に届く。
鍛えあげた視力からは、『妹だけど愛さえあれば関係ないよね♡』そう書かれたプレートがあって、本日発売日!!と、下に紙が貼られているのが目に飛び込んでくる。
つまり、この人だかりは、コレを買いに来た連中だという事なのだろう。
サッと、後ろを振り返れば、通行人である女性の視線が痛い。
違う。違うんです!と、叫びたい衝動に駆られるも、勿論、そんな事が言えるハズもない。
「………見なかった事にしよう」
自分には関係ない。
気にするな!忘れよう。
遥と出会い、神ゲーとして教わった修二が知らなかったのは、忘れていたからである。
まさか、この先自分がプレイする何て、そのキャラクターを演じている声優さん(相川あゆみ)のマネージャーになる何て、夢にも思わない修二であった。
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駐車場へとやって来た修二。
車は軽自動車である。
年頃の男の子としては、セダンタイプとか、四駆とか、そういった車に乗りたい所なのだが、なんせ、維持費が馬鹿にならない。
一番大きい維持費で言うなら、ガソリンだろう。
次に大きいのが、保険料。
そして、年に一度の税金である。
車を持っていない人の為に説明すると、車を持つ=税金が発生する。
車の大きさや重さ、〇〇cc(排気ガス)によって、金額は異なる。
軽なら千単位。普通乗用車で万単位。
車検で考えたら、軽で万単位。普通乗用車で十万単位となる。
しかしコレは、仕方がない事である。
車が走るのは、もちろん道路だ。
当然、道路は痛んだりするのだから、修繕費が必要となってくる。
車を持っていない人からではなく、車を持っている人、つまり、この税金から賄われるのは当然と言っていいだろう。
勤め始めたばかりの修二では、軽自動車の維持費だけで精一杯。最も、社用車としても使っているので、修二は一銭も払ってはいないのだが…。
さて、と。
車に乗り込み、好きなアーティストの曲をかけ、修二は雪の住む家へと向かうのであった。
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雪の家の近くのコインパーキングに車を停めて、修二は雪を待っていた。
待ってる。とだけライン(メール)し、車内で朝食を食べる修二。
「ファンクラブのイベントって、何するんだろうな…」
マネージャーとしての経験が浅ければ、知識もない修二は、携帯を開いて電話をかける事にした。
「き、き、き、っと。あった」
事務所は違うし、歳も違う。
しかし、大変良くしてくれる先輩。
しかも、超がつくほどの美人である。
何故、彼女がマネージャーをやっているのか不思議で仕方がない修二。
電話の主は、北山恵理という女性マネージャーであった。
※まずは、読んでいただき、本当にありがとうございます。
現在、過去の話しとして書いていますが、歳がちょっと曖昧になっております。
その変をきちんとしなくては!と、現在第一話から見直しをし、改稿しているところであります。
また、誤字や脱字、読みやすさなどを加えて行っていますので、ご理解頂けたらと思います。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。




