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アイドルとマネージャー  作者: 伊達 虎浩
31/82

第2章 新たな出会い

 

 雀の鳴き声が聞こえる。


「…ん。朝か」


 リビングのソファーから起き上がった俺は、小さく背伸びをした。


 パキパキと背骨やら両肩が音を鳴らしたのは、気のせいではないはずだ。


「はぁ…体がイテェ」


 ソファーとはいえ、いつも寝ているベッドとは違う為、当然、寝心地は最悪である。


「…くそ。寝室が恋しいぜ」


 頭をかきながら起き上がった俺は、顔を洗おうと洗面台へと向かう。


 昨日はあの後、夜遅くまでエロゲー…じゃなかった。神ゲーをやらされまくった挙句、最終的にはヘタクソという、有り難いお言葉を遥様からいただいていた。


「…とりあえず顔を洗って、歯を磨いてっと」


 今日の予定を決めるのは遥が起きてからでいいだろうなどと考えながら、脱衣所のドアを開ける修二。


「……ぅげ!?」


 思わず声が、漏れてしまった。


 朝シャンというヤツなのか、風呂場からは、遥のご機嫌な鼻歌ソングが聞こえてくる。


 どうする?


 ①覗く


 ②覗かない


 ③一緒に入る


「って、ちげぇだろ!!」


 遅くまでやりすぎた神ゲーの所為で、変な妄想をしてしまう修二であったが、流石に我に返った。


「…も、もしかして修二さんですか?」


 大きめの声でのツッコミ。


 勢いよく閉めたドアの音。


 当然、シャワーを浴びていた遥の耳にも届いていたようだ。


 ガラガラ〜と、音がしたのは、遥が風呂場の扉を開けたからだろう。


「もしかしてもなにも、ここは俺の家であってだな…俺以外の人がいるのか?」


 誤魔化すのは不可能だと考えた修二は、ちょっと半ギレ気味に返した。


「…早速、昨日の事を実践するだなんて、千尋さんか結衣さんに、バラしちゃいますよ」


「ば、馬鹿な事を言うな!のの、覗きたくて覗いたんじゃねぇやい」


 アクシデントだ。不可抗力だ。

 決して、ラッキースケベを狙ったんじゃないからな!


「覗いたのは、否定しないんですね」


「うっ!?け、けど、ガラス越しだったから、み、見てはいないんだぜ」


「裸を見なければいいっていう事ではないんですよ!下着だって置いてあるんですから!!」


 言われてみればそうだ。


 確かに…ピンク色の下着らしきものが…って、いかんいかん。


「シャワーを浴びるなら浴びるで、ちゃんと名札をするとか工夫しろよな」


 俺は悪くない!無罪だ。そうだろ?


「…やっぱり反省していないようなので、千尋さんと結衣さんに言いつけます」


 判決。死刑であった。


「ご、ごめんなさい」


 生まれて初めて脱衣所のドアに、頭を下げる修二であった。


 ーーーーーー


 そんなアクシデントがありつつも、今日の予定を話しあうべく、リビングで向かい合う修二と遥。


「今日の予定だがな。とりあえず遥は、部屋を探して来い」


「…修二さんは?」


「俺は仕事だ」


 これから芸能界で働く遥とは違い、マネージャーである修二は、サラリーマンみたいな立場である。


 その為、遥やひかりが休みであろうとも、会社には行かないといけない。


「仕事なんですか?担当する子が休みでも?」


「当たり前だ…って言っても、分からないか」


 仕方がない…と言いながら、修二は少し説明をする事にした。


「俺たちはサラリーマンみたいな職業だ。担当するタレントを、売り込んだりしたりとかな。当然、担当している子が休みであろうとも、俺たちマネージャーは、会社に出勤して、各方面に話しをしに行かなくてはならない」


「オファーとかが、勝手にくるんじゃないんですね」


「新人の遥に、そんなオファーがくるわけがないだろ?それにだ。仮に遥と同じ日に休んでいたら、永遠にお休みって事になる。これは、お互いの給料に関わってくる、大事な事なんだぞ」


 仮に、マネージャーとタレントのお休みが一緒だとした場合、担当するタレントによっては、1ヶ月ぐらいお休みになる場合も、充分考えられる。


 そうなれば、お互いの給料は0になってしまうのだ。


「おほん…とにかくだ。俺は会社。遥は部屋探し。一度夕方には、どうなっているのかを会社に報告に来い」


 後、千尋や結衣に、お泊りの許可をもらう必要があるからな。と、付け加える。


「はぁ〜い」


 本当に分かってんのか?と、聞き返したくなるような返事を返す遥に、頭痛を覚えながらも、話し合いはこれで終わった。


 ーーーーーーーー


 時刻は10時前である。


 会社に着いた修二は、いつものようにドアロックを解除して、事務所の中に入った。


「おはようございます。霧島修二です」


 少し、他人行儀に聞こえるかもしれないが、社会人としての挨拶は大事である。


「千尋〜結衣〜恵理さん!ひかり〜って、誰もいないのか?」


 しかし、呼んでも返事はなかった。


 殺風景な部屋を見渡した後、この部屋の中に唯一あるソファーに、鞄を置いた。


「…しょうがない。タバコでも吸うか」


 事務所内は禁煙の為、喫煙所でしかタバコは吸えない。タバコとライターを手に取り、喫煙所に向かう修二。


 事務所の奥にある部屋が喫煙所…というより、バルコニーが喫煙所となっている。


 ガラガラっと引き戸を開けた修二は、人がいる事に驚いてしまい、くわえていたタバコを落としてしまった。


「……お、おい!ここで何をしている!?」


 声をかけられた人物は、チラッと修二を見た後、質問に答えた。


「…ここはどこよ?なら、ここで何をしているかなんて、口にしなくても分かるでしょ?」


 それだけ答えると、プイっと顔を背けた。


 ここはどこだ?そう、喫煙所である。


 ここは何をする所だ?そう、タバコを吸う場所である。


 タ、タバコを吸う場所…だと!?


 そう考えた途端に、怒りが沸々とわいてきた。


「……キャッ!?ちょ、ちょっと、アンタ、何すんのよ!!」


「うるせー!教育だ馬鹿野朗!!」


 右手だけでその子を捕まえた修二は、自分の左膝にその子を乗せて、説教を始める。


「未成年の分際で!タバコを吸うなんて!もっと自分を!大切にしろ!」


 右手を振り上げ、お尻をビシバシ叩く。


 時には暴力も…などではない。


 これは、教育である。と、修二は考え、躊躇なく叩く。


「ちょ、ちょっと!?ま、待ちな!?さい!?ってば!?」


 叩く度に、ビクビクする少女。いや、幼女と言い直そう。


 手狭なバルコニーで、バシ!キャ!?バシ!キャ!?という音と声がする中、修二は説教を続けた。


「いいか!その歳でタバコを吸うとなぁ、身長が伸びなくなったりだとか、胸が大きくならなかったりとか、色々と身体に悪影響をおこすんだぞ!!分かってんのか!!!」


 泣こうがわめこうが、見ず知らずの子供だろうがだ。いけない事をしているのだから、きちんと叱ってあげなくてはいけない。


 それが、大人である自分達の使命である。


「お、お願いだから…や、やめて…ってば」


「もう二度と、タバコなんか吸うんじゃねぇぞ」


「だ、だから私は…!?」


「ま、まだ分からないのか…イテッ!?」


 口答えをする幼女に、もう一度説教をしようとした修二だったが、後ろから頭を叩かれてしまった。


「イッテテ…な、何すんだ!」


 叩かれた頭をさすりながら、後ろを振り向く修二。


「……何をしてるのかしら?」


 背後に居たのは、不気味な笑みを浮かべている、結衣であった。


 ニッコリ微笑むその笑顔…不気味である。


「あ、姐さん…い、いや、コレはですね、教育ってヤツでして」


 明らかに怒ってらっしゃる、と、瞬時に判断した修二は、何をしていたのかを話そうとした。


「ふ〜ん…で?性教育でも教えていたと…死ねば?変態」


「ち、違いますよ!?というより、子供が聞いているんですから、もうちょっとオブラートに包んでって、蹴るのをやめろ!」


「言っとくけどその娘、私と同い年よ」


「……は?」


「今日からウチの事務所に移籍してきた娘。名前はゆず…って、修二には関係ないか…これから死ぬんだから」


「ひ、ひぃぃい!?ちょ、タ、タンマタンマ!嘘ですよね?だ、だって、コレですよ?コレ」


 涙目になって固まっている幼女を、無理矢理立たせてみる。


「ど、どう見ても小学生じゃないっすか!?」


「…御託はいいから選びなさい。捕まって死ぬか、ここで死ぬか」


「は、話しを聞いて下さいよ!?」


 ギャーギャー騒ぐ修二に対し、蹴り足で答えてくる結衣。そんな攻防が、何回か続いた時であった。


「おい!おまえ」


 固まっていた幼女が、話しかけてきた。


「…あ!わ、悪い、知らなかったんだ」


 結衣と同い年なのであれば、ここに居ても、タバコを吸っていても何も問題はない。


 怒ってしまった事、叩いてしまった事を、素直に謝罪する。


「セクシャルハラスメントって言葉を、知っているか?」


「…!?す、すいませんでしたぁぁあ!!」


 知らなかったとはいえ、女性のお尻を叩いていたのは事実であり、訴えられたら人生が終わってしまう。


 バルコニーで土下座をする修二。


「はぁ…。私からも謝ります。私のように、この男を叩くなり、けなすなり、下僕にするなり、好きにして構いませんので、訴えるのだけはやめてあげてくれない?」


 一つ変なのが混じっていた気がするが、結衣が自分の為に頭を下げている。そう思ったら、ツッコんでいる場合ではない。


「…おぃ、おまえ!今の話しは本当か?」


「…え〜っとですね。じゃ、若干、間違えているような気がするんですけど」


 若干ではなく、全てだ!とは、言えない修二。


「話しが本当であれば、許してやる」


「今日から下僕です。ありがとうございます」


 サッと近づき、幼女の両手を握る修二。


「俺は霧島修二。この会社では、マネージャーをやっている」


「…ふーん。宜しくね。ゴン太」


「…い、いや、修二なんですが?」


「電話貸して」


「ゴン太とお呼び下さい」


 コレが、修二とゆずの初めての出会いである。

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