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聖女の代行、はじめました。  作者: みるくてぃー
その涙は未来の為に
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第42話 聖女の決意

 聖女様、いやアリアンロッド様が亡くなられてから一週間が経過した。


 私は聖女に就任したことによって周りの状況が大きく変化し、聖女候補生として使っていた部屋からユフィの隣の部屋に正式に変わり、何処へ行くにも警備の騎士が付くようにって……あれ? あまり変わってないぞ。


「どうなされましたか? 聖女様」

 神殿内で祈りを捧げてる最中余計なことが頭をよぎり、一人苦悶していると隣で同じように祈りを捧げていたユフィが不思議そうに尋ねてくる。

「あぁ、ごめん。いつの間にか自分の置かれた状況に疑問を抱かなくなっていたことに苦悶していただけよ」

「はぁ……まぁよくわかりませんが、必要な物があればなんでも言ってください。爵位でもお金でも用意いたしますので」

 いやいやいや、要らないから。

 確かに国王様や王妃様からも似たようなことを言われたけれど、全力で拒否させていただいた。


「それより、その聖女様って止めてくれない? できれば今まで通りお姉さまって……」

 うわぁ、王女様にお姉さまと呼ばれることが普通だと思っているよ。

 再び一人で苦悶している姿をユフィが不思議そうに見ているのであった。




「悪いわねマルシア、あなたまで借り出しちゃって」

「いいえティナお姉さま、私でお力になれることがあれば何でもお手伝いさせていただきます」

 現在聖女候補生として残っているは王女であるユフィと従姉妹であるレジーナの二人だけ。それでは余りにも少ないということでアミーテ様のご息女であるマルシアを呼び寄せた。

 シャーロットとクリスティーナは襲撃のショックから立ち直れず、今は休職扱いとして自室で休んでもらっている。

 本当は聖女候補生の任を解いて実家に戻してあげるべきなのだが、極秘事項ともいえる御影みかげの存在を見られたことと、襲撃の現場に居合わせたことで、すんなりと二人を帰すことができないんだそうだ。


 アミーテ様の話では二人に残された道は現状を受け止め、巫女として聖女に仕えるか、私が授かった聖女の力で記憶を削り取るか、もしくは……

 一見私が記憶を削り取れるならそれが一番の良策に思えるが、いかんせん。この力、消したいと思っていることを強く意識していないとそれ以外の記憶もごっそり削り取ってしまい、最悪幼児まで退化させてしまう可能性がある危険な技。

 もし口先だけで、本当はただ助かりたいがために本当のことを言っていなければ、何処まで記憶を削り取ってしまうかは私にもわからないのだ。


 私やマルシアは国王様や王妃様から信頼されている関係で、このような処置はいらないそうだが、二人に関しては国からの信頼を勝ち得ることができておらず、シャーロットに対しては襲撃中ずっと気を失っていたとはいえ、私の制止を無視してライムの結界から飛び出し、全員を危険な目に遭わせたとして、例え実家に戻れたとしても二度と王都に戻れない遠くの地に嫁に出されるか、二度と出れないよう修道院へ送られるかの二択しかないらしい。

 これらのことはすでに二人の両親に告知され、泣く泣く同意されたという。

 貴族の家に生まれた者としては、当然の責務なんだそうだ。


 因みにレジーナに関しては平民に落ちたことで貴族の責務には当てはまらず、尚且つ私の命を救ったことが大きく認められ現在私に力を貸してくれている。

 人って変われば変わるものなのね、とは王妃様の言葉だ。

 その他私たちを助けてくださったレクセル他多くの騎士たちは、当然のごとく箝口令が敷かれたと聞いている。




「これで大体は浄化ができたかな?」

 精霊たちの気配を感じながら一人そう呟く。

 セイラさんとアリアンロッド様と続けざまに血で汚してしまった関係で、ここ一週間はずっと浄化のために祈りを捧げている。

 私だけじゃもっと日数がかかってしまっていただろうが、アリアンロッド様に仕えていた二人の巫女に、ユフィとマルシア、ついでにレジーナも連れ出し連日浄化に明け暮れたってわけ。

 浄化は精霊たちを汚れた状態から元に戻す作業なので、力ずくでって訳にはいかないのよね。細かな作業はどうも苦手だから、少しずつ祈りを捧げて汚れを消していかなければいけないのだ。


「わかるんですか?」

「えぇ、でもこれは聖女の力とかじゃくて、以前の状態でも感じることができたわよ?」

 マルシアが不思議そうに尋ねてくるので、何も特別な力が必要な訳ではないと説明してあげる。

「ユフィお姉さまはお分かりになられるんですか?」

「えっ、私にもちょっと……その、お姉さまと同率に考えられると……」

 マルシアの問いかけにユフィは私の顔を見ながら深いたため息を一つ。

 なにそれ、ちょっと失礼じゃないかしら。


「くすくす。ユフィーリア様、そうご自分の力を悲観される必要はございませんよ。アリアンロッド様もおっしゃられておりましたが、ヴィクトーリア様とクラリス様、そしてティナ様の三人は完全に規格外だと。

 だからユフィーリア様がティナ様の力を見て、自信を無くされるんじゃないかとずっと心配されておられましたから」

 私たちの話を聞いていた巫女の一人が、笑顔を浮かべながら教えてくれる。

「そうですよね、少し安心いたしました。私今、お母様の気持ちが痛いほどわかる気が致します」

「こらこら、そこは納得するところじゃないでしょ。私を化け物扱いしないでよね」

 全く失礼しちゃうわ。


「くすくす、申し訳ございません。ですが既に体の痛みはないのではございませんか?」

「あっ」

 もう一人の巫女も笑いながら私の容態を尋ねてくる。

 そういえば聖痕を受け継いだ日は体のあちこちが痛かったけど、翌朝起きたときにはもう痛みは感じなかったんだっけ。

 アリアンロッド様の話ではしばらく痛みが続くだろうと言われたけど、これって思いの他聖痕と相性が良かったってこと?


「アリアンロッド様は二十歳で聖女になられたのですが、当初は激しい痛みに身動きが取れず、動けるようになっても痛みは一ヶ月間続いたとおっしゃっておられましたよ」

「一ヶ月!? しかも激しい痛みで動きが取れなかったって、私は針で全身をチクチクされる感じでしたよ?」

 ご自分がそんな経験をされていたのなら、そらぁ十八歳を迎えていない私を心配されるはずだ。

 それにしてもこの二人の巫女、聖痕のことまで知っているようだけれど、相当アリアンロッド様に信頼されていたんだろう。

 年齢は私のお母さんや王妃様と同じぐらいで、二人とも何処となく王妃様によく似た顔立ちをされている。


「ちょっと、さっきから何の話をしているのよ」

「あぁ、ごめんレジーナ。あなたの存在すっかり忘れてたわ」

 そういえば居たわね。私が呼び出しておいてすっかり忘れてしまっていた。

 レジーナにジト目で見られるが、今や私は聖女となってしまったので彼女なりに気にはしているのだろう。

「お姉さま、流石にそれはレジーナさんでも失礼かと」

 もしもしユフィさん。レジーナさん()()って、ユフィも十分失礼な物言いだと思うんですが。


「ティナお姉さま、そろそろお時間ではございませんか?」

 私たちが漫才……コホン、楽しく会話をしていると、マルシアが持っていた時計を見ながら時間を教えてくれる。

「もうそんな時間?」

 私はこの後貴族会議に出席するよう言われており、神殿から本城へと移動しなければならない。

 同じ敷地内とはいえ、結構遠いのよね。


「ありがとうマルシア。私ちょっと行ってくるね」

 みんなと一旦別れ、神殿を一人後にする。

 聖痕を受け継いでから、御影みかげが姿を消していても何処にいるかがハッキリと分かるようになり、今も私の真横で歩調を合わせて付いて来てくれる。恐らくライムは御影みかげの毛の中で眠っているのだろう。気配は感じるが、妙に静かな時はいつもの御影みかげのフワモコでお昼寝しているのよね。

 私もたまに枕として使わしてもらっているが、ものの三分と経たないうちにすっかり夢の中にって……御影みかげが私を見て大きくため息をつく。

 コラ、勝手に人の思考を読まない!



御影みかげ?)

『なんだ?』

 神殿の前に用意された私専用の馬車(騎士団一行付き)に乗り込みながら御影みかげに尋ねる。

(アリアンロッド様が最後に言われていた言葉なんだけどさ、私が聖痕を受け継がなければ御影みかげが何とかしてくれるってあれ)

『……』

(そう、やっぱり嘘なのね)

 薄々は感じていた、この聖痕というものは一種の人の心だ。聖痕を継承すると同時に込められていた聖女たちの想いが一気に私に流れ込み、馴染むまでに痛みという感覚が体を支配するのではないかと考えている。

 つまり何が言いたかというと、いかに聖獣とはいえ人間でない御影みかげでは人の心を預かることはできない。

 恐らくアリアンロッド様は私の気持ちを察して、嘘の話をされたんではないだろうか。平民で育った私がいきなり聖女として祭り上げられ、辛い想いをするのではないかと心配されて。


(別に怒っていないわよ、アリアンロッド様のお気持ちは痛いほど分かるから)

『……そうか』

 私が逆の立場なら恐らく同じことをしていただろう。

 いずれユフィにこの力を継承するとき、アリアンロッド様と同じ想いをするんだと思うと少し複雑な気分になってくる。

「人の幸せは人それぞれか……」

 思っていたことがつい口から出てしまう。


『何を考えている』

「分かっているでしょ、私の考えていることが読めるんだったら」

『……』

 人の幸せは人それぞれ、アリアンロッド様は私の幸せを願って聖痕の継承を躊躇われた。それじゃルキナさんは? あの人は聖女になることにこだわっていた。

 もし聖女になることがルキナさんの幸せに繋がるのなら……そう考えてしまったのだ。


「大丈夫よ、そんな理由でこの力を手放したりしないから」

『分かっている。心配なぞしておらん』

 聖痕を受け継いで分かったこと、この力は余りにも危険すぎる。

 人々のために使う場合も、ある程度の戒めを決めておかなければ世界の秩序を崩壊させかねない強大な力と知識の数々。

 アリアンロッド様のように元の力が()()()なら使える力も限りがあるだろうが、私の場合はそれらを遥かに超えてしまっている。そう考えるとユフィに力を託す方が世界のためになるのだろう。

 だからこそ、余計にルキナさんのような人にこの力を与えてはいけないと、代々の聖女たちの心が私に呼びかけてくる。


 ルキナさん、あなたの力は私が必ず封印します。それが聖女となった私の最初の役目です。


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