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聖女の代行、はじめました。  作者: みるくてぃー
聖女達は悲しみを乗り越えて
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第13話 想い、再び

「うぅ、また負けたぁー。ヴィクトーリア強すぎだよ」

「クラリスの手が強引すぎるのよ、次は私が相手になるわよヴィクトーリア」

「ラーナが相手でも負けないわよ」

 いつもと変わらぬ昼下がり、神殿から少し離れた小さな庭園、草木の壁で仕切られた一角には一つのチェス盤を取り囲み、仲良し三人組がひと時の休息を楽しんでいる。


「あなたたち、遊ぶのはいいけどちゃんと草むしりはしたの?」

「あ、お母様」

「ちょっとヴィクトーリア、聖女様でしょ」

「いけない、すみません聖女様」

 見慣れた光景、幸せな風景、三人は次の世代を担う聖女候補生。幼い頃から仲が良かった三人には、修行すらも楽しいひと時として共に過ごしている。

 そう、あの日を迎えるまでは……





「ヴィクトーリア、しっかりしてヴィクトーリア! いやぁーー」



 バタバタバタ

「ラーナ、ヴィクトーリアは! ……ウソ」

「ごめんなさい、ごめんなさい。私に聖女の力があれば助けられたのに」



「ラーナ、私聖女候補から降りるわ」

「何を言っているの!? ヴィクトーリアの後を継げるのはクラリスだけでしょ」

「私は聖女様の言いつけを守らずお城を抜け出したわ、そのせいでヴィクトーリアを救えなかった。そんな私が聖女になる資格なんてあるわけがない」

「あれは私たちがレナードに会いに行くように言ったから」

「でも踏みとどまることはできたはずよ、ヴィクトーリアを殺したのは私なのよ。そんな私が彼女の代わりをできるはずがない」



「別れた? 何を言っているのよクラリス、あれだけレナードと愛し合ってたというのに」

「私は幸せになんてなっちゃいけないのよ」

「そんなことヴィクトーリアは望んでいないわ、もう一度考え直して」

「もう決めたの、ごめんなさいラーナ」



「クラリスが行方不明!? 本当なのアルヴァン」

「どうやら一人で屋敷を飛び出したらしい。部屋に置手紙が残っていたって」

「そんな……」

「妹の死からずっと部屋に籠っていたって話だ、それが今日になって急に居なくなっていたらしい」

「レナードは、レナードはどうしたの? 彼には知らせたの?」

「レナードにはまだ、クラリスのことを告げるとアイツまで飛び出しかねないからな」

「そうね、彼のことですもの。きっとクラリスを追いかけて行ってしまうわ」



「レナードが居なくなった」

「そう、やっぱりクラリスを追いかけて行ったのね。

 ねぇアルヴァン、私だけ幸せになっていいの? クラリスもヴィクトーリアも居ないのに私だけが幸せになるなんて許されるの?」

「いいに決まっている、お前も、クラリスも幸せになる権利は誰にでもあるんだ。きっとヴィクトーリアもそう願っているはずだ」





 ガタガタガタ

「お祖母様、お目覚めですか?」

 深く沈んでいた意識が徐々にはっきりしていく、ここは……そうだった、王都へ帰る途中の馬車だったわね。

「私としたことが眠っていたようね」

 ずいぶんと懐かしい夢を見た気がする、あれからもう二十五年にもなってしまうのね。


 旅先で孫娘であるユフィーリアが何者かに襲われたと報告を受け、日程を切り上げて王子のラフィンと共に帰路についた。

 幸い新しく来てくれた聖女候補生のおかげで難を脱したという話であったが、この目で見るまでは安心できない。逸る気持ちを抑えながら帰路を急いでいる。

 それにしても、またあの時の夢を見てしまうなんて。ユフィーリアが襲われたと聞いて心が不安定になっているのね。



「今回は随分遠い地まで視察に出ることになりましたからね、お疲れが溜まっていたのでしょう」

「そうね、私ももう年だから早く次の世代に託したいところなのだけれど」

「大丈夫ですよお祖母様、ユフィーリアも無事だという話ですし、代行を担う聖女候補生たちも各地から集まって来ているのです」

「そうね、年を取るとどうも心配性になって仕方がないわね」


 ラフィン、あなたにはまだ知らせていないけれど、聖女は只の象徴的な存在ではないのよ。

 『聖女の聖痕』。初代聖女から代々受け継がれてきたこの聖痕は、聖女の力を上昇させると共に、強大な力を得ることになってしまう。

 これがもし悪に利用されるようなことになれば、この力がもし他国へと渡ってしまうことになれば……現在このアルタイル王国が他国からの侵攻を抑えられているのは間違いなく聖女の存在が大きく関わっている。

 だから見境なく誰にでも聖女の役目を引き渡すわけにはいかないのよ。せめてあの子が戻ってきてくれればいいのだけれど。

 今どこにいるの? クラリス……






「もう、お城の敷地内ならもう少しお手入れをしておいてよね」

 神殿周りの草むしりを終えた私は、新しい場所を求めてこの小さな庭園へと辿り着いた。

 ここは神殿からそれ程離れた場所ではないのに、何故か手付かずの状態で草が乱立し、花壇は荒れ果て、落ち葉が地面を舞っていた。


「でもここって秘密の場所っぽくて雰囲気がいいわよね。目隠し用に草木の壁で仕切られているし、小さいながらも花壇や東屋ガゼボまでが用意されているから、綺麗に掃除をすればユフィとお茶をするにはうってつけじゃない?」

 ユフィと話すようになってからまだ数日しか経っていないのに、すっかり一緒にお茶をすることが日課になってしまった。

 一応レジーナたちには何を言われるか分からないので、ユフィと会っていることは内緒にしているが、聖女候補生たちはお城の施設は自由に使っていいと言われているので、いつお城の中庭でバッタリなんてことになりかねない。


 レジーナたちって何故かこっちの方には足を運ばないのよね、お陰で掃除の邪魔をされなくてスムーズに仕事をこなすことができるわ。


「ティナちゃん、すっかりユフィちゃんと仲良しですね」

「まぁね、ちょっと予定とは違っちゃったけど友達もできたし、ここでの生活もなんとかやっていけそうよ」

 ライムがちっちゃいながらも東屋ガゼボの拭き掃除を手伝いながら答えてくれる。


「ん〜、花壇が壊れちゃってるね。新しいレンガとか貰えないかしら?」

 掃除や草むしりはできるが、花壇の修復までは流石にできない。お城の庭師さんから新しいレンガを貰って来なきゃいけないんだけれど。


「でしたら我々が取って参りましょうか?」

 話しかけてくれたのは私に割り振られた護衛の騎士様三人組、ユフィの一件以来聖女候補生たちにはそれぞれ護衛が割り当てられるようになったらしい。


「いいんですか?」

「お任せください、ティナ様のお手伝いをするのも我らの役目の一つです」

「それじゃおねがいします」

「分かりました、それではディアンを残しておきますので何かあればお申し付けください」

 そう言い残すと年長の二人の騎士様がディアンと呼ばれる若い騎士を一人残し、レンガを取りに向かってくれる。


「ディアン、悪いんだけれど壊れたレンガを退けるから手伝ってもらえる?」

「分かりましたティナ様」

 三人組の中で唯一私と同じ年であるディアンは何かにつけて話しやすく、同じ平民出身ということもあり親しみを感じてしまう。しかもレジーナたちから虐められていることも知られているので、いろいろ相談なんかにも乗ってもらっている。


「こんな感じでいいですか?」

「そうね、後は新しいレンガを嵌めれば大丈夫だと思うわ」

 割れたレンガを退かし、溢れ出た土を一旦どけたところで一息つく。

「それではちょっと要らなくなったレンガを片づけますね、ティナ様はしばらく休んでいてください」

「よろしくねディアン」

 ディアンが草木の壁に消えたところで再び草むしりを再開する。すると何かが体に触れたような気がした。


「ん? 今の何?」

「どうしたんですかティナちゃん」

 拭き掃除をしていたライムが私のところに飛んできて、ちょこんと頭の上に両手をついたような形で着地する。

「ん〜、よく分かんないんだけれど、何かが体に触れたような気がしたのよね」

 自分で言っておいて変な気分だが、風とか落ち葉が触れたとかの感じじゃなかったのよね。例えるならフワフワ?


「あら珍しい。ここにお客さんが来るなんて」

 ライムが素早く私のポケットに隠れこむ。

 一部の人たちに見られたとはいえ、ご丁寧にお城の人全てに見せて回る必要もないからね。


 庭園に入って来られたのは、仕立ては良さそうだが地味な服を着たご年配の女性、周りに護衛の人やメイドさんが付いていないところを見るとお城で働く人なんだろう。

「ごめんなさい、もしかしてここってお婆さんのお気に入りの場所でした?」

 仕事の合間にちょっと息抜き、って気分は私にもわかるからね。ここはそんな時にうってつけの場所だと思う。


「そうね、お気に入りというか想い出の詰まった場所には違いないわね」

 何故か悲しそうな顔つきで清掃途中の庭園を見渡される。

「勝手に手を加えてすみません」

「いいのよ、もう随分使われていないせいで荒れ果ててしまったけれど、あなたが使ってくれるならこの庭園も喜んでくれるわ」

 この人は随分前からお城に仕えていらっしゃるのだろうか、年齢からしてももう引退されても良いお年なのに、まだ現役で頑張っておられるんだと思うと何だか勇気を貰った感じで気分がいい。


「良かったら今度ここでお茶をしませんか? それまでに庭園を綺麗にしておきますので。あっ、サボっていることは内緒にしてくださいね、お婆さんのことも誰にも話しませんので」

「ふふふ、良いわよ。こんなお婆ちゃんでも誘ってもらえるなんて嬉しいわ」

 優しそうなひとだなぁ、それが私が感じたこの人の印象だった。


 ゾワッ

「!」

「ティナちゃん、近くに何かいます!」

 隠れていたはずのライムが慌ててポケットから飛び出し周りを警戒する。今度はライムも感じたのだろう。


「お婆さん逃げてください。近くに何かかがいます」

 お婆さんに危害が及ばないよう、後ろに庇い周りを警戒する。

 だけど一向にその姿は見つからず、ただ何もない庭園だけをその目に映す。


 どういうこと? 今のは確かに何かが体に触れた感触があった。一度だけならともかく二度も同じ感覚に襲われるなんてことがあるの? しかもライムが反応したことからも、見えない何かが近くにいる可能性は否定できない。


「あら、珍しいわね」

 私が完全に臨戦態勢に入っているのにも関わらず、お婆さんは変わらずやさしい笑顔でこちらを見ている。

 いや、ライムの姿が珍しいのは分かるけど今はそれどころじゃないんだって。


 スリスリ

 ん?

 スリスリ

 んん?


 この辺? ガバッ!

 何かが体を触れている感じがしたので、見えない空間にアタリを付けてしがみつく。


 フワフワ、モコモコ

 両手から伝わって来るフワモコの感触

「きゃーー、何これ、フワモコだぁー」


 目に見えないのにその場に何かがいる。しかも毛並みがフワフワ、体がモコモコ、めっちゃ気持ち良いー。

「本当です、フワフワです」

 警戒していたライムも危険がないと感じたのか、私が抱きしめている空間にダイブする。


「ふふふ、ホントめずらしいわね。この子が私やユフィーリア以外に懐くなんて」

 お婆さんがじゃれ合う私たちを優しそうな笑顔で見つめておられる。

 あれ? 今この人ユフィのことを呼び捨てにしなかった?


 ………………ダラダラダラ。

 私の額から冷たい汗が勢い良く溢れ出てくる。

「あ、あの……お婆さんってもしかして……」

 恐る恐るお婆さんを見つめ、頭に浮かんだことを尋ねてみる。

「はじめまして若い聖女さん。私はアリアンロッド・F・アルタイル、この国では聖女と呼ばれているわ」


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