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ぼっち陰キャラの僕が隠しスキルで無双する

作者: 荒三水

懲りずにクラス召喚に挑戦します。

想像と違っても怒らないで下さい。

 それは何の変哲もない、朝のホームルームの時間に起こった。

 僕たち二年B組の生徒は、突然クラスごと異世界に召喚された。


「わたしたちは、国に伝わる秘術によってあなたたちを……」


 気がつくとどこかのお城の広間だった。

 ウェディングドレスのような格好をしたお姫様が、まだ驚きを隠せないクラスメイトたちに向かって説明を始める。

 それによると僕たちはこの世界の魔王を倒すために呼ばれたという。いわゆる異世界召喚のテンプレみたいなやつだ。

 

「まずはそれぞれステータスを確認してください。ステータスオープンと言えば画面が開きます」


 言われるがままにステータスオープンと口にすると、目の前に不思議な画面が開く。

 外人っぽく発音しなくても普通に開いた。 

 まあ正直いちいち説明されなくてもこれぐらいのお約束は僕にもわかりきっている。

 ただ問題なのはここからだ。僕の能力値は一体どの程度なのか。 

 

 ステータス画面には、筋力体力などの細かな能力値などが羅列されていた。

 とりあえず全体をざっと流し見ていると、


 状態異常・包茎


 だとかいうふざけた表示が視界に入った。

 僕は一度ステータスを閉じた。

 

 異常と記されるのは心外であるが、誰かに見られるとまずいと思ったのだ。

 別に包茎がバレるのを恐れたわけじゃなく、まだ状況が読めない中、己の手の内を明かすようなことは避けた方がいい。 

 

 僕はきょろきょろと誰にも見られていないことを確認する。

 みんな自分のステータスに夢中で周りのことなんていちいち気にしていないようだ。

 ほっと胸をなでおろして、改めてステータスを開く。

 するとはじめに目を引いたのが、


 HP630000


 というフ○ーザ様にも勝てそうな数字だ。

 さらには、


 筋力255

 体力255

 敏捷128

 

 などなど、カンストっぽい数字が並ぶ。

 これは来た。ついに僕の時代が来たらしい。

 クラスでもぼっちのコミュ障で万年目立たない僕にも、ついに陽の目が当たるときが……。


「うおおっ、俺のHP21600000だ!」

「俺の筋力だって5700もあるぜ!」

「見て、私の敏捷3100よ!」 


 なぜか謎のインフレが起きているようだ。カンストでもなんでもなかった。

 これだと僕がまるでただのクソザコ包茎野郎なわけだが……まあそんなステータスなんて、ただの前フリにすぎない。


「あなたがたに一人ひとりに、特別な力、スキルが与えられているはずです。それがこれから大いに役に立つことでしょう」


 もっとも重要なのは、一人一つだけ与えられるという、その人の性質を現したユニークスキルなのだ。

 そうお姫様も言っている。

 だからHPがどうたらとか高らかに宣言してしまうのは、いわば引き立て役。はっきりわかんだね。

 

 ステータスが低い分、きっと僕の能力はスキルに全振りされていること間違いなし。

 みんながあれこれステータスで盛り上がるのをよそに、僕は一足先に満を持してスキル詳細画面を確認する。

 するとお待ちかねのスキル欄には……。


 ……ない。


 何もない!!


 信じられないことに僕のスキル枠は空欄だった。 

 そんなバカな。スキルは一人一つ、必ず与えられるという話のはずだ。

 まさかそれすらもハブられているというのか。


 焦った僕は、震える手で画面をめちゃくちゃに触りまくる。

 すると、突然文字が浮かび上がった。 


『隠しスキル』


 こ、これはまさか……?

 やった隠しスキルだ!

 

 僕は思わず飛び上がって小躍りしかける。

 これはきっと、何らかの条件を満たすことで偶然手に入れることができる的なアレに違いない。


「おおっ、オレのスキルは獲得経験二倍だ!」

「オレは目利きスキルだ!」

「あたしは魅了チャームのスキルよ!」


 何やらはしゃいでいるようだけども、僕の隠しスキルを超えるものがあるのだろうか? いやない。

 隠しスキルが具体的にどういう効果かはまだ不明だが……まあ、これまでのマイナスをすべて覆すほど強力なものに違いない。

 なんせ隠しスキルなわけだからね。隠されていたわけだから。 

 僕はスキルの力を確かめようとあれこれしていると、再びお姫様の声がかかった。


「ではそろそろ皆さん、好きな人と四人パーティーを組んでくださ~い!」


 なんとこれは……まさか異世界に来てもボッチの試練が。

 だが待て、四人パーティということは……。


 僕は瞬時に計算をした。

 クラスの人数は32人。四で割り切れる。

 これなら余りが出るわけがないのだ。

 僕をハブろうとしたようだがそうはいかない。残念だったな。

 

「おっ、そこ三人か。じゃあ先生はそこに入るか」


 だがそこにまさかの担任登場。

 見てください皆さん。

 余っている生徒がいるというのに、それを無視して自分が入るという教師の鏡。

 

「できたようですね。それでは……」


 それで無事四人パーティができたことになっている。

 見捨てられた子犬のような瞳で僕が立っているというのに、一体どこに目をつけているのか。

 このままだとさすがにヤバイと思ったので、僕はここで初めて手を上げて、自分がハブられていることをアピールした。


「あっ、あのう!」


 僕としては相当大きな声を出したつもりなのに、誰もこちらを見向きもしない。

 仕方なく先生に近寄って、かなり強めに肩をたたいた。


「ん? なんだ……? 気のせいか」


 メチャクチャ至近距離で目があったのだが、気のせいで済まされた。

 これは実は僕はクラスメイトだけでなく教師からも無視されイジメを受けている……などというヘビーな話ではない。

 

 どうもおかしいとは思っていたのだけど、ここに来てその疑いが確信に変わりつつある。

 まさか僕のスキル……隠しスキルとはすなわち……。


 文字通り僕の存在を隠すスキルだった。

 こりゃ一本取られましたな。ははは……。


 笑えるかバカ。




 

 僕が呆然と立ちつくすかたわら、あれこれと説明は続いて、場は落ち着いた。

 気がつけばみんなもう出ていったらしく、広間にはクラスメイトの姿はなくなっていた。

 はっと気づけば、この場にはお姫様と、ずっと傍らに控えていた魔術師らしき男だけだった。


「ふふ……姫様、ご苦労さまでした」 


 男が意味ありげに笑った。 

 それだけならよかったが、あろうことか魔術師の男がいきなりお姫様の体をまさぐり始めた。


「ぶ、無礼者……」

「……何か? くっくっく……滑稽なことだ。すでにこの国は、我ら魔王軍の手に落ちているというのも知らずに……」

「クッ、姑息な……。だがまだ私は屈してはいない。いつかお前たちの寝首を……」

「これはこれは勇ましいお姫様だ。だが、逆らえば王の命はないぞ?」


 なんということでしょう。

 どうやら僕たちはみんな騙されていたらしい。

 スキルのおかげで隠されている僕に気づかずバラしてしまったようだ。

 

 このままお姫様のくっころシーンを観察するか迷ったが、そんなことをしている場合ではない。

 これは僕が隠れ野郎から一躍ヒーローになるチャンスである。


 僕は急いで広間を出ると、城を出たあたりでたむろしていたクラスメイトたちに追いつく。

 真実を伝えるべくひたすら声をかけまくるが、誰ひとりとして僕に気づかない。

 次気づかれなかったらおっぱいを揉みしだいてやると半ギレで女子生徒に声をかけると、奇跡的に反応があった。


「えっ……何? 誰なの?」

「あっ、ぼ、僕です、同じクラスの……」

「えっ、もしかしてワタナベくん?」

「あ、青木です」


 ないわ、出席番号先頭のやつと最後のやつ間違えるとかもはや存在を認識されていないレベル。

 だけどそんな文句を言っている場合ではない。

 僕に気づいたのは幸運にもクラス一の清楚系美少女桜野ユウカ。

 僕がこっそりユウカちゃんと呼んでアレしているのはとりあえず置いておいて、これ幸いと事情を説明する。

 

「なるほど、青木くんはその「隠しスキル」スキルによって気づかれなかったのね」

「そうです」


 隠しスキルスキルとかややこしいことになっている。

 最初はスキルすら隠されていたわけだからもう悪意しか感じないね。

 

「でもどうして桜野さんは……」

「それはきっと、私の『第六感シックスセンス』スキルのせいかもしれない。私、生まれつき霊感が強くて……。きっとそれがスキルになったんだと思う」

「そ、そうか、それで……」


 え、ていうか僕って霊とかそういう扱い?


「でもよかった、青木くんに気づけて」

「あ、あっ、僕こっちです、こっち」


 しかもその第六感をもってしても微妙に見えてないという。


「そ、それでど、どうしようか?」

「でも私達だけじゃどうしようもないし……そうだ、真壁くんに相談しましょう!」


 その発言で若干僕の顔が引きつる。

 真壁とは僕とは真逆の、いわゆるイケメンリア充である。

 桜野さんは、異世界に来てもみんなの輪の中で目立っている真壁に声をかける。

  

「どうした桜野」

「ええ、それが……」


 桜野さんが隠れている僕の代わりに説明すると、


「なんだって!? やっぱり怪しいと思ってたんだ!」

「気づいてたのね! さすが真壁くん!!」


 ほんまかいな。

 桜野さんも明らかに僕のときと態度が違う。

 ていうかこの女、私の第六感スキルで気づいたのだけど……とだけ言って、僕の名前とか存在もろもろを完全に省きやがったのだが?

 どうせ隠れてて見えないというのいいことに、手柄を横取りされた感がハンパない。


 いやでも、あの桜野さんに限ってそんなことはないだろう。

 あまりそうやって人を疑うのはよくない。

 きっと彼女も緊急事態ということで、話を手短に済ませたということだろう。

 

「どうしましょう、みんなにも……」

「いや、あまり事を大きくして、気取られるとまずい」 

「でもそれじゃあ……」 

「大丈夫、相手が悪魔ならばどんな相手でも、俺のスキル「超光魔法」を使えば一瞬で灰にすることができる」


 なによそれちょっとチートすぎんよ~。

 隠しスキルとは雲泥の差ですわ。

 一応僕もコミュ障がバレないように、しっかり相槌だけはしてみせるが、どの道見えてないので意味がないことに気づいた。

 

「行ってくる」

「待って、私も行くわ!」

  

 もはや僕の存在ガン無視で、完全に二人の世界である。

 一緒にいたほうがいいのか、いなくなったほうがいいのかよくわからなくなりながらも、僕はとりあえず後をついていく。

 再び城の中に戻るとお姫様の姿はなく、魔術師の男が何食わぬ顔で僕たちを出迎えた。


「これは勇者どの。何用か?」

「いえ、少し、確認したいことがありまして……」


 そう言うやいなや、真壁はいきなり光魔法をぶっ放した。

 手のひらからまぶしい光が放出される。


「グ、グオオオオオッッ!」


 男が苦しみだした。

 これは効いている。

 と思った矢先、突然光はかき消えた。 

 

「な、何っ!?」

「クックック……。小賢しい光魔法ごときで我を葬れると思ったか? おい、兵! 反逆だ、この男をひっとらえろ!」

 

 そう呼んだとたん、ザザザっと兵士が数人現れた。

 そして大勢で真壁に掴みかかる。


「貴様、なんてことを! おとなしく来い!」

「違うんだ! あいつが魔王で……」

「何をバカなことを言っている! もしやそこの女もグルか!」

「違う、彼女は関係ない!」

「そんな、真壁くーん!!」

「大丈夫、きっと俺は、戻るから……」

 

 とかなんとかやりながら真壁は連行されていった。

 いやもう、完全に主人公じゃないですかあれ。


 一方隠しスキルで誰にも気づかれない僕は、完全に蚊帳の外で成り行きを見守った。

 なんだろうこのむなしさ。なんていうか、ちょっとは僕のことも捕まえようとして欲しかった。





 その後、桜野さんは厳重に注意を受けて、城から締め出された。

 僕はほったらかしにされたが、空気を読んで自主的に城を出た。


「ああ、こんなことになってしまうなんて……これからどうしましょう。私のパーティも、三人になってしまったし……」


 そう言って頭を抱える桜野さんに、僕はここぞとばかりに提案をする。


「あ、あの……僕のスキルなんだけど、考えようによっては、便利かもしれないね。こっそり色んなとこに忍び込んで、敵の情報なんかも、得ることもできるし……」

「あ、ああ……そうね」

「ま、まあ誰にも気づかれないのは、いざってときに意思疎通ができなくて不便だけど。あはは……」

「そうよね、大変よね」

「でもまあ、桜野さんとなら、こうして話ができるわけだし……。あっ、もしかしてその、今パーティの人数が足りないんなら、ぼ、僕……今いちおう、フリーなんだけど」

「え? ああ……でもやっぱりその、姿が見えないと、気味悪いって思っちゃう子もいるかもしれないし……」

「あ、ああ~なるほど、そういう問題はまあ、あるかもしれないけど……。でもほら、そこは桜野さんが間に入ってくれれば……」


「え、なんで私がそんなことしないといけないの」


「あ、そ、そうだよねぇ~。そうそう……」

「それじゃあ色々と大変だろうけど……お互い、これからも頑張りましょう」

「あ、うん。頑張ろう」


 そして僕たちは別れた。

 ……別に泣いてませんが何か?

 

 真壁? 魔王?

 そんなもんどうでもいいわ。


 うっかり女湯に入ったり、着替えをのぞき見たり。 

 これから本格的に、僕の隠しスキル無双が始まる。 



無駄に長引きました。

隠しスキルの時点で落とすべきだったか。

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