第8話
リオンと共に人間の街に来た。門番がおり、門を通る人をチェックしている。リオンもチェックされた。何やらカードのようなものを見せている。
「アートミルの学生か。そのスライムは?」
「僕の従魔です。」
俺はリオンに抱っこされている。因みに俺の標準の大きさはサッカーボール大だ。丁度良いからって蹴らないでよね!
「そうかあ…スライムなあ…」
なんだか苦笑されている模様。スライムの価値が低いのだろう。リオンも顔を赤らめてうつむいている。リオン、そんな顔したって駄目だぞ?あの森でリオンが従えられる魔物はスライムしかいないぞ?ちょっと前までゴブさんがいたが駆逐されてしまったし。
ちょっと切ない出来事もあったが、無事中には入れてもらえた。
『これからどうする?』
『今日は学校はお休みだから特に考えてない。どっか行きたいところある?』
『別にないけど、強いて言うなら観光したい。折角人間の街に来たんだし。』
『じゃあ、適当に見て周ろうか。』
リオンに案内されて街を見る。噂のケモ耳種族がいてテンション爆上がりだが、この喜びはリオンには理解されなかった。まず見せてもらったのは市場。本当に色々な物が売られている。野菜に、肉。海が近くないので魚は川魚しかなかった。穀物や乳製品も豊富だ。
露店での売り物も良い感じだ。俺の【超嗅覚】が良い匂いを嗅ぎつけている。特に美味しそうなのは分厚い肉を串焼きにして売っている物。醤油のような香ばしい香りがするのだ。そわそわしてるとリオンが1本買ってくれた。スライムは基本何でも食べるが、勿論美味しい物は好きだ。竹串ごと取り込むと柔らかくて、しかししっかりした肉と、甘辛いたれが絶妙だった。久々に食べる文化的な食事に感涙した(涙は出ないが、気分だ気分!)こんなに分厚い肉の串焼きって割といい値段するんじゃないだろうか。
『リオン、この串焼きって結構高い?』
『うーん、僕からしたらちょっと贅沢かも。気に入った?もう一本食べる?』
『いや、おかわりはいらん。ところでゴブリンが貯めてた財宝とかって誰の所有になるんだ?』
『勿論討伐した人だよ。』
『…そうか。』
じゃあ後であのゴブリンの財宝はリオンにやろう。どうせ俺らは一心同体も同然。俺が宝石や貴金属を持っていても仕方ないけどリオンに預ければ俺の生活の水準も上がるってものよ。
次に名高い冒険者ギルドへやってきた。
『これがクエストボード。ここでクエストを剥がしてカウンターに持っていくんだよ。』
まずい。文字が全く分からん…言葉が通じるからと甘く見ていた。別にスライムに文字は必要ないが、読めないとなると読みたいものよ。それにそのうち読書とかも楽しみたいし。
『リオンも冒険者登録してるのか?』
『一応ね。僕は街の中のお手伝いクエストしか受けたことないけど。』
リオンの実力ならさもありなん。
「おうおう、リオン。冒険者の面汚しが!まだうろちょろしてんのか!?」
厳ついダミ声のたらこ唇が現れた。目がぎょろっとしていてタコに似ている。
「や、やあ、ブロフ…」
リオンはびくびくしている。
「お前もいい加減やめちまえばいいのによ~。冒険者も学校も。」
ガハハと品なく笑う。リオンは俯いている。
「お前なんて人間のカスなんだよ。田舎に引っ込んで牛の世話でもしてな。」
「牛の世話は立派な仕事だよ…僕はやらないけど。」
リオンが言い返すとブロフはリオンの腹を一発殴った。リオンはくの字に折れる。
「生意気なんだよ!ゴミクズが!」
リオンの頬を平手で殴打する。
「お?スライム?お前の従魔か?」
リオンがこくりと頷いた。
「ひゃっひゃっひゃ。お前にはお似合いだよ~。無能なリオンに無能なスライムなんて。」
俺に顔を近づけてきたのでひょいとブロフの頭に乗った。それから毛根食いつくす勢いで毛髪を食べた。美味しくないし気分も悪いけど、言われっぱなしも腹立つし。
「お、おい、何してやがる!このくそスライム!!リオン、止めやがれ。」
「…やだ。」
リオンは今度は頬をグーで殴られて吹っ飛んだが俺に「やめろ」とは命令しなかった。ブロフは俺を引きはがそうと引っ張ったが手ごたえのないぷるぷるボディを掴みかねて四苦八苦している。そして俺はブロフをまるっと坊主頭にしてやった。
清々したのでリオンの元へ戻る。
丸坊主になったブロフはますますもってタコそっくりでギルド内がどっと笑い声で沸く。中にはお腹を抱えて指さして笑うものまでいてブロフは真っ赤になって「覚えてろよ!カスが!」と捨て台詞を吐いて逃げてった。
『従魔が予告なしに他人を襲うのは大丈夫なのか?』
『何で事後報告なのさ?駄目に決まってるよ。』
『まあまあ。』
リオンの傷を治してやることにした。打ち身と少し唇が裂けているようだったから。これくらいなら普通のヒールで治るだろう。リオンの身体が淡く輝き傷がなくなった。打ち身もだ。
『ありがとう。本当に治癒魔法が使えるんだね?』
『疑ってたのか?』
『そういうわけじゃないけど…』
俺とリオンを置いてにわかに周りが騒がしくなる。
「あのスライム、今治癒魔法使ってなかったか!?」
「まさか。本人が自分で治したんだろう?」
「いや、リオンは治癒魔法なんて使えないはずだ!」
ざわざわしていて身の置き所もない。そそくさとギルドを出ていこうとしたら受付のお姉さんに止められた。あ、これ怒ってる笑顔だわ…
別室に連れ込まれて懇々と説教された。
「いいですか!従魔の街への立ち入りが許可されているのは、従魔が決して街の人を襲わないよう躾けられているからです。それを突然破るとは何事ですか。」
『じゃあ、リオンに殴られても何もするなって言ってるのかな?』
『そういう問題じゃないよ。ラヴィは一応は魔物なんだから。脅威なんだよ。』
「まあ、今回は先に手出ししたのはブロフさんですから、厳重注意に留めますが、同じような事がないよう、躾を徹底してくださいね。」
「はい…」
『ラヴィ、お願いだから自重してよね?』
『考えとく。』
俺たちは冒険者ギルドを出た。
『疲れちゃったね。どこかで休む?』
『どこでもいいが。』
リオンの案内で喫茶店に入った。10歳くらいの小さな女の子がくるくる立ち働いている。リオンはその女の子に声をかけた。
「マンゴージュース二つ。」
こちらでもマンゴーはマンゴーというらしい。というかもしかしたら都合のいいように翻訳されてるのかもしれない。
マンゴージュースはマンゴーの果肉がごろごろ入ってて美味しかった。因みにスライムは食べ物はいくらでも食べられて体積は変わらず。体内に取り込むと半透明なはずなのに取り込んだものが見えなくなるというミステリアスな生き物だ。今もマンゴーの果肉を取りこんでいるが外からはそれが見えないだろう。ジュースを全部とりこんでコップは返す。
「わあ!スライムだ!可愛い。触ってもいい?」
店で働いてる女の子が尋ねてきた。
リオンが俺に視線で問いかける。
『構わないと伝えてくれ。』
「触ってもいいよ。」
女の子が恐る恐るぷにぷにボディに触れる。
「ぷにぷに。気持ちいい。可愛い。いいなあ。私もスライムが飼いたいなあ。」
『リオン、頼みがあるんだが。』
女の子に撫でくり回されながらリオンに話しかける。
『なに?』
『文字を教えて欲しい。さっきの冒険者ギルドの依頼ボードの文字全然読めなかった。』
『何で文字?』
『読書とかしたいじゃないか。』
『本当に君って変わったスライムだよ。帰りに文字を習う用の本を買って帰るよ。』
『ありがとう。』
お会計をして二人で店を出た。リオンは宣言通り本屋に寄って幼児向けの絵本を数冊購入した。本は割と高価なようで、リオンは切ない顔をしていた。




