第19話
楽しいひと時も過ぎ、そろそろリーフィに帰らないと学園に間に合わなくなる日程になってきた。名残惜しいが休暇は終了である。帰り路はアーノルドさんとライラさんも一緒だ。行きより上等な馬車に乗ってごとごと揺られる。また数日かけて学園に行くのだ。今回は全員に思考リンクを張って【念話】で喋ってるので、黙っているように見えて、凄く楽しく過ごしている。サニーは当然馬車には乗らない。しかし思いっきり飛べるので本人は意外と楽しんでいるようだ。サニーと言えばサニーが今回の旅行で最後に生み落とした宝石がアーノルドさんたちに買い取れなかった。俺は500円玉より一回りは大きい恐ろしくキラキラ輝く濃いブルーの宝石を見てトパーズかサファイアかな?と思ったがとんでもない。リオンはもしかしたらダイヤモンドでは?と言っていたがこんなに大きくて発色の良いブルーダイヤなんてありえないと思っていた俺は『まさかあ~』と笑い飛ばした。ところがアーノルドさんに見せると正真正銘ブルーダイヤだったらしい。しかも最高品質。サニーも素晴らしい環境で過ごせて思わずはっちゃけちゃったのかもしれない。前回のエメラルドに次いでアーノルドさんの顔をひきつらせた。前回のエメラルドだって買い取るのには相当な金額がかかったのに、このブルーダイヤまでは流石に買い取れないとのこと。リオンは「アーノルドさんが買い取れないなら持っていても意味はないから。」と気前よくブルーダイヤを渡して、「もしも売れたら3分の1位の利益をください。」と笑って言った。アーノルドさんは「この価格帯のものになるともしかしたら売れないかもしれない。」と言ったがリオンは「それならライラさんが使うか、誰かにあげてしまってもいい。」とまで言った。アーノルドさんは始終困った顔をしていた。
いよいよ学園が見えてきた。
『本当に名残惜しいわ、半年後にまた会いましょうね。』
『みんな健康には気をつけるんだぞ?あとミュリは無暗に誘拐されないように。』
『わかってるわ!またね、パパ、ママ。』
『アーノルドさんもライラさんもお元気で。』
『またな。』
別れを惜しんで思考のリンクを解いた。学園前に馬車が止まるとアーノルドさんとライラさんがミュリとリオンをハグした。
「お気をつけて。」
「リオン君もな。」
「パパ、ママ、愛してるわ。」
「私達もよ。ミュリ。」
2人はそのまま馬車に乗って次の街へと向かった。二人の乗った馬車が見えなくなるまでリオンとミュリは見送っていたが、やがて二人で向き合う。
「さて、ミュリ、やることは分かってるよね?」
「勿論よ。」
なんだ?と疑問に思ってるとリオンが教えてくれた。
『アートミルでは長期休暇明けには試験をするんだ。長期休暇中に習ったことを忘れてしまわないように。だから試験勉強をしなくてはならない、今から。』
いつの時代も学生は大変だ。社会人も大変だけど。子どもの頃勉強が辛くて、社会人になったら楽になるんだ、と自分を慰めてたけど、社会人になったら仕事が辛くて、いつになったら楽になるんだ!?と憤慨したもんだ。老後かな?でも老後は老後で社会保障も心配だし、身体の自由も利かないようになってるんだろうな。やっぱり人生のうちで一番楽しいのって物心もつかないうちなのかもしれない。俺はあいにくこっちの勉強はまだあまりできないが算数くらいなら教えてやれる。しばらく二人に付き合うとするか。
試験が終わって一息ついた頃、生徒たちは夏休みどこへ行ったか語りだした。所謂「僕夏休み家族でハワイ行ってきたんだ!」的な現象である。そして夏休みどこどこへ行った証拠的お土産品を見せ合っている。リオンはウィンドウショッピングは楽しんだが形の残るお土産品はさっぱり買ってきていない。リオンが執着したのはニャラカ産天日塩である。それはもう大量に買った。そして香辛料と砂糖。ニャラカには港があるので貿易品が入ってきて結構安く買えるのだ。あと干物なんかを時間を止めて収納しておいてくれって大量に渡された。色気のない奴である。
「リオンはどこに行った?寮にはいなかったよな?」
アベルが無邪気に聞いてきた。
「海。」
「ご両親とか?」
「違う。」
ちょっと気まずい沈黙が流れる。
「な、なんか買ってきたか?」
「塩を沢山。」
「……。」
アベルが気まずそうな顔をした。クラスの面々も微妙な顔をしている。代わりにパブロが大爆笑した。
「はははは!塩だって!海に行って土産は塩だって!そんなのここででも買えるじゃないか。馬鹿だな。リオンは。流石低能!」
因みにリオン曰くニャラカ産の天日塩はここいらでは滅多に出回らない珍しい品らしい。味は俺も試したから分かるが超一級品。かなり旨い。ただの塩だけの味付けでも素材の味をグングン引き出してくれる素敵な塩だ。
「しかも家族と一緒じゃないとか!真夏の太陽の下スライムと二人っきりでビーチかあ?超笑える。あはははははは。だせえ。最高!」
実際はミュリとミュリのご両親と一緒だったわけだが、幸いにも、一緒に馬車に乗り降りする所は見られていないらしい。もしパブロが知ったら嫉妬の業火で身まで焼かれてしまうだろう。
「俺はアイアスだぜ?勿論家族と一緒に。取れたての魚は旨かったなあ。」
アイアスはニャラカよりやや南の島である。そこまで行くのが大変だが、観光地としては最高らしい。そう言えばパブロは随分と日に焼けているな。皮がむけそうだ。スライムに日焼けは無縁だし、リオンもそこまで焼けなかった。ミュリに至ってはあんなに太陽の下にいたというのに粉雪のように白い肌である。日焼けという存在を思わず忘れてしまうのも無理からぬ話だろう。パブロよ。皮がむけてみっともない姿をさらすが良い。
しかし調子に乗ってるパブロに「ミュリが真珠のイヤリングをしてきている。」と言う一報がもたらされる。アートミルでは風紀を乱さない程度ならアクセサリーも認められている。しかしミュリは今までアクセサリーらしいアクセサリーを付けてきたことは無かったらしい。ミュリの熱狂的支持者であるパブロはその新情報に食いついた。「どうして真珠のイヤリングをしているのか」「真珠が好きなのか」「誰かからの贈り物なのか」などなど。情報を聞いてきたクラスメイト曰く「プレゼントに貰って…すごく嬉しかったから…」と鼻血ものの恥じらい笑顔で述べたらしい。ミュリ飛ばしてるな…。こうなると当然「誰に貰ったのか!?」と言う問題が発生する。勿論一番の容疑者は親しい幼馴染であるリオンだが誰もリオンにそれを問えない。パブロは自尊心が邪魔をして(パブロもミュリにお土産の豪奢な珊瑚の髪飾りを渡したが受け取ってもらえなかったのだ!)、他の人間は肯定されたら怖いという理由で。ミュリはわずか11歳にして熱心な心棒者を数多持つ少女である。当然貢ぎ物の数は多い。ミュリはいつもそう言った貢ぎ物をお断りして受け取らない健全な少女でもある。そして唯一誕生日だけはプレゼントを受け付けているようだが、誕生日に装身具を贈っても付けてもらえた試しがないという難攻不落の少女でもある。そのミュリが“貰った”装身具を“嬉しそうに”身につけているのである。しかも真珠のイヤリング自体は可愛らしく品はいい物の、そこまで高価ではなく、割とありふれてる感じのデザインだ。(デザインから悩みに悩みぬいて仕上げた一点物の最高級品の珊瑚の髪飾りは受け取ってもらえなかったのに!である。)
『やっぱりミュリもリオンからプレゼントを貰えて嬉しかったんだろうな。』
『そうじゃないとは言わないけれどね。ミュリに贈り物を贈る人ってミュリのゴージャスな雰囲気に合わせた品を選んで贈ってるみたいなんだけど、ミュリって実は可愛らしい物の方が好きなんだよね。』
ミュリは薔薇が似合うくせに菫に心惹かれる女の子のようだ。無理もない、まだ11歳だもの。11歳なら可愛らしい趣味をしていて当たり前じゃないか。これから大人になったら変わるかもしれないけれど。
『本当は真珠も桃色真珠とかが好きそうなんだけど、やっぱり白の方が似合うから僕もそこは白にしちゃった。』
『いや、十分可愛らしい品を選んだと思うよ。リオンはセンスはいいし、物を見る目はあるし、いいんじゃないか?』
『ふふっ。やっぱり喜んでもらえてるとわかると贈った方も嬉しいね。』
リオンはクラスの騒ぎに素知らぬ顔をしているがきっと内心はにやけっぱなしだろう。このむっつりめ!




