表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/23

第18話

俺たちは長逗留の客である。昨日サニーが3つ目の宝石を排出した。鶏卵ほどもあるエメラルドだ。極めて不純物が少ない澄んだ色をしている。中々美しい。どうやらかなり高価らしくそれを見せた時アーノルドさんは顔をひきつらせていた。宝石と言えば例の真珠のイヤリングなんだが、リオンはまだミュリに渡せていないようなのだ。それもそのはず、リオンには四六時中俺がひっついてたんだからな。いい雰囲気になりようもない。そのことに今更ながらに気付いた俺は3日ほどリオンから離れて過ごす事にした。リオンからは「急にどうしたの?」などと言われたが、流石にお邪魔虫はよろしくない。風景は綺麗だし、まあしばらくはのんびり楽しむさ。

折角海辺の街に来たので日がな海を満喫する。ここんとこリオンにくっついてやっていたショッピングを楽しむ、と言うのも中々楽しかったが、やはりエメラルドグリーンの海の誘惑には勝てまい。人間みたいに「泳いでると疲れる」という感覚がないので1日中海にいた。人目がないことをいい事に人型形態になってスキューバダイビングもどきをやった。スライムは呼吸をしないので潜ろうと思えばどこまでも潜れる。可愛らしい魚たちに癒され、時々捕食しつつ遊ぶ。遊び倒して3日目の昼過ぎ、【念話】のリンクを繋ぎっぱなしにしていたリオンから連絡があった。


『ラヴィ、悪いんだけど助けてくれないかな?』

『どうした?』

『誘拐された。ミュリも一緒。』


ジュエルウェザーバードのことがばれたのだろうか?


『犯人の要求は?』

『どうも身代金目的じゃないみたいなんだ。ミュリを高額で売り飛ばす算段をしているよ。僕も売り飛ばされるか、最悪殺されるかも。』


ミュリの美貌目当てか。


『相手は何人だ?』

『わからないけど、6人以上はいる。初犯じゃないみたい。すごく手慣れてる。…僕の場所は分かるよね?』


テイマーとティムモンスターの関係だ。お互いの位置くらいわかる。


『そりゃわかるが、どう始末を付けたらいい?パターンA、お前とミュリ以外全員皆殺しにして死体も食う。パターンB、アーノルドさんに【念話】で語りかけて警備隊を呼んでもらう。パターンC、お前とミュリ以外の連中を行動不能にして、お前たちを解放してから堂々と連中を警備隊に引き渡す。』

『悩ましいね。』

『さっさと決めろ。』

『パターンC希望。駄目ならAで。』

『Bは駄目なのか?』

『僕はアーノルドさんとラヴィは信用してるけど警備隊の実力は信用してない。人質をとられても困るし。』


意外とシビアな考え方だな。嫌いじゃない。


『了解。少なくとも死なない努力だけはしろ。』

『頑張ってみる。』


早速、サニーと連れだってこっそりとリオンのいる建物の周りを見て周った。場所は街から離れたログハウスっぽい平屋で、武装した男が6人建物の周りを見張っている。

見張りが多いな…


『リオン、今室内に何人いる?』

『4人いる。中にいる4人中2人は魔法が使えるみたい。外にいる奴は使えないらしいけど何人いるか分からない。』

『リオン、魔法使いがいるなら全員生かして捕えるのは難しい。奴らは両足を潰しても魔法が使えるからな。確実に行動不能にするなら殺すしかない。』

『わかった。任せる。出来れば急いでくれると助かる。僕を殺す方向で話が進んでる。』

『了解。サニーは逃げ出す連中がいないか見張っててくれ。逃げ出すようなのがいたら優しく両目にキスしてやれ。』

『わかっタ。』


攻略法としてはこちらも数がいるとありがたい。【分裂】を使うか。【分裂】は熟練度が上がって自分の他に4体まで30分程度維持できるようになっている。するるっと分裂して俺以外の3体には周りの見張りを始末させた。もう1体はまだ分裂しないでおく。予備だ。

俺は分裂体が周りの見張りとやり合ってる隙に中には入る。にわかに騒がしくなった外に驚いた連中が出てきた。【酸弾】で顔を狙う。瞬く間に2人の顔がじゅっと消えた。


「スライム!?お前らティマーか!スライムをそれ以上動かすな。人質が死ぬことになるぞ!」


リオン達の近くにいた一人がリオンの首にナイフを当てる。リオンもミュリも心得たもので下手に怯えて叫んだり騒いだりはしない。しかしまずいな。この位置から【酸弾】を飛ばすとリオン達に酸がかかってしまう。あんな強酸かかったら一大事だ。


「へへ。大人しくしてろよ?」


男の一人が近付いてきた。俺の核目指してナイフを振りかぶった、その時俺が増えた。【分裂】だ。俺は人型形態になり風のように走るとリオンの首にナイフを当てていた男の鼻に噛みついた。勿論毒を注入する為だ。酸を出すとリオンにかかってしまうからな。双剣も持っているが、出血したら後で「これは誰がやったんだ!」みたいな騒ぎになると思うし。俺の毒は見た目は殆ど変わらないから、あとで顔を酸で焼いておけばいいだろう。まだこの世界には科学捜査なんてものは無いのだし。

俺の分裂体がナイフを振りかぶってた方の男を酸で焼いたのを360度の視界で確認した。分裂体も人型になり、俺が毒を注入して倒れた男を俺と二人で椅子に座らせた。分裂体が男の頭がへたれないように支え、俺が突入してきた位置に戻って座った男の顔を堂々と【酸弾】で焼く。分裂体は酸を少し被ったが『大丈夫。だけどもう消える。』と【念話】してきた。


「ラヴィ有難う。僕たちはどうやって縄から抜けたらいいかな?」


初めて人型形態を見せるのに驚いた様子もなく、縛られてるリオンが言った。


『ちょっと待ってろ。』


俺はリオンとミュリを縛ってる縄に手を当て、手から縄(の一部)だけ食べてみせた。身体から縄をほどいてリオンとミュリは一息ついた。


「その姿には何も質問しない方が良いのよね?」


ミュリが人型形態の俺の方を向いて言う。


『質問するくらい構わないが、この姿を取れることを広めるのは止めて欲しい。俺もまだお偉い研究者様の実験体にはなりたくないんでな。』


おどけて念話で伝えるとミュリが更に驚いた。


「頭に声が響く…ラヴィの声なの?」

『そうだぜ?』

「ラヴィって本当にスライムなの?」

『見ての通りさ。』


俺は再びスライム形態に戻る。


「姿も驚いたけど、話に聞いてたよりもずっと…」

『賢い?』

「うん。」

『ちょっと言いたくない理由で特殊なスライムとして生まれたのさ。』

「そうなの…言いたくないなら詳しくは聞かないわ。助けてくれてありがとう。」


ミュリはさばさばして物わかりが良い。


「ラヴィ、僕の首にナイフを当ててる男を随分変な殺し方したけどあれは?」

『変な殺し方は酷いぜ。リオンの身体に酸がかからないように細心の注意を払って殺したのにな。』

「ごめん…」

『まあ、いいが、あれは毒だ。しかし二人とも俺が毒殺しただなんて言うなよ?俺はポイズンスライム(そんなものがいるかどうか知らないが)じゃないんだから不審がられる。あの男は座ってるところを俺が不意打ちで酸を浴びせかけて殺した、という風に説明して欲しい。』

「殺した順序は?」

『俺はまず2体に分裂して中に入ってきた。そして扉から出てこうとした男を殺す俺A、椅子に座る男を殺した俺B、続いて出てこうとした男を殺した俺A、近付いてきて俺たちを殺そうとした男を殺した俺B、だ。いいな。』

「「了解!」」


二人とも大変物わかりが良い。長生きできるタイプだと思われる。サニーに念話で『外はどうなってる?』と聞いたら『全員片付いタ。』と言っていたので安心して外に出て行く。5人の男たちがアーバンと同じように足を酸で焼かれ呻いており。もう1人は他の5人から少し離れた所におり、両目をサニーに潰された上で俺の分身体に足を焼かれたらしい。


「僕はサニーとここに残ってこいつらを見てるから、ミュリとラヴィは警備隊を呼んできて。」


小声でこう付けたした。


「解放された人質がこうも元気じゃ僕たちが疑われるから……悪いけど、ミュリの演技に期待してる。」


ミュリは頷いた。


「任せて。行こう、ラヴィ。」

『おう。』


ミュリの演技は初めて見たが凄かった。まるでか弱い乙女のように顔を真っ青にして警備隊の詰め所に飛び込んだのだ。そしてブルブル震え、舌をもつれさせながら誘拐された経緯と俺に助けられた経緯を話した。そして涙ながらにまだ完全に安全かどうかもわからない場所に友達を見張りとして置いてきてしまった…と懺悔した。真っ青な顔には未だ去らぬ恐怖と、友人を置き去りにしてきた罪悪感が浮かび、そしてほんの少しの安堵が入り混じりはらはらと涙をこぼしている。実に複雑な演技だ。女ってマジで怖い…と俺を戦慄させるのには十分な演技だった。

仰天した警備隊はリオンの元へ向かい、残った数人の警備兵がミュリに温かなミルクを勧め、ミュリの両親を呼びに走った。

ミュリは温かなミルクに少し落ち着きを取り戻すと、不安そうに「リオン…」とリオンの名を呼んだ。

やがてアーノルドさんとライラさんが足早にミュリの元へとやってきた。


「ミュリ!!」

「パパ!ママ!」


ミュリがアーノルドさんの胸に飛び込む。


「ミュリ、無事か怪我はないか!?」

「だ、大丈夫、大丈夫だよ!!」


そう言いながらもミュリはわんわん泣き始めてしまった。


「ミュリ、リオン君は?」


アーノルドさんがミュリをしっかり抱きしめながら聞く。


「ぶ、無事なはずだけど…犯人たちを見てるからって…私、私、リオンを置き去りに…」


ミュリが恐怖と不安に押しつぶされ(たかのように見える)、涙を流す。


「ミュリ、ミュリ、いいのよ、ミュリは悪くないわ。大丈夫。もう大丈夫よ。」


ライラさんが涙ながらにミュリをなだめる。

3人で慰め合いながら不安そうにリオンの帰りを待つ。それからずいぶん時間がたってから警備兵がリオンを連れてきた。


「リオン!」

「ミュリ!」


リオンは紙のように真っ白な顔をしていた。「お前も演技中か!」と心の中で突っ込んだ俺は悪くないと思う。肩に止まっていたサニーも『やれやれでス。』と言っていた。


「リオン君、無事だったのね!知らせを聞いたときはもう私、生きた心地がしなくて…」


ライラさんが安堵の涙を流す。すっかり血の気の失せたリオンの唇が戦慄いた。


「僕…僕…犯人たちからミュリを守ろうと必死で…でも、あんな残酷な光景をミュリに見せてしまって…」

「いいの!いいのよ。ミュリだってちゃんとわかってる。リオン君はミュリをしっかりと守ってくれたって…」


ライラさんがリオンを抱きしめて撫でる。


「すみませんが、お子さんたちに詳しい話を伺いたいのですが…」


申し訳なさそうに警備兵がアーノルドさんたちに声をかける。


「君、ミュリから詳しい説明を受けなかったのかね?」


アーノルドさんが厳しい顔で警備兵を問い詰める。


「い、いえ。お嬢さんからは詳しい説明を受けています。しかし、あんな攻撃力を持つスライムはちょっと信じ難く…しかも1体で10人もの男を戦闘不能にするとは…」

「だから話したじゃないですか!ラヴィは【酸弾】と【分裂】を使って僕たちを救出したって!」


リオンが癇癪を爆発させた。


「しかしですね、普通そう上手くいくとは…」

「君、リオン君は説明したと言っているようだが、彼の説明に不備があったとでも言うのかね?何か不可解な事があるとでも?心に衝撃を受け、傷付いた子供たちの心を更に追い立ててでも聞かねばならないような重大な手落ちが?」


アーノルドさんが責めると警備兵は口をもごもごさせて黙った。当然だ。実際の手落ちなど毒殺以外にはないのだから。毒殺ばれないよね?ね?


「後の詳しい情報は是非とも生き残った犯人諸君に聞いてもらいたいね。なんせミュリ達は“被害者”なのだから。もう良いかな?傷付いた子供達を早く休ませてやりたいんだが。」


アーノルドさんが気遣わしげに傷付いた(かのように見える)ミュリを一撫ですると警備兵は諦めたようだった。


「…はい。」


俺たち4人と2匹はアーノルドさんの部屋へ連れてかれた。部屋に入ってきちんとドアと窓を閉めて鍵まで掛けるとライラさんが笑いだした。


「もう、吃驚したわ!ミュリったらまた誘拐されたのね。」

「こらこら笑い事じゃないぞ?もう4回目の誘拐だぞ。」

「パパったら、最初の誘拐は数に入れないでって言ってるでしょ?赤ちゃんの頃の誘拐なんて、普通“盗まれた”って言うのよ。」


ミュリは誘拐経験は豊富らしい。あの容姿じゃさもありなん。ライラさんとアーノルドさんもミュリ達に合わせて演技していたらしい。


「しかし今回はまた派手に帰ってきたものだね。おかげで無能な警備兵に頭を下げないで済んで大助かりだが。」


何やら警備兵に含むところがあるようだ。


「ラヴィ君、本当に強いのね。すごいわ。ありがとう。」


ライラさんが俺を抱っこして撫でた。俺は少し迷ったが声をかけることにした。ここにいる全員に思考リンクを張って。


『どういたしまして。』

「まあ!今喋ったのラヴィ君?」

『そうだ。』

「ラヴィ君はすごく賢いのだな。いやはやリオン君のティムモンスターには驚かされる。」


アーノルドさんがリオンを見つめる。


「僕は普通の人より優れてるものは何も持ってないと思ってたんですけど…“運”だけはあったようです。」


リオンは気負いなく笑った。

話しが弾んだみんなで楽しくおしゃべりした。

夕食は食堂でとったが【念話】の要領を得たミュリとミュリの両親も含めて楽しくお喋りしながら食事した。むっつり黙りこんだ家族が黙々と食事しているので周りから見ればさぞかし奇妙な一行だっただろうけど。

余談だがイヤリングはきちんと渡せたらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ