第17話
翌日、スキルを使いつつリオンが起きるのを待っていると、扉の前をうろうろしている人物が【気配察知】にひっかかった。最近【気配察知】は熟練度が上がって相手の大きさがおぼろげにわかるようになっていた。扉の前の気配はちょうどリオンと同じくらいの大きさ。恐らくミュリだ。リオンに声をかけたいが、気持ち良く寝てるのを起こしてしまうのも憚られる、と言ったところだろうか。俺はリオンの安眠にそこまで気を使うつもりはないので気軽にリオンに声をかけた。
『リオン、朝だぞ。扉の前に誰か来てる。多分ミュリだ。』
「ん、ん~…?」
リオンは寝ぼけ眼を擦った。
「ミュリ?」
尋ねると扉の外から声がした。
「リオン。朝だから、一緒に朝食どうかなって…それとももう少し寝る?」
「いや、すぐ行くよ。ちょっと待ってて。」
リオンは身支度を整えて扉を開けた。そこには予想通りミュリがいたが、リオンは少し目を見張った。
ミュリはいつもの動きやすさ重視の軽装ではなく、可愛らしい白いワンピースを身に纏っていた。それがミュリの美貌に映えてとても美しい。
「ミュリ、その服似合ってるね。」
リオンが言った。くそう、リオンめ。如才なく褒めるなあ…前世でその一言が言えずにいくつの機会を失ったか。俺だってホストよろしく女性の衣装を褒められれば彼女の一人や二人は……くっ、やめよう。言っててなんかみじめになってきた。リオン爆発しろ。そっと心の安寧を守る呪文を唱えた。
褒められたミュリは照れ臭そうに、そして嬉しそうに「ありがとう。」と言っていた。
アーノルドさんとライラさんも一緒に俺も加えれば4人と1匹で食事をした。
ニャラカは新鮮な魚介類が美味しいのは言うに及ばないが、果実も美味しい。カットされた豊富な果実とホイップクリームとパンケーキと言うおやつっぽい朝食だった。俺の分もリオンは別料金で用意してくれたが実に美味しかった。サニーには昨日の夜と同じように魚を買って与えた。
午前中はリオンはアーノルドさんとアンフィルガーに口座を作りに行く。ミュリはライラさんとショッピングだ。
俺はリオンの後ろをポヨンポヨン跳ねて移動する。人型形態を取れれば楽なんだけどそんなことをしたら今度こそ研究所送りになるだろうし、人型形態はまだリオンにも見せていない。
アーノルドさんとリオンがやってきたアンフィルガーは昼だっていうのに物々しい警護がされた建物だった。周囲を何人もの武装した警備兵がうろついている。果たして魔物が中に入れるのか疑問だったので、ここは大人しく外で待っていようと思う。でもどうやって口座を作るのか気になったのでリオンに【念話】で尋ねてみる。
『“魔力パターン”っていうのをチェックされた。この魔力パターンで本人識別してるみたい。口座作るのも結構お金かかったけどアーノルドさんに建て替えてもらった。』
何やらハイテクな模様。やっぱり抱えて行ってもらえば良かったかなあ…すごく見たい。
『“魔力パターン”って一人一人違うものなのか?』
『違うみたいだよ。』
アンフィルガーは預金してくれるなら犯罪者でもお客様らしいが、魔物も預金できるのだろうか…?まあ、俺の生活にお金は必要ないけれど。
結構長時間かけて口座を作って、2人は外に出てきた。
『お帰り。中どうだった?』
『ただいま。凄かったよ。最先端の魔道具が配備されてた。あんなのが主要都市にばらまかれてるってすごいよね。』
『…見たかった。』
『アハハ。今度従魔も入れるか聞いてみようか?』
『やめろよ。あんな強面のおっさんたちにそんなこと聞いて睨まれたら俺の繊細な心に傷が付く。』
『でりけーと?』
リオンは思いっきり不審そうな眼を俺に向けた。やめろ、そんな目で見るな。俺はセンシティブなんだから!
昼食にはちょっと早かったのでアーノルドさんと街を見て周った。市場一つとってもリーフィとは様子が違って面白い。何と言うか、南国風だ。リオンは真珠のイヤリングを購入していた。誰にあげるのかだなんて分かりきっている事は俺は質問しなかった。
昼食はまたミュリとライラさんと合流してレストランで食べたようだ。そのレストランは従魔は入れないようだったので俺は入り口でお留守番した。俺が入れないと分かった時、アーノルドさんは予約を取り消そうとしていたので慌ててリオンに止めさせた。スライムは殆ど食事をとる必要はなく、色々食べてるのは趣味だとよくよく言って聞かせた。そう説明するリオン自身もなんだか俺に申し訳なさげなので参った。本当に気にされるこっちの方が気になるわ!
午後は海で水遊びだ。リオンも水着姿に着替えたが、ミュリも水着姿に着替えていた。こちらの水着の標準はビキニらしい。ミュリはまだ11歳なのでそうどぎまぎするようなボディラインは持ち合わせていなかったが、赤いストライプの中々可愛らしい水着を着ていた。俺?スライムに水着着せてどうするんだ?人型形態水着バージョンが出来るかどうかちょっと試したかったが、流石に人前でやるわけにいかない。今度森でじっくり試そう。
ミュリはちょっぴり恥ずかしそうに、そしてほんの少し期待した目でリオンを見つめた。
「ミュリ、水着姿も可愛いね。」
リオンは期待を裏切ることなく褒めた。リオン爆発しろ。リオン爆発しろ。リオン爆発しろ。俺は心を安らかに保つ呪文を唱えた。俺だって可愛い幼馴染がいれば人生勝ち組だったのに…心の汗が流れるぜ。
「ふふっ。ありがとう。」
ミュリはもの凄く嬉しそうに微笑んだ。
2人と1匹で水遊び。
スライムはやっぱり水に浮く生物らしく、海でも浮かんだ。潜れたりしないんだろうか?
『リオン、実験したいから、しばらくミュリと遊んでいてくれ。』
『?了解。』
俺は海水を吸いこんで自分の後ろに排出するという方法で海を進んだ。かなり深いところまで来て周囲の人目をチェック。誰もいないな?人型形態になって泳ぎ出す。潜水もできない事はなかったが人間だった頃より格段に難しかった。スライムは水中行動に適さない生き物らしい。……悔しくなんてないモン。
スライム形態に戻ってリオン達の元へ戻った。二人とも思いっきり泳いでいた。競争でもしてるんだろう。楽しそうでよろしい。俺もふらふらうろうろ泳いだ。
夕食は宿でまた魚のフルコース。香草焼きが半端なく旨い。サニーも魚だ。『堕落しそうでス…』と言っていた。中々海を楽しんでいる模様。




