第16話
夕闇が近付いてくる頃サニーがこちらに着いた。獣舎に宿り木を置いてやる。
『私も海の魚が食べたイ。』
珍しく自己主張してきた。サニー曰く海は深すぎて魚を捕えるのは難しく、海の魚はたまにしか口にできないとの事。リオンは宿に別料金を払って従魔用に海産物を用意してくれるらしい。
「それでね、傷付いた先輩達をラヴィがあっという間に治しちゃったの!」
ミュリが楽しそうに俺とリオンの英雄譚を両親に語って聞かせる。ミュリの両親は始終にこにこ話を聞いていて楽しそうに相槌を打っている。俺はリオンが別料金で用意してくれた海の幸に舌鼓を打っていた。久しぶりの海の幸はもの凄く美味しかったと述べておこう。
サニーも海産物をたんまり食べて、ウズラの卵より少し大きいくらいのサファイアを排出した。排出されただけでなんの加工も加えていないのにオーバルブリリアントカットになっている。深いロイヤルブルーに不純物が極めて少ない。極上の一品だ。
『こんなの売って大丈夫かな?』
『売りに行くなら顔を隠していけよ?』
『すごく怪しいんだけど。』
顔を隠した子供が極上の宝石を売りに来る。…怪しすぎる。普通なら盗品を疑うな。俺は少し考えて言った。
『ミュリのご両親って信用できるのか?』
『なんだい?藪から棒に。僕はミュリとミュリのご両親を世界で一番、もちろん自分の両親よりも信用しているけど。』
『ミュリのご両親って美術品の売買してるんだろ?宝石買い取ってくれないかなって。』
『うーん…どうだろ?買い取ってくれると思うけど、そうしたらミュリの両親が危険にさらされないかな?』
『本当に信用できるなら相談してみたらどうだ?』
『そうだね。』
リオンはその後アーノルドさんと一緒にお風呂に入って(売店で売ってる石鹸はとてもいい物だったので持ってたけど購入した。)秘密の相談がある件を打ち明けたらしい。アーノルドさんは鷹揚に頷いて「それでは寝る前に私の部屋へおいで。ライラは一緒でもいいのかい?」と聞いてきたので「ライラさんも一緒に。」と返事をしたそうだ。スライムは人間の風呂には入れないので話に聞いただけで詳しいことは知らない。歯を磨いて、普通の人が寝る前の時刻になっていることを確認して俺とリオンはそっとアーノルドさんたちの部屋を訪れた。ミュリは個人で一部屋取ってるので一緒ではない。
アーノルドさんはにこやかにリオンと俺を迎え入れた。
「やあ、よく来たね。中に入っておくれ。」
リオンと俺は促されて部屋に置いてあるテーブルセットの椅子に腰かけた。ライラさんが手ずからお茶を入れてくれた。
ゆっくり腰を落ち着けてお茶で一息ついたところでアーノルドさんが言った。
「それで、秘密の相談とは…?」
リオンはミュリのご両親を本当に信用しているらしく、特に気負いもなく言った。
「アーノルドさんはジュエルウェザーバードって知ってますか?」
「勿論。有名なお伽噺だね。宝石を生む鳥なんてロマンがあるよ。商人にとっては憧れだろうね。」
リオンは頷いた。
「先日僕はウェザーバードをティムしにキャラハの森に入ったんです。」
「……まさかと思うが…」
リオンは再び頷いた、
「ジュエルウェザーバードをティムしました。」
アーノルドさんとライラさんが呆気にとられた。
「リオン。…リオン。それはあまりに危険な秘密だ…。」
アーノルドさんが険しい顔で首を振る。リオンが心から信頼するだけあってアーノルドさんはジュエルウェザーバードの話をしても目の色を変えなかった。
「見た目は普通のウェザーバードと殆ど変りません。言わなければわからないと思います。ただ、生んだ宝石を換金したくて。」
「リオン。そんな危険な橋を渡らなくたって、いつだって僕たちは君を支援すると言ってるじゃないか。」
「一方的に甘えて、貰うだけの関係ってなんか嫌なんです。僕だって何か渡したいと思うのに子どもだから…」
「子どもは大人に甘えるものだよ。それに僕たちは君を本当の子どものように思っている。君一人の生活費くらい僕たちにとっては何程のものでもないと言ってるじゃないか…」
リオンは首を振った。どうやらずっと昔からミュリの両親はリオンを支援したがっていたらしい。
「本当に頑固だね。リオンの他のご家族だったら支援すると言ったら一も二もなく飛び付くだろうに。」
アーノルドさんは溜息をついた。
「このこと、家族には…」
「言わないよ。言える訳ない。もし言ったとしたらきっと君の家族は猫なで声を出して君を呼び寄せるだろうね。」
本格的にリオンの家族が気になり始めてきた。きっと知ればリオンに気付かれず「消したい」と思うような家族なのだろうと想像はつく。リオンは恥ずかしげに俯いてしまった。
「仕方ないな。換金だっけ?いいよ。僕らが買い取ってあげよう。物はどんなだい?今持ってるのか?」
リオンはさっき産み落とされたばかりのサファイアを差しだした。アーノルドさんはそれを見て興味深げに笑った。
「面白いね。生み落とされてなんの加工もしてないのにカットされてるのかい?」
「まだ宝石を得たのは2回目で、前回のはオーバルカボッションだったので気付かなかったんです。」
「前回の石はどうしたんだい?」
「もう売りました。」
「リオン。あまり危険な橋は渡らない方が良い。君のような幼い子が宝石を何度も宝石商に持ち込んだらいずれ秘密に気付かれるよ。」
「その事なんですが…僕がアーノルドさんに宝石を売って、アーノルドさんたちはそれを販売するでしょう?アーノルドさんたちに危険はないのかなって。気になって。」
アーノルドさんはふふっと笑った。
「僕たちのことを心配してくれてるんだね。ありがとう。でもこういった品をどこで仕入れてるかというのは商人にとって生命線だから普通明かさないものなんだよ。これから僕たちが宝石の商いが増えたとしても、どこかに旨い仕入れ先を見つけたんだな、としか思われないから大丈夫だよ。」
リオンとアーノルドさんは宝石の売買について色々決めた。3ヶ月に一度リオンの住むリーフィの街にアーノルドさんが買い付けに行く。値段は宝石を見てから決める。代金はアンフィルガーにリオンの口座を作ってそこに振り込む。アンフィルガーは使用するのに手数料を幾らかとられる代わりに秘密厳守。預金してくれるなら犯罪者でもお客様という後ろ暗い人々御用達の機関らしい。金額が小さければ冒険者ギルドの口座でも良かったが、これからはちょっと信じられない金額を動かす事になるらしいので、冒険者ギルドの口座ではすぐに金の動きが外に漏れてしまうらしい。それでは不都合なのであえてのアンフィルガーとのこと。
それからこのことはミュリにはまだ内緒にしておこうと。ミュリの口の堅さを信じていない訳ではないが、知ってて黙ってるより、最初から知らない方が安全だという判断だ。
今回のサファイアは夏休み終了時、他の宝石と共にアーノルドさんが買い取ってくれるらしい。アンフィルガーの口座は明日アーノルドさんが一緒に作りに行ってくれるらしい。ニャラカにはアンフィルガーの支店があるんだそうだ。リーフィにもあるが。
随分遅くまで話し込んでリオンと俺はアーノルドさんたちの部屋を辞した。




